討伐隊の編成
プトキ・ルル討伐行への参加者は竜狩りが主だったのだが、彼らをリャンごときがまとめられるはずもなく、実質のリーダーはワイノ・ヤイノという『鉄人社』の社長となった。『巨匠団』と並んで王手の竜狩り社で、ワイノの人柄からするに『巨匠団』とは正反対の社風だったようだ。つまりワイノは先頭に立つタイプの人物でありながら、慎重で無茶はしないタイプ。夢のようなことは語らず、精神論も排するという実直な人柄で、人望はかなりのものだった。背はかなり低いが筋肉による身体の厚みは相当で、足を短く改良された種の猟犬を思わせるスタイル。冷静な小型爆弾なるあだ名がついていたのは、彼が竜狩りの仕上げである首狩りを一人で成し遂げた際の様子からだそうだ。
私がリャンについて評価できるのは自分の力が及ばないことは他人に任せられるところで、評価できないのは自身の利益保護のために間接的に他人を犠牲にするところである。それらは表裏一体というわけで、今回もワイノ登用は良かったが、それを理由に『白蜈蚣』の資産を討伐行にさほど投入しないという小狡い立ち回りを見せていた。それでもワイノはそれを知りながら実利を計算する強かさと賢さを見せていた。
「王の御前じゃ言えないが、こんなことやっても実入りはねぇ。名誉だって俺はさほど入るとは思ってねぇ。そうなるとなんとか実利があるように計画自体を設定しなおさなくちゃならないってこった」
ワイノはきっぱりとリャンに言い切っていくつかの要求を呑ませた。中でも最大の要求は竜狩り組合に竜狩りについての王が持っている権利を委譲することと、竜狩り組合所属者への年金の支給だった。組合長がワイノなので実質、彼が権力を握るための要求との反発はあったが、ワイノの「竜狩り自体がなくなるに決まってるじゃねぇか。竜の数は増えやしねぇんだ。プトキ・ルルを狩ったら竜狩り自体が無くなるんだぞ」との言葉で組合の一致した要求となったのである。
それでもプトキ・ルル討伐隊は竜狩り全員を動員にするような規模にはならなかった。年金支給が徒になった形である。命を危険にさらさずに金がもらえる方が良いと考える者も多数だったからだ。私が竜狩りに抱いていた憧れは実態を知るにつけ目減りし続けているが、結局のところ職業が崇高さを担保するものではないというだけだ。高潔な個人はどこにいても高潔なのであろう。
編成はゲルマンの工場で作られた四連トレーラーのかつてない大型ハーレである王の御座車『殺竜号』を中心に、ハーレ三台、ヘボネン十五台、コイラ三十台という編成となった。御座車である『殺竜号』――なんとも直接的な名だ!――は竜の解体場と指揮、および音楽演奏という役割であり、必要物資の輸送は他の三台が受け持つ。すなわち、給水車と食料車、武器車である。ヘボネンは各社持ち寄りであるため指揮系統に適合させるのは難しかったが、それでも三台一チームの編成とすることとなった。最悪の場合、三台で竜狩りを完遂し、逃亡も可能という構えである。銛打ち二台に輸送一台という具合。そしてコイラは、五台六チーム。これは色で分けられ指揮の下に連携を行うことになった。赤、青、黄、緑、白、黒。竜狩り序盤では打ち込んだ銛の固定にアンカーが使用されるが、これは地面に食い込まなければ抜けてしまう類のもので、銛を打ち込まれた竜の逃亡方向が成果に大きく影響する。コイラの連携で竜を追い込んでいくのである。
ワイノは手練れで経験も豊富であるため、新人を前によく心構えを説いていた。それによれば、竜狩りにでは無茶をしないことが肝要なのだという。
「竜に銛を打ち込むことができれば、しばらくは抜けないし、ことによれば竜の再生能力によりそれこそ銛は永久に抜けない。つまり、一回で仕留める必要はないわけだ」
何より忍耐なのだとワイノは言う。
「速度的にはハーレですら竜よりも速い。ルートによって長引くこともあるが、逃した竜には長くとも数日で追いつける」
そのためどれだけ小さく見えても危険は避けるというのがワイノの流儀であり、それを今回は徹底すべきと念を押す。
「銛を打ち込んだ後のロープがコイラや人間に絡みそうになったら、即座にロープを切ってしまえばいい。多少危ない、程度でもだ。その判断をした者を臆病者と呼ぶのは許さないし、無謀をした者を勇気があると褒めることもしない」
なるほどワイノは頼りになる。竜狩りの精神を体現しているかのような人物だ。
しかし、一抹の不安はある。王の命令とワイノの命令がぶつかり合ったとき、どちらを優先すべきかということだ。新人の間からその質問がされることはついになかった。当然ながら公にすべき質問でもないことは承知していたので、私は後にこっそりとワイノにそれを聞いてみた。
「俺もそれだけが不安なんだ」
ワイノはどこまでも実直な男なのだった。




