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2 レジェンダリースキル付与

やがて、つま先から徐々に身体の感覚が戻ってきた。

見ていないので想像するしかないが、おそらく先ほど「分解」された身体が「再構築」されているのだろう。

全身の再構築が完了すると、最後にいた魔法陣の部屋とは別の場所にいることを知った。

そこは、古びた神殿のようだった。石造りの床と壁はぼろぼろで、植物が好き放題に生い茂っている。


「「「なんだここは」」」


三人の声が重なった。

はっとしてお互いの姿を確認する。まず、服装が先ほどのものから変わっていた。

肌触りの悪い生地で編まれた、手編みのような服をまとっていた。

そして……なんだか若干見た目が先ほどと違う気がする。こんな顔だったっけ?

金髪の男もパーマの女性も、なんとなく北欧風の顔つき、体つきになったというか、微修正されたような感じだ。

きっと自分もそうなんだろう。


「三人とも、こちらへ」


ふいに、女性の声がした。

神殿の奥に、玉座と、そこに腰かけた白い髪の女性が見えた。

俺たちは、女性のもとへ近づいた。高い鼻に大きな深緑の瞳。美しい女性だった。


「あなたが女神様ですか?」


「そう呼ばれています」


俺が訊くと、女神様は柔らかな笑みを浮かべてうなずいた。


「私たちは、貴女から“祝福”を受けるようにと言われました」


パーマの女性が言った。


「ええ、そうでしょう。この神聖なる場所に、【大賢者ユージーン】が人の子を寄越すときは、目的はそれしかありませんから」


大賢者? よくわからないが、彼は凄い人だったのだろうか。


「ここは現世とは隔絶された場所です。本来、地上に生きるものがここに来ることはありえませんし、かかわりあいを持つことも許されません。しかし、このまま魔王がすべての命を滅ぼすことを見過ごすわけにもいかないのです。これは特別な措置だと理解してください」


「俺たちはどうすれば?」


「これより、あなたたちに、“女神の祝福(レジェンダリースキル)”を与えます。これは現世のいかなる魔法や技術とも異なる、特別な能力のことです。使い方次第では、それこそ世界を滅ぼすことすら不可能ではない、非常に強力な力と言えるでしょう」


なんだそれは。そんなもの、受け取っていいのだろうか。そんなに強力な力が手に入るなら、魔王を倒すのも難しくないのか?


「しかし、もう与えられるスキルは三つしか残っていません。あなたたちにはその中から希望のスキルを選んでもらいます」


「三つしか残ってない? どういう意味だ?」


女神様の説明に、金髪の男が疑問を呈した。

すこし言いよどんだのちに、女神様は少し困ったような顔で、口を開く。


「……私が人間にスキルを与えるのは、あなた方が初めてではないということです。これまで、“女神の祝福(レジェンダリースキル)”は幾人にも与えられ、戦士はつくられてきました。彼らは果敢に魔王に挑み、そしてみな殺された……。魔王の討伐は、失敗し続けているのです」


そんな。女神様の特別な加護があってもなお、魔王を倒せたものはいないのか?


「私が与えられるスキルには限りがあります。今回、あなたたち三人に与えるものが最後です。つまり、もうあなたたち以外に戦士が作られることはありません。言いたいことが、わかりますね?」


「……俺たちは、絶対に失敗できない」


「その通りです」


女神様の一言に、肩がズシリと重くなった。


「私が与えられるスキルは、あなたたちを特別な魔法が扱えるようにするものです。“創造魔法”、“時空間魔法”、“特殊補助魔法”。いずれも地上にあるそれとはまったく異なります。あなたたちはこの中から、使えるようになりたい魔法を一つ選んでください」


「“創造魔法”は、地上にない物質を創造することができる魔法です。絶対に摩耗しない剣や、衣服のように軽い鎧……術者の創造力の限り、あらゆる強力な装備を生み出すことができるでしょう。魔王に対抗し得る武器も作れるかもしれません」


「“時空間魔法”は、時間と空間を支配する魔法です。私はもちろん、大賢者ユージーンにも心得があります。このスキルだけはすぐに自在に扱えるようになるわけではありません。延々と実践、反復を繰り返す必要がありますが、たとえそれに一生を費やしたとしても、ろくに使えないまま終わることもあり得ます。想像を絶する努力と忍耐、そしてセンスが必要です。しかし、それほどに強力です。魔王を倒すのであれば、この魔法は不可欠と言わざるを得ないでしょう」


「“特殊補助魔法”は、自分や他者の身体に特殊な効果を与えることができる魔法です。この魔法はすぐに扱えるようになるでしょう。しかしながら性質上、先の二つとは異なり、この魔法だけで魔王に勝つことは難しい。術者がこれをどう扱うかが最も強く問われる魔法と言えます」


女神様からの説明を受け、俺は少し考えてみることにした。

安全なのは創造魔法か特殊補助魔法だろう。時空間魔法は資質の如何によっては習得できない可能性もある以上、安易に選んでいいものではない。

よほど自分に自信がなければ、避けるのが無難だ。

そして、俺にはそれほどの自信はない。

さて、どうしますかと相談しようとした矢先、金髪の男が『もう決まった』と発した。


「俺は創造魔法にする。最強の武器を作って、俺がヤツを殺してやる」


自信に満ち溢れた言い草だった。女神様はこくりとうなずいた。


「【来栖 雷斗(くるす らいと)】。わかりました。他の二人に異論がなければ、あなたに創造魔法を与えます」


来栖 雷斗。金髪の男はそういう名前だったのか。

パーマの女性にも俺にも、特に異論はなかった。先手を打たれたような気がしないでもないが。

女神様は俺たちがうなずいたのを確認して、雷斗のほほに手を触れた。そして目を閉じ、呪文のようなものをぶつぶつと呟き始めた。

女神様の手が淡く光り、その光は雷斗の身体へ吸い込まれるように消えた。


「終わりました。使い方は各自“閲覧(ライブラ)”で後ほど確認してください。さあ、お二人はもう決まりましたか?」


そう言ってこちらを見た女神様と、目がばっちり合ってしまった。逸らすことができない。

横目にパーマの女性を一瞥すると、『お先にどうぞ』と言いたげに促された。

仕方なく、女神様のもとへ近づく。

女神様は優しく微笑み、俺のほほに手を触れた。柔らかく、ほのかに暖かい手の感覚をほほに感じた。


「決めかねていますか?」


「はい……。どっちがいいのか、正直わからなくて」


選びたいのは特殊補助魔法だ。時空間魔法は術者がヘボなら最悪、死にスキルに成り下がる危険性がある。そしてそれは相当にまずい。

時空間魔法を使える者が誰もいなければ、魔王を倒せなくなる。()()()()()()()()

だが、そんな重責を残った女性に押しつけて、自分だけ安牌を取るのもいかがなものか。


「そうですね……。【安場 臨(あんば りん)】、あなたは特殊補助魔法がいいでしょう」


女神様は、当然のように俺の名前も把握していたようだ。しかし特殊補助魔法をすすめるあたり、俺は頼りがいがないだろうか。


「俺は、時空間魔法に向いていませんか?」


「そうではありません。私にはあなたたちの長所が見える。あなたは特殊補助魔法に向いています。そして私の見立てでは【辺見 瑛里奈(へんみ えりな)】、彼女には時空間魔法の十分な素質があります。安心して、託して良いのではないですか?」


驚いた。パーマの女性――辺見 瑛里奈に時空間魔法を残すこと、それを気にかけていたこと、女神様にはすべてお見通しらしい。


「わかってたんですか、俺の考えてたこと」


「ええ。あなたは優しい人間です。特殊補助魔法は、全体を考え、自分よりも他者を優先できる者に相応しい。だから、あなたに向いていると考えました。いかがですか?」


そう言ってまた優しく微笑んだ女神様に、ほっとした。そういうことなら、特殊補助魔法を選ばせてもらおう。

俺がうなずくと、女神様は再び呪文を口にし手が発光させた。暖かく、心地の良い光だった。光が俺の体内に吸収され、女神様の呪文が終わると、体の芯から力がみなぎるようだった。


これで俺は、特殊補助魔法とやらを使えるようになった……ということなのか。


『使い方は“閲覧(ライブラ)”を確認してくれ』と、先ほど女神様は言っていた。まず“閲覧(ライブラ)”がなんなのか知らないので、聞こうとしたときだった。


「……!」


突然、女神様の表情が険しくなった。


「……まずい、来ます」


女神様がつぶやいた。


「瑛里奈! 急いでこちらへ! スキルを受け取りなさい! 魔王が来ます!」


女神様が、焦燥を隠さずに声を荒げた。緊張が走り、俺は一瞬硬直したが、それは雷斗も瑛里奈も同じだった。

瑛里奈ははっとして女神様に駆け寄り、女神様はすぐさま詠唱を開始。瑛里奈に時空間魔法のスキルを与えた。

付与を終えたところで、女神様はぽろりと涙をこぼした。


「ユージーンは……殺されたようです。今ここであなたたちを失うわけにはいかない。三人とも、私の傍へ! 時間を巻き戻し、崩壊前の地上へあなたたちを転送します!」


俺たちは、すぐさま女神様を囲む形で集まった。女神様が今度は先ほどと異なる呪文の詠唱をはじめた。

そのとき、神殿の壁が崩壊し、外から()()が入ってきたのが、一瞬見えた。

しかし、見えたのはそれだけだった。


「さようなら、人の子らよ。この世界を頼みます」


女神様がそうつぶやいたのが聞こえて、直後に俺たちはその場から消失したからだ。



**


俺の名前は安場 臨(あんば りん)。都内の無名な私立大学に通う三年生。学部は経済。

我ながら、自分はつまらない男だと思う。

勉強もスポーツもパッとしない。人に誇れるような長所も、笑い話にできるような特徴もない。何かに熱中した経験なんてないし、女の子と付き合ったこともない。

もう二十年生きているのに、俺は他人から必要とされたことが一度もなかった。


まだ状況はいまいち理解できていない。

大賢者ユージーンにも、女神様にも聞きたいことはまだまだ山ほどある。

俺の家族や知り合いはどうなったのか、魔王とはなんなのか、何故俺を選んだのか。

疑問は次から次へとわいてくる。

それでも、やるしかないという気分にはなっている。不思議だ。


俺に残されているだろうか。

もう一つの世界、アルズウェイズ。この新しい世界で、誰かの役に立ち、必要とされるチャンスが。








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