白昼に我ら竜を求めて
王の人気に陰りが出ているとはいえ討伐隊の出発式典が寂しいものになるはずはなかった。『殺竜号』の第一、第二トレーラーだけを接続したものが城を出発し、他の車列は市の外で合流する手はずである。
第一トレーラーは王の仮住まいであり、第二トレーラーは音楽ステージだ。出発時には無論オルヴォの手になる音楽が演奏されることになっている。そして私も今回の討伐行においては楽隊の一員なので、しっかりと正装をして第二トレーラーに乗り込んでいた。編成は通常三十人のところを半分に絞って十五名。全員分の寝台が備わった居住空間がステージ脇にあり、これは外壁が開かない構造になっている。もちろんステージは開閉式の屋根と横壁を備え、以前のそれと同じように竜の骨の音楽増幅壁が背後に設置されていた。
第一トレーラーの上部には竜を発見するための見張り台がある。これは屋根の上に設置された座席であり、今は王がそこに座っている。見送りの市民たちに顔を見せるためだ。
間違いなく出発準備でいちばん忙しかったのは楽隊だろう。旅に不慣れな者ばかり集まり、前例のない準備をしたのだから。楽隊参加者はオルヴォの集めた正規の音楽教育からは脱落した人々で、今回の参加はなんでもいいから音楽で収入を得たいと考えている者が多かった。ほぼ私と同年齢の気の良い奴らばかりで、誰もが音楽で食事を得られることに感謝し、これからの冒険に胸を躍らせていた。その熱気の中で過ごすことは私にも心地よかった。出発の時間直前まで忙しく過ごせたことで余計なことを考えずに済んだということも今の心情的には助かることだった。
『殺竜号』運転はワイノであった。いよいよ時間となり、彼が王の指示で出発の合図にホーンを鳴らした。市民たちが見守る中、ゆっくりと車は進み出す。第二トレーラーのステージ扉は開いたままで楽隊も控えているが、まだ演奏の指示は無い。最初に王が皆に挨拶をされることになっていたのだ。
城前の沿道は人々で埋め尽くされていた。親衛隊が道を塞いで並び、人々が前に出ないように警護しているのがステージからだとよく見える。以前よりも親衛隊の人数が増えていることが気になった。それはとりもなおさず王に危険が迫っていることを意味している。やはりあのお触れによって人間主義者たちの活動が活発になってきているのではないか。そう考えていた矢先、車が城よりそれほど離れていない位置にさしかかった頃、沿道にいた男がいきなり声をあげたのである。
「報いを受けよ!」
それは王に向けての罵声だった。そして男は言葉と同時に拳銃を頭上に掲げていた。親衛隊が男に駆け寄るより発砲の方が速かった。私の位置からは沿道の様子がよく見えていたからわかったが、他の者にはいきなり銃声が響いただけに聞こえただろう。銃声は三発にわたり響き、その後は男が親衛隊に取り押さえられる際の怒号だけとなった。
王は? と第一トレーラーの上部を見やると、なんと王は平然と人々の様子を見下ろして静まれと手を動かしているではないか。
「問題ない。私は死なぬ」
そう言うと王は右手で掲げた左の腕を指さした。プトキ・ルルの鱗によって作られた左腕に、わずかにへこみがあった。銃弾はそこに命中したというわけだ。
親衛隊のうち身辺警護として討伐隊に参加していたヤッキマがトレーラーの屋根に上がり、王に中に入るようにと促した。王は逃げるように下がるという体になるのは嫌なのか、ゆっくりりと沿道に手を振りながら中に入っていく。そして『殺竜号』には加速が指示されたのか、パレードのそれから市内を事故無く走れる程度の速度へと変わる。楽隊のトレーラーを閉じろという指示はなかったが、結局、市内で演奏をすることなく、『殺竜号』は慌ただしくロートゥアを後にした。
なんとも不完全燃焼な気分に楽隊一同はうなだれた。「家族に見るように言っていたんだけどな」などと第一バイオリンの若者がぼやいていた。すると第一トレーラーと第二トレーラーの接合部から顔を出してきた侍女が私の名を呼んだ。何事かと応対すると「部隊が全員揃ったとき、演奏を予定通り行うようにと王のご命令です」とのこと。その言葉は楽隊の皆にも聞こえていた。おお、と歓声があがり、全員が顔をほころばせた。
我らの歌は市民に聴かせるためにあらず。ただ自らのために歌を奏でん。見よ、砂煙を立て、仲間たちがやってきた。百もの車が我々の背後に車列を形成していく。無謀にも竜に挑む男たちの先頭に立つは銃弾にもひるまぬ狂気の王。そして、これから死地に赴く荒くれどもを鼓舞せんと歌うのはロートゥア五百年の歴史でも初の竜狩りの歌姫。広大な荒野に永遠に残れとばかりに曲を響かせん。
永遠の荒野に行かん
勇気以外の心は無用なり
神話の時代より定められた運命
竜を狩る
地獄より吹き荒れろ黒き風
狂気の銛は我らの手にある
竜に死を
悪魔の門をくぐれ
我が王は赤く輝く瞳を持つ
すべてを燃やし尽くす炎が味方
竜を狩る
永遠の戦いこそ我らの喜び
首狩りの剣が唸りを上げる
竜に死を




