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第11話 ひとごっち(誘拐予防)

ある日、若い夫婦が閉店後に予報の以依頼に来た。

依頼は、行方不明になった若い夫婦の、幼い女の子の行方についてだった。

レイラの予報には、この先、若い夫婦と女の子の接点が見えなかった。

そしてレイラは・・・。

 ◆ひとの親◆

 真剣な者同士だから通じ合えることがある。

 例え結果が現れなくても、力量の大きさが、気持の在り方が、信頼性が手に取る様に伝わって来る。

 そんな、霊感的なものが働く時がある。


 まず、二人の過去を覗き込む。

 5歳の女の子だ。

 とっても愛くるしい。思わず頭の中の姿を抱きしめてしまいそうになる位である。

 二人がどんなに愛して育てて来たのかが手に取るようにわかる。

 

 レイらは、二人の未来の色んな場面を覗き込んで見る。

 しかし、二人の未来のどこにも、子供の姿は見えない。


 そして、二人と女の子の過去から色々な行動を描き、付け足す。そして、その先を予測してみる。

 数限りない、考えられる全ての行動を瞬時入れ替え、付け足してみる。

 しかし、どのパターンでも二人の未来の何所にも、子供の姿はレイラの記憶に刻み込まれなかった。


 ―― 二人は一生女の子と再開できない・・・――


 結論に達する。


 どうしよう。


 見えない。


 なんて応えたらいいんだろう。


 良い言葉が見つからないまま、レイラは目を開けた。


 何も応えられないレイらに、男性が声を掛けた。

 どうでしょうか。

 見つかるでしょうか。


 ”もう二度と会えない”なんてそんなこと、応えられる分けがない。

 レイらは、咄嗟に嘘でも本当でもどちらとも取れる言葉を言ってしまった。

「すいません。今のところは、見えません」


 それを聞いて、女性が泣き崩れる。

 その場に座り込んでしまう。


「ごめんなさい。でも、今のところですから。私の力不足かもしれませんし」

 

 それに、男性は一度だけ首を横に振った。

「ありがとうございます。無理を言ってすいませんでした」

 そう言って、力の無い両手を無理に動かして、財布から千円札を一枚抜き取り、レイラに差し出した。

 予報料金が千円であることを既に知っている。


「いえ、何にも役に立ってませんから」

 二人の過去を見た時にわかってはいたのだが、レイラの評判を聞いてわざわざやって来たのが、痛いくらいに実感してしまう。

「他に・・・、いえ、また来てください。今度は見えるかもしれません。お代はその時に頂きます」

「でも・・・」

 振り絞る男性の声にレイラは、

「少し時間を下さい」


 男性は、女性を抱き起し、

「また、日を改めて来よう」そう告げる。


 多分、二人には気付かれてしまったと思うが、藁をもすがる時には少なくても慰めの一言にはなったのかもしれないのである。

 つい言ってしまったことでも、その藁を引きちぎってしまうことなど、レイラには出来はしない。


(このまま終わらせる分にはいかない)

 そう思うと、レイラの心に重くのしかかってくるのである。


「ありがとうございます。その時に必ずお支払致します」

 きっと、駄目だと思っていても、きっとお金を払いに来るはずである。

 肩を寄せ合い、ゆっくりと去って行く二人を、レイらは立ち竦んだまま見つめていた。


 ◆誘拐予防◆

 翌日、レイラの気持ちは朝から重たかった。

 レイラの頭の中は、昨日のことで主要な部分を占められたままである。

 結局漠然としていて、手の付けようがない。

 それでも取り敢えず、黙っていられなくて、午前中から外に出て見た。


 嫌味な位の快晴である。風も殆ど無い。

 通勤、通学時間は過ぎているので、人通りは少なくなっている。

 

 大通りに出ると、本屋さんの店先で、学校はどうしたんだろうと思う女子高生が二人で雑誌の立ち読みをしている。

 レイラが覗いてみると、情報誌を見てキャッキャ騒いでいた。

 レイラが聞き耳を立てると、

「あ~やっぱ、”親宿のはは”が東の横綱で、”金座の母が”西の横綱ね~」

「有名だからね。良く当たるらしいし」

 等と楽しそうに話している。


 さらに、

「でも、マユ的にはさあ~、見て西の前頭5枚目の我が町の英雄”たかだのはは”が一押しよね」

「ちょっと、マユ。英雄って言っちゃう?」

「・・・・」


 ちょっと、と言うかレイラに取っては、大分気になる話である。

 あまり長く話を聞いていると不審者扱いされるので、その雑誌を買ってみようと雑誌を探してみた。

 すると、それは直ぐに見つかった。


 表紙にでかでかと、”全国占い師番付”と書かれている雑誌が平積みされていた。

 レイラ、それを一冊手に取ると、早速会計を済まして近くの公園に向かった。

 公園は、児童向けの公園で、小さな滑り台にブランコ、砂場、鉄棒があるのみの、オーソドックスなこじんまりとしたものある。


 レイラが行った時には誰もいなかった。

 いつもは、子供たちのお母さんたちが談笑しているベンチに座り、雑誌を開いてみた。


 開いて3ページ目から、特集が組まれている。

 ”全国占い師番付”と題が打たれている。

 女子高生達が話していた通り、東西の横綱には”親宿のはは”と、”金座のはは”が構えている。


 そして、気になるには、西の前頭5枚目の”たかだのはは”である。

 コメントには、住所が高田町になっており、ガラス玉占いとなっている。


「だれだろう?そんな有名な人この街にいるんだ」

 レイラは、全く聞いたこともなかったので、驚いた。

 内心、このところの自分の人気に凄いと思っていたのであるが、すぐ近くにこんな凄い人がいるなんてと、ちょっとがっがりしてしまった。


「世間は広いわね」

 しかし、レイラは

「いや、私は予報士だから畑違いよね」と、自分に言い訳をして慰める。

 でも、やっぱり気になってしまう。

 ちょっと探してみようかしら?と、立ち上がった。


 ちょうどその時である。可愛い5歳前後の女の子が一人でやって来て、砂場で一人で遊びだしたのがレイラの目に入った。

 余りの可愛さに足が止まってしまう。


 一人かしら?近所の子であったとしても、放っておくのはちょっと心配である。

 レイらは、女の子に近寄り、話かけて見た。

「ねえ、お譲ちゃん。こんにちは」

 女の子は、レイラの方を向いて、黙ったまま少し驚いた顔をしている。


「一人で来たの?」

 女の子は頷く。

「お名前は?」

 口をもごもごさせているが良く聞こえない。

「あれ~、お名前忘れちゃったかな~?」

 と聞くと、女の子はプライドが傷ついたのか、張り上げるような声で応えてくれた。

「あず」

「あずちゃんかあ~。おうちの人は?」

 黙っている。

「いつも一人でくるの」

 指を三本立てる。

「3回目なんだ~。そっか~でも、もう少し大きくなるまで一人で来ちゃだめよ。少し遊んだら送って行くから帰ろうね」

 女の子は頷く。


 レイラは少しの間言葉が見つからなくてじっと見ていたが、一生懸命に砂で何を作っているのかが気になり、聞いてみた。


「何を作ってんの?」

「おうち」

「おうちなんだ~、それは、難しそうね」

「・・・」会話は続く。


 女の子は、レイらを受け入れたのか、笑顔が生まれて来た。

 レイラも”おうち”作りに参加し、暫く一緒にお話をしながら大きな山を作りトンネルを掘った。


 レイラが手伝いトンネルが貫通し、”おうち”が完成すると女の子はキャッキャと騒ぎ出した。

 その姿が、またとても可愛らしい。

 きっと、もえちゃんもこの位のころは・・・と、最近強過ぎのもえちゃんに対してレイらは思ってしまう。


 レイラのトンネル堀りの技術に喜んだ女の子は、レイラの為に砂遊びを止めて、得意な歌を歌ってくれた。

 気を付けの姿勢でリズムを取りながら、大きな口を開ける。

 

 レイラは、可愛さにに引き込まれていく。

 そして、女の子の歌に集中して聞き入った瞬間・・・。

 思わず大きな口を開けて「はっ!」とする。

 見えてしまった。


 レイラは呟く。

「さらわれる。さらわれて・・・」


「どうしたの?」

 急に変わったレイラの表情に女の子は歌を止めて首を傾げている。


「う、うんん、何でもんないの」

 おどおどした声になってしまう。


 小さな女の子の視点からなので、はっきりしたことは分らない。

 でも、レイラには見えてしまった。


 直ぐそこに誘拐されてしまう瞬間を。

 さらわれて泣いている女の子を。


 さらに、その先にある奇妙な集まり。

 そこにいる何人かの幼い子供。


 そして、


 ・・・そこに。


 見つけた!


 昨日の若い夫婦の女の子。


 どうしよう・・・。



 その前に、今女の子を公園から連れ去る男は、ジーパンに茶のジャンバー。そして帽子をかぶった若い男だ。

 見つければ手掛りに・・・。

 探さなきゃ。

 思いもかけず見つかった手がかりに、レイラの気持ちは勢い、急いでしまう。


 でも、女の子をおとりにする訳にはいかない。

 例え100%守れても、怖い思いをさせる訳にはいかない。

 それが、彼女にどんな影響を与えるか・・・。

 外見しか見えない予報では測れない・・・。


 男はもう直ぐ、黒い車で公園の横を通るはずだ。

 女の子がいなくなれば、車を止めずに公園の横を素通りするはずだ。


 何を優先するべきか瞬時に決断をしなければならない。そう思っていたところに、公園の向こう側を久しぶりに見たデレデレして歩いていくる女の子がいる。

 一人で、何を空想しているのか大気に寄り掛かって見えるような変な姿勢で歩いて来る。


 もえちゃんだ。


 見~つけた~。

 レイラは、大きくてを振り大声でもえちゃんを呼ぶ。

「も~えちゃ~ん」

 さすがはもえちゃんである。変なカンを持っている。

 いいところにやって来る。


 呼ばれたもえちゃんは、夢から覚めた様にビックとして背筋を伸ばす。

 辺りをキョロキョロと見回し、レイラを見つけると一瞬喜んだ顔で、レイラに向って走りそうになる。が、敢えて表情を殺し精一杯ゆっくりと、早歩きで向って来る。


「もえちゃ~ん。早く~」

 もえちゃんは、”相が無いな~”と言う顔を作りながらも、喜んで飛んで来た。

「もえちゃん、お願いこの子を直ぐに送っていって。お願い」

 レイラは、公園と通りを隔てた向こう側の家を指す。

「あの家の丁度裏側だから」


 殆ど表情に出さないレイラの顔つきだけで、もえちゃんは直ぐに気付く。

 レイラの状況に。そして、意志に。 

「わかった。行こう」

 もえちゃんは、何も聞かずに女の子の手を引いて踵を返した。


「お名前は?」

 もえちゃんは可愛い笑顔で、優しく女の子に訪ねた。

「あず」

「あずちゃんかあ~」

 もえちゃん、もう仲良くなった凄いな~と思いながら、二人の女の子が公園の出口に向うのを確認する。

 もえちゃんは、後ろ手に短い指でVサインを返して来た。

 それを確認すると、レイラは公園の反対側の出口に向って走る。


 レイラが、公園から出ようとした瞬間だった。一台の黒い車が通り過ぎる。

 運転している男が、ちらっと公園を覗いた。

 あの男だ。レイラは確信した。


 レイラは追いかけるが、いくらレイラでも相手は自動車だ。

 勝てるはずがない。

「間に合わなかったわ~」

 女の子の未来の視界からは車の来る時間までは読み取れなかった・・・。 


 折角の手掛かりが逃げてしまった。


 ◆彼女は占い好き◆

 一人の女の子は守ることが出来た。しかし、一人の女の子を救う手掛かりを逸してしまった。

 レイラの心にはジレンマが残る。

 もう少し早く、気が付けば・・・。


 しかし、公園の女の子がさらわれた場合の未来に昨日の若い夫婦の女の子は、確かに元気に生きていた。

 まず、間違いなく女の子は今、元気に生きているはずである。   


 手掛かりを・・・。


 日中はずっと、黒い車を探したレイラであったが、簡単に見つかる分けがない。夕方になり、諦めて今日の予報の為に直志商店(八百屋さん)に向かった。


 レイラもプロである。どんな状況でも予告もなく休むわけにはいかない。

 レイラを待っている人がいる。

 様々な状況の下で、レイラを頼りにしている人達がいる。


 レイラが直志商店の前に到着すると、今日はもえちゃんだけではなく、真希未ちゃんも一緒にレイラの予報の準備をしてくれていた。

 ちょうど、くじ引きで今日のお客さん10人が決まったところだった。

「レイラちゃん、準備出来たよ」

「ありがとう。もえちゃん。真希未ちゃん」

 

 その時、昨日の夫婦の後姿がちらっと見えた。

 レイラは背延びをして声をかけようとしたが、二人の姿は大通りの方に消えてしまった。

「あ~いっちゃった」


 その仕草をもえちゃんがじっと見ている。

 レイラは、もえちゃんに聞いてみた。

「もえちゃん、若い夫婦が来てたでしょ?」

「うん、来てたよ。くじで外れて肩を落としてね、帰って行っちゃった」

「そう・・・」

 若いのに、こんな状況の中での律儀さがレイラの心に浸みる。


「レイラちゃん、何があったの?あずちゃんは、ちゃんと家まで送って行ったけど。誘拐の予報でもしたの?犯人捕まえた?」

「何で?」

 レイラは、もえちゃんの感の良さに驚いてしまう。


「だって、知らない小さな女の子を送って行けって顔色変えていたからさ」

 レイラは驚く。確かに急いではいた、しかし、極力普段通りの顔でお願いしたつもりなのに、顔色の違いまで見透かされていた。

 驚いて、嘘をつくタイミングを外してしまった。

「う、うううん」


 レイラが下を向いて顔を横に振ると、もえちゃんはあまり興味もなさそうに

「そう」

 と言った。真希未ちゃんは、早く帰らなければならないはずなのに、じっと二人の会話を聞いている。


「レイラちゃん、さっきの夫婦の人ね、凄くやつれてた。手にね子供の写真を手に持ってたよ。レイラちゃんと話したそうだったよ」

 真希未ちゃんももえちゃんの横で頷いている。


 手掛りの為にと、レイラに写真を持って来たに違いない。


「誘拐されたのかな~、写真の子」

「えっ?」

 レイラは驚いて、言葉に詰まる。一拍置いて、

「ど、どうなのかしらね~」

「あっ、そうなんだ」

 何がそうなのか分からないが、納得してもえちゃんと、真希未ちゃんは帰って行った。


 レイラは、気落ちしたままの自分を励ます。

「よし!予報屋のプロとして気持ちを入れ替えて今日も頑張るわ」


 そして、今日も

 高田町商店街のテーマソングに合わせて、踊る、回る、ひねる、そして見事に着地する。

 今日のレイラの舞も華麗である。結構。


 1、2人目が終わり、3人目の二十歳前後の女性のお客さんであった。

 ハニーブラウンに染めた髪を乱雑に後ろで束ねており、眉毛をこれでもかと言う位に細くかいている。服装は、決してお洒落とは言えない家着のようなゆったりとしたものである。


「どんな予報をお望みですか?」

 レイラが、彼女に聞いた。


「幸せになれるでしょうか。明日、いえ来週からの生活を予報して下さい」

 見た目のきつさとは違って、低姿勢で、しかも、必至に食いついて来る様な雰囲気がある。


「わかったわ、ちょっとお待ち下さい」

 レイラは、高田町商店街の音楽を掛けると、軽々とテーブルの上に飛乗った。

 そして、舞う。


 見事に着地したレイラが椅子に戻り予報を始めようとした時に、彼氏らしき男性がレイラを見て、怪訝そうな顔つきで女性の隣にやって来た。

 ジーパンに茶のジャンバー。そして帽子をかぶっている。

 良く見ると、昼に女の子をさらうはずであった男である。


 はっ!

 とするレイラであるが、一瞬の判断で、驚きを飲み込んだ。


 昼間の女の子をさらう事が出来なかったことによって、未来が変わった結果なのか・・・。

 

 予報士レイラは、必要が無い限り過去のことを当てて見せることはしない。

 それは、彼女には、お客さんを信じさせる事を必要としないからだ。

 でも、今回は信じさせることから始めた。

 それが必要だったからだ。


 レイラは、二人の関係を何も聞かずに。女性の依頼が、二人の未来であることが当然であるように話出した。


「高校の同級生なのね。卒業後田舎から出てきて二人で暮らして、間もなく2年かあ。菜摘さんのバイト料だけでの生活は苦しいわよね」

 予報を受けている女性(菜摘)は、目を丸くして固まった。

 言葉も出て来ない。


 噂には聞いていたが、いくら占い好きとは言え、疑っていた。

 そんな、見ず知らずの人間の過去や、未来を具体的に言い当てることなの出来るわけがないと。


 しかし、今、事実目の前で全く何も喋っていないのに同棲生活と、何と自分の名前まで言いあてられ

てしまっている。


 あまりにも具体的過ぎる!

 

 固まる菜摘に対して、男は不思議そうな顔で菜摘の顔を覗き込む。

「菜摘、どうしたんだよ」

「あ、当たった。あっ」

「まだ、何も占ってないじゃないかよ」

 男は、菜摘が予報の前にある程度の説明をしているのだと思っている。


「な、名前言ってない」

「はっ?」

 菜摘の言葉は、驚きで文章にならない。


 レイラが続けた。

「茂人さんは、田舎から出てきて働いたのは最初の半年。自動車整備工場で社長の勘違いにより喧嘩をしてしまい、それっきり。最後の給料も貰わず仕舞い。それから、人との接触が億劫になり・・・。まあ、過去のことは言ったところで、何もならないわね」


 これを聞いて、男(茂人)は、あまりにも痛いところを突かれてムッとする。

 ムッとはするが、しかし、こんな細かいことを、菜摘が短い時間で話しているとは思えない。

 隣を見ると菜摘は、さらに硬直している。顔色も少し青い。

 

 レイラは、続ける。

「盗んだ黒い車、もう乗らない方がいいわよ。捕まるから」

 これには、茂人が驚いた。菜摘には一切喋っていないことである。

「茂人、それホント?」

 菜摘は、そちらの驚きで、我に帰る。

「あ、ああ」

 茂人は菜摘に返す言葉がない。


「え~と、それから来週以降ね。でもその前に、もう止めた方がいいわね。またやると、来週以降の幸せなんて考えるところでは無いわね」

「何のことですか」

 菜摘がレイラに迫る。

 茂人は、うなだれる様に頭を下げる。


 完全に見られていると思った。予報士のこの女性に全てを見透かされていると。

 この時点で、茂人の中にレイラを疑う余地は全く残されていなかった。


「菜摘さんにこれ以上負担をかけたくないのは分るわね。でも、方法が・・・。何てことは言われるまでもないわね」

 菜摘には何のことか全く分からない。菜摘は、レイラと茂人を交互に見つめる。


 レイラは、じっと茂人を見つめる。

 茂人が頭を上げ、レイラの方を上目使いでチラッと見た。


 茂人は、現状では菜摘に内緒で手を染めている。あずちゃんの前に既に、一人の幼い子供を誘拐している。

 そして、今後あずちゃんの代わりの二人目の誘拐をするはずである。

 それが、その後の二人にとって破滅の人生につながる・・・。


 レイラにも、菜摘と昼間の少女あずちゃんからの予報ではここまでしか分からない。


 レイラは、茂人を見つめる。決して目をそらさない。

 茂人は、次第にレイラに引き込まれて行く。


 レイラは、こんな男でも菜摘を含めて幸せになる方向に歩んで欲しいと思ってしまう。

 勿論、その為に不幸になる人がいることはもっと望まない。

 最大公約数的にみんなが幸せを分かち合って欲しいと望んでしまう。


 その為には、茂人の行為を止め、さらに今誘拐されている女の子を連れ戻す手掛りがどうしても欲しい。

 

 どうしても茂人の予報がしたい。


 レイラの鋭い瞳が茂人を捉え、数秒見つめ合う。


「予報させてもらうわね。」

 レイラが、静かに茂人に告げる。

「大丈夫、私は何も聞いていないから。そして、茂人さんは私に何も話してはいない。これが事実」


 茂人が頷いた。

 

 レイラは集中する。

 

 踊らなくてもいい。


 音楽もいらない。


 集中出来る。


 緊張よりも、雑念よりもはるかに大きい気持ちが働くから。


 <ひとごっち(親子芝居)につづく>


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