さっさと目を覚まさねば。
まっしろだ。
まわりにはなにも見えない。気がついたら、だだっ広いなにもないところに座り込んでいた。
ちょっと待て。えーと、今日は仕事帰りにコンビニでお気に入りのパスタを買って帰った。それで、食べながら録画してたドラマを見て、明日早く起きなきゃ、やだなーとか思いながらベッドに入って寝た…はずだ。
「…夢だな。うん。でもどーせならもうちょっとさー、ましな夢がよかったー」
ただただ広がる真っ白な世界で、がっくりを首を落としながら呟いた。
美味しいものを食べるとか、忙しすぎてなかなか行けない旅行とか。やりたいことなんていっぱいあるのに。夢なんだからさー。
自分を見ると寝た時と同じ格好だ。丈の長いロンTにレギンス。暑くも寒くもない。手を見ると古い御守りを2つ握っていた。なんでこれ持ってるんだろう?
あたりを見回してみても本当になにもない。なにも聞こえない。見えるのは遠くの地平線だけ。
あまりに静かすぎて耳鳴りがしてくる。不気味だ。ちょっと怖くなってきた。
「…しょーもない夢だなこれ、しかたない。」
夢とはいえ、訳の分からないこの状況に少しだけ恐怖に支配されそうになる。
考えてもしかたない。頭を振り、勢いよく立ち上がる。じっとしててもらちがあかないと思い、歩きだそうとした瞬間。
「あー!!みつけたっ!」
「うひぇぁぁっ!?」
突然響いてきた声に大きく心臓が跳ね、思わず変な叫び声が出た。
ばくばくする心臓を押さえながら振り向くと、そこには人が立っていた。
「探したよ~、予定してた地点と違うとこにくるんだもん。」
そいつは疲れたような顔をしてそんな事を言った。知らんわ。誰だこいつ。急に現れた不審者をまじまじと観察した。
若い…男性?綺麗な顔をしていると思う。そして白い。肌も、肩にかかる真っ直ぐな髪も白い。全体的に白い。白く長い睫に縁取られたぱっちりした目は金色?に見える。白いフードパーカーに白いズボン。薄く微笑みながらこっちを見つめている。なんだこの人。私の知り合いにこんなひといない。私の夢なのにこんな得体の知れないやつ出てくんの?
「…どちら様ですか?」
とりあえずたずねてみた。
そいつはにっこりと笑って、自己紹介をする。
「はじめまして。神様だよ。信じないかもだけど」
「ないな!!」
被せぎみに力一杯、否定の言葉を投げつけた。
「ないなって、ふふ…そりゃ信じられないのは分かるけどね」
白い人、自称神様は笑う。
「自分がカミサマとか言っちゃうあたり全く信用できん。新手の新興宗教か、胡散臭い事この上ないわ」
じっとりと睨む。そもそも神様なんてあやふやなもん信じられるわけないだろ。そんなもんがホントにいるならとっくに世界は平和だわ!
「とりあえずさっさと目ぇ覚まさなきゃ。もーやだやだ!こんなのある意味悪夢だわ」
自分を神様とか言っちゃうようなやつと仲良く話す趣味はない。そもそもこんな胡散臭い爽やか系チャラ男みたいなカミサマいるか!白いだけで神々しさとか皆無!
どうやったら目覚められる?考えながらジリジリと後ずさり、自称神様から距離をとる。頬をつねる?叩く?何か痛みがあれば目覚めるとかかな。
そんな私を尻目に勝手に話を続けていく自称神様。
「まぁ、見つけられたから良しとするか。キミに頼みがあってさー。まぁ、言ってみれば探し物なんだけど…」
自称神様とやらから離れつつ、ふと気がつくと自分の右手側に光が見えた。もしかしたらそっちにいけば目覚められるかも!
私は思いっきり光のほうに走り出した。
「あ!まだ話はおわってないよ!」
追いかけてくるが絶対止まってやらない。さっさと目を覚ましてオサラバです!
力一杯走る。普段走らないせいか息が切れる。キツい。夢でも息切れとかするのか。
「しょーがないなぁ。あ、ちょうどいいの持ってるね。とりあえずソレに宿らせとこうかな。何かいるみたいけど、大丈夫でしょ。」
何ぶつぶつ言ってるんだ…走りながら振り返ると、自称神様はそんなことを言いながらゆっくりと消えていった。諦めた…のか?まぁいい。
消えたのを見て前を向きなおると、突然地面が歪みだした。
「うわっ!?」
白かった世界が黒くなり、歪んだ地面に足をとられて倒れた私は頭をしたたかに打ち付け、そのまま意識を失った。