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第10話 レイラ、ホステス一体《いちにちたいけん》5

新宿のスナックのトラブルも一応は解決。もえちゃんも戻って来た。なんともえちゃんのお母さんは・・・だった。


第10話の「レイラ、ホステス一体」は今回の”5”までです。

 ◆野鳥の会◆

 ”本能煩悩一字違い”と言う言葉がある?無いかもしれない。

 梢は、男のさがと言うものはどうしようもない物だと思っている。

 例えどんな危機的状況に直面しようとも、例えどんなに失礼にあたる状況下でも、避けられない行動法則を辿ってしまうからだ。

 しかし、梢はそれでご飯を美味しく頂いているので肯定せざるを得ない。


 梢は、その性と言う無条件反射?を見逃さない”生活の為”と言う条件反射を備えている。


 レイラが梢さんのお店”スナッククイーン”の入り口の扉を開けると、まってましたとばかりに店内全員の視線が注がれた。

 どの顔も心のからの歓迎が伺える。

 しかし、レイラの悩殺的な姿を認識した瞬間男たちは瞬時に煩悩に支配される。

 煩悩に支配された視線と言うものは分りやすい。

 簡単に理性を乗り越え、何か特別な信号が体を走りだす。

 

 その信号は、2パターンに分かれる。


 その1。顔を確認した後に、胸に向けられる。

 その2。顔を確認した後に、マイクロミニの最下端に向けられる。

 何れかである。


 先のパターンは、胸の谷間の縦に沿った”縦型”人間。縦山さんだ。

 後のパターンは、スカートの最下端を横に沿ってなる、いわゆる”横型”人間。横溝さんである。

 たぶん。


 まず、最初に顔から入るのは、見て喜んだ後に、顔を拝見させて頂いき、喜んだ自分に嫌悪感を持たない為の守りであり、後向きな姿勢とも言える。


 梢は、流石に男を扱う一店舗のあるじである。店内のお客さん達の一瞬の視線ピンクレザービームを全て漏れなくカウントしてしまう条件反射が身についている。


「4対8で、横山さんの勝利ね。明日からめぐみと、愛子の衣装もマイクロミニにするとしようかしら」商売柄、冷静な梢は呟くのだった。

 

 一方、我に帰ったレイラは、男性陣のピンクレーザービームの攻撃にあえなく顔を赤くして、着替えの為、トイレに逃げ込んで行くのだった。


 ◆終 戦◆

 着替えから戻ってすっかり地味な格好になったレイラは、純粋な歓声に包まれた。

 いきなり、気持ち良く冷えたビールを手に持たされるたかと思うと、店内全員が無言でレイラに向けて聞き耳を立てている。

 レイラも何を期待されているのか良く分らなかったが、多分この辺?のことだろうと思うことを言ってみた。


「もう、心配はありません。安心して飲んで下さい」


 すると、店内みんなから拍手が沸きあがり、皆が乾杯を始め勢い欲グラスを傾け始めた。

 レイラも自分の言葉が、場違いでないことに安心し一気にビールを飲み干す。

 

 そこに、すっかりレイラの大ファンになった、めぐみさんが真っ先に寄って来た。

「ありがとうございます。もう安心していいんですね」

「ええ」

 レイラは、ニッコリと頷く。

 続けて梢さんもレイラの元にやってくる。

「本当に有難うございます。何とお礼を言って良いか」

「気にしないで下さい。ちょっとしたお酒の余興みたいなものかしら」

 と笑顔で軽口をたたいてみた。

 言った後で調子に乗りすぎかと反省する。


 めぐみさんが、お客さんに呼ばれてカウンターの中に戻って行った後で、梢さんがレイラに説明を求めて来た。


「よく分らないのですが、どういうことだったのでしょうか。隣のお店と何か関係でも・・・」

 梢さんは、昨日のナイフ男の件から隣の店との関係を心配している。

「梢さん。全然思い出しませんか?」

「えっ?? 何のことかしら」

「昨日、隣の”スナック昌枝”のママの顔は結構近くで見られたと思うのですけど」

 梢さんは、レイラの言っている意味が今一掴めないでいる。

「スナック昌枝~・・・」

 レイラはもう一度、隣の店名を強調してみた。

 梢は、右手を口にあて、眉間に皺を寄せて考えている。


 レイラは復唱した。

「ま・さ・え」


 -- 5秒の沈黙 --


「あっ!!!」

 梢さんは叫びに近いような声を上げ、店内の注目を浴びた。

 すかさず、ひたすら頭を下げて誤る。


「まさか あの・・・」


 その位の驚きが梢さんにはあった。

「そう、そのまさかの昌枝さんなんですよ」


「うそ、彼女があの”はんぺん”なの?


 でも何で?あの”はんぺん”が、いや昌枝が」

 梢さんと、昌枝さんは高校の時に同級生であり、梢さんはが昌枝さんに”はんぺん”と言うニックネームを付けた本人だった。


「昌枝さんは、”はんぺん”と言うニックネームを嫌ってたみたいなんです」

「えっ、だって・・・。確かに一度は、嫌っていたみたいな時期はありましたけど、最後には涙を流して・・・『短編 ”はんぺん” 参照』」

「それって、高校1年生の秋頃の話ですね。高校は残り、2年半もありますから・・・」


 最初は、梢も昌枝のことを考えて付けたニックネームではあり、そのことにより昌枝も人気者にはなった。

 しかしそれは、所詮”はんぺん”としての地位であり。クラスの落ち(お笑い)要員であった。

 昌枝は、もっと青春ドラマのような一ランク上の扱いを望んでおり、彼氏も欲しかった。

 しかし、いつも好きな人は、人気者の梢えのファンであり、昌枝に陽があたることは無かったのだ。


 一年の秋に”はんぺん”から抜け出そうとして失敗した事件依頼『短編 ”はんぺん” 参照』、トラウマとなってしまい”はんぺん”に甘んじるより他、無かったのだ。


「そうだったんですか。でも、その仕返しで?まさか・・・」

「それだけじゃないみたいですね。昌枝さんは、2年前に梢さんがこの店に来て直ぐに、梢さんであることに気付いたのですけれど、”はんぺん”と言うニックネームから逃れたい為に、日々怯えながら梢さから逃げていたみたいです。それもストレスだったかのかもしれないですね」

「そうですか・・・」

 梢さんは、自分の若かりし頃の行動に後悔をしている様である。

(自分が人気者だった自覚はある。精神的に余裕もあった。もし自分に余裕が無かったら同じ行動をしたのだろうか?驕りではなかったのか?梢はそう思うのである。)


「実は、それだけでなくて」

「私、まだ何かしてるんですか」

「初めて来た時に梢さんが話してくれたこと覚えてますか?」

「なんのことでしたっけ?」(第10部レイラ、ホステス一体1参照)

「2年半位前にこの店を受け継いでまもなく男にのぼせ・・・。いや、走った時に・・・」

「レイラさん!はっきり言い過ぎ!!」

 梢は右手の人差し指を一本立てて口にあてる。

「すみません。そのひとも梢さんが来る前までは、昌枝さんと・・・。まあ上手くかどうか?宜しくやっていた様です」

「えっ?そうなんですか。また、彼女から取ってしまったのですか、わたし・・・」

 梢さんも昔から周りを気にしないで走ってしまうことに対して自覚はあったらしい。

 梢さんは、自分の配慮の無さにうな垂れてしまっている。


 レイラは、ちょとはっきり言い過ぎたことを後悔し、梢さんの気持ちを緩和させる意味で続けてしまう。

「あと、めぐみさんも・・・」

「めぐみもですか?」

「いえ、めぐみさんが悪いわけではないのですが」

「めぐみ、ちょっと来て」

 梢さんがめぐみさんを呼ぶ。めぐみさんは嬉しそうにやって来た。

 レイラが言う。

「めぐみさん。高校の時バレー部ですよね」

「さすがレイラさん。良く分りますね」

「いや、まあ」

 レイラは照れながら続ける。

「昨日、ナイフ男に追いかけられる演技をしていた隣の店の女の子に見覚えがありませんか」

「やっぱり、演技だったんですか、レイラさんの態度がおかしいと思っていたんです」

 めぐみは、高校時代を振り返っている。頭の上に文字入りの噴出しが見えるような気がする。

 めぐみさんが、思いあたらない様なので、続けることにした。

「めぐみさんは1年生の夏にはレギュラーになったんですよね」

「あら、めぐみ凄いじゃない」

 梢さんはめぐみさんが以外にも運動神経が良かったことに関心する。

「その時3年生で、やっと・・・・」

「わかった!!」

 今度は、めぐみさんが指を鳴らし、叫びに近いような声を上げた。

 めぐみさんも当然店内の注目を浴び、ひたすら頭を下げて誤る。


「まさか あの・・・良枝先輩?」

「そうなんです。それで、その悔しさを今も引きずっていて、ちょっと昌枝さんに乗ってしまったみたいですよ」

「そうなんですか~。それにしても人間って、変わるものですね~あんなに田舎臭かったのに・・・」

 めぐみさんは、良枝先輩が数年ですっかり化けてしまったことに関心している。

「はんぺ、いや昌枝もそうだけど、その良枝さんも”ホステス焼け”したのね」

「何ですか?それ」

 梢がたずねる。

「日光で焼けると日焼けでしょ。ホステスになって綺麗になったことを”ホステス焼け”とか、盛り場の名前を付けて"かぶきちょう焼け”とか言うのよ」(※フィクションです)

「なるほどね~。芋も焼けると美味しいですよね~」

 めぐみさんは結構毒舌であることが分った。


「レイラさん。どうしたんですか?」

 複雑な表情のレイラの顔を梢さんとめぐみさんは覗き込んだ。

 レイラは、予報屋焼けを出来ない為に技と老けメイクをしている。

 自分が、まだまだだとは思ったが、実際に老けたくもないので、どうすべきかちょっと葛藤している。


「いえいえ、別に。それよりももう一つ」

「まだ、あるんですか!」

 梢さんが驚く。

「愛子さんが」

 レイラは、ちょっと話し過ぎたかとも思ったが止まらなかった。

「今度は愛子ですか?」

「愛子~」

 梢さんが呼ぶと、やはり嬉しそうに愛子さんがやってくる。

 入れ替わりで、めぐみさんはカウンターに戻って行った。

「衣装ありがとうございました」

 レイラが頭を下げる。

「とんでもない。こちらこそありがとうございます」

 愛子さんがもっと頭を下げる。頭の下げ方が以上に低い。


 レイラは、梢さんはいい従業員に恵まれているなと思う。

 それよりも梢さんの人を見る目の凄さ、引き付ける魅力なのかと関心してしまう。

 お客さんもみんな良い人だ。

 実際レイラも梢すさんに引き寄せられている。

 もえちゃんに引き寄せられた時と同じ感じである。


「洗濯屋さんに出してからお返ししますね」

「よろしかったら、レイラさんもらって下さい。完全に私の敗北です。多少自身があったのですが、レイラさんが着た後では、恥ずかしくできれません」

 と愛子さんは俯く。(元より恥ずかしくて一度しか着ていないのであるが。)

「私も、着る機会は無いし、頂いても・・・」

「いえ、是非もらって下さい。レイラさ程似合う人は他には絶対にいません」

 頑な愛子に、レイラはあり難く(もないが)頂くことにした。

 愛子さんは、レイラに近づけた気がして嬉しそうである。


「ところで、愛子さん。今日の1万円札事件の若いあんちゃんですけど、見覚えがないですか?」

 急な質問で愛子さんは面食らう。

「えっ?いえ特に記憶はないですけど」

「ところが、むこうのあんちゃんは、愛子さんのこと良~く覚えているんですよ」

 梢はまたかと思う。どうして、揃いも揃って・・・。と思うのだが自分が一番の原因であった。

 愛子も考えるが全く記憶にない。

「愛子さんが、入店した半年位前に愛子さんに会いに良く来てたお客さんがいたでしょ」

 愛子さんは暫く考える。

「あ~そういえば、週に2、3日来ていた人がいた。

「いましたけど、あんな人でしたっけ?」

「そう、記憶に残らない位冴えない人で、食事に誘われたのを一旦OKした後に当日、ドタキャンしましたんですよね」

「そうでしたっけ~」

 愛子の記憶には全く残っていない位、さりげない半断だったようだ。

「まあ、遊び慣れていなかったからショックだったんでしょうね。それから隣の店に行くようになり、今回の話に一枚噛んだようですね」

「じゃあ、今回は私のせいなんですか!」

 そこで、梢さんが首を振った。

「いや、私のせいよ。明日、昌枝のところに行かなきゃね。今日は止めといた方がよさそうね」

 レイラは、”知っている”が、敢えて何も言わなかった。

 その瞬間、余り詳細を話すべきでなかったと後悔をした。


 ちらちら頭を過ぎってはいた。話すべきなのか?どこまで話すべきなのか?と。

 梢さんに話し過ぎたことを和らげるつもりで、めぐみさんや、愛子さんのことも話してしまった。

 返って余計なことを話したのだろうか?

 予報も何処まで話すべきかをいつも悩んでいる。

 未だに良く分らない。


 スナッククイーンは、この日はいつもよりも遅く午前3時に店が閉まった。

 その日6時過ぎに梢が来た時には”スナック昌枝”の入り口には閉店の旨が貼られていた。

 後味の悪いものが残った。

 が、それは割と早く回復した。

 梢は自分でも白状になったと驚いた。

「年、取ったかな」

 梢は呟くのだった。


 時間は遡って、梢は出勤する前に高田町商店街の八百屋さん(直志商店)に寄った。

 野菜を買うわけではない。

 レイラに会う為であった。

 梢は、我が子が生き生きと予報屋さんの準備をしているのを複雑な気持ちで見守っていた。

 

 ◆親 子◆

「も~えちゃ~ん」

 八百屋さん(直志商店)の前を掃除しているもえちゃんを見つけたレイラは若干の二日酔いも忘れて、もえちゃんに飛びついた。

 今日から、もえちゃんが復帰したのだ。

 もえちゃんは、生き生きとした仕草をしながらも嬉しさを隠し、飛びついて来たレイラを跳ね除ける。

「れいらちゃん。くっつき過ぎ。準備の邪魔!」

 そっけない。

「もう、もえちゃん。冷たいな~」

 レイラも、もえちゃんが嬉しそうなこと位には直ぐに気が付いている。

「今日から、お母さんが許してくれたの?ね?ね?」

 もえちゃんは、無視して準備を進める。

 そこに、後ろからレイラを呼ぶ声がした。知っている声だ。


「レイラさん。おはようございます。うちの子を宜しくお願いします。」

 レイラが振り向くと梢さんが立っている。

「あれ?梢さん。うちの子って・・・。えっ?もえちゃん、梢さんのお子さんだったんですか?」

 レイラは大きな口を開けたまま、暫く口の筋肉が動かなかった。

「え~まあ~」

 梢さんは照れくさそうである。少し離れたもえちゃんも照れくさそうに向こうを向いている。

「レイラさんだったら、何でもお見通しかと思ったら、そう言う訳でもないんですね」

「そんな、知らないですよ。依頼に直接関係無いことは個人情報ですから見ないですよ」

「固いんですね」

「仕事ですからね」

 二人は顔を見合わせて笑う。


「あの子もレイラさんのことを何も言わないから、全然気付きませんでした。ちょっと引っ掛かることがあって今日聞いてみたんです。そしたらビックリ。毎日レイラさんのとこに来てたんですね。そうとしっていたら少しくらい遅くなっても安心だったのに。うちの子がお世話になってすみません」

「いえ、こちらこそ、もえちゃんには相当お世話になってます」

 相当なんてものではないとレイラは思う。心の支えだ。


「ところで、何が引っ掛ったんですか」

 もえちゃんのことは興味がある。

 もえちゃんがテーブルを取りに行った隙に梢さんは向の蕎麦屋さんの上を指さす。

「少し青い屋根が見えているでしょ。そこがうちのアパートなんですよ」

「あ~、はい。あれですね。直ぐ近くなんですね」

 そして、梢さんはお蕎麦屋さんと和菓子屋さんの間のほんの僅かの隙間を指さした。

「あの間からほんの少しだけ、3階の窓が見えるんですけど分りますか?」

「はい」

「うちの窓なんですよ。そして、その窓の横にもえの机があるんですよ」

 窓は、丁度レイラが予報をしている街頭の下からだと、少しだけピンポイントに見ることが出来る。「もう寒いのに、私が出かける夕方にはいつも、窓が少し開いているんですよ。机の上には買ってあげたことのないオペラグラスがあってね。自分で買ったのでしょうね」

 梢さんの話し方が何とも微笑ましく、もえちゃんへの愛情が伝わってくる。

「ずっと、観られてたんですね」

 そう思うと何だか恥ずかしい。

 この場所の方が目立つからと言って移動させたのも、もえちゃんであれば、毎日先に来てこの位置にテーブルを置くのももえちゃんである。


「何かレイラさんに完全に負けてますね。情け無い母親です」

 梢さんは苦笑いをしている。

「そんなことないですよ。もえちゃん、お母さんが大好きなんですよ」

「そうですかね~。最近、よそよそしいですし」

「いえ、もえちゃんああ言う子ですから。あっすみません」

「レイラさん、よくもえのことご存知ですね」

「いや、そんなには。でもこれだけは分りますよ。もえちゃんが一度だけ泣いたことがあるんですよ」

「あの子がですか」

 母親の梢ですら、もう2年以上は見た記憶がない。

「もえちゃん、転んだんです」

「えぇ~」

「でも、転んだから泣いたのではなくて、その日にお母さんに買ってもらったコートが汚れて泣いたんです。もえちゃん、コートを買ってもらった日に喜んで大通りの方から走ってきたんです。あんなに嬉しそうにはしゃいだもえちゃんはあの時だけです」

 梢も思い出した。そう言えば、コートを買いに行ったとき、久しぶりに一緒に色々買い物をして、外で食事をした。

「あんまり喜んで走って、転んじゃったですよ。でも、転んだ時は目に涙を貯めても涙が零れないように我慢していたんです。でも、私がコートが汚れたことを言った途端にボロボロと」

 聞いているだけで、梢さんも涙ぐんでいる。

「ありがとうございます」

 何でお礼を言っているのか梢にも分らないが、お礼を言いたかった。

「レイラさんには、お世話になりっ放しで・・・。あの子で良かったら使ってやって下さい。あの子も喜ぶし。でも、7時半過ぎには帰るように言ってくださいね」

「ありがとうございます。助かります」

 そこにもえちゃんが、テーブルを持ってやって来た。


「何、話してんの。全然手伝わないで・・・」

 不満そうであるが、楽しそうでもある。

 梢さんが取って付けたようにようにフォローする。

 自分の子供に気を使い汗が噴き出る。


「ほら、明日うちでクリスマスパーティーやるでしょ。レイラさんも誘ってたの」

「そう、そうなのよ。もえちゃん」

 もえちゃんの訝しげな目は、二人を捉えて放さなかったが、追求の言葉を飲み込んだ。

「レイラちゃん来るよね」

「え~、もちろん。行かせてもらうに決まっているじゃない」

 レイラの背中にも汗が流れる。

「そう、クリスマスプレゼント交換があるからね。300円以内ね」

 もえちゃんは、相変わらず怒っている(振りをしている)と淡々としている。


「後、レイラさん。良かったらなんですけど、偶にうちの店で働いてみないかしら。レイラさんが来てくれるとお客さん喜ぶんだけどなあ~。気が向いた時、うんん、1日だけでも・・・」

 梢さんはレイラの顔覗き込むと様に伺ってくる。

 レイラもちょっと楽しかったのは事実だ。ちょっと魅かれる。

 そこにマネージャーの様にもえちゃんの声が。

「駄目よ、おかあさん。レイラちゃんは予報士の先生なんだから」

「あ~ごめんなさい。良かったらの話よ。ねえ、レイラさん」

「そうそう、もえちゃん、先生なんて大げさなんだから」

 レイラも梢さんも、もえちゃんに完全に負けている。

「良かったら遊びにだけでも来て下さい。もちろん、レイラさんはお金はいらないですから」

無料ただは悪いから、料金分は働いてお返ししようかしら」

「ホントですか。ホントに来て下さいね」

 梢さんは気が変わらないうちに約束しようとする。

 そこに、

「もえも行く。レイラちゃんが行くならもえも行く」

「もえちゃんは、もう少し大きくなってからね」

 今まで、梢さんの出勤中に自ら一人で留守番をすると言い張ったことはあるが、店に行きたいと言ったことは初めてである。

 その位、気を使う子なのに。それよりもレイラを選んでいる。

 梢さんはちょっと説得は無理かなと言う顔をしている。

「じゃ、1回だけと言う約束で・・・」

 レイラは梢さんの顔を伺う。

「すみません。レイラさんじゃあ、その時は申し訳ありませんが、連れて来てやって下さい。もえちゃん。ホントに一回きりよ」

「分ってる」

 もえちゃんは、やっと満足そうな顔になり、機嫌を取り戻した。


 もえちゃんは、自分がレイラのことを一番知らないと気が済まないのだ。

 お母さんの様子で何かあったことは、察しがついている。

 お母さんが知っていて、自分が知らないのが気に入らない。

 少しでもその話を聞きたい。 

 事情聴取をしよう。無理れあれば、せめてその場所にだけでも行ってみたいと思っているのである。


 もえちゃんは、安心して今日の予報のお客さんを決めるくじ引きを始めた。

 人数が多くなり過ぎて、網だクジでは無理が出て来たからだ。


「レイラさん。今年は30日が最終営業日なの。出来れば、その日に来てくれると嬉しいんですけど」

「約束しますわ」

「ありがとうございます。じゃあ、そろそろ店行きますね。レイラさん頑張ってください」

「ありがとうございます。梢さんも」

 うちの小さなストーカーをお願いします。

 レイラにそう耳打ちをして梢さんは、親宿しんじゅくに向かった。


 <つづく> 

当初の書き方の構想が悪く、書きずらい、読みずらいになってしまって反省しています。寛大なお心で読んで頂けると幸いです。

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