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第12話 もえちゃんライバル出現(秋多豆乳首あんぱんセット)

帯人が住むことになったアパートは、、偶然にも諸湖羅と同じアパートでお隣さんになってしまった。

喜ぶ帯人であるが、肝心な諸湖羅と連絡が取れない。

一方。レイラは諸湖羅の足取りを探していた。

もえちゃん達は、ノシさんからのお土産で盛り上がっていた。

◆約束の重さ◆

 帯人たいとは、諸湖羅しょこらの部屋の前に立ち、人生最大の幸せを感じていた。

 初めてバラ色がどんな色であるのかが解った気がした。


 それと同時に、彼にとってレイラは、世界で一番尊敬する人物に昇り詰め、いつの間にか彼の脳裏では、”はは先生”と言う呼び名に昇格していた。



「どうぞ~。中、見ていいよ」

 不動産屋さんのおじさんが、帯人が住むことになる、部屋の扉から顔を覗かせた。


 一応、部屋の中を見れるように、今住んでいる人に確認を取ってくれていたのである。


 その声で、帯人は我に返った。

「あっ、はい」


 ほんの短い間ではあったが、帯人の中に潜む二つの人格が壮絶な戦いを繰り広げていた。

 チャイムを押そうとする煩悩超人の右手を、スパー理性サイヤ人の左手がフルパワーで、必死にその衝動を止めていたのである。


 不動産屋さんのおじさんの声で、辛うじて軽んじた行動を取らない様にサイヤ人が持ち応えることができた。

 帯人は胸を撫で下ろす。


 下手な真似をして、不動産屋さんに危ない人物と思われると、元も子もない。


 諸湖羅とは既に昨日約束をしているのである。後でゆっくり、隣同志になれた偶然を味わえば良い。

 帯人はそう自分に言い聞かせた。



 その後、帯人は、部屋を確認した後で不動産屋さんに戻り、恙無く契約を済ませた。


 帯人は、契約書を何度も見つめた。けして契約事項の詳細を確認している訳では無い。

 記念すべき時を噛み締めているだけである。


 何度見ても顔がニヤケてしまう。不動産屋さんのおじさんも嬉しそうに笑ってくれている。

 今日は、朝からいい日になりそうな気がした。


 帯人は、不動産屋さんを出ると、その勢いで公衆電話から諸湖羅に電話を掛けた。


 神経の焦点が合わず、何度もボタンを押し間違いながらも、5度目の正直で呼び出し音を聞くことが出来た。


 平静を、平静をと、言い聞かせるのだが自動運転の心臓は制御が効かない。

 何処からともなく注がれてくる燃料を燃やして、ドキドキと、期待で激しく鼓動を打ち続ける。


 しかし、そんな期待は、簡単に裏切られてしまった。

 15回のコールまで数えたが、誰も電話に出ては来ない。


 変な奴が出るよりはいいのだが、昨日あんなに盛り上がって約束した後である。

 電話の掛かりそうな時間に、いないとは、余り考えたくない。


 帯人は、自分に都合の良い理由で不安を打ち消そうと、電話に出られない理由を頭にずらりと並べてみた。


 そうだ、番号を間違えたかもしれないし、トイレに行っているとも考えられる。

 トイレだったら、直ぐに掛け直しては拙い。


 電話は、一度掛けると二度目は結構掛け安い。

 しかし、トイレを急かしては、印象が悪くなる。帯人は、流行る気持ちを抑え5分待った。


 そして、再び電話を掛ける。


 ドキドキしながら、コール音を数える。

(1回、2回、3回・・・、・・・14回)

 そして、15回のコールを待った。


 また、


 ・・・出ない。


(もしかして、盛り上がっていたのは自分だけだったのだろうか・・・)

 帯人は、流石に心に深手を負ってしまう。


 それでも、何とか立ち上がるいい訳を必至で考える。


(いや、用事が出来たのかもしれない)

 勝手にネガティブに考えてはいけない。

 直ぐに思い直し、30分後に電話を掛け直すことに決めた。


 とても長かった。何回腕時計を見ただろうか。

 今までの人生で一番長い30分だったかもしれない。


 そして、28分が経った。約30分と等しい。電話を掛けてみた。


 しかし、結果は同じであった。


 その後、諸湖羅のアパートにも行ってみた。しかし、誰も出てくる気配がない。

 物音もしない。


 もしかしたら、用が出来たと実家に連絡があったかもと思い、実家にも電話を掛けてみた。

 留守番電話も確認してもらった。

 しかし、電話にでた母親からの応えは、その期待を裏切るもであった。


 何度も実家に電話をする内に、数日でホームシックになってしまったと勘違いまでされ、心配されてしまった。

 いくら家でも流石に掛けにくくなった。

 

 もしかしたら、約束の行き違いがあったかもしれない。そう思い、大学にも行ってみた。

 さんざん歩き回ったが、彼女の影すらも見つからなかった。


 そんな繰り返しをしているうちに、すっかり陽が暮れてしまう。


 もう、自分に対するいい訳も残っていない。


(もしかしたら、本当は嫌がられているのだろうか・・・)

 それで、朝からずっと留守にしているのだろうか?


 いや、これから毎日留守にするわけにはいかない。

 そんなことまでする理由は無い筈である。


 帯人は、次第に彼女の身が心配になっていき、居た堪れない気持に襲われて来た。

 

 いつしか、嫌われてもいいから、無事を祈る思いに変わっていた。


 帯人は、諸湖羅の無事を願っていた・・・。


◆秋多銘菓 「秋多豆乳首あんパンセット」◆

 同じ日の朝、もえちゃんは、直志商店(八百屋さん)の前を自転車で通り掛かった。

 店の前では、ノシさんが気持ちよさそうに空を眺めていた。


「ノシさん、これから七面鳥レンジャーのみんなを集めてくるから~、約束の秋多豆乳首あんパンセット用意しててね~」


 もえちゃんの元気の良い声にノシさんは、目を細めて、

「わかったよ。待ってるよ~」


 ノシさんは手を横に振りかけたが、何かを思いついた様に、手招きに変わった。

 もえちゃんは、ノシさんの方にハンドルを切った。


「ねえ、もえちゃん、竹谷牛乳店の近くは通るかい」


「うん、澄子ちゃんの家の近くだから通るよ」

 するとノシさんは、ポケットから小銭を取り出し、もえちゃんに渡した。


「牛乳の大瓶を2本買って来てもらえないかいかな~」

「うん、いいよ。あそこの牛乳濃くて美味しいもんね」


「そうだね、美味しいね~。私も大好きだよ。頼んだよ」

「うん」


 もえちゃんは、大きく頷くと懸命に自転車を漕いで線路の方に消えて行った。


 ノシさんは、もえちゃんの後姿を眺めて呟く。

「自転車、小さくなったな。新しいのを買わないと・・・」


 今乗っている自転車は、ノシさんがスナックを経営しているもえちゃんの母親の梢さんに、娘さんの誕生日プレゼントと言うことで、2年前に買ってあげたものである。


 ノシさんには、もえちゃんの成長がとても嬉しいのである。


 勢いよくノシさんの元を離れたもえちゃんは、まず副隊長の真希未ちゃんの家に行った。

 本当は、健太くんの家の方が近いのだが、これがもえちゃんなりの秩序である。


「真希未ちゃん。あのね~ノシさんが秋多に行って来たの。お土産で、秋田豆乳首あんぱんセットを買って来てくれたの」


 真希未ちゃんは、もえちゃんの言葉足らずの説明でも直ぐに理解をしてくれる。


「うん、分った。じゃあ、分れてみんなを呼びに行こ!」

 真希未ちゃんには、もえちゃんが、みんなでお土産を貰いに行こうと言っていることが直ぐに分った。


 もえちゃんと、真希未ちゃんは二手に分かれた。

 真希未ちゃんは、陽太くん、靖子ちゃん、雄大くんを集めることになった。

 もえちゃんは、健太くん、澄子ちゃんを呼び、牛乳を買って、ノシさんのところに向うことになった。

 

 もえちゃんが、健太くんと澄子ちゃんの家に寄り、竹谷牛乳店に向かう時だった。

 汗を流して、懸命に自転車を漕ぐ足が急に止まった。


「あれは・・・」

 

 もえちゃんの目に映ったのは、昨日レイラのところに予報に来た女子大生である。

 家の前の配達用の牛乳入れから、牛乳を2本取り出し、家の中に戻って行くところを見かけたのである。


(あれ、田舎から出て来たのに一軒家に住んでるのかな?)

 もえちゃんは、ちょっと不思議に思って見つめていると、入れ違いで玄関から出て来たおじさんが、もえちゃんの方に目を向けて来た。


「どうしたの、もえちゃん」

 もえちゃんの様子に不思議に思った健太くんが話しかけてきた。

「変なおじさんが、こっち見てるよ。行こうよ」


「う、うん」

 もえちゃんは、そのおじさんがちょっと気になる。

 優しそうな顔立ちであはあるが、口元の動きに怖さを感じる。


 3人は、逃げるようにその場を離れた。



 もえちゃん達が、牛乳を買いノシさんのところに戻った時には、真希未ちゃん達4人は既に到着していた。


「あれ~、もう来てたの」

 もえちゃんは、真希未ちゃん達に遅れたのが不満そうに口が少し膨らんでいる。


「うん、もえちゃんに遅れないように急いで来たから。でも。今来たばっかりだよ」

 真希未ちゃんは、大人である。

 他の3人も慌てて後ろで頷いている。


 特に急いで来たわけではない。単に自転車のスピードの違いである。

 真希未ちゃん達は、もえちゃんの来るタイミングを考えて来たのであるが、少し早く来すぎたのだ。


 健太くんを抜かすと、真希未ちゃん達4人に比べ、もえちゃんと澄子ちゃんは、ちょっと遅いのである。

 自転車に自信のある、もえちゃんを傷付けない様にと、真希未ちゃんは思いやっているのである。


 そこに、店の奥からお土産と、紙コップを持ったノシさんが戻って来た。


「お待ちどう様」

 みんなの目が輝く。何せ、ノシさんの持って来たお土産の数から行くと一人一包みは間違いないのだ。

 自分宛てにお土産をを貰ったことのない小学生達は、大喜びである。


 ノシさんが、既に昨日渡したもえちゃんを除き、お土産を一人に1個ずつ配ると、一つだけ大きな包みが残った。


「ノシさん、それは誰の?」

 雄大くんが物欲しそうに尋ねると、

「これかい、これはね、今ここで、みんなで食べる分だよ」


「うわ~~~~」

 店内は、大騒ぎになった。


「もえちゃん、買って来てくれた牛乳をみんなの分、紙コップに注いでくれるかい」

「うん」

 もえちゃんの目もまん丸になっている。


 みんなで、食べる”秋多豆乳首あんパンセット”は最高に美味しかった。

 

「おいしいね」

「うん。美味しい」

「牛乳とあんぱんって合うね」

「ほんと」


 楽しい会話が飛び交う。

 ノシさんは、それを聞くだけでとても嬉しかった。


 実は、ノシさんは七面鳥のみんなと食べたかったのだ。

 一番喜んでいるのは、ノシさんなのかもしれない。



 楽しい会食の後である。

 ノシさんが、申し訳なさそうに口を開いた。

「ちょっと、お願いがあるんだけど、いいかなぁ」

「ノシさん、な~に?」

 もえちゃんが応える。みんながノシさんに注目をした。


「ちょっとの間、みんなで店番してもらえないかな~。何、3~40分で戻ってくるよ」

「なんだ、そんなこと? うん、いいよ。お安いごようだよ」

 陽太くんは、調子がいい。


「陽太くんは頼もしいね~。みんなもいいかな~?」

「うん、大丈夫だと思うけど、お客さんが来たら、どうしよう」

 真希未ちゃんは、ちょっと心配そうだ。


「午前中だから、来ても2人位かな~。ピーマンが一山250円で、トマトが300円って、ほら値札が付いてるでしょ。おつりはそこにあるから、もらったお金もそこに入れといてくれればいいよ」


「かんたんじゃん」

 陽太君は調子がいい。


「ノシさん。袋は?」

 健太くんの確認にノシさんが応える。

「ああ~そうだった、袋はそこにぶら下がっているのを使うといいよ」


「大丈夫そうだよ、もえちゃん。こんなに貰ったし、手伝おうよ」

 健太くんの言葉に、


「うん」

 もえちゃんも、元気良く応えて、続ける。

「みんなでいれば大丈夫だよ。ノシさん行って来ていいよ」

 

「有難う、みんな凄いな~」

 みんなは、照れながらも、ちょっとドキドキ感を楽しんでいる様である。

 初めてのお使いでは無く、初めての店員である。


 ノシさんは、財布の中からおつりの為の百円玉を2枚だけ足してから出掛けた。


◆気持の支点◆

 レイラは、用事を終えたノシさんが店に帰る途中に出会った。


「あれ、ノシさん。お店は?」

「お店は、小鳥達にちょっとお願いしててね、これから戻るところだよ」


「大丈夫ですか~」

「みんな、しっかりしたものだよ」


 レイラはみんなの顔を頭に浮かべてみる。

「あ~、そうですね」

 みんなの成長は、レイラにも良く分る。


「ノシさんは、どちらへ行ってのですか」

「ちょっと、知り合いの様子を見にね」


「何かあったんですか」

「悪い奴に、騙されててね。偶に見に行ってるんだよ。今日は、誰だかが来るって言うんで、一緒に居ようと思ってね」


「そうなんですか」


「人が良いから、直ぐに信じちゃって、騙されたって思わないんだよ。ほら、この間レイラちゃんが言っていた”あれ”さ。騙されてても幸せと感じちゃってるから、無理に説得しても駄目なんだよ」


「あ~、”不幸”と言う文字を”しあわせ”と読んでいると言うのですね」

「そう、もえちゃんから教えてもらったやつね」


 レイラは、もえちゃんから教えてもらったと思うと、恥ずかしくて照れ笑いをしてしまう。


「暗示を掛けられているからね~・・・。どんな考え方をしても想像の世界が相手じゃ、不安は付き纏うことを知ってもらわないとね。それと、違う考え方をしても、もっと多くの幸や、充実や、感動があることを知ってもらわないと。それしかないのかもね~」


 ノシさんは、難しそうな顔をして続ける。


「時間をかけてね。強引では、心からは変わらないよ」

  

 レイラも、その考えには同感であった。


 不幸を幸せと錯覚するのは自由であるが、その人の不幸はその人だけのものではない、必ず周りにも影響をする。

 事によっては、気づかぬうちに周り方が不幸に追い詰めている事さえある。

 やはり、時間を掛けてでも心を修正しなければならない。


 レイラは、ノシさんに何気なく教わった気がした。


「レイラちゃんは、何処へ? 店に来ないかい。小鳥達も揃ってるし」

「有難うございます。でも、ちょっと探さなければならないあものがあって」


「レイラちゃんも面倒見がいいからね」

 そう言って、片手を上げ、ノシさんは店に戻っていった。


 レイラは、昨日の女の子の足取りを探している最中であった。


八百屋一体やおやいっかいたいけん

「ありがとうございます。元気の良い可愛い声が響く」

「ピーマン売れたね」

「ホント、さっきノシさんに教えてもらって良かったよね」

 会計係の真希未ちゃんに、応対係の靖子ちゃんが応える。


 その後に、トマトも売れ、袋入れ係の健太くんも調子に乗って来たところである。

 

 みんなは、売ったことに興奮しているが、子供店長のもえちゃんは、一人考え込んでいる。

 本当にピーマンとトマトが売れ、ノシさんが、足してくれた百円玉2枚が有効であったのだ。

(偶然かな~?)


 そこにノシさんが戻って来た。

「みんな、お待たせ。大丈夫だったかい」

「簡単さ。もっとゆっくりして来て良かったのに」

 陽太くんが応える。

 その声にノシさんが微笑む。


「頼もしいね。また、今度お願いしようかな」

「うん。いつでも言って」


 ノシさんには、子供達の興奮が、自分の気持の様に伝わってくる様であった。

 

「もえちゃん。御苦労さま」

 ノシさんは、余り浮かれていない、もえちゃんに声を掛けて見た。

 もえちゃんも、その言葉に嬉しくなってしまう。


「ところで、もえちゃん。今日のレイラちゃんのお手伝いは、誰かな~?」

「健太くんと、雄大くん」


「もえちゃんは?」

「来るよ。もちろん」


「もえちゃん、昨日の女の子覚えているよね」

「うん」

 

「余り予報して貰えなくて可哀相だったね。今日も来るかな~」

「そう言えば・・・、さっきその人、見たよ」


「そうかい。じゃあ、レイラちゃんに教えてあげるといいね。多分レイラちゃんのことだから、きっと気にしているよ」

「そうなの?」


「そうだよ。きっと」

「う~ん」

 確かにもえちゃんもちょっと気になってはいた。レイラも、何か言い足りない様ではあったのは分っていた。


 もえちゃんは、感の良いノシさんの言うことだから、一応レイラに教えてあげよう。

 そう思うのであった。



 時間は経過して、午後6時45分。

 レイラの予報の当選者を決めるくじ引きの時間になった。


 その日は、暖かくなったこともあり、レイラの予報目当てに凄い人数のお客さんが訪れた。

 予報の当選者を決めるくじ引きも大変な騒ぎである。


 余りの多さに面食らった健太くんと、雄大くんの手際の悪さにご立腹のもえちゃんは、すっかり、ノシさんとの約束を忘れてしまっていた。

 

 <つづく>



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