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妖精の子  作者: 春滝
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07

「よく戻りましたね、ヤチ」


「助かった、妖精の子よ」


妖精郷で待っていたのはヤチを心配した妖精達、それとウズウズという音が聞こえてきそうなティターニアと治療を受けていた賢狼の長だった。

賢狼の長はヤチ達の救援を呼ぶ為に全力でスプリガンの元、それにティターニアの元に向かった結果、邪狼との戦いの傷が開いたのだ。

と言っても既に治療を受けているので問題は無かったが。

そしてティターニアは先程からヤチに抱きつきたくて堪らないのだが、賢狼の長の前なので流石に耐えていた。


「私はすぐ様ヤチの治療を行います、話はその後でよろしいですか」


「構わぬ、すぐに妖精の子を治療をしてやると良い」


ティターニアは賢狼の答えを聞くやいなやエアリに目を向ける、早く2人きりにさせろと。

スプリガンは既にティターニアの横に移動しており、エアリは仕方なくヤチの傍を離れた。

するとティターニアはヤチの背中を押しながらその場からそそくさと離れて行った。

その光景は賢狼の長の目を点にさせ、エアリに溜め息を吐かせ、スプリガンは黙って立っていた。


「ヤチ、大丈夫ですか?怪我は何処ですか?今から全力で治しますからね!」


「だ、大丈夫ですよティターニア様」


皆の視線の届かない所に来た瞬間、ティターニアは先程までの妖精郷の女王としての顔を崩し、ヤチを心配する駄々甘な保護者の顔になった。

その状態やヤチすらも軽く引かせる程だが、ヤチも自分を心配しての事だと分かっているので強くは言わなかった。


「全く、心配したんですからね!分かってますか?」


「は、はい、ごめんなさい」


ヤチの謝る姿にティターニアは胸を貫かれる。

このままいけばティターニアはヤチに殺されてしまうかもしれないと思わせた。


「わ、分かればいいんですよ」


なのでティターニアは早急にヤチの治療に当たる事にする、時間をかけ過ぎては周りを心配させてしまうからだ。

それさえ無ければこのまま堪能するのも悪くは無いと思ってはいるが。

軽い傷はここに来るまでに他の妖精達から回復魔法をかけて貰っているが完治した訳では無かった。

なのでティターニアが最後の仕上げをするのだ。


「森の命をかの者に、森命生癒」


ティターニアはこの森から少しずつ命を受け取るとそれを少しずつヤチに流し込んでいく。

森から奪い過ぎるのも、ヤチに与え過ぎてもいけない、慎重に力を行使する。

森林魔導、森の力を借りて行う奇跡の力。

ティターニアはその力を使う為に他の妖精とは違う姿を手に入れたのだった。


「これで大丈夫ですか、ヤチ?」


「はい、怪我一つありません」


命を直接与える、普通の魔法とは違うその力はヤチの全身を完治させた。

外部から治癒を行う普通の魔法とは異なり、内部から全身を活性化させるその力は大きい。

ヤチは自分の身体を軽く動かし、その動きがいつも以上だと実感する。


「ありがとうございました、ティターニア様」


「無茶してはいけませんよ、ヤチ」


そんなティターニアの言葉にヤチは笑顔で応えるが言葉は発しなかった、そしてそれに対してティターニアも何も言わなかった。

何故なら2人ともそれが無理だと分かっているから、それがヤチという少年だから。

それにこれから、


「ティターニア様、戻りましょう」


そこまでティターニアが考えた所でヤチが声をかけてきた。

なのでティターニアは先程までの考えを頭の中から消し去り、ヤチと共に向かうのだった。


「ふぅ、終わったなあ」


その日、賢狼の一族と妖精達は無事に事を終えた事を祝って夜まで宴を開いた。

そこでヤチは邪狼を討伐した功績者という事で先程まで皆から賞賛を受けていた。

そしてようやく、夜遅いという事で解放されたヤチは一人でいた。

今回の一件、皆は褒めてくれたがヤチからすればそれは大き過ぎる物であった。

結果として上手くいったがそれはスプリガンという存在があっての事、もしいなかったら前提から崩れていた。

そしてそれはヤチに力不足を実感させ、今は一人で今回の事を振り返っていたのだった。


「こんな所にいたのね、ヤチ」


そんなヤチに声をかけてきたのはエアリだ。

彼女はヤチが離れた理由を察して先程まで一人にさせていたが、戻りの遅いヤチを心配して迎えに来たのだった。

ちなみに、本当はティターニアが探しに行きたかったのだが周りに説得されて自重したりする。

エアリは地面に座るヤチの横に座るとその体をヤチの方へと倒す、妖精であるエアリはその重さを殆ど感じさせなかった。


「まだ悔やんでいるの?」


先に口を開いたのはエアリだった、そして聞かれた内容はヤチにとって予想の内である。

だからと言って良い答えがある訳では無いが、ヤチは不甲斐ない自分に溜め息を吐くとエアリに話す事にする。


「うん、今日の事で力不足を実感したから」


力不足、ヤチの悩みはこれに尽きた。

ヤチはこれまでスプリガンとの修行を欠かした事は無かった、故に少なからずヤチには自信が湧いていた。

スプリガンには敵わなくとも、妖精郷を守護するに値する力が付いて来ているのではと。

しかし現実はそうでは無かった、スプリガンがいなければ死んでいたかもしれない。

いくら途中が上手くいっていたとしても、最後の一手だけが悪かったとしても、その事実は変わらない。

ヤチにとって今回の事は自分の力不足を只々実感させられたのだった。

しかしエアリの考えは違った。


「でもさ、今回のあれとスプリガン様は姿が違うじゃない?

初めての相手にヤチは頑張ったじゃない」


ヤチの修行の相手であるスプリガンは人型、対して今回の邪狼は四脚の獣である。

当然の事ながらここは妖精郷、住むのは妖精である。

その大きさや大人の頭程あるかないか、そんな大きさでは当然ヤチの相手など出来ない。

例外がティターニアとスプリガンだが、ティターニアと戦う訳にはいかないので当然相手はスプリガンのみとなる。

いくら人型に対して修行をしたとしても今回の敵は姿が違う、つまり基礎となる特訓以外が通じないという事だった。

それにヤチにとっての実戦は今回が初めてでもあった。

妖精郷は基本的にティターニアの力で外敵が進入する事が無い、そしてもしもがあった時はスプリガンが対処をする。

そしてヤチが修行している間にそのもしもの機会は無い、今回もこちらから対処しに行った形になる。

つまり、ヤチが実戦を経験する機会は無く、修行相手が人型であるスプリガンのみしかいなかった事。

その2つが今回、ヤチが邪狼に対して優位に働かなかった理由だとエアリは考えていた。

その上でヤチは初めての四脚、初めての実戦だというのに勝利を収める目前までいっていた。


「だから後は経験だと思うわ、そうすればスプリガン様にも匹敵する実力がつくに違いない」


「そうかな?」


「そうよ、姉である私が言うんだから」


エアリはヤチを慰める様に言った、結局の所それが目的なのだ。

ヤチはまだ幼い、エアリもそう年が離れている訳ではないが。

それでもエアリはヤチより年上であり姉なのだ、ならば姉がする事は弟を元気づける事である。

そしてヤチもそんな姉の心意気を感じ、元気が湧いてくるのだった。

今回はダメだったかもしれない、それなら次があるのだ。

ヤチは次の機会への闘志を燃やし、より修行に打ち込む事を決意するのだった。

その次の機会が、そう遠い物だとは知らずに。

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