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対話

 実に君の知見には感心させられているよ。我らは本の紙魚のように書物に張り付いている生活が長いのだから、野山での観察行為については乏しいと言わざるを得ないよ。

 恐縮です、そしてご謙遜を。神人の知識たるや人間などその服の裾をちらりと見たに過ぎません。

 それでも君の専攻たる分類学は自然科学においては神人の知識の枠を外れるだろうね。こと哲学分野においては神人の蓄積はかなりのものだが、いずれそこにおいても自然科学を取り入れることになるには違いない。知恵ある動物がその知恵を宗教的な感慨の外へ由来を求めるためには、志向性の問題がつとに重要になるだずだからね。そして、それは向光性にも似た動物的な選択に過ぎないのだろうから。

 私ごときでは恐れながらそのお話も入り口までしか理解できないところです。とはいえ知恵ある者が分類をその知恵の根拠としているとは、逆説的に私の信仰でもあります。似ているものと違うものを見分けることは根源的には本能の他にないと思われますので。

 愉快だな、君は。今後は何度か語り合う日を設けよう。呼び立ててしまうが事前に伝えるよう侍従には命じておく。

 まことに喜びと感じます。

 それで今晩の主菜に移るが、竜と神人の共通性についてということであったな。そう、君くらいであろうな、神人と竜とを同一の起源に求める者は幾人かはおれどそれを直接に問うてくるとは。

 不快であればお詫びを。

 そのようなことはないな。疑問に持つ者を待っていたような心持ちでさえあった。そうだな不思議には思うだろう。つまり君はこう言いたいわけだ、自身を殺すなどと、この人はどういうつもりなのだろう!

 恐れながら。

 ははは、その直截さは貴重な資質だろうとも。しかし、その問いに答えるのは容易ではない。その難解さは大地に咲く花を眺めている時の気持ちを言葉にすることに似ている。如何様に言葉を尽くしても体感以上になることはないからだ。そして私と同じ境遇にある者を探すことはほぼ不可能だろう。それは私が神人である以上に私の身体にプトキ・ルルの身体が入り込んでいることに由来するのだから。

 竜の思考というものが陛下の思考と合一なされたということと愚考いたしますが。

 然り。しかしそれを説明するのは難しいことも君なら想像できよう。竜の思考は言語ではない。とはいえ人間の思考とてすべて言語でできているのではない。いわばそれは宗教的な感覚に似ている。人間の宗教と竜の宗教の違いについて語るのがよかろう。まず人間の宗教は中心を立てることを根本としている。

 浅学にして中心を立てるという意味がわかりかねます。

 中心を立てるとは、中心の柱を立てるということだ。それは人間だけでなく神人もそうなのだが、草原にあって睡眠をとるとき、木があればそこに寄るだろう。木がなくともなんらかの物品に寄り添うはずだ。それは不安を紛らわす行為でありつつも、根源には中心を求める気持ちがある。住処には中心が必要だ。集落の中心には神殿がある。

 人が個々人であることにも中心がある。自分を中心にせねばならぬのだ。しかし、竜には中心がない。竜は何物にも寄り添わぬ。大地に横たわる際、自分の身体すら必要とはしないのだ。竜は永遠に生き、永遠にそこにある。そのような者がいかなる思考を持つか。

 長命である陛下のお考えも私には及ばぬ深遠なものであるのに、それが永遠ともなれば想像することもできません。しかし、それでもなおの質問をお許しいただけるなら、永遠の命を持ち、中心を持たぬということをもう少しでも。

 自らの精神が自らのものでないという気持ちだ。操られているのというのではない。自らが大地や大気と同化したようなものだ。動物が体内にいる細菌のことを考えたことはないだろうし、細菌もそうだろうとは思うが、もし細菌に動物の気持ちがわかったなら、自分の生活圏すべてが大きな流れのひとつに過ぎず、自分が自分で決めていた行動すら大きな流れの中にある必然だったと知るだろう。それでいて自分の小さな行動が大きな意識を動かしているということも。細菌の喩えをまた使うならば、空腹を告げるのは腸内細菌の自由意思だという感覚だ。動物は食事の嗜好を細菌によって決められている。

 実に驚きです。私もそのように考えていました! いえ……身の程を知らぬことを言いました。陛下と似た考えをしていたなどと……。

 いいのだ。真理に気づくとはそのようなことだ。それに気づけた自分を誇らねば! それにもとより我らはひとつであり大きな流れの中にある。すべてが還るのだとも、やがて大きなものに、流れの中に……。

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