終 with you
お昼ご飯。
私は学食でいいじゃないかと言ったのだけど、礼さんがそれを良しとしなかった。どうせ時間も有り余っているし、快気祝いに奢ってやると言ったので、近所のファミレスまで二人で歩くことになった。
礼さんと手を繋いで、学校近くの道を行く。なぜ手を繋ぐ必要があるのかと尋ねたら「お前はそそっかしいから、また事故に遭わないように」とのことだ。小さい頃はいつも礼さんと手を繋いで歩いていたから、私としては特に違和感は感じないけれど。
その途中で、礼さんはこんなことを言った。
「ルナに会えて、満足したか?」
「うん。……ありがとう、礼さん。会わせてくれて」
「いや」
いいんだ。ぽつりとそう言った。
自転車が正面から走ってきたから、礼さんは私を背後に庇う。そういえば礼さんは、昔から私に車道側を歩かせなかったな、と今になってようやく気づいた。果たしてあの世界の『私』は、そのことに気づいていたのだろうか。
けれどそれは私の住む世界の私ではない。小さくかぶりを振った。
私はどうでもいいことを礼さんに尋ねる。
「ねえ礼さん、何食べようね」
「ん……」
他愛ない問いかけのはずだった私のそれに、けれど礼さんは曖昧な返事をした。
どうかしたのだろうかと思っていると、彼は私を見ないままにぽつりと、
「……あのさ、亜由美」
私の名を呼んだ。
他の誰のものでもない私の名を。
「うん?」
「いや……」
呟くと。
彼は不思議そうな表情で、空を見上げた。
「わかんね。けど――今、なんか。なんでだかわかんねえけど。
……でも、言っておきたいと思って」
「何を?」
首を傾げて、問いかける。
すると礼さんはどこか苦しげに、悲しげに、きゅうっと眉根を寄せた。
「俺な、この間っから、なんか変な感じなんだ。
すっげえ昔に無くしたもんを、ずっと探してて、長い長い時間かけてようやく見つけられたような感じっつか、むかーし持ってた大事なもんを、大切だったもんを、やっと見つけられたような……遠い昔に別れた大事な人に、ようやく会えたような。
なんか、変な。すっげー変な感じ」
「……礼さん」
名を呼びながら、礼さんを見上げる。
彼は少しばつの悪そうな表情で私を見た。
だから、私は。
「もしかして詩人志望?」
「違うっ!」
違うのか。
彼は私から顔を背けると、
「そうじゃなくてさ、俺……」
もごもごと、口の中で何かを言う。
何かを言うのを迷っているようでもあった。
だから私は、礼さんの手を握る力を少しだけ強めて、軽く振った。すると礼さんが驚いたように私を見るから、私はただ、何も言わずに礼さんに笑いかけた。
と、彼もいつものように笑った。
笑って、私の手を握り返してくれた。
「俺は……」
私の手をしっかりと握り、そして視線は前を向いて。
そうして礼さんが――この世界の礼さんが。
この世界に生きる私に言う、そのことのはは――
俺はお前と、ともに生きたい。
「しあわせのかたち」
稚拙ながら一作品、長編を公開させていただきました。
未熟な出来ではありますが、ご覧下さった方の暇潰しにでもなれたなら幸いです。
「あとがき」に何を書くべきか思いつかず、「終」の掲載だけ遅れてしまってごめんなさい。
それでも最後までお付き合い下さり、ありがとうございました。
誤字脱字の発見やご感想・ご意見等ありましたら、感想・評価欄、もしくはメッセージにて一言頂けたら嬉しいです。どうぞよろしくお願いします。
長らくのお付き合いを、本当にありがとうございました。
別の作品でもお相手して頂けたら幸いです。




