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エンジンの構造

 プトキ・ルル討伐行を急ぐことになってはいるが、準備に必要な時間はどうしても短くはならない。特に車の準備には時間がかかった。ハーレ()を改造し、まさしく御座ハーレに仕立て上げる必要があったのである。


 改造にあたったのは製造メーカー王手『グローム』の技術チームだった。私は忙しいリャンに代わって王側からの要望を伝える役割を担っていたのだが、この作業場に来るのは純粋に楽しかった。ハーレに限らず大型車両を組み立てることができるこの作業場は、いわば設備を職人の自由に配置できる工場であり、今回のような特大の車両組み立てとなると、組まれた足場も動いている機械もすべてが大きくて子供心が甦ってくるのだ。


 屋根がついているのに中で球技ができそうな空間の真ん中に、今まさに改装が進められている住居サイズのトレーラーが置かれていて、その周囲を金属パイプで組まれた足場が覆っている。夏場に道ばたで蝉を解体する蟻の動きに感心することはあるが、かくやというような動きで職人たちが忙しく働いている。足場の横に設置したクレーンで吊した動力機をトレーラーに積み込もうとしている様などはずっと見ていても飽きないものだった。


 そんなわけで王の行いなどで世間がうるさくなるとここに逃げ込んでいた私だったが、作業場のチームは暖かく迎えてくれた。私が工事に疎いこともあり、納期をやかましく言わなかったことも一因だったろう。さらに彼らは、普段は実用一辺倒の車両改造ばかりしているためか、妙な注文が多い今回の事業を楽しんでいる風でもあった。通常、竜の解体設備と宿泊、並びに物資輸送の意味を持つハーレであっても、トレーラーを二台以上繋げて牽引することはないわけだが、今回の注文は四台を連結せよとのもの。前述の二用途に加えて、王の居住用、楽隊のステージ、である。二台ずつで別の牽引車に分ければ良かろうとの案は当然ごく初期に出たが、王の要望とのことで必須条件となってしまったのだ。


「まぁ前回が分割だったことで失敗したことがあったのだろう。おかげで四連トレーラーなどという面白いものを作れる」


 チームを率いるゲルマン主任が面白そうに言った。王が語らずにいた前回の討伐行に車を提供したのもゲルマン主任とのことだ。太っていて硬く黒い髭を顔中に生やした中年で、たたき上げの技師なのだという。彼は真の意味で鷹揚だった。知り合ってしばらく経ち、私が竜狩りに参加するのだということを聞くと、もしもの時に困るだろうというので、私は彼から運転とちょっとしたメンテナンスを教えてくれさえしたのである。


「エンジンの仕組みってのは非常に簡単なんだ」


 ゲルマンは組み上がっているエンジンを私に見せて仕組みを解説した。


「シリンダーの中をピストンが上下して、それをクランクで回転に変える。シリンダーは材質はなんでもいいが、その一部を竜の鱗で覆う。俗にはおまじないと言われているが、その通りで、こいつがないと何故か竜の筋肉は動かない。で、ご存じの通りシリンダーには竜の筋肉が入っていて、こいつが収縮してピストンを動かす。筋肉は永遠に動き続けるが、それはやはり竜から採れる油脂を入れたときだけだ。シリンダーにはこの液状化した油脂を出し入れする管がついていて、これで出力を調整できる。もっとも微調整はできない。ほぼ最高出力で動くか、止まるか、くらいだ。止まっていないと具合が悪いときも多いからそうしているだけでな。音が気にならなければクラッチを外せばいい。回転部はクラッチで変速ギアに接続されている。どちらかといえばメンテナンスはギアの方が問題かもしれない。ピストンはなんだかんだで頑丈だからな。で、ギアはこのエンジンの車にとってはかなり重要になる。さっきも言ったがピストンは融通が利かないので、実質、一定の速度でしか動かない。速度はエンジンの大きさによって決まり、大きいほど速いという厄介な性質だ。もっとも大型ピストンを搭載できる大型車となるとギアボックスも大型にできるからいいんだが」


 私は竜とその永遠性について衝撃的な話を聞いたばかりだったので、エンジンの質問をいくつかした後、ゲルマンに聞いてみたことがある。


「結局、なんで竜の筋肉は動き続けるんです?」


 するとゲルマンは声を上げて笑った。


「そいつはわからない! 俺も技師だから竜以外に永久機関は無いことも知っている。だから不思議なこともあるもんだとしかね。ただあんたは学問をやってる人だから少し突っ込んだ話をすると、通常のエンジンでおこる発熱が起こらないことは異常だってとこまではわかってる。熱がピストン時に発生するのは確かなんだが、その熱はなぜかピストン内部で動力に使用されてしまうってわけだ」


 その内容はイロナの言葉と矛盾するものではなかった。


「わかりました。動くなら問題ない、と」


 私は言った。


「そいつが人智を越えていても、問題があるまでは使えばいいのさ」


 なるほど、その通りだ。だが、真の問題とは、問題とわかった時、それを止められるかどうかなのだ。

※ 竜狩猟用の大型車。

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