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第11話 ひとごっち(瞳1)

屋敷の中で行われる奇妙な集会。レイラは、冷静さを保つ為自分の気持ちと戦う。

もえちゃんもレイラのバックアップをする。

◆萌ぽぽの会◆ 

 北下沢には、閑静な住宅街がある。

 東西に延びる小高い丘の中腹である。


 その小高い丘を住宅街からもう少しだけ登ると、丘の両側の南北にとても素晴らしい景色を望めるところがある。


 北側は草木に包まれた長閑のどかな風景を見下ろせ、遠くには青く連なる山脈を見渡すことが出来る。

 日昼の景色が素晴らしいところである。


 一転して、南側は見渡す限り都会が広がり、夜になるとロマンチックなライトに包まれる。


 1年前、この両方の景色を望む頂上付近の尾根に、大きな屋敷が建てられた。


 この屋敷の住人は、数年前にちょっとしたきっかけで、思いもよらず成功を収めたという。

 そして、気持ちが追いつく間もなく大金持ちなってしまった。


 住人は今まで叶えられなかった、欲望と願望を手に入れることが出来る金銭に、人間的道徳と社会的な常識を見失っていった。

 周囲の変わりように、勘違いをしてしまったのである。


 住人は、有り余るお金で、屋敷の一階の一番奥にリビングとは別に豪華な部屋を作ってみた。

 

 内装とインテリアはオークとダークグレーを基調とした。

 さらに北側の景色を一望することができる大きなベランダも設けた。

 一般住宅には考えられない一際大きな広間である。


 その広間は、今まで殆ど使われることはなかった。


 だが、今、この目的もなしに設けた大広間が使用されている。


 ある集会が開かれているのだ。


 おぞましく、醜く、エゴの塊の集会。


 「萌ぽぽの会」


 名前だけは可愛いらしいが、その実は、さらった幼い子供をペットの様に育て、そして定期的に成長を見せ合うと言う卑劣な集会である。


 その1回目の集会が開かれている。

 

 ベランダに向ってコの字に二つあるコーナーソファーには、不釣合いな高級ブランドに身を包んだ参加者5組8名が、ワイングラスを片手に濁った瞳を輝かせている。

 リアルとバーチャルの区別を金銭で纏めてしまった男達。中には、小太りな中年の女性もいる。


 それと対峙する様に3人掛けのソファーには、泣き疲れて気力の薄れた少女が3人座らされている。

 衣服だけが、少女達の意志に反して着飾られているのが尚更痛々しい。


 3人の少女達の右側には、5歳位の可愛い女の子を膝の上に乗せ上機嫌な中年男性と、同じように少女を膝の上に乗せ、その長い髪をいじっている30過ぎのオタクのような青年の二人が、一人掛けのソファーの上で、普段は隠している自我を露出している。


 そして、左側には、司会をしているあの男がいる。

 金融業者とグルになり誘拐を斡旋したあの男。

 茂人に誘拐を持ちかけた男。

 もえちゃん率いる七面鳥レンジャーが誘拐を目撃したあの男がである。


 このおぞましい会は、進行して行った。

 この3人の主催者の進行の元に・・・。


 主催の中年男性と青年は、既に自分達が育て始めた膝の上の女の子を、お気に入りのぬいぐるみを手にした子供の様に、参加者に披露する。

 自慢げな口調が、何故か参加者の心を誘導していく。


 中年男性と青年は、披露を終えた後に大広間の入り口に立つ黒服の男に、別室に連れて行かせた。

 中年男性は、気色が悪い顔つきで、ちょっとの別れを惜しむ。


 この醜い会は進む。


 本題が、3人掛けソファーに座る少女達に移ると、品定めをする参加者の熱い視線が少女達に注がれ、本日の一番の目的に移る。


 その時だった・・・。


 ◆1回きりの会◆

 入り口から、小柄であるが貫禄のある一人の男が突然入って来た。

 そして、主催の中年男性に耳内をする。


 中年男性は、一瞬顔付を強張らす様に顰めたが、指示を終えると一転して今まで以上に表情がニコヤカになる。

 敢えて作った笑顔には無理がある。


 男は、急いで大広間を出た。黒服の男二人も既に戻っており、緊張した面持ちになる。


 その直後、 

「バン」

「バン」

 と、乾いた音が、二回高らかに響いた。

 参加者がざわめく。


「心配要りません。警察ではありませんから。今の音で、問題は解決されました。安心してもらって結構です」

 中年男性が自身満々に参加者に告げ、会は続行されるかと思われた。

 男は、そう思った。


 だが、男の期待は裏切られた。


 会を遮る様に入り口の扉が音をたてずに開いた。

 

 そこには、全身黒尽くめの女性が姿勢良く立っている。

 左手には、黒のエナメルのパンプスをぶら下げている。


 深く被った広つば帽子で、表情は口元しか見えない。

 女性は、一見何の感情も無いかの様に見える。


 だが、何故か怖い。

 威圧されてしまう。

 見るだけで恐怖を感じてしまう。


 女性にはそんなオーラがある。


 突然に扉がい開いたのを見て、黒服の男がその女性を押さえようと左右から掴みかかる。

 女性は取り押さえられるかの様に見えた。


 しかし、その瞬間黒服の男は力が抜けた様に壁に持たれ掛かる。

 そして、ずるずると沈んで行く。


 主催者の中年男が叫ぶ。

「誰だ!」


 その声に女性は何も応えない。

 耳に届いていないかのように、何も応えない。


 中年男性に怯えの表情が浮かぶ。


「誰か!早く来い」

 中年男性が叫ぶ。


 だが、誰も来ない。

 彼のボディーガードも、部下も誰もやって来ない。


 コーナーソファーに腰を掛けている参加者達は、驚きと恐れで動けなくなっている。

 

 女性は、そんな周りの様子を全く気に掛けずに、ただ、大広間の奥へと進んいく。

 そして、参加者達には全く見向きもせずに、その直ぐ横をぐるりと回るように通り過ぎる。

 通り過ぎざまに、ゆっくりと参加者の方に手をさし出す。


 すると、それだけで、参加者達はあっと言う間に意識を失った。


 全く触れずに、いや、青緑色の稲妻の様な光が僅かに触れただけで、参加者達は意識を失ってしまう。

 穏やかに眠るように。

 

 さらに女性は、シングルソファーに座る主催者を通り過ぎ、その先の誘拐された少女達に近寄った。

 少女達の前で中腰になり、目を細める。

 少女達の痛みを感じているかの様に。


 少女達は起こっていることに、ただ黙ったまま身動きせずに円らな瞳を大きく開けて、女性を見つめている。


 女性は、

「ごめんね」

 と言葉を掛けると、指先を額に近づける。

 すると、3人の少女達は、たちまち気持ち良さそうに眠りに入ってしまった。


  

 大勢の人がいたこの広い屋敷が孤独な建物に一転する。

 今いるのは、主催者3人と黒い衣服を纏っている女性の4人と言って等しい。


 しかし、この4人の時間も呆気なく終えてしまう。


 静けさになのか、女性の威圧になのか、絶えかねたあの誘拐の主犯の男が、最後の抵抗を試みた。

 怯えた腰つきでレイラに向って来る。

 だが、簡単に崩れ落ちる。

 指先にさえ触れることができないで、静かにくずれ落ちる。

 

 女性は、部屋の隅で怯える主催者の中年男性と青年に近寄った。

 二人の男性も、女性の差し出した手に無抵抗のまま意識を失い静かに崩れ落ちた。


 女性は、崩れ落ちた二人の男性を見つめる。

 汚いものを見るような瞳で・・・。


 しーんと、静まり返る大広間に溜息が一つ漏れる・・・。

 柱時計の音が広間に虚しく響く。


 しかし、慌てて顔を上げると、精一杯気持ちを取り戻しながら玄関に向かった走った。

 もえちゃんに、頼みごとをする為に・・・。


 ◆涙に理由◆


 もえちゃんは数え続ける。

(もう少しだ、もう少しで100になる)

 震えながら呟くように数え続ける。

「きゅうじゅうはーち、きゅうじゅうきゅーう」


 唾をゴクリと飲み込む。

「ひゃく!」

 もえちゃんは、ぎっちり瞑っていた目を開けた。

 そして、直ぐに屋敷の門に向かって走り出す。


 瞳から、涙が零れそうになる

 でも、絶対に零さない。涙を零すようなことは絶対に起こっていないのだから。


 目を瞑っていたせいで、お日様が眩しい。ちょっと眼が眩む。

 それに、涙で前が霞んで良く見えない。


 躓いた。

「あ~っ!」

 もえちゃんは、派手に転んでしまった。


 その時、もえちゃんは転びながら思い出した。

(レイラちゃんに、歩いて門のところにいく様にいわれていたんだった)


 掌がヒリヒリする。膝が痛い。

「痛~っ」

 両手の掌を開いて見る。すり剥けている。

 ズボンの膝は、少し破けてしまった。

 顔を顰める。


 でも、そんなことに構っている暇はない。

 早く門のところに行かないと。


 レイラとの約束が待っている。


 もえちゃんは立ち上がると、勇ましい顔つきで、今度は痛む膝で目一杯の早歩きで門に向かった。

 

 門の所まで行くと、もえちゃんは迷はず通用口を開けようとした。

 でも、少し動くのだが、開かない。


 レイラが倒した男が扉の向こうで、持たれかかって倒れているのだ。

 だが、もえちゃんからは見えはしない。

 もえちゃんは、擦りむけた掌で一生懸命に扉を押すのだが全然開かない。

「開かないよ。全然開かないよ!」


 その時だった。

 声がした。

 レイラの声だ。


 さっきと同じで、大きく発せられた声ではない。

 直ぐ傍から小さな声で話し掛けられているような響きである。


「もっえちゃん。下のお店の前の公衆電話から警察に電話して~。走っちゃ駄目だよ~。歩いてね~」

(レイラちゃんだ) 

 しかも、いつものレイラの声だ。

(レイラちゃんの声だ)

 ちょっと頼りないが、明るく聞こえる。


「うん、分った」もえちゃんも、明るく応える。静かな声で。

 でも、心の中では叫んでいる。

 大きな声で叫んでいる。

(うん。分った。行って来る。急いで歩いて行って来る)


 レイラちゃんは無事だった。

 やっぱり無事だった。

 もえちゃんの瞳からは安心と言う理由の涙が、沢山零れ落ちた。


 <ひとごっち(瞳2)につづく>


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