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竜学

 竜の大きさや大体の生態については以前に書いた。後にも折に触れてそれらについて書くことになろうだろうが、ここでは解剖学的特徴について解説しておこうと思う。


 竜は生物の種別としては新しい門を用意せねばならぬものである。なお分類は「生物」を最大とし、以下「界」「門」「網」「目」「科」「属」「種」としているから、門からの新種とするのはかなり大胆な説となる。もっとも生物ですら無いと主張する学者もいるので、どこに分類すれば順当なのかについては意見は分かれる。ともあれ「界」となると、動物でなければ、菌類や植物になるのであるから、まず竜は動物としておくことにしようではないか。もっとも最新の研究となるイロナの説を取り入れるなら、新種の「界」だとしてもおかしくはないのだが。


 さて、ひとまず竜を動物と落ち着けておいて、まずは外見的特徴から見ていこう。竜の身体は前後に長く、六本の足を持っている。背中には一対の羽根があるが、これは長い指の骨の間に膜が張った構造で、すなわち羽根も足と数えてのことだ。外見上は前足、羽根、後ろ足という具合。身体と一体化した尻尾と長い首をそなえており、これは他のどの生物とも似ていない。全身は鱗に覆われており、例外は羽根である。


 すでにして他の生物と似ていない特徴は多いが、私の私見は後に回すとして、とりあえずは脊椎動物という扱いで問題はないように思える。頭から順番に詳しく見ていこう。まず頭部は爬虫網双弓類のそれに似る。平たく言えばワニに近い。頭骨には眼窩、鼻腔の他、頭部後方にふたつの頭窓と呼ばれる穴が空いており、ここに筋肉が付着することにより咀嚼力を高める構造だ。歯はソケット状に空いた穴に一本ずつ生えている。通常、この構造だと歯は再生しないはずなのだが、竜は例外的にいくらでも歯が生えてくる。種類によっては頭部に角があるものもあるが、これは鱗が変化したもので、頭骨から生えているものではない。


 首は長いが、骨の数は十三。かなり自由に動き、後方を見ることも可能だ。それも現存生物としては特殊だが、より変わっているのはいわゆる肩甲骨の構造である。肋骨より外側に非常に大きく蝶の羽のように拡がった肩甲骨は、前足と同時に羽根の芯となる中足にも繋がっている。なお前足がいわゆる前鋸筋に依存した部位についているのに対し、中足は発達した胸筋に繋がっておりそれが飛行の原動力となっている。つまり、本来的な意味では前足と中足は逆となるわけだが、慣例に従いこの後も特に断らない場合、羽根を足とはしないでおこう。指はどれも五本で、羽根に限り親指以外の指は長く伸びている。そして指の間の膜が羽を形成しているわけだ。この羽根は器用に動き、風をとらえる役に立っているようだ。だが前足は器用に動きはするものの、親指の独立性はなく、他の指と並んで生えているので霊長類のように物をつかむことには不向きである。これは後ろ足も同様だ。その後ろ足は竜の立ち姿に関係している。竜は四足歩行を得意とはしておらず、前足に比べて数倍の筋力を持つ後ろ足で立ち上がることで二足歩行する。尻尾と首でバランスをとるため歩行時の身体は斜めとなる。


 さて個々の身体特徴はここまでとして、種全体の特徴に移る。竜が種によって異なる外観をしている部分は、主に鱗の色である。自然、分類もその色によるものになる。鱗はまるで自然に存在する鉱物を模しているように思える。そして、その金属の稀少さに応じて竜の偉大さも変化しているようだ。ここでいう偉大さとは、すなわち大きさである。竜は大きいほど狡猾になりその凶暴性も増すと言われているが、私見ではこれは事実である。


 最も小さい類いは石英竜と呼ばれる白竜だ。一サージェンほどしかない場合もある。続いて鉄にも似た黒竜。これも白龍とほぼ同程度のサイズとなる。そして硫黄の黄竜、ここからサイズは一気に大きくなり、銅の赤竜、銀の銀竜、黄金の金竜となる。プトキ・ルルを例外とすれば、これらは一〇サージェン前後にまでなる。


 ところで個々までの記述では、竜が生物でないという結論は導けないだろう。竜の最大の特徴は不死にある。何を持って死んだというか、という哲学的問題などではなく、竜は身体をバラバラにしても各々の部位が動き続けるという純粋な観測結果がある。竜を狩る手順については後にお目にかけるが、そこが最大の問題となるのは当然だ。その答えは頭部にある。そこには他の動物と同じように脳があり、それが各部に指令を出していることも同様だ。竜の動きを縛ったなら、首を切り落としてしまうというのが竜狩りの仕上げだ。そうすることにより、竜の身体の動きは志向性のないものになり、動く肉塊へと分解できるようになるわけである。


 ……やや話がそれた。この不死性は他の生物にはないものであり、竜の最大の謎のひとつである。そのため今では私も竜を「界」と考えるにやぶさかではない。それは「動鉱物界」とでも名付けようか。私は竜を動く鉱物と考えはじめている。根拠については後にまた示されることになるだろう。

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