第14話 レイラ商店街のイベントギャルになる(ギャル心得の条3.ステージ上では仲良し)
またしてもレイラの黒いパンプスだけが盗まれる。
疑いの眼は真理恵に向けられる。
そんな中、真理恵がストーカーっぽい男に追いかけられた。
◆この商店街が大好き◆
真理恵は小さい頃から育ったこの商店街が大好きである。小さいけど色んなお店があって、そこには色んな人が居て、真理恵を可愛がってくれた。
沢山の思い出に溢れている商店街。その記念すべき初めてのコンテストある。本当は参加したかった。
でも、自分はそんな小さなコンテストなんかに出られないと言うプライドがあった。そのつまらない心が真理恵の本当の気持ちを邪魔していた。本当は出たい、出て優勝したかった。
真理恵はプライドを保つ為に、高田町商店街のミスコン位は軽く優勝だし、商店街の関係者が優勝してはいけないと、自分にそう言い訳をして気持ちを抑えつけていた。事実優勝するだろうと、たかも括っていた。
そこで、自分のプライドが保たれる別の華やかな形で参加しよう(したい)と考えていた。
それがまさしくレイラのやっていた、ステージでのアシスタントとしてのイベントの盛り上げ役であった。
実際、真理恵は小さな街角や、デパート、展示会では、イベントの司会もこなしていたし、大きなコンテストでも何度も決勝まで行った経験がある。
そのことは商店会の人たちも知っている。だから絶対に自分に話があると思ってスケジュールを空けて待っていた。
ところがだ。
話は自分では無く、商店会に来て間もない予報屋さんだと言う知らない女性に流れて行ってしまった。
真理恵はそれがショックであった。凄く納得がいかなかった。
しかし、蓋を開けると自分より圧倒的に奇麗で、そして、間違いなく自分の無い人を引き付ける力を持っている。
真理恵は明らかにレイラに対して、嫉妬をしてしまっていたのである。
◆真理恵もアシスタントに◆
レイラは特別に真理恵の過去を覗こうとした訳ではないが、いつの間にか真理恵の気持ちを感じ取ってしまい、何とかしたいと思っていた。
そこで、真理恵にもイベントギャルを依頼する様に佐崎副会長にお願いしてみた。すると、佐崎副会長は大好きなレイラに余り無理な依頼を押し付けて負担を掛けられないことと、真理恵のことも昔から良く知っていたことで、快く承諾してくれた。
人選は、イベントの内容により司会の薬局の粟屋さんに任せることになった。
午後3時のステージからは、レイラと真理恵の二人は交互に、時には一緒にアシスタントとしてステージに立つことになった。
真理恵は商店会からの依頼を意外にも素直に受け入れた。真理恵の姿はレイラにも生き生きとして見え、ステージ上の真理恵は自分の役目に徹し、レイラにも気持ち良く接してくれた。
レイラは、これで少しは仲良くなれるかと思ったのだが、そんな様子も一歩テステージを降りると、些細な嫌がらせをレイラに続けるのであった。
真理恵にも、それに意味の無いことぐらいは当然分っている。
だが、自分で自分を制御出来ない。中毒の様に落ち着かない。ついやってはいけないことに手を出してしまう。
そして、その自分にまた苛立ちを覚えてしまう。結局、悪循環の迷路に嵌って抜け出せないでいた。
真理恵は、意味の無い嫌悪だけが残る意地悪を止められないでいた。
◆真理恵 対 七面鳥 1◆
真理恵のレイラに対する意地悪を目撃していたもえちゃん達七面鳥レンジャーのみんなや、帯人、緒湖羅達予報研究会の怒りは爆発寸前であった。しかし、レイラから騒がないように言われていた為に我慢を続けていた。
帯人はあの鼻っ柱の高いもえちゃんが何もしないで、レイラの言うことをじっと聞いていることに驚いていた。
昨日は、凄い研剣幕で帯人の尊敬する先生を怒鳴っていたのに一転して今日は言うことを聞いているのである。
帯人でさえ、真理恵にはレイラのいない所で文句の一つも言ってやろうと思っているくらいなのにである。
そんな中、レイラは既に気付いて黙っていたのだが、今日もレイラが最後のステージのお手伝いが終わって戻って来た時に、レイラの黒いパンプスが無くなっていることに帯人も気がついた。
「あれ、レイラさん、パンプスは?」
「ん、ん~あはは、何処かに置き忘れちゃったのかな~?」
レイラは、苦笑いをしている。
「また、盗まれたんですか?」
「うんん、そんことないと思うのよ。何処かに行っちゃたのかしらねぇ~とことこと」
レイラは穏便に済ませようとしているが、どうにも帯人は納得がいない。自然と視線は真理恵を捕らえてしまう。
それは、帯人だけではなく、傍で聞いていた諸湖羅や、もえちゃん率いる七面鳥レンジャーの子供達もそうである。
一同の不信感は、自然真理恵に向ってしまう。
皆は、もう黙っているのも限界であった。福引所で手伝いをしていた真理恵のところに、七面鳥レンジャーの中で一番活発な靖子ちゃんと、暴れん坊の陽太くんの二人が、真理恵のところに向かおうとした。
そのときである。
「レイラちゃんは、もう~、また失くしたんだ。昨日から全然駄目なんだから」
もえちゃんが、二人が騒がないように慌てて口を出した。そのワザとらしい芝居口調にさらにワザとらしくレイラが合わせる。
「あ~もう~ごめんなさい、もえちゃん。みんなもごめんなさい。今度から気をつけます」
と、頭を下げてくる。
それに、もえちゃんも
「しょうがないな~、みんなも許してあげて」
と、靖子ちゃんと雄太くんを睨み付ける。
すると、何と二人はあっさりと引き下がってしまった。
そうなると帯人は、もえちゃんや靖子ちゃん、それに雄太くんよりも誰から見ても明らかに大人である。その自分が騒ぐわけにはいかない。
(この子は、先生の意思を汲んでるんだ)
確かに、冷静に考えるとその位の事をレイラが自分で解決できない訳がない。
(そこまで、分って言ってるのだろうか?)
帯人は、もえちゃんの客観的な行動に驚かされてしまった。
帯人も、ここはレイラともえちゃんの行動に従うべきである。
「そうですね。じゃ、今日は帰りますね。諸湖、みんな帰ろうか」
「え、ええ」
諸湖羅も帯人が納得した顔つきでなので、何も言うことが出来ず、予報同好会の4人は引き上げて行った。
◆月曜日◆
翌日の月曜日のステージは、午後4時から6時までの2時間のみである。
それでも真理恵は、お昼頃には特設ステージと福引の抽選所の会場になっている空地にやって来ていた。
まだ、昨日までの賑やかさが嘘の様に、ステージ上は物一つ無い殺風景な状態である。
さらにその横のテントの中も、やはり誰もいなく静まりかえっている。
唯一テントの直ぐ前にある福引所だけが、商店会の人が1名とアルバイトの大学生らしき男性が1名居り、時折やって来るお客さんとの相手をしおり、多少の会話が聞こえてくる。
真理恵は福引所にやって来て、持っていた1回分の抽選券で福引を引いてみた。
久々の福引である。
「そういえば、小さい頃楽しみだったなー」
真理恵は小さい頃、いつも母の代りにガラポンを回していたのだが、決まってはずれの赤玉ばかりだった。
オレンジ色のガラポン(抽選機)を見ると、幼かった頃が重い出される。
取っ手を持って1回転させると、懐かしいガラポンの中のたくさんの玉が掻き乱れる音が聞こえて来たた。
小さな穴からは、見慣れた小玉が出てきた。が、色が
「あらっ?」
見慣れたはずの赤い玉では無く、ピンク色の玉が転がって来た。
(ピンクは確か~特別賞だっけ?)
ちょっと喜んで見ると、商店会の人が真理恵の顔を嬉しそうに見つめた。
「おめでとうございます。特別賞です」
「特別賞は何でしたっけ」
真理恵はついうっかり、はしゃいでしまった。
「あ~、今や大人気のレイラさんの予報ですよ。今回10本しかないんですよ。運がいい」
真理恵にとっては赤玉以上の外れである。
(いらないわ)と口から出かかったが、せっかく商店会の人達が考えて決めた商品である。そこに文句を言うまでの、非常識な真似は取れない。
当たっても予報を受けなければいいだけのことなのである。
真理恵は黙って、商店会手作りの”レイラの予報の当たり券”を受け取ると、バックの奥底に押し込んだ。
真理恵はその後で、自ら福引のお手伝いを始めた。
昨日も空き時間にお手伝いをしているので、作業内容は既に分っている。
「じゃあ真理恵ちゃん、お願いしていいかな」
「ええ」
「有難う、また戻ってくるから、それまで宜しくね」
そう言うと、商店会の人は真理恵に任せて、自分の店に戻っていった。
広い会場には、真理恵と学生の二人になった。
暇なこともあり、学生は真理恵にしきりに話掛けて来る。真理恵はそれがちょっとウザかったが、表向きはそれなりに返答をしていた。
学生の背丈はそれほど高くなかったが、整った顔立ちで小ざっぱりとしている。話も流暢である。
真理恵はきっと遊び慣れているのだろうと思った。
学生は次第に真理恵をそれとなく誘ってくるトークを初めた。
真理恵がそれとなくそらしていると、次第にはっきりと食事や遊びに誘いだしてきた。
学生の口調には自分への自信が感じ取れ、真理恵はうんざりとしていた。それでも最初は、やんわりと断っていたのだが余りにしつこいので、つい苛立ってしまい侮辱するような言葉で怒鳴り付けてしまった。
驚く学生は、急に喋るのを止め、少しの間気まずい状態が続いたが、まもなく商店会の人がやって来て、真理恵はその場を離れた。
学生は暫くの間、唇を噛み締めるように黙ったまま下を向いていた。
◆レイラの姿勢が気になる◆
ステージの始まる1時間位前にレイラが真っ白な衣装で会場に現れた。辺りには帰りの早い小学生の姿が少しずつ目立ってきている。
真理恵はレイラを見ると、どうしても嫌悪感が生まれ鋭い視線を向けてしまう。そこに小学校から先に帰って来た靖子ちゃんと陽太くんが、対抗して真理恵を睨み付けてきた。
真理恵は感情を逆撫でされてしまい、つい通り過ぎ様に徐にテーブルの上のレイラのカバンを落としてしまった。本当は落とすつもりは無かった。少しぶつかるだけのつもりだったのだが、つい力が入り過ぎてしまった。
それに、靖子ちゃんが真理恵に切れてしまった。それに陽太くんも続く。
「ちょっと、あんた拾いなさいよ!」
「拾えよ!」
真理恵は内心と思ったが、行きがかり上突っぱねるしかない。無視を決め込み、通り過ぎると、靖子ちゃんと陽太くんが追いかけようとして来た。
そこに、丁度やって来たもえちゃんが、レイラよりも早く二人の前に立つと、レイラの顔色を伺ってから二人を制止した。
「靖子ちゃん、陽太くん、止めようよ。レイラちゃんは望んでないから、ね」
真理恵は、昨日よりも明らかにイライラしていることに、自分自身感じ取っていた。
そんな真理恵の気持ちを煽るかの様にレイラの元には次々と人が集まってくる。老いも若きもレイラのプライベーを探りに来ては、何んとか誘おうとしている。
「レイラさんは、お一人なんですか?」
「彼氏はいるんですか」
レイラは、その言葉一つ一つにやな顔せずに笑いながら応えている。
「へ~こんなに奇麗なのに、彼氏いないんですか。立候補しようかな」
「私、実は女性が好きなんです」
「また、そんなこと言って、本当ですか?」
「しかも、ロリコンなんです」
と言って、近くにいるもえちゃんを抱きしめて笑いを取っている。
「参ったな、さすが断りなれてるね~」
レイラに嫉妬をしていた真理恵ではあるが、そんなレイラの行動を見ていると、唯一真理恵に声を掛けて来た昼の学生に対し、冷たい行動を取ってしまったことが思い出されてしまい、ちょっと後悔した。
◆レイラの予報が気になる◆
レイラは福引の予報があったので、4時からの小学生の鼓笛隊のステージは真理恵が担当をした。
ステージから戻って来ると、レイラの横でしきりにお礼を言っている女性が目に入った。
どうも、昨日レイラが予報をした人らしかった。
真理恵も若い女性である。占いは好きである。しかし、それは雑誌や有名な占い師だからであって、商店街でやっている様なマイナーな予報屋さんには前から否定的であった。
しかし、女性の様子が気になる真理恵はレイラとの会話に耳を傾けていた。
「レイラさん有難うございます。言われた通りに早速、昨日実家に行ってみました。そしたら、ありましたよ。助かりました。」
彼女は、自分の母親が孫の為にと貯めていた預金を大学入学に合わせて通帳で貰ったのであったのだが、うっかり無くしてしまっていたのだった。
大金であっただけに、本当にホッとしている様子が覗える。
「まさかと思いましたが、ホントに母のバッグに入っていました。私がまちがって入れたんですかね」
納得のいかない顔をしていたが、見つかった事には、大喜びをしていた。
さらにその直後、男子大学生らしき若い男性がやって来た。
「レイラさんの言うとおりでした。僕の誤解でした。彼女は浮気何てしてませんでした。正直に聞いてみたら、それに彼女も笑いながら応えてくれました。他愛もない誤解でした、何か、前よりいい感じです」
手放しで喜んでいる。
それを見た真理恵は、ちょっとレイラへの苛立ちが薄れていくのを感じた。
◆また、パンプス?◆
5時からのステージはレイラが担当した。今日のステージは小学生のステージである。
小学4年生の中では中心人物であるもえちゃんは顔が広い。その為、友達も沢山出演するので、どうしても見逃す訳にはいかない。いや、心の底から見たい。他の七面鳥達も同様である。
そこで、レイラのバッグやパンプスの見張りは、今来たばかりの中稲畑大学大学の予報研究会が行うことになった。
最初の30分は、帯人が受け持ち、残りの30分が下仁田好夫である。
帯人は少し離れた位置から何気なく様子を伺っていた。帯人が受け持った最初の30分は、レイラのバッグやパンプスに近寄る者すらいなかった。
そして、残りの30分を好夫に代わると、帯人はステージの見学をしに緒湖羅のところへと移動した。
ステージが終わり、レイラがテントに戻って来ると共にもえちゃん達七面鳥達と予報研究会みんな集まって来た。
すると、好夫がトイレに行っている間にパンプスが盗まれてしまったと、平然と言ってのけて来たのである。
「平然と言ってるけど、何のために見張っていたんだよ」
同じ大学の先輩とは言え帯人は黙っていられない。
「自分から名乗り出たくせに!」
「あ~、ごめん」
何とも気の無い誤りである。その時、好夫にはレイラに対する思いがないのだ(こいつは違う)と帯人は思った。同好会の人数が増えて喜んでいただけに、がっかりだった。
帯人は自分の非をもえちゃんに突かれると思っていたが、以外にも帯人に対して無関心である。それよりも、七面鳥のメンバーが真理恵を睨みつけているのが気になっている様であった。
真理恵もまた、それに対して、こちらに鋭い視線を向けている。
「あの女じゃないのかー」
陽太くんが我慢しかねて、わざと真理恵に聞こえる声で言い放った。
「待ってよ、陽太くん」
もえちゃんが静止する。
しかし、
「僕も、そう思うな」
正義感の強い健太くんまでついに疑いの目を向け始めた。
「まあ、みんな待ってよ。私がどこかに・・・」
そうレイラが言いかけたが、
「レイラさんが緊張もしてないのに、そんなミスをするはずがないよ」
そう、言われるとレイラも一言もない。
「そうだよ、みんなで行こうよ」
靖子ちゃんが、そう言った時に帯人が口を挟んだ。
「まあ、みんな待ってよ。今回は僕達の責任だから、ちょっと任せてくれないかな。もし見つからなかったらレイラさんに新しいパンプスをプレゼントするよ」
それには、諸湖羅も新メンバーの庄蔵も頷いている。
そこまで言われると、七面鳥のみんなも引かざるを得ない。
もえちゃんは、その帯人の温和な対処が意外だったのか、目を丸くして驚いている。
レイラは、みんなの気持ちが納まって良かったと安心し、
「やだ、帯人さん。まだ4足あるから大丈夫よ」
と言うと、静かな雰囲気も明るくなった。
(そっか、黒のパンプスばかり7足持っていたんだっけ)
と思うと、弁償する時は赤いパンプスでも買ってみようかと、帯人はちょっとだけ思うのであった。
「でも、なんで靴ばかりなんだろうね」
雄大くんの不思議そうな言葉には、帯人も気になるところではあった。
そこに諸湖羅が帯人に耳内をした。
緒湖羅の話では、新メンバーの庄蔵は5時からのステージの間、臨時で設置された簡易トレイの近くでビデオを取っていたが、好夫とは会っていないと言うことであった。
それには、帯人も眉をひそめる。
みんなが不本意ながらも、解散した時であった。
(あれ?やっぱり、遠くからこちらの方ををずっと見ている人がいるなぁ・・・あの女を見ているのだろうか?」
帯人は、少し前から真理恵を見ている視線があることに気付いていた。それはレイラともえちゃんも同じであった。
◆ストーカー?◆
その日、真理恵は一本義のアパートに帰る途中で、誰かに付けられているのを感じた。
振り向くと、サングラスに帽子とと言う、いかにも「ストーカーです」と言わんばかりの格好の男がいる。
真理恵は少し早歩きで2度程曲がり、後を振り向くとやはりその男がいる。
真理恵は怖くなり、走って逃げると、その男が走って追いかけて来た。
10cm近いハイヒールでは直ぐに追いつかれてしまう。
足音は、直ぐ後ろまで近づいたのがわかる。
(捕まってしまう。声を出さなきゃ!)
そう思った時だった。
「逃げろ!」
二人の間に体格の良い男が割って入ると、真理恵に逃げる様に促した。
真理恵は、後ろも振り向かずに走った。
<つづく>