第10話 レイラ、ホステス一体《いちにちたいけん》4
親宿のスナックでのトラブルはレイラの活躍により無事解決に向かうのであはるが、気になることが一つある。それは・・・。
レイラ、ホステス一体は”5”まで続く。
◆インターバル◆
「さて、次いくわよ」
レイラの気合いの入った声が店内に響く。
「あの~、レイラさん。まだ何かあるんですか?」
「今度も、ちょっと楽しいわよ」
レイラは右手の親指と人指し指を近づけ右目を瞑ってみせる。
梢さんは、ちょっと心配そうだが、レイラの明るい声が頼もしい。
既にレイラに全幅の信頼を寄せているめぐみさんと、すっかりファンになってしまったテカテカおじさん、それに3人連れは乗りに乗っている。
ちょっと、みんな興奮気味である。
「あっ、そう言えば愛子さん。愛子さんのロッカーにある右から3番目のちょっとエッチなの貸してくれない」
テカテカおじさんは、エッチと言う言葉に興奮を覚える。
「あっ、はい」
愛子さんは、名前も教えていないのに自分の名前を呼ばれた。しかも一度しか来た事のないマル秘の衣装をレイラは知っている。
愛子さんは驚きで、血の気が引きそうになる。
今日は、めぐみさんの他に愛子さんが出勤している。先ほどからずっと、昨日も来ていた3人連れに付いていた。
愛子さんは、全体的には細身ではあるが、出るべき所はボリュームがあり、結構セクシーな体付をしている。
隠れ豊満美乳のレイラと体系がぴったりである。
愛子さんは、あの衣装どうするのかしらと思いながらも、レイラの指示通りに衣装を持って来た。
愛子さんも1か月前にお客さんにスタイルを褒められ、調子にのって買ってしまたのだが、買ってから後悔してしまった、かなりどぎつ衣装である。
レイラは愛子さんから手渡された衣装を持ち、
「痺れるわね」
と一言残すと、自分の脛と腕を確認し、トイレに向かった。
・・・無駄毛処理の確認だ・・・。
トイレは、店外にある共同のトイレである。
◆愛子ビビる◆
レイラがトイレに消えて行った後もお客さんが2組入り、ボックス席1席のみを残して、店内は一杯に埋まった。
愛子も大忙しになるはずなのだが、何か今日はとっても楽に感じられる。
盛り上げる必要もなければ、苦手な会話に困ることもない。
なぜならば、共通の会話のテーマがあるからである。
新しいお客さんも加わり、次に起こる事件のことで、各自が好き勝手な妄想を繰り広げ、席を越え話に花が咲きまくっている。
愛子は、感じる。
今日は楽しい・・・。
レイラさんといると楽しい。
しかし、凄く楽しいと思っていたところへ・・・
そこに、一組のちょっと暴れん坊そうな3人連れが入って来た。
「いらっしゃいませ」
ママ(梢)の声に反応して、愛子は入口の方を向く。
入口に目を向けたのではあるが、直ぐに視線をそらしてしまった。
店内一同が同じ行動をしている。
愛子を初め店内一同は、”こいつらだ”次のレイラの相手はこいつらだと直ぐに察しがついた。
そう思った瞬間、店内一同は急に静かになり、勝手な妄想を行うことを中止し、普段の会話を大人しく始めるのであった。
店内は次のレイラ劇場の幕に備えて準備段階に入った。
余計なことをしないで、レイラを待つと言う準備だ。
各々が打ち合わせもなく良く理解している。
レイラが来るまで無難にしのぐんだ。
目で合図をし合っている様にも見える。
愛子も、目で合図を受けた。気がする。
不安と興奮に包まれる。
お尻が浮いている様な緊張感が襲ってくる。
こいつら(次のターゲット3人連れ)は、ママ(梢)に空いていた真中のボックス席に案内された。
見かけと違い、以外と大人しく席についた。
大柄のゴツイ男が片側に一人で掛けて。
その向い側に浅黒い細身の男と、一見偉そうな小柄な小太り男が座った。
ママが3人の応対をし、無難に注文が出された。
「飲み放題、焼酎の水割で」
「は~い」
ママの声を受け、愛子はこそこそと、こいつらの様子を伺いながら、お酒とお通しの準備を始めた。 ママが席を離れると、人を探しているかの様なそぶりで、辺りを見回している。
そして、何かこそこそと話をしている。
レイラさんを探しているのだろうか?
愛子も昨日の話をめぐみから聞いて知ってはいるのである。
何より、昨日から連夜で来ている3人連れのお客さんからもしつこいくらい何度も話を聞かされている。
先程のあんちゃんも含めて同じ仲間である可能性は高い。
と、するとレイラさんがいないから、何かしてくるかも。 そう思うと、愛子は心臓の鼓動が頭で響く位に大きくなるのを感じた。
先ほどまでの、興奮のドキドキ感とは全く違う不安からのドキドキ感に包まれる。
レイラさん早く来てきれないかなー
愛子は、心の中で呟いた。
愛子が、お酒の準備をして席に着くと”こいつら劇場”がいきなり始まり出した。
極端過ぎる変りようである。
「いつまで待たせるんかいな」
大柄な身体のゴツイ男が吠える。
「すみません」
愛子の手が震えてくる。
男は震えた手を満足げに見つめ他の二人と目を合わせる。
「大変遅くなって申し訳ございません」
ママ(梢)が、自分の付いていたお客さんに小さな声で「すみません」と言うと、こちらに寄って来た。
お客さんは顔文字で、「いいから、行ってあげて」と表現してくれている。
ママが愛子と変わろうと、目で合図をくれたので、愛子は席を離れようとしたが、細見で浅黒い男が、
「どこいくんかな~。お客さんのところにいないと、いかんなー。ママはえ~から、この子置いておき」
と愛子の腕を掴んできた。
「そんなこと言わないで、私もご一緒させて下さい」
愛子を一人に置いておけないママは、営業スマイルで立ち向かう。
周りも固唾をのみ込み、レイラの登場を待つ。
愛子に代わってお酒を作ったママではあったが、今度は酒に文句をつけ出した。
「この酒、水が混じってんのと違うか!」
大柄な男がケチを付ける。
「いえ、そんなことは」
ママもちょっとうろたえてしまう。
「じゃあ、あんたが、水入れ過ぎやケチりやがって」
「すみません。作り直します」
ママは慌てて作りなおすが、その間も、小太りの男は、愛子の太ももの辺りを撫でまわしている。
ママは震える手で急いでお酒を作り直したが、作りなおしたお酒に浅黒い男がクレームを付けた。
「人間の呑むアルコールかいな?これは」
「すみません。どんな焼酎が・・・」
「決まっとるやろ・・・・」
愛子は太ももを触られながら、心の中でレイラに助けを求める。
(レイラさんお願い早く)
カウンターにいるめぐみさんも、目を瞑ってレイラに助けを求める。
(レイラさん助けて)
そこに、
”バタリ”と、店の入口の扉が開いた!!
主役の登場!!!
◆レイラ捕り物帳3◆
廊下の明るい光を逆光に、艶やかなスタイルが映し出される。
すらりと伸びた二本の脚に超マイクロミニのスカート。
両手にはワイルドに二本の瓶をぶら下げている。
右手はスーツの上着と焼酎一本を肩に担ぎ、左手のもう一本は親指を人差し指の二本指で、焼酎をぶら下げている。
「お持ちに、なった? お好みなのは、これかしら?」
レイラが颯爽と登場する。
逆行を背にレイラが近づいてくる。
響く訳の無いフロアーに黒いエナメルのパンプスの音が店内に響き渡る。
店内の光がレイラを映し出した。
男も、女も店内全員が生唾の飲み込む。
美しい。
化粧を直したレイラは、別人に美しい。
予報屋さん様の額に描いた皺と、老けメークを落とし、普段は入れたことのないアイシャドーを薄く入れ、口紅は抑え目のレッド。肌は元々毛穴が小さく奇麗だ。
胸元は、ブラウスのボタンを上から3つ外し、スカートは、膝上・・・いや、股下5cmもない超マイクロミニ。
テカテカおじさんは、その昔し、アイドルの追っかけをやっていた頃を思い出し、思わず、口に右手をあて、前屈みに叫びそうになった。
多分、心の中では「レ・イ・ラちゃ~ん」と叫んでいたことだろう。
レイラは、ボックス席の前に立つと、愛子さんと、梢さんの二人に席を立つように目で促した。
レイラに気を取られている”こいつら”は、愛子さんがいなくなることが全く自然の行為の様に捉え気になっていない様である。
レイラは、3人の男と昨日の予報を照らし合わせる。
この大柄のゴツイ男がパンチラ野郎ね。そして、向い側に座っている男を見る。
浅黒い細身がおっぱい一筋30年で、小柄な小太りが、密着触覚専門店てわけね。
確認を終えたレイラは含み笑いをする。
レイラは、敢えて細身で浅黒い男の足に自分の引き締まったふくらはぎを擦り付け、そして、お尻を男の顔の前に突き出しながら乗り越えて、小柄な小太りの男との間に入る。
ここがレイラに取ってのベストポジションだ。
そして、ベストポジションに座ろうとする。が、そこでゴツイ男の視線の移動に気付いた。
未だに口を半開きにしている”こいつら”ではあるが、30年以上男として生きている”こいつら”の条件反射は流石である。
タイトなミニスカートの最大のパンチラを拝めるチャンスが椅子に座る瞬間であることは、煩悩中枢と知覚中枢に既に新道が貫通している。
考えるまでもない。固まりながらも事が起こるであろう一点には前もって視線を構えることが出来る。
しかし、好奇心はじりじりと引きずるのが定石だ。
そこに、レイラもタイミングを計り、右膝を内に入れ斜に構え腰を掛け、ほんの一瞬だけ見えたかもしれない錯覚をさせる。
既に、大柄のゴツイ男は手中に収めたも同然である。
次は、
「さあ、お好みのお酒を作るわね」
レイラが持って来た焼酎の口を開ける。
「芋焼酎が好きなんて中々焼酎好きね」
そこに、レイラの通路側に座る細身の浅黒い男が我に帰ったのか、思いだしたように因縁をつけようとする。
「誰が、芋焼酎が好き・・・・」
だが、その途中でレイラが”浅黒い、おっぱい一筋30年男”の方に身体を向けお酒を作り出す。
両脇を絞め胸を寄せると、少し体を前に倒し、しかし首を上げ男を見つめる。
どちらかと言うと、見つめる為に顔を上げたのではない。胸の谷間が見え易い様に顔を上げたのである。
「お酒作らない方が良かったかしら?」
胸を強調し、長めにグラスの氷をかき回す。
「い、いやそれで結構。十分にグラスを冷やしてから作って・・・下さい」
「そうね。水割りを作るときはグラスを良く冷やさないとだめよね」
レイラは、さらにグラスの氷をかき混ぜる。
レイラは思う。言葉が使いが丁寧になったわね。これで二丁あがりね。
レイラは、浅黒い男に胸を強調しながらも、もう一つ作業を行っていた。
通路側の浅黒い男の方に身体を向けながらも、お尻を”小太りの密着触覚専門店男”に密着させていたのである。
レイラの動きに無駄はない。
小太りの男は、少しでもレイラのお尻に触れたい衝動と、向いに座るゴツイパンチラ男の視線との狭間で、何気なく肘のあたりをレイラのお尻を小刻みに擦りつけることに留まっている。
既に小太りの男もいいところまで昇ってしまっている。
開始10分も経たずに、敵陣崩壊。完全制覇を成し遂げた。
後は、レイラの一人舞台だ。
たまに、自分の役目を思い出し文句を付けそうなる”ゴツイパンチラ男”には、白く眩い3000ワットの秘宝をタイトなマイクロミニの三角地帯から放つ。
”Δビーム”だ!
薄暗い店内では、分り易い白が一番だである。
白は子供の頃から見慣れた永遠のテーマだ。
”浅黒いおっぱい一筋30年男”には、たまにブラウスに弛みを作りそれとなく中を覗かす。
小太の密着触覚専門店男には、時々体を擦り付けるように懐けば良い。
こいつらは、見事にレイラの術中
( 自分役目 < 煩悩 )
にハマり、十分に90分間を満喫してしまった。
帰りにはきっちりと、焼酎を購入した分のお会計も貰い、梢さんとエレベータホールまで送る。
「また、来て下さいね」
と言う言葉を乗せると、こいつらは満面の笑みでエレベーターに消えて行った。
◆御裁き◆
3人組のこいつらは帰って行った。
「さてと、もう大丈夫だから梢さんは、お店に戻ってお仕事してて下さい」
「レイラさんは?どうなさるんですか」
「え~、明日から来ない様に締め処理をしてから戻ります」
「何を・・・」
「まあ、お店で待ってて下さい」
レイラは、そう言うと梢さんの背中を押してお店に戻した。
レイラは、エレベータホールに戻るとその横の下り階段に身を隠し、待ち人が来るのを待った。
3分もしない内にエレベータから3人の男が降りて来た。
言うまでもない、先ほど機嫌よく帰って行った”こいつら”である。
3人は、顔を見合わせ気まずそうな顔つきで言い合いをしている。
誰が悪いのか、罪の擦り付け合いをしている様に見える。
こいつらは、梢さんの店の隣のスナックに入ろうとする。
昨日ナイフを持った男が来た時に梢さんに呼んでもらったママの店である。
男の一人が扉に手を掛けた瞬間に、後ろからレイラが3人を捕まえる。
「さあ~いっしょに入りましょうか」
”こいつら”はビクッと肩を持ちあげると、妙な奇声をあげ振り向いた。
レイラは、ニコッと笑い”こいつら”の肩を押すように店に入った。
”スナック昌枝”
梢さんが隣の店舗を譲り受ける1年位前にオープンしたスナックである。
薄暗い店内は、梢さんの”スナッククイーン”と全く同じ間取りで、色調が違う以外は内装も大まかにはあまり大差がない。
店に入ったレイラが店内を見回すと、何か違和感がある。
「何か違うわね?」
そう思うと少し緊張感を感じる。
店内の人達は一人を抜かしてレイラ達の方を見つめる。
カウンターの中には、ママがいる。
そして、先ほどの一万円事件の”若いあんちゃん”がカウンターの椅子に座っている。
昨日のナイフを持った男に、その男に追いかけられていた女性がボックス席に座っている。
そこまでは昨日のレイラの予報通りである。
しかし、どの顔も怯えた様な真っ青な血の気の無い顔色をしている。
そして、何より違うのが、ボックス席の向い側に一人の男性が背を向けて座っている。
見覚えのあり過ぎる背中だ。
その男が、レイラの方を振り向いた。
「ノシさん・・・・。なんで?」
レイラは小声で呟いた。
レイラは八百屋さんの店先を借りて予報屋さんを行っている。その八百屋さんの店主であるノシさんが、温和な顔つきとは裏腹に凄いオーラを出して座っている。
ノシさんは、今日は用事が合って店には来れないと言っていただけでは無い。
レイラは予報の内容も全くノシさんには伝えていないのだ。
なのに、それなのに何でノシさんはここにいるのだろう?
レイラは、アドリブに全く対応が出来ない。
自分の筋書きが狂うと途端に緊張が襲って来て、瞳が泳ぎ出す。
そこをノシさんが仕切ってくれた。
「やあ、レイラちゃん。御苦労さん」
ノシさんは怖い位の笑顔で話しだす。
レイラも凍りつきそうになる位の深さを持った顔つきだ。
レイラは、オロオロするのを抑えるだけで精一杯で、何の言葉が出てこない。
「さて、出演者が全員揃ったかな。うちの店に手を出しちゃ~ちと不味かったね~」
ノシさんは頬に手をあて掻きだす。
「ねえ、店長」とノシさんはレイラの方に投げかけた。
「はっ、はい」
レイラは、自分の筋書きが来るって緊張のあまり、声が上ずってしまう。
上ずっているのだが、他の人には筋書きが来るって緊張しているとは分らない。
レイラが、ノシさんに対して緊張している様に映っている。
あの強いレイラがノシさんに対して緊張しているのだから、ノシさんがよっぽど怖い人だと思った様で、一同はラインダンスの様に揃って、頭を下げる。
そして、合唱コンクールの様に揃った声で「すみません」と誤った。
「以後、大人しくする様に。オーナーとして伝えとくよ。ねえ、レイラちゃん」
「はっ、はい」
レイラの瞳はまだ平泳ぎをしている。
ノシさんは、立ちあがると、レイラの背中に手をあて、店を出るように促した。
店を出ると、ノシさんがレイラを労う。
「ありがとう。う・ち・の店を守ってくれて。御苦労さまでした」
ノシさんは、何か嬉しそうだ。
レイラは何から聞いて良いか分からない。
口をもごもごしていると、ノシさんが続ける。
「嘘ではないよね。行きつけの店を”うちの店”っていったてね。それに、オーナーって言うのも八百屋のオーナーだし嘘じゃない。レイラちゃんも予報屋さんの店長だしね」
そう言うと、ノシさんは、エレベーターのボタンを押す。
「レイラちゃんは、みんな待っているから、梢さんのところに少し顔を出してあげてくれるかい。私は年寄りだし、八百屋は朝も早いから先に帰らさせてもらうよ」
そう言うと、ノシさんはレイラに向って右手の掌を広ると、エレベータに乗って帰って行った。
レイラも掌を広げるだけで、何にも言葉が出て来なかった。
レイラは、ノシさんの言われる通り、梢さんの店に戻ることにした。
この派手な格好のまま、帰るわけにもいかない。
レイラが店に戻ると、盛大な歓声で迎えられた。
<レイラホステス一体5に続く>