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第14話 レイラ商店街のイベントギャルになる(ギャル心得の条2.失敗も成功の内)

レイラの初のイベントギャルは、大失敗のなか好評を博した。

高田町商店街のお茶屋さんの一人娘の真理恵は、自分ではなくレイラにイベントギャルの話がいったことに嫉妬をしていた。


◆失敗も成功の内◆

「レイラちゃん、聞いてるの!」

「すいません」

 レイラは肩を落として俯いている。

「立派にやって見せるなんて、偉そうなこと言っておいて、もう、あのざまなんだから」 

「はい」


 ”第1回高田町フェスティバル”の初日のステージが終わって直ぐに、ステージ横のテントの中でレイラを椅子に座らせて、いつにない剣幕で怒鳴りつけているのは、自分までがレイラの巻き添えを食って失敗者の一員に加わってしまったもえちゃんである。

 いつもの赤い頬っぺたの色が顔一面に広がって、高熱が出ているようである。

 

「転ぶは、うろうろするは、聞かれれば”はい”しか言わないし!」

「はい」

 今は長身の高いレイラが、もえちゃんよりも小さく見えてくる。

「もう、レイラちゃんは、”はい”しか言えないの!」

「は~い、すいません」

「”は~い”って、伸ばせばいいってもんじゃないの!」


「もえちゃん、もう、その位で・・・」

 見かねた真希未ちゃんが、レイラに助けを出そうとしたが、今度は真希未ちゃんがもえちゃんに睨まれ、項垂れてしまう。

 やはり、真希未ちゃんでも駄目である。真希未ちゃんが駄目であれば、男の子達では全く歯が立たない。もえちゃんに睨まれて勝てる訳が無いのである。


 今、ステージ横のテントの中では誰もがレイラの怒られる姿から目を背けて、見ない振りをしている。


 そこにやって来たのは、中稲畑大学1年生の帯人たいと諸湖羅しょこら率いる予報研究会の4人である。

 幾ら不甲斐無かったとは言え、尊敬する先生レイラが子供のもえちゃんに怒られている姿を見てしまった帯人は、黙っていられない。


「子供のくせに、先生に対して失礼だろ!確かに、確かに残念ながら・・・」

 帯人は、レイラの不甲斐無さに可也ショックを受けていた。

「・・・不甲斐無かったとは言え、先生だって一生懸命やってたんだ。ただ、白のパンプスで力が出せなかった・・・」

 帯人は悔しそうに唇を噛み締める。


 帯人は、レイラの秘密は黒いパンプスにあると思っているのである。

 諸湖羅を助けに行った時(第12話)に、急に夜道で鳴り響きだした黒のエナメルのパンプスの音を聞いて以来、ずっとレイラの不思議な力の謎はそこにあると思っているのである。

 

 もえちゃんには帯人の”白のパンプスが、どうのこうの”と言う言葉の意味が分らない。ただ、ウザいだけである。

「も~、ウザい。イチゴタルト!関係ないでしょ」

 イチゴタルトとは、帯人のフルネーム伊知呉帯人いちごたいとから、緒湖羅が付けたニックネームである。


「関係ないとは、何だ。僕はレイラさんのファンクラブ会長だぞ!子供くせに」

 子供、子供と言われてもえちゃんの怒りの圏域は半径2mに拡大する。


 隊長のもえちゃんの剣幕に、真希未ちゃん、澄子ちゃん、靖子ちゃん、健太くん、陽太くん、雄大くんの、小学4年生6人(もえちゃん率いる七面鳥レンジャーのみんな)は、後ろ下がりで圏内を脱出して、口をぽっかりと開けて唖然と眺めているしか成す術がない。


「なに~」

「なんだと~」

 熱くなったもえちゃんの顔と帯人の顔が接近戦で睨み合っている。


「あの~、その辺で・・・」

 レイラが止めに入ろうとするが、二人の視界にはもはやレイラは入っていない。二人は一触即発の状態である。


 そこに、商店会の会長を初め各店舗のご主人が、レイラにお礼を言いにやって来た。

 まず、先頭を切って何かとレイラの手を握りたい高田町商店会の佐崎副会長がレイラの両手を熱く握り締める。

「レイラさん、良かった、ホント良かった。盛り上がってくれて良かったよ~。やっぱりレイラさんにお願いして良かった」

 続けて高田会長が、佐崎副会長の手を力ずくで解いて、レイラの手を力強く握り締める。

「高田町が一体になったのが伝わって来て、感動で涙が出てくるよ。ありがとう」

 目尻に熱いものが滲んでいる。


 さらに、各店舗の店主からお礼と賛辞の言葉の嵐が吹き荒れた。

「良かったよ。レイラさんが、こんなに綺麗だって知らなかったよ」

「有難うございます。面白かったよ」


 その後も、もえちゃんのお母さんの梢さんを始めとする七面鳥レンジャーの家族、それに続々と観客であった近所の人達がレイラの元に訪れて来る。


 高田町コンテストに出場していた女性達からさえも、

「レイラさんが綺麗過ぎて、普通にやられていたら立場が無かったけど、何か面白いコンテストになっちゃった。凄く楽しかった!」

 普通でないと言われているのが引っ掛るレイラであったが、コンテストを壊したのではないかと心配していたので、正直一番嬉しいコメントであった。


 この続々と続く賛辞を、仲良く顔を並べて唖然としているのが、もえちゃんと帯人であった。

 二人は、レイラの凄さも美しさも既に知っているので、失敗したとばかり思っていた。

 それが賛辞以外の言葉が殆ど聞こえてこないことに、すっかり喧嘩をしていたことも何処かにすっ飛んでしまっていた。


 もえちゃんのお母さんの梢さんが、そっと後ろからもえちゃんの肩に手を乗せた。

「もえ、きっとね一生懸命なレイラさんの姿はね、誰からも受け止められるのよ。あんまり怒らないの」

「う、うん~」

 もえちゃんは、凄い剣幕で怒ったことが少し恥ずかしくなっていた。


 同じく、レイラをかばったとは言え、失敗したと思っていた帯人も言葉を無くしており、すっかり用件を忘れていた。そこに、緒湖羅が、帯人の替わりを勤めてくれた。


 諸湖羅は、予報研究会(実のところ”予報士レイラのファンクラブ”)の副会長である。

「レイラさん、私達「予報研究会」にメンバーが二人増えたの・・・」

 緒湖羅が嬉しそうにレイラに近づいて来た。

「・・・レイラさんに紹介がしたくて」


「まぁー、そうなの。良かったわね~」

 レイラとしては、自分のファンクラブなので恥ずかしくて喜んで良いのか分らないが、緒湖羅の嬉しそうな顔を見れるのが嬉しくて微笑んでしまう。


 新しいメンバーは男性2人で、1人は帯人や緒湖羅と同じ1年生で名前を小山庄蔵こやましょうぞうと言い、縦にも横にも大きめな体格で、どちらかと言うとおっとりとした人の良さそうなタイプである。


 庄蔵は今日の様子をビデオに取っていたようで、ビデオカメラを手にしている。

 もう一人は3年生で、良く言えば社交的、悪く言えば少しずる賢いと言ったタイプに見え、このマニアックな予報同好会には似つかないタイプに見える。名前を下仁田好夫しもにたよしおと言う。

 こちらも何を持っているのか、大きな布袋を手に下げている。


 緒湖羅の紹介にレイラが頭を下げると、大柄な庄蔵は愛嬌のある照れ笑いしながら軽く頭を下げ、好夫は両手でレイラの右手を掴み強引に握手をして来た。


 帯人は良夫のその行動が気に障り、握手の途中で二人の間に割って入った。

「あ~~~、実は今週二人増員しまして、レイラさんに会ってもらおうと今日連れて来たんです。さっき諸湖が言いましたね。ハハハ、期間中は毎日応援に来ますから頑張って下さい」


 そう告げると、今日の様子をビデオに取っており、この後みんなで研究するとのことで、4人は別れを告げて踵を返した。


 好評だったとはいえ、失態続きのステージを振り返って何を研究するのか分らないが、レイラに取っては迷惑な話しである。しかし、既に大勢の前で披露してしまった姿である。それを止めることもはばかられる。

 それでも、予報研究会がレイラのビデオを見て研究すると言う話を聞いて、可笑しくなってしまったもえちゃんが、すっかり機嫌を良くしていたのでレイラはそれも良しとすることにした。


 レイラも、安心してもえちゃんと直志商店(八百屋さん)の前で、いつもの予報屋さんを始めようと、自前の服に着替え様と思った時であった・・・。


◆パンプスがない◆

「あれ?無い」 

 確かに、テントの中央の机の下に置いたはずの、黒のエナメルのパンプスが無くなっているのである。

「どうしたのレイラちゃん?」

「うん~確かにここに置いたはず何だけど、パンプスが無いのよ。おかしいわね~?」

 レイラはテントの中に戻るなり、もえちゃんに怒られてしまったので今まで気付かなかったのである。


「間違いないの?」

 と、もえちゃんも一応は聞いては見るが、抜群の記憶力を有しているレイラの記憶を疑う余地は全く無い。

 レイラは、まだ残っていた七面鳥レンジャーのみんなと一緒に、誰かが間違えて持って行っていないかと、辺りの人達を探し始めた。


 その様子を、帰りかけていた予報研究会も緒湖羅が気付き、帯人だけを連れて二人で戻って来た。


 緒湖羅が、もえちゃんに聞いてみた。

「どうしたの?」

「んー、レイラちゃんの靴が無いの」

 それを聞いた、帯人が大騒ぎを始めた。


「え~っつ!大変だ~、先生のパンプスが盗まれた?!」

 レイラの不思議な力の秘密が黒のパンプスにあると思っている帯人にとっては一大事である。

 その叫びを聞いて、レイラは慌てて辺りを見回す。

「あ、あ、あ帯人さんちょっと待って、盗まれたって決まった訳じゃないし、私が置き忘れているのかもしれないから、」

 と言い、静かにする様に人差し指を口に当てた。

 もえちゃんはそんな帯人を見て、呆れて両手を上げて首を傾げる。



 結局その日は、予報の仕事に行ったレイラともえちゃんを抜かして、みんなで暫く探していたのだがレイラの黒いパンプスは見つからなかった。


 白い衣装とそれに合わせた靴までを用意されているとは思いも因らなかったレイラは、アシスタント用にと、一番お気に入りの黒のパンプスを履いて行っていたのである。


 気落ちするレイラに、もえちゃんが確認をした。

「レイラちゃん、黒のパンプスは1足しか持っていないの?」

「えっ、もえちゃん毎日違うのを履いてたのに気付かなかったの?」

「そうなんだ、全部同じかと思ってた」

「違うわよ、7足あるけど、今日のは一番お気に入りなの」


 ショックを隠せないレイラに、もえちゃんは

「多分、みんな違いが分んないから元気だそうよ」

 そう言った。

 レイラはその言葉の方がショックであった。


 時間の無くなったレイラは、ステージ様の真っ白な衣装に真っ白なパンプスで予報をすることになってしまった。

 今日は、直志商店前のいつもの予報の最中も、道行く人達から声が掛けられるやら、写真も沢山取られやらで、レイラにとっては最後まで落ち着かない一日であった。


 しかし、帰りがけにそれを遠くからジッと見ていた女性がいた。真理恵である。彼女はその姿にさらなる嫉妬を燃え上がらせるのであった。


◆日曜日◆

 翌日の日曜日も天気は快晴であった。

 ”第一回高田町フェスティバル”を祝うかの様な雲ひとつない天気に、関係者一同は胸を撫で下ろし、特に当日担当になっていない商店会の人たちでさえも、朝早くから特設会場に集まって雑談に華がさいていた。


 レイラも、午後4時からの約束ではあったが、評判が良かったとは言え失態には間違いがない。

 そのお詫びとばかりに、ステージが始まる11時には会場を訪れた。


 それでも、レイラがステージ横のテントの中にやって来た時には、既に真理恵は来ていて、商店会の人たちに冷たいお茶を配っていた。もちろんレイラには持って来ることは無い。


 レイラが挨拶をしながらテントに入ると、商店会の関係者はみんな温かく挨拶を返してくれる。

 すっかり、高田町商店街の一員になった様な気がして、今日は何となく上手くやれそうな、晴れ晴れとした、そんな気持ちになったのだが、それを真理恵が一気に雨空と変えてしまった。


「おはようございます」

 レイラは真理恵に対しても、すれちがい様に笑顔一杯に挨拶をしたのだが、挨拶を無視するかの様に素早く後ろを向かれた。さらに着替えの入っているバッグにも手を掛けられ、バッグを地面に落としてしまう。

「あ~ら、ごめんなさい」

 お決まりの口調で、お決まりの言葉が返ってきた。

 レイラはすっかり出鼻を挫かれてしまった。


「やっぱりか~。でも今日はもえちゃんに怒られない様に頑張らなくちゃね」

 レイラに取っては、もえちゃんに怒られるのが一番ショックなのである。


 レイラは気を取り直して、商店会の佐崎副会長のところに挨拶に行くと、やはり今日も両手を強く握って来た。

 さらに今日のアシスタントを頼まれてしまった。どうも、司会の薬局の粟屋さんのご指名とのことである。

 レイラも今日は名誉挽回の気持ちで来ている。断るつもりは微塵も無かったので、進んでアシスタント役を引き受けることにした。



 レイラは昨日アパートに帰ってから、タップリと復習を行い、テレビ番組のアシスタントを観察しては対策を練った。

 ボロボロの昨日であってもノシさんのアドバイスがあってからは、そこそこ無難にこなすことが出来ている。しかも二日目の今日は、学習能力の高いレイラが対策まで練って来ているのである。

 当然、不慣れなアシスタント役であっても、その辺のイベントギャルには負けない位に上手くこなす自信はあるレイラである。


 そんなことで、今日のレイラは端から見ても安心して見ていられるアシスタント振りであった。


 一方、真理恵は福引抽選や商店会の人たちのお手伝いを勢力的に勤めていたのであったが、時々ステージの方を眺めては、うらめしそうにレイラを眺めていた。


 そんな姿をレイラは気になっていた。


◆真理恵◆

 真理恵は、高校を卒業してから実家を離れ一人暮らしを始め、2年が過ぎていた。

 現在は、フリーで都度小さなキャンペーンの募集を見ては面接を受けたり、あるいは、仕事先で知り合った人からの紹介であったりで生活を立てている。


 子供の頃から学校や近所で可愛いと評判の高かった真理恵は、華やかな世界に憧れ続け、高校3年生の頃から色々なオーディションを受けていた。


 高校卒業後も親の反対を押し切って、大学への進学はせず、一人暮らしをしてオーディションを受けまくっていた。しかし、毎回いいところまでは行くのであるが、最終結果には行きつかないでいた。

 思う様に行かない状況に真理恵の精神状態は不安定になっていき、直ぐに苛立ってまうことが多かった。

 真理恵は自分の意思とは裏腹にやって来る。そんな気持ちを抑えることが出来ずに悩んでいたのであった。


 ”第一回高田町フェスティバル”は、まさに真理恵が悩んでいる最中のイベントであった。


 <つづく>



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