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第14話 レイラ商店街のイベントギャルになる(ギャル心得の条 1.普段通り)

高田町商店街主催で、”高田町フェスティバル”と言うイベントが開催されることになった。

レイラは、イベントの顔としてイベントギャルとして活躍することになった。

しかし、経験の無いことに弱いレイラは、いつもと違いドジの連続である。

◆高田町商店会◆

 今、レイラの前で二人の店主がしきりに頭を下げて、何やらレイラにお願いをしている。

 一人は、八百屋”直志商店”の店主、いつも温和なノシさんである。

 そして、もう一人は・・・。


 高田町商店街は中央に線路を挟み南北に伸びる26店舗から成り立っており、その全店舗で小規模ながら高田商店会と言う組合を成している。

 会長は、大通りに面した洋菓子屋さんの”高田甘味堂”のご主人で、副会長は、線路の北側にある”薬と日用雑貨の佐崎商店”のご主人である。

 

 商店会では、通年7月と12月の年2回イベントを行っているのであるが、最近は大型店舗の進出により売り上げが下降気味である。その為、今年度は通常の2回のイベントに加え、ちょっと変わった高田町商店会ならではのイベントをやってみようと言うことになったのである。

 商店会では今回のイベントを何んとか成功させて、商店会を中心とした高田町一番のイベントに作り上げたいと言う希望があった。


 今、ノシさんと一緒にレイラの元に現れたのは、副会長の佐崎商店のご主人佐崎直樹”ナオさん”である。

 ナオさんは、50歳過ぎの小柄な体格で、長身のノシさんとは親子の様に身長が違うが、人の良さそうなところはそっくりである。


 実は、ナオさんはノシさん同様もえちゃんの母である梢さんが親宿で開いている”スナッククイーン”の常連さんで、昨年末のレイラの”ホステス一体『第10話』”の時にお客さんの一人として来ていたのであった。


 ナオさんは、その時のセクシーなレイラの姿に一目惚れをしてしまい、是非イベントに協力して欲しいと、予報の仕事が終わるのを待って、ノシさんと一緒にお願いに来ているのである。


「それで、何をすれば良いのですか?」

 レイラは余り気が進まないが、ノシさんから頼まれると無碍むげには出来ない。

 取り敢えず話しを聞いてみることにした。


 レイラの言葉にナオさんが、真剣な顔付きで説明を始める。

「今回は、色々新企画を考えているんだけど、毎回やっている福引は引き続きやることになったんだよ。

でも、ありきたりの賞品では盛り上がりに欠けるのでね、今や商店街の一番の顔であるレイラさんの占・、いや予報を福引きの特別賞にと考えたんだけど・・・何んとかお願い出来ないだろうか〜」


「予報をですか?」 商店街の顔とまで言っときながら、占いと言いかけたのがちょっと気になったのであるが、商店街の場所を無料で快くお借りしているのである。

 ノシさんを初め、商店会の方々には大変お世話になっている。

 それ位であれば断るわけにはいかない。と言うよりも、大したお願いでなく内心ホッとした。


「最近は凄い人気で、なかなかレイラさんに予報して貰えない人が多いから、人気を集めると思うんだ。特別賞は10本だけなんだよ。

レイラさんは午後4時から6時まで2時間、抽選所で待機して予報をしてもらえればいいようにするから、何とかお願い出来ないだろうか」

 どうも、ナオさんの発案の様で、必至にレイラに頼み込んでくる。

 ノシさんも見かねて、一緒にレイラに頭を下げてきている。


「レイラちゃん、どうだろう。お願い出来ないだろうか・・・」


「そんなに、頭を下げないで下さい。その位で良ければご協力させて下さい。いつもお世話になってますから」


 それを聞いたナオさんは、

「ホント、あ〜良かった。ありがとう、有難うございます」

 レイラの手を両手で強く握り、さらに腰が低くなっている。

 なかなかな離さない。

「あ〜ははは」

 レイラは、照れ笑いをするしかなかった。


 話はそれで済んだと思ったのだが、続きの話が始まった。「イベントで、もう一つ”ミス高田町コンテスト”を今回新しく行うのだけど、そのアシスタント役もお願できないだろうか。もちろん、午後4時から6時の時間内で行うから」


「えっ、アシスタントですか」

「そう、何も喋らなくてもいいし、ちょっとしたコンテストのお手伝いだから心配しなくても大丈夫。もちろん予報と合わせて、お礼はちゃんとさせてもらいますよ」


「そんな。お礼はいいんですけど、アシスタントですか・・・」

 レイラは、経験のないことに対しては酷いあがり症である。


 頭の中は不安で一杯になるのだが、なかなか断り切れないでいた。結局、そこをすっかりナオさんのペースに押し切られてしまい、引き受けることになってしまった。


 - 数日が経った -


◆イベントは”高田町フェスティバル”◆

 午後6時半と言うのに空はまだ薄明るい。風も無く、気持ち良く暖かい穏やかな気候なのに、いつもより少し早く来たレイラの心はずしりと重かった。

 それは、レイラが商店街にやって来るなり、どの店にも一番目立つところに昨日まで無かった”高田町フェスティバル”のポスターが貼られているのを見つけたからである。


 昨年のイベントよりも明らかに各商店の気持ちが込められていることが手に取る様にわかってしまう。

 当然、レイラが予報を行っている八百屋さん(直志商店)にも貼られている。

 責任感の強いレイラとしては、商店会の顔としての役割と、何より未知であるミスコンのコンテストのアシスタントをすることに対して、重荷を感じてしまうのである。


 レイラが直志商店の前まで来ると、予報の準備を終えたもえちゃんが直志商店の入り口横のガラス窓に貼られている”高田町フェスティバル”のポスターに集中をしていた。


「も~えちゃん」

 心なしか今日のレイラの声には張りが感じられない。

「あっ、レイラちゃん」

 もえちゃんは首を傾げて続ける。

「どうしたの?元気ないけど」

「うんっ、どうかしたわけじゃないんだけどねー・・・」

 と、レイラの視線がポスターに注がれているのを見て、もえちゃんは気が付いた。


「レイラちゃん、イベントギャルになるんだって?」

 もえちゃんの声は、明らかにレイラを茶化しており、顔つきがニヤけている。

「あれー?もえちゃん何で知っているの?と言うか、イベントギャルなんかやんないわよ!お手伝いをするだけよ」


「でも”ミス高田町コンテスト”のアシスタントをやるんでしょ。じゃ、イベントギャルじゃん」

「そ、そうなの?」

 レイラの心中は、にわかに騒ぎ出す。

「うん!」

 もえちゃんは、楽しそうに応える。

「それに、佐崎商店のおじさんがレイラちゃんのイベントギャル姿が楽しみだって、商店街の人たちみんなに話してるんだから」


「うそ~、福引の特別賞の予報じゃなくて、ちょっとしたお手伝いのアシスタントの方を?」

「うん」

 もえちゃんは大きく頷く。レイラはますます気が重くなって来た。


「ところで、なんでもえちゃんが、そんなことまで知ってるの」

「もえは、商店街のことで知らないこと何てないんだから」

 自慢げな表情がちょっと憎たらしいが、ちょっと頼もしい。

 それがホントならもえちゃんに相談してから決めれば良かったとかな?と一瞬レイラは思ったが、多分もえちゃんに遊ばれて結果は同じことかと思うと、ナオさんの未来を覗いてやれば良かったと少し後悔した。


 レイラはポスターを見ていると、今回のイベント名には、商店会と言う文字が入っていなことに気づいた。

 商店会が中心となった、街全体のイベントを目指している思いが、ここからも伝わってくる。

「はあ~~」

 レイラはプレッシャーに深く溜息をついてしまう。

 

 そんなレイラに対し、通りに目を向けていたもえちゃんが声を掛けた。

「イベントギャルぐらいで大げさなんだから。ねえ、レイラちゃん見て」

 もえちゃんの視線の先では、レイラ程ではないが長身で細身、艶やかな衣装に身を包んだ若く奇麗な女性がこちらに向って歩いて来ている。かなり派手である。


「あの人、お茶屋さんの娘さんなんだ。

今ね、本木ポンギで一人暮らしをしていて、イベントギャルとかキャンギャルをやって暮してるんだって。

キャンギャルってね、誰も聞いていなくても商品の説明とかするんだよ。

やっぱり、レイラちゃんじゃ無理だよね~」


 もえちゃんが関心したように話すので、レイラもついつい乗ってしまう。


「そんなことないわよ、キャンギャルだって、イベントギャルだってそのくらい出来るんだから」

「いや~そんな甘くないと思うけどな~」

 もえちゃんは首を振りながら下を向く。

「大丈夫よ~見てて、さっきもえちゃんだったイベントギャルくらいで大げさだって言ってたじゃない。立派にやって見せるんだから」

 

「そうだよね、レイラちゃんい出来ないこと何てないもんね」

「もちろん!」

「最初にちょっとだけ緊張するだけだよね」

 もえちゃんがニタっと笑うと、レイラは声が出て来なかった。


 レイラは、(しまった、もえちゃんの挑発にうっかり乗ってしまい、虚勢を張ってしまった)とは思ったが、言い張ってっしまった以上は、意地でも立派にこなしてみせなくてはならない。

 レイラは会話のながれ上、もえちゃんにカラ元気で、胸を張って見せるのであった。


 その姿に、もえちゃんの楽しみは膨らむのである。



「ねえ、レイラちゃん。あのお茶屋の娘さんも”ミス高田町コンテスト”に出るのかな?」

「お茶屋さんの娘さんもって、どうして?」


「色んなコンテストに出て毎回決勝まで行くんだけど、全然賞がもらえないんだって。

 あだ名が”決勝要員”っていうんだぁ。奇麗なんだけど、何か違うよね。

 樟脳くさいて言うか、なんか人間ぽくないって言うか、温かさが無いっていうかさ~。

 でも高田町のコンテスト位なら優勝するかもね。もえも出ないしさ」


「へ~そうなんだ。毎回、決勝まで行くんだ~・・・」

 確かに奇麗である。レイラもそれは認める。しかし、確かにもえちゃんの言うとおり何かちょっと違うと言うのはレイラも同意見である。

 もっとも、樟脳臭いの意味はレイラには分らなかったが、「レイラちゃん知らないの~」と言われたくなかったので、さらりと流して切り返した。


「・・・もえちゃんも出ないし優勝するかもね」 

 レイラが真面目な顔で言うので、もえちゃんも次の言葉が出て来なかった。



 レイラは、家に帰ってから、樟脳の意味を調べてみた。

「ん~やっぱり、樟脳ってタンスに入れる防虫剤よね。防虫剤臭いっていうこと?」

 調べて見ても、もえちゃんの慣性はレイラには理解出来なかった。

 ついでに”ポンギ”の場所も調べたことは言うまでもない。


 - さらに二週間が経過した5月末の土曜日 -


◆”高田町フェスティバル”開催◆


 そして、いよい高田町の一大イベント第一回”高田町フェスティバル”のふたが開けられた。

 商店会も頑張って奮発したようで、朝8時には花火も上がった。


 日程は、本日5月の最終土曜日から翌週の6月の第一日曜日までの8日間。

 1日目の本日は、”ミス高田町コンテスト”出場者のお披露目がある。

 最終日の8日目にミス高田町が決定するのだが、決定方法は、期間中に商店街で2,000円以上のお買い物をすると、福引が1回出来ることになっている。この福引で外れると、ミス高田町を投票出来る投票券を1枚もらえることになっており、この投票数で優勝者が決まるのである。

 そして、優勝した人に投票した人の中で1組(2名)に抽選で、南の沖紐島おきひもとうへの3泊4日の旅が当たることになっている。 

 

 2日目~7日目も、ミス高田町コンテストを行う特設ステージでは、高田町住民やゲストによる、ステージ発表が用意されている。


 レイラも、不安が一杯で落ち着いてアパートに居ることが出来ず、午後2時には商店街にやってきた。

 商店街は、いつもの雰囲気とは違いお祭りムードが漂っている。

 各店先には、お祭りの様に様々な露店を出しており、七夕の様な飾りつけまでされている。

 あの、八百屋さん(直志商店)でさえ、店先で焼き芋屋をやっているのである。


「ノシさ~ん、焼き芋ですか?美味しそう」

 レイラの声に応えるノシさんの声もはずんで聞こえる。

「そうだろう、何たってフェスティバルだからね~。とっびきりのお芋だよ」

「そんなお芋ってあるんですかー」

「これさ」

 ノシさんは焼き芋を二つに割り、半分を新聞紙に包みレイラに渡し、残りの半分に噛付いた。

 レイラも受け取った半分のお芋を口に頬張ると、ノシさんの言うとおり本当に特別に美味しく感じる。

 

 ノシさんが笑いながら言う。

「でしょ!」

「ホント」

 レイラも笑顔で返すと、何となくこれから始まるイベントギャルに対する緊張も、解れて来た様に感じられた。


「後で、店閉めて応援に行くから、イベントのお手伝い宜しく頼むよ」

「任せて下さい」

 と、胸を張って応えたものの、改めて言われると意識をしてしまう。


 ノシさんと別れて特設ステージの前にやって来た時には、焼き芋の効果は殆ど消え去っていた。

 特設ステージは、線路の北側で商店街の外れの空き地に設けられている。

 ニ時間近くも前だと言うのに、既に関係者の他にも2~30人の人達でざわついている。


 佐崎商店の店主、佐崎直樹ナオさんは、忙しそうにイベントの打ち合わせをしていた。

「ナオさん」

 レイラが声を掛けると、忙しそうに動いていたナオさんの顔が瞬時に緩んでいった。

「レイラさん。よく、来てくれました」

 レイラの両手を握って、深々と礼を始めた。レイラに頼みに来た時と全く一緒である。

「いや、ははは、お約束ですから、まあ~」

 レイラは、やはり照れ笑いをするしかなかった。


「え~と、レイラさん、こちらへ」

 ステージの横に張られているテントに案内されると、ナオさんから洋服を渡された。

「これは?」

「レイラさんのアシスタント用の衣装です。レイラさんの為に奮発したんですよ」

「えっっっ、こ、これを着るんでですか?」

「はい!」

 ナオさんは嬉しそうに笑っている。

 レイラが渡された衣装は、超ミニの白いスカートに、おへそが出そうな白のタンクトップと、その上に着る白の上着。それに白のパンプスまで用意されており、白尽くめのレースクイーンそのものの衣装であった。


 普段、黒しか着ないレイラに取っては眩しすぎる純白である上に、露出も多い。まだ陽も高く、もえちゃんのお母さんの親宿のスナックとは訳がちがう。


「ちょっと、派手じゃないですか?」

「そんなことはないです。大丈夫です。レイラさんは白がお似合いだから・・・。昨年末のクイーン(もえちゃんのお母さんが経営しているスナック『第10話』)でのレイラさんのお奇麗な姿が目に焼き付いて今でも離れないんですよ。皆さんにもお見せしないともったいないですよ」


 レイラも、思い出した。昨年末にスナック”クイーン”でホステス一体をやった時に、確かにナオさんも楽しそうに騒いたのが記憶にある。

 流石に、昼間に着るのはちょっと恥ずかし衣装ではあるが、そこまで褒められるとレイラも女性である。悪い気はしない。

「え~、まあ~、じゃあ、コンテストの間だけと言うことで」

「や~着て頂けますか有難うございます。目の保養、いや、舞台に花が咲きます」


 ナオさんは間髪いれずにレイラの両手を強く握り、腰が低くなる。


 何かとナオさんはレイラの手を握ってくるのである。

 

◆レイラ、イベントギャル初体験◆

 高田町と、高田町商店街の繁栄の期待を込め、商店会が計画を立てた第一回”高田町フェスティバル”の開催がいよいよ始まりの時を迎えようとしている。

 特設会場の空き地には予想以上の人が集まり、周囲の道路にまで人があふれ出している。


「バン、バンバン」

 三発の開催を告げる花火と共に、”高田甘味堂”のご主人高田延広会長がステージの中央に立つと、そのレスラーばりの体格と威厳で賑やかだった会場内は一気に静粛になった。


 ステージの横には、商店会の核店舗の代表者が一列並ぶ。残念ながら、一人で経営しているノシさんの姿はまだ見られない。


 会場には当然もえちゃん初め、今年小学4年生になった七面鳥レンジャーとその家族、それに中稲畑大学なかてばただいがく1年生の帯人たいと諸湖羅しょこら率いる予報研究会(別名:レイラファンクラブ)も前の方に陣取っている。ファンクラブのメンバーも2人から4人に増員している。


 高々、商店街のイベントであるのに、主催の商店会の気持ちが伝わっているためか、誰もが初めてのイベントに緊張の面もちである。もえちゃん達でさえも、今日は行儀よく直立不動である。


 そこに、ステージ中央の会長の元へマイクを持ったアシスタントの女性が現れると、会場内が嵐の海の様などよめきに包まれた。

 

 長身な彼女は、きめの細かい透きとおる肌に、肩を覆い隠す黒髪をしなやかに靡かせ、ステージの上へと華麗に昇る(遠目には)。

 白フェチのナオさんが用意した露出の多い真白なコスチュームが、彼女のスタイル抜群な全身を際立たせて、爽やかなお色気を醸し出している。ちゃんと、無駄毛の処理も行き届いている。

 辺りからは、

 「お~」「奇麗ね~」「誰、あの人?」等の感嘆の声があちこいから巻き起こる。


 この時点で、彼女が誰であるか気付いたのはほんの数人。その中の一人、予報同好会の帯人が感極まって声を上げた。


「先生~!」


 その声に、緊張で脚ががくがくと震えていたレイラは、振り向いた途端に一発派手にコケた。


「あ~」

 あまりにも派手なコケかただったので、会場から心配の声が上がる。

 それを軽く流せば良いのだが、レイラは起き上がるとその声に深々とお辞儀をする。

 そこから、次第に様相が変わっていった。

 「くすくす」と、笑いが漏れ始める。


 レイラが、会長にマイクを渡す時に「あ~あ~」と、音声テストを始めた時には、あちこちから笑い声が上がり始めた。


「ねえ、もえちゃんレイラさんってあんな人だっけ?」

 諸湖羅しょこらが不思議そうにもえちゃんに話し掛けるが、もえちゃんは、その様子を爆笑で楽しんでいる。

「始めての事には、すご~く弱いんだぁ、ハハハ。レイラちゃん」


 その話を諸湖羅の横で聞いていた帯人は、

(諸湖を(今では、諸湖羅のことを諸湖と呼んでいる帯人である)助けに行った『12話』時は、あんなに落ち着いていたのに・・・。って、言うことは先生は殴り込みに慣れているんだろうか?)

 帯人は不思議に思ったが、もえちゃんからは敵視されているのでもえちゃんに聞くことは出来い。

 しかし、そんなレイラも(いいな~)なんて帯人は思った。


 商店会会長の話が無事に終えると、司会者がステージ中央に現れた。

 司会は、粟屋薬局の粟屋あわやさんだ。粟屋さんは商店街一、弁が立つことで有名である。


 司会の粟屋さんは、今回の”高田町フェスティバル”全体についての説明を始めた。

 当然レイラは横に立っているだけなのだが、離れたところでも目が踊って、脚が震えているのがはっきりと見て取れる。


 その後の、商店街有志のバンド演奏の準備でもギターのコードに躓き、ドラムセットのスネアを抱きかかえ爆笑になった。


「ねぇ~、もえ。レイラさん今日は、やっぱり変じゃない。大丈夫かしら?」

 もえちゃんの母の梢さんも、やはり、レイラの頼もしいところしか見ていない一人である。

「ん~、初めてのことは、全くダメなんだけど、今日は酷すぎだな~」

 流石に、見ていられないともえちゃんも眉間にしわを寄せ始める。


 もえちゃんも、始まるまではレイラの緊張した姿を楽しみにしていたが、あまりの不甲斐無さに流石にいらいらして来た。

 もえちゃんもレイラが、あまり笑われるのは本位ではないのだ。



 それでも、プログラムはさらに進行していき、ついに司会者の声がメインイベントである”高田町ミスコンテスト”の開催を告げた。

 記念すべき第一回のメインイベント、”高田町ミスコンテスト”が始まったのだ。


 (二回目があることを祈って・・・。)


 まずは、司会者からのシステムと商品の説明が始まる。当然、アシスタントのレイラは、つつましやかに横に立っている。余計なことをしないようにである。

  

 しかし、会場の雰囲気を読んだ司会者は遊び心でレイラに話をふってきた。


 司会者の流暢な説明から始まる。

「・・・1日目の本日は、出場者のお披露目のみです。

 最終日の8日目にミス高田町が決定します。楽しみですねレイラさん」


「おっほん、ごほん・・・」

いきなり振られたレイラは、自分の唾液を喉に詰まらせむせ返る。

「大丈夫ですか?」

「す、すびば、ゴホンせん」

 

「第一回の”ミス高田町”の候補者は6人です。」

「はい」

 今度は話を振られていないの返事をする。


「高田町きっての美人の方が揃いました」

「はい」

 余計なところで相の手を入れる。


「そして、優勝者の商品は、何と、ワイハー5泊5日の旅です。すごいでしょレイラさん」

「はい」

 話を振られても、返事をするので精一杯である。


「それと、石の宮酒店さんから、缶ビール2箱、佐崎商店さんから洗剤が5箱、・・・・・米屋大吉からは、お米60kg・」

 そこでレイラは、まだ1年前の貧乏暮らしから感覚が抜け出せていないのか、ふられてもいないのに進んでアドリブを言ってしまう。


「お~お米、良いですね~」

 レイラのうっとりとした顔が堪らなくセクシーで、会場の男達の心をそそる。


「レイラさ~ん」

 知らない人からも声が掛かり、レイラに向って手が振られる。

 それにレイラが応えるものだから、また爆笑を誘う。


 もえちゃんは次第に怒りで、顔が赤くなり出してきた。

 傍にいた健太くんはそれを心配そうに眺めるが、もう、もえちゃんを誰も止められない。怖くて声さえかけることができない。


「そうですね~。そして、商品はさらに・・・・」

 司会者は、レイラのアドリブを楽しむ様に、ミス高田町の決定方法に進む。


「決定方法は、期間中に商店街で2,000円以上のお買い物をすると、福引が1回出来ることになっているの、例年通りでご存じと思います。

 今回は、この福引で外れると、ミス高田町を投票出来る投票券を1枚もらえることになっており、この投票数で優勝者決まります。

 全て、みなさんの投票にかかっています。

 そして、優勝した人に投票した人の中で1組(2名)に抽選で、南の沖紐への3泊4日の旅が当たることになっています。 


 会場からは、どっと拍手が沸き起こると、音楽が流れ出した。

 いよいよ、自薦他薦で選ばれた6人の候補者がそれぞれ自前の衣装でステージに入場である。

 その並び位置の指示を出すのがレイラの役目だったが、思う様に並んでくれない出場者におろおろと右往左往。


 会場の視線は、常にレイラが何かしてくれるのでは?と言う期待が向けられている。レイラの人気は、完全にミスコンテストをしのいでいる。


 「レイラさ~ん、ガンバって」

 靖子ちゃんのお母さんや、陽太君のおかあさんがレイラに声を掛ける。

 それに一々レイラは頷く。

 その行動についに切れたもえちゃんは、ステージの真下まで近づくと、いちいちレイラの行動に身振り手振りで指示を始めた。


 既に自分を見失っているレイラは、わらにもすがりたい一心で、その指示を忠実にこなそうとする。

 まるで、コメディーな二人の姿にさらに笑いが起こり、もえちゃんの顔は真っ赤になってしまう。


 完全にレイラは笑われているのであるが、その笑いが温かく好意に満ちている。

 今や、完全にフェスティバルの主役『顔』になっているのはレイラである。


 その雰囲気を敏感に感じ取り、嫉妬を覚ミスコンに殴り込みをかける一人の女性がいた。

 飛び入り参加である。


 彼女の名は真理恵。商店街のお茶屋さん”伊藤屋”の一人娘で、コンテスト、オーディション荒しの目立ちたがり屋だが、一度も荒し切れたことが無い。


 現在は、おしゃれな街で有名な一本義ポンギで一人暮らしをしているが、”ミス高田町コンテスト”があると言うことで見物に来ていた。

 ただ、余りにもローカルなのでプライドと価値観から出場はしなかったのだが、今のレイラの只ならぬ人気と余りの美しさに嫉妬をしてしまい、思わず手を挙げてしまったのである。


「コンテストに参加させて下さい!」

 キリッとした顔つきと、滑舌の良い口調が今の会場の雰囲気にはそぐわない。


 真理恵は自らステージに上がる姿に、レイラの様に美しさでどよめきが舞い起ると思っていたが、会場は唖然とした雰囲気で静けさに包まれている。

 敏感な真理恵は会場の空気を感じ取ると、さらにレイラに対して苛立ちを覚え、ステージ上でレイラを睨みつけるのだが、一転振り帰ると会場のお客さんに対しては満面の笑みを見せる。

 全く反応の無い客席に対しても気の強い真理恵は全く動じる素振りはない。


 幸い、司会者の粟屋さんはお茶屋の真理恵のことを良く知っていたので、上手く参加者に加えてくれ、真理恵の立場は守られた。


 レイラは自分のドジさ加減に真理恵が睨んだと思い、シュンとなってしまう。 

 真理恵の面と向った攻撃と、怒っているもえちゃんの顔付きに撃沈寸前な時であった。

 そこに、いつの間にかノシさんが会場にやって来てレイラに声をかけた。


「レイラちゃん、普通でいいんだよ。いつも予報をしている時と同じでいいんだ~。特別なことはしなくいいんだよ」


(そうなの?イベントもいつもの予報と同じなの? そうなんだ!)

 レイラは、その声に頷くと一気に冷静さを取り戻した。

 丸まった背中が伸び、自信が戻って来る。


 それからは、ほとんどドジも踏まず、わりと無難にアシスタントをこなしていき、無事?にフェスティバルの初日が終了した。


 だが、すっかり人気者になったレイラを真理恵は許せなかった。

 

 <つづく> 

14話は、次回から事件が始まります。前振りが長くなってしまいました。

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