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第12話 もえちゃんライバル出現(弟子にして下さい)

帯人と、無事に戻った諸湖羅は、予報研究会と言う同好会をつくった。

そこが中心となり、レイラのファンクラブが出来ることになる。


◆よりどころ◆

「たかだの・はは・先・生、どうして・・・」

 緒湖羅は、異様な風景の中心にレイラがいることに驚いた。

 ”教祖様”と呼ばれている男を始め全員がレイラの前に平伏しているのである。


 緒湖羅は、男に尋ねた。

「教祖様、どうされたのですか?」

 そんなに敬っている訳でもないが、この家に住む女性3人がそう呼んでいるので、緒湖羅もそう呼んでいた。


「オホン」

 男は咳を一つしながら、何と言い訳をしようか考える。

 昨日、レイラのことを自分の弟子と読んでいたので、バツが悪い。


「え~実は~、その~このお方が、大先生であって、・・・」

 レイラは、男がしどろもどろの説明をしながら、緒湖羅に土下座を促すのを遮り、緒湖羅に話し掛けた。


「どう?、ここの生活は」

 レイラの明るい声が妙に頭に響いてくる。


 緒湖羅は、レイラに会えたことが嬉しい。

 レイラに話しかけられたことが嬉しい。

 応えたい気持ちもある。


 しかし、応えに躊躇ってしまう。

 嬉しい気持ちとは裏腹に言葉にならない。


 特に、何がどうだと言う事がないのだ。

 知らない内に男に付いて来てしまい、いつの間にかここにいる。

 そして、何となくここにいれば安心で、落ち付くのである。

 そんな気持ちがあるだけなのである。


 

 ・・・男は、緒湖羅を家に連れて来てからは、何もしていない。

 昨日以上に催眠を掛けることも、昨日の様に恐怖を煽ることもだ。

 レイラには、それが見てとれる。


 しかし、レイラには見えないことが多い。

 何故、この男は、他の女性に行った様なことを、諸湖羅にはしなかったのか。


 また、ここに残った3人を抜かして、何故、他の女性は自分の家に戻って行ったのか。

 そして、何故、男の周りが3か月前の異様さと変わってしまったのか。


 そのお陰で、諸湖羅はこうして無事でいるのではあるが。


 緒湖羅は、既に催眠が解けている。後は、催眠状態の時に頭に残った不安を取り除き、心の拠り所を作りさえすれば、自らの力で元に戻れるのである・・・。



 応えに詰まっている緒湖羅にレイラが話を続けようとした時、後ろで全く状況を理解出来ないで、途方にくれている人が、若干一人いることに気付いた。


 レイラは、この先の主役である帯人が、状況を理解出来る様に質問を変えた。

 

「ここは、何ていう集まりなの?」

「”まどろみの会”と言います。」


「それで、その何んとかって言う会は、簡単に言うと、この男のわがままを聞けば、長い死後の世界が開けるということね。そうなんでしょ」

 と男の顔を睨みつけた。


 と言っても、レイラの顔には含み笑いがある。


 それでも慌てた男が、どもりながらレイラに応える。

「いえ、いえ、とんでもありません。そんな、今はそんなことはしておりません。私も明後日からは、仕事に行って、汗水流して働きます」


 男の怯えた態度にレイラが笑いながら睨みつけると、目線だけでレイラの表情を伺うと直ぐに床に視線を戻した。

「本当です。信じて下さい。凄く反省しております」


「何故。緒湖羅さんを連れて来たの?」

「すみません。つい出来心でして・・・。でも本当に何もしておりません。今も無理に留めている訳ではありません。もうしません。助けて下さい」


 事実そうなのだ、どちらかと言うと、今では女性3人の優しさが拠り所になって、不安と恐怖から守られているのである。緒湖羅の弱さがそこに頼っているだけなのである。


「そうです、私達は、教祖様と一緒にいられて、とても幸せなのです。自らの意思でここにおります」

 女性の一人が、そう言う。


 レイラは思った。

(もえちゃんの言う、不幸を幸せと読むと言うやつに近いのかもね~)


 その時、後ろから声がした。

「ショコラさん」


 レイラが、体を除けて帯人に路を開けると、帯人は諸湖羅の瞳をじっと見つめながら前に進み出た。 

「ガトーショコラさん」

 帯人は、思い切って、自己紹介を受けた時の愛称で呼んでみた。

 そして、レイラの後ろから玄関の明かりの届くところまで歩み出た。


 緒湖羅の顔に昨日の無邪気な面影が垣間見える。

 レイラに予報をしてもらうことが出来て喜んでいた、あの時の笑顔である。


 諸湖羅は忘れていた感覚を取り戻した気がした。

 何かが、す~っと体に入って来た気がした。

 そして、帯人に言葉を向けた。


伊知呉いちご・・・」

 と、言いかけて言い直す。


「イチゴタルトさん」

 

 その言葉で、帯人は、余計な言葉は要らないと思った。

 どんな言葉を掛けようかと、色々頭の中を廻っていた。


 正直言って、頭の中で色々講釈を並べて、どうすべきか分からなくなっていた。 


 しかし、そんな理屈は、気持ちが合わなければ帰って不愉快なだけである。

 気持ちが合えば無用のものなのである。

 帯人はそう思った。


 ”言いたがり者”の講釈が自然と頭から消えていくのを感じ、そして、自分の持っている気持ちだけを、今直ぐに伝えたい衝動にかられた。


 帯人は緊張で、棒の様な真直ぐな姿勢になりながら、諸湖羅に精一杯の言葉を伝え始めた。


「今度、コーポ リバーサイド豊瀬202号室に引っ越して来ました。伊知呉タルトです。これから、4年間隣に住みます。宜しくお願いします」


 言い終わると、帯人は諸湖羅に深々と頭を下げた。


「えっ?」

 緒湖羅は、帯人が隣に引っ越して来たとは、思ってもいないので、瞬時に理解が出来なくて固まっている。


「緒湖羅さん」

 レイラは続ける。


「生きる者はみな恐怖を抱えて生きているの。誰でもね。

 それが自然なの。

 だけど、その弱みを突いて、救いの手を差し伸べる振りをして、自分の利益に利用する悪い奴がいるの」

と言い、男を睨みつける。


「かといって、救いを差し伸べると言う存在によって、多くの人が精神を助けられているのも事実なのね。

 問題は良し悪しなんだけど、難しいことに、白と黒がはっきりしてないことが多いの。

 それでも、当然、選択は他人にして貰うことではないから、自分の責任で決めなければいけないのね」


 レイラは、敢えて、一回背伸びをして一呼吸をおく。


「今、私の言っているこも全然適当なことかもしれないのよ。

 でもね、道徳感の向く方向は、同じ川で生まれた鮭が同じ川に向かうように、殆どの人が同じなの。本当はね」


 諸湖羅と帯人が余りにもレイラに飲み込まれそうだったので、もう少し和らげて続ける。


「まあ、自論だけど、所詮人なのよ。そんなに能力は違いやしないのよ。

 人を信ずるのではなくて、私は人の正しいと思う言葉や行為を選択するべきだと思うのよ。

 それは、特別な人だけではなく、身近な人から受けることもあるし、不安な者同士が分かち合って見つけ出すこともあると思うの。お隣さんとかね」

 と言い、帯人の方を見る。


「これは、私が教祖で、私が独りが信者の”予報士レイラ教”なんだけどね」 


 レイラは、ニコッと笑って、

「緒湖羅さん?」


 そして、緒湖羅に判断を返した。

 それは、今朝ノシさんの”強引ではいけない”と言う言葉を思い出したからだ。


「はい。既に決まっています。お隣さんが待ってますから」


 帯人が言葉もなく震えている。

 レイラが二人に送る言葉は、もう何も必要はなかった。


 ・・・この時、帯人は人を動かすのに本当に必要なもが何であるかを理解した。

 これは、今後の彼にとって大きな出来事となった。

 彼が将来築くものにとって・・・。

 

 

 緒湖羅と帯人は、アパートに戻って行った。

 二人は、レイラも一緒に帰ることを促したが、レイラは

「今日は、二人で歩いた方がいいのよ~。・・・予報ではね」

 と、片目をつぶって見せた。


「わかりました」

 二人は、恥しそうに俯いて帰って行った。


◆また、・・・秋田豆乳首あんパンセット?◆


 そして、ひとり残ったレイラは続けた。

「中に入れてもらってもいいかしら」


「えっ?あっ、はい、どうぞ」

 男は、少し驚いたが、ぺこぺこしながらレイラを中に通した。

 足が痺れている様でふらふらしている。


 レイラは、

「ごめんなさい。正座をさせたままで。」

 家に入る時に女性だけにそう告げた。


 家に入りたかったのは、赤ん坊に接している時の女性達の気持ちを見たかったからだ。


 居間の隅に赤ん坊が寝ている。 

 母親は、当然としても、残りの二人の女性は、子供に引き付けられている部分が大きいのが見て取れる。

 この三人が、中心に子供の面倒を見て来ているのだ。


 レイラは、”時間をかけてね。強引では、心からは変わらないよ”ノシさんの言葉を思い出す。


 催眠で一時的に心を子供から離すことは、レイラにも出来る。

 しかし、ずっと催眠をかけ続け、従わせる訳にはいかない。

 奴隷ではないのである。


 レイラは、取りとめの無い雑談で彼女達の心を探ると、この赤ん坊だけにではなく、共通して凄い子供好きなのが伺えた。


 そこで、

「今度ね、少年野球の大会があるの。一緒に応援に行ってくれないかな~」

 健太くん達の野球応援に誘ってみた。


 可愛い七面鳥達に合わせようと考えたのだ。


 3人共興味を持ってくれた。


 レイラは、時間を掛けてゆっくりと、色んな楽しさを知ってもらおうと思ったのだ。

 そこから、いろんな人に出会って、恋もしてもらおうと思ったのだ。

 


 レイラが帰ろうとすると、男が包みを一つ持って来た。

「これは、私達の住んでいた秋多で、最近有名になった銘菓なんです。良かったどうぞ」


 包みを見て、直ぐに気がついた。

「これは・・・、秋田豆乳首あんパンセット?」

「ご存じですか」

 4人共嬉しそうに頷いている。

「最近、全国的に有名になりましたからね~」


 レイラは、お礼を言いありがたく受け取ると、男の家を出た。


 レイラは思う。

(それにしても、何にもしてない様な気がするのよね~)

 良く考えると今回の事件の解決に何もしてない様な、そんな気がしていた。

 

(取り敢えず、大丈夫だとは思うけど、時々見に来ることはした方がいいわね)

 

 レイラの様な能力の高い人であれば予報後にも行動を変える可能性があるので予報することは不可能であるが、この男の能力であれば、レイラが今、今後を予報をすることも可能である。


 それでも念の為と、女性の心のケアの為に、今後は自分が時々見に来ようと思った。

 そう決めた。


 レイラは、手に持った包みを見て、

「しかし、それにしても秋田豆乳首あんパンセットか~、縁があるわね」

 急に縁が出来たこの銘菓にイチゴショート以来の愛着を覚えるのであった。

  

◆弟子にして下さい◆

 翌日は、レイラにとって、久しぶりに落ちついた一日になった。


 もえちゃん達七面鳥のみんなも、インフルエンザと学年閉鎖による3連休が終わり今日からは学校が再開している。

 全てがいつも通りである。


 今日も、八百屋さん(直志商店)前には、もえちゃんが先に来てレイラの予報の準備を行っている。


「もえちゃん、有難う」

 レイラは来るなり、もえちゃんの肩に手を乗せるが、不機嫌さが伝わってくる。


「あ~あ、レイラちゃん」

 やっぱり不機嫌である。元々頬っぺが膨らんでいるので目立たないのだが、間違いなく頬っぺが膨らんでいる。


「もえちゃん、どうしたの?」

 レイラが聞くと、もえちゃんは目で合図をする。

 その方向を辿って行くと、理由が分った。


 通りの反対側には、もえちゃんの天敵の帯人が立っているのである。

 レイラが見ると、こちらに向って頭を下げて来た。

 隣には諸湖羅がおり、やはりレイラに向って頭を下げている。

 

 レイラが、もえちゃんから見えな様に二人に向って手を振ると、二人はレイラの元にやって来た。


「きの・・・」

 「昨日」と帯人が言いかけた時に、レイラの黒いエナメルのパンプスが帯人の脛に、軽く一発を浴びせた。

「イタっ」

 痛がる帯人をもえちゃんが不思議そうに見ている。


「すいません。足を挫いてしまいました」

 と、笑いながら、言い直した。

「色々と有難うございました」


「レイラちゃん何かしてあげたの?」

 もえちゃんが不満そうに尋ねて来た。


「う、うん。ほら、昨日の夜。あれから、諸湖羅さんに予報しに行ったでしょ」

「なんで、この青年がお礼を言うの?」

 

 そこで、諸湖羅が照れながら答えた。

「二人で、分かち合って見つけることにしたからなの・・・」


「そうなのね・・・」

 レイラが微笑む。


 もえちゃんは意味が分らないと言う顔付きで、悩んでいる。



「あの~お願いがあるんですが。これは二人で決めたことなんです」

 諸湖羅が切り出した。


「な~に?」

 レイラが微笑ましい二人の光景に満足げに応える。


「僕達をレイラさんの弟子にしてして頂けませんか」

 帯人の言葉に


「お願いします。決してご迷惑はお掛けしません」

 諸湖羅が続き、二人で直角に頭を下げる。

 

「はっ?」

 全然微笑ましくなんかなかった。

 レイラはいきなりの言葉に驚いてしまう。


「弟子って何の弟子なの?予報は無理よ」

 レイラの言葉に帯人は、

「何のってことはないです。ただ、僕達はレイラさんに惚れました」


 そんなことを言うので、もえちゃんが、また唸り出した。

 それを、レイラが小脇に抱えて抑えながら


「人を信じるなと言ったのに・・・」

「でも、その言葉も信じちゃいけないんですよね」

 帯人が笑顔でそう言う。


 続けて、大丈夫です。

「選択は自分たちで行います」


 レイラは、苦笑いをして負けたとばかりに、困った顔をしていると、もえちゃんが凄い剣幕で吠えだした。

 今日は人間の言葉である。


「だめ~。絶対だめ。絶対だめなんだから」


 口を思いっきり膨らます。帯人達には、いつもとの違いが良く分らないが・・・。


 そこに諸湖羅が慰める。

「もえ先輩。宜しくお願いします」


 もえちゃんも何となく良い気持ちになって、許しそうになった。が、

「もえお姉さん。宜しく」

 と言った帯人の言葉に再び暴れ出した。


「もえは、そんな簡単に騙されないんだから」


 こうなったら、誰も止められない。

 レイラが、暴れるもえちゃんを抑えて、首を横に振ると、二人は肩を落として帰って行った。


 - そして4月の中頃 -


 桜も散ってすっかり暖かくなった頃に、久しぶりに二人がやって来た。

 

 帯人は眼鏡を外し、コンタクトレンズになっている。

 結構奇麗な目をしている。


 すっかり変わってしまった雰囲気に、勘の良いもえちゃんでさえも、最初は誰であるのか気がつかない程である。


 二人は、大学で予報研究会を作ったそうである。まだ、会員は彼ら二人だけであるとのことである。

 そして、そこでの主な活動はレイラのファンクラブの創設と運営とのことであった。

 

「すみません。もう作ってしまったので、取り消せません。決して邪魔はしません。だから認めて下さい。お願いします」


 レイラが困った顔をしていると、

「今日は、報告だけですから」

 と言って、清々しい顔つきでとっとと帰って行った。


 レイラも、もえちゃんも口を開けたまま、唖然として見送るのであった。


 <つづく>

第12話は今回で終了です。次回13話は「ピンクのリップ」です。

次話も宜しくお願い致します。

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