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誘拐者を狩る

 現地の林はこぢんまりとしたもので、ロートゥアからそう離れてはいない。古い都市の近郊にある森林は比較的新しいものが多いものだが、ここも例外でなく、砂漠化を食い止める目的で植林されたものだ。それでも十年もすると動物も鳥も住み着いてしまうもので、ちょっとした狩猟ならば行える程度に自然豊かであるといっていい。


 ロートゥアが帝国では東限であり、そこから先は砂漠と草原地帯の折衷のような地形がどこまでも続いている。これはどこまでも続く平原であり、だからこそ車での遠征が可能になっているのだが、その様子は海と船の関係に似ているところもある。この林もそれなりにロートゥアから距離はあるのだが、都市の壁は思ったよりも近くに見えている。数ヴェールスタ程度では視界を遮るものは何もないのだ。


 林近くにコイラを停めて日が沈みきる前にしておくべきことを済ます。携帯用ランプの油とマッチの残量を確認し、必要なものはすべてジャケットのポケットに入れておく。林に踏み入って地形を見ておき、夜用の薪として倒木から太めの枝を鉈で切り取っておく。足跡や糞が見当たらず、どうやら爆発ウサギ以外では狐が住み着いている程度だろうと踏んでリャンに聞くと、その通りだとの答えがあった。


 一通りの準備が終わり、私は散弾銃に弾を込めると林のとば口で空を見上げた。日暮れ時に帰ってくるキジバトを撃つつもりである。ハトは危険があろうと巣作りした場所に戻ってくる習性があり、待っているだけで撃ち落とせる。とはいえ、それは私にとって知識だけの話であり、実際に銃を撃つのは今日がはじめてだった。はたしてキジバトが群れて夕暮れの空をやってきた。都市部でエサをあさることを覚えた奴らである。狙いをつけて撃ってみた。鳥打ち弾は反動も軽く、威力も大したことは無い。初弾は外れたのかハトは落ちてこなかった。七から八サージェンほどしか離れていないはずなのだが。


「初心者じゃそんなもんだ」


 リャンがはやすので、私はもう一発を撃ち、すばやく次を装填した。二発を連続で撃てば確率もあがるだろうという計算だ。が、装填の最中に上からハトが落ちてきた。私は得意になった。


「どうだい、初めての二発目だ」


「初めてじゃないぞ、二発目は」


 もっともなことをリャンは言ったが、悔しそうに私に銃を貸せと手を出してきた。


「そう言うからには一発で落とせよ」


 リャンに銃を預け、私は落ちたハトを回収に走った。背後で銃声が連続して二発。走りながら上空を見ると、ハトがもう一匹落ちてきていた。


「やるじゃないか」と遠くから声をかけると「狩りじゃ先輩だからな!」と満足げな声が返ってきた。それから私がハトの回収にかまけているのをいいことに、リャンは二回装填を行い、あと一羽を落とした。私はハトを拾った後に文句を言い、銃を取り上げてなんとかあと一羽を落としたのだが、これは木にとまったのを狙ったものだった。


「同じ数だ」


「いや撃った発数の問題だ」


「それなら木にとまったのは狙いやすい」


 と、リャンと私は諍いながらもゲラゲラ笑った。


 やがて爆発ウサギ狩りの時間がやってきた。爆発ウサギは夜行性だが夜目が利くわけではない。どこまでも脆弱な生物なのである。よって彼らは日暮れ時と夜明けに出歩き、真夜中に活動することがあるとすれば月夜だけだ。今日は月明かりはないから、日暮れに待ち伏せて狩るスタイルとなる。ランプをつけっぱなしにして林を照らしておき、そこをウサギが通りかかった瞬間に撃つ、というのが手はずだ。


 ヴァジンはさすがに野外活動時は桃色や橙色のスーツではない。だが黄色に黒の縞が入った虎のようなフィールドジャケットを着込んでいるあたりやはり派手だ。狩りには目立ちすぎではないかとリャンが聞いたが、「虎はこの模様で他の動物から隠れるのだ」とヴァジンは答え、藪の中に踏み入ってみせた。確かに見えにくくなったヴァジンの姿にリャンは驚いていた。


 ところで、そのヴァジンは、ランプでぼんやりと照らされた林をにらんだまま動かない。手に槍を載せた投槍器を持ったまま座り込んでいる。まだ完全に日は沈んでいないが、林の中はすでにほとんど見えず、私とリャンは銃を構えることすらあきらめていた。ヴァジンが狩れるというならそうなのだろうが、我々には無理だ、という態度である。それに獲物はキジバトで満足していたし、狩ったキジバトをどう食べるかも重要な問題だった。たき火をおこして湯を沸かす。首を切ってコイラのバンパーに逆さ吊りにし、血抜きしていたキジバトを湯につけ、羽根をむしりながら、小声で「一匹は燻製にするか」などと話す。と、ヴァジンが手をこちらに向けて広げた。「静かに」という仕草である。


「何も見えないぜ」


 リャンが反論した。静かにしないリャンもどうかとは思うが、確かにランプに照らされた林には爆発ウサギの姿どころか気配すら感じられない。私もフィールドワークで動物を探すのに慣れていたし、リャンも竜狩りでは見張りをすることがあったから、標準よりは目がいいし、動物の気配を察知すること人並み以上であることは間違いないのだが。


「いる。見えるかではなく、そこに相手がいるかどうかだ。私がここにいるように、相手もいる。そこにいるとわかれば当たる」


 ヴァジンは言い、座った姿勢のままなんの予備動作もなく槍を放った。目で追える限り、槍は斜め上方に飛んでいった。すぐに光は届かなくなり、槍は見えなくなる。角度からすると、かなり先を狙ったことになる。槍の性能を考えると、どんな名手でも狙ったとおりには飛ばないはずだ。なにしろ先端にナイフをくくりつけた古い箒の柄なのだから。


 はたして私から見て何も起こらなかった。だが、ヴァジンは「当たった」と言って立ち上がる。「そうかい」まるで信じていない様子でリャンが笑う。それでもヴァジンがランプを掲げて歩いて行くので、我々もランプ片手にそれに従った。林の中に踏み入り、歩くこと一から二分。ランプの光の中に茶色い毛皮の小動物が倒れているのが見えた。


「うわ、嘘だろ」


「いや、すごいな……本当に当てたんだ」


 リャンと私は心底から驚いていた。爆発ウサギの脳天に槍の柄が突き出ていた。身体は完全に無傷だ。頭部を上方から貫通した槍が地面に突き立っていた。爆発ウサギが脅威どころか気配を感じない距離から、苦痛を感じさせずに即死させる方法は確かにこれしかなかった。同様のことはスコープ付きのライフルでも、名手の弓矢でも可能だろうが、ウサギを警戒させない暗がりでこの距離を命中させることができれば、の話だ。歩いた距離とここから見えるたき火の小ささからするに、槍は百サージェンほど飛んでいる。


「この距離を?」


「木の枝にも当てずに?」


 リャンと私は感嘆の言葉をテンポ良く並べる。


「出来ると言った。以前にもやっているから」


 ヴァジンは誇りこそすれ、格別のことをしたという風でもなかった。


「ふえぇ」


 私とリャンは言葉を失っていた。見たものは信じないわけにいかないし、この様子だとヴァジンは何度でもやってみせるだろう。


「ところで、触っても爆発しないんだろうな?」


 リャンが聞いた。


「大丈夫だが、内蔵をつぶすな」


 そうヴァジンが答えたので、私は俄然、興味がわいてきた。


「すると内蔵で爆発する物質を混合しているわけか」


 私は聞いたが、ヴァジンは「そういうことはわからない」と言った。


 リャンが触らなかったので、私が爆発ウサギの死骸を丁寧に手に取った。文字通り爆発物として扱わないといけない。たき火の近くに戻って腹を割き、ヴァジンの「この臓器を傷つけると爆発する」という経験による指示に従い、慎重に内蔵を取り出す。他のウサギにない興味的な臓器が爆発のもとだということがわかった。研究用に大学に送ることを提案した私にリャンが反対した。「珍しいから毛皮が高値で売れる」というのだ。だが見た目だけではウサギと爆発ウサギの判断は難しい。「どうせ売れやしない」「いや売れる」と言い争っていると、夜明けにもう一匹くらいは獲れるだろうとヴァジンが請け合ってくれたので、毛皮を試しに売るということになった。そして内蔵は放りだして爆発させ、肉は食べてしまうことにあいなった。


 思わぬ変化があったのは、爆発ウサギの血抜きのために、リャンが獲物の足をつかんで振り回していたときだった。「なにかあったな」と、ヴァジンが街の方を指さしたのだ。まだ宵の口である。街は静かで、見えるのは高い建物の明かりだけだ。そこのいくつもの酒場で発せられているであろう喧噪はここまで届くことはない。だが、リャンも私もヴァジンの超感覚を疑う理由はなくなっていた。声を潜めてヴァジンに何があったのか聞く。


「人が争っている声がする。喧嘩ではない。女性の悲鳴が混ざっている。複数の車が動きはじめた。こちらに向かっている」


 不穏なことをヴァジンは言った。その直後に銃声が複数聞こえた。


「確かに何かあったな」


「こっちに向かってくるって?」


 私は街の方に目をこらしたが何もわからない。ただ遠い銃声は断続的に響いてくる。


「車が一台、逃げている。それを複数が追っている」


「つまりなんなんだよ」


 リャンがヴァジンの言葉に戸惑うが、私にはヴァジンと共通のある予感があった。


「ここから見て右側の端から?」


「その通りだ」


 そちらは大学がある地区だ。学者誘拐の計画が動いているのかもしれない。ロートゥアより東の広大な平原を大海と評したが、逃亡者にとってはそれはありがたいことになる。行く先の場所がわかっていて食料と水が確保できているなら追跡を振り切ることは容易となるからだ。追跡者が水や食料を準備しているはずはなく、やがて追跡をあきらめざるを得ないのだ。


「こっちに来る。止められるかな」


「出来る」


 私が言うと間を置かずにヴァジンが断言した。


「おい、余計なことに首突っ込むなよ。逃げてる方も追っかけてる方も何者なんだかわかんねぇのに」


 リャンの言うことももっともだが、彼は学者誘拐などという計画自体を知らない。


「逃げている者の正体はわからないが、追っているのは親衛隊だ」


 ヴァジンが立ち上がった。いつのまにか槍を束にしたものを左手に、右手に投槍器を持っていた。その姿には先ほどまでの気楽な態度とは違って緊張感が満ちていた。他人からそう呼ばれ、自任もしていた野獣の姿だ。


「な、なんだよおっかねぇな。親衛隊に協力ったって、そこまでするこたぁねよ」


 リャンが緊張感に怯えて声をあげた。


 ヴァジンには確実に相手が見えているようだった。私たちには音もかすかにしか聞こえない。そのエンジン音も近づいているのか遠ざかっているのか判然としない。どうやら向こうから私たちのたき火は目立つようで、その音は私たちを迂回するように動いているようだ。ヴァジンがそれを目で追っていた。


「相手は銃を持っているから君たちは動かないほうがいい」


 ヴァジンがそう言った直後のことだった。彼はいきなり周囲を圧する速度で動きはじめた。筋肉を躍動させ、跳ねるように三歩走ると激しく腕を振った。槍は風切り音を唸らせて斜め上方の虚空へと消えていった。


 リャンも私も息を呑んでそれを見守るしかなかった。ヴァジンはただならぬ気配を発していたし、我々がどうすればいいのかは皆目見当がつかない。


 果たして、ガツンと何かが衝突したような音が聞こえたかと思うと、次の瞬間に大きな物が引きずられ、崩れ落ちるかのような派手な響きがあった。大方、車輪に槍を巻き込んで車を横転させたのだろうが、どうやって箒の柄でそれが可能だったのかは皆目わからなかった。


「車軸にナイフそのものを詰まらせたのだ」


 ヴァジンは私の考えを読み取ったのか、こともなげに言った。いいかげん私もそれが可能だとは信じられなくなってきたが、ともかく車が止まったのは事実だ。と、ヴァジンが「身を低くするのだ」と言ってきた。ほどなく聞こえてきたのは銃声だった! しかもこちらを狙っているようだった。私とリャンは慌ててたき火から離れて身を伏せた。


「おい、大丈夫なんだろうな?」


 リャンが怯えた声をあげた。


 怒声が車の方から聞こえてくる。車が横転したことへの悪態か、私たちへの憎悪か。いずれにせよ私たちを敵と認識していることは確実だった。さらに銃声が響き、こちらに走ってくる足音まで聞こえてくる。


「問題はない」


 ヴァジンも身をかがめた。そのしゃがんだ姿勢のまま、左手の槍を素早く右手の投槍器に載せ、連続して空へ放った。淡々とした正確な動作だった。その数秒後、槍を投げたのと同じだけの間隔で怒声と銃声がひとつずつ消えていく。どさりと地面に人が倒れる音が連続する。槍を投げ終わって五秒後にはすっかり危険な音は静まっていた。


「死んではいないかもしれない。まだ動かない方がいい」


 ヴァジンの手には一本だけ槍が残されていた。私はすぐ近くに停めたコイラに立てかけてあった猟銃まで這っていき、それを抱きかかえるようにして元の位置に戻り、残弾を確認した。弾は空だった。私は慌てて弾を込めるが、その頃には複数のランプの明かりが横転した車と槍で倒された者たちの周囲に集まりはじめていた。親衛隊たちだ。数発の銃声が再度響き、それからは完全に静かになった。最後の抵抗をした奴を親衛隊がやむなく撃ち殺したのだろう。


 やがてその中の数人たちが警戒しながらこちらに向かってきた。闇からたき火の光の中に現れた彼らは銃を構えていた。私は半ば身体を起こした姿勢のまま「ヤッキマ・パーランの協力者だ!」と声を上げて、猟銃をゆっくりと地面に横たえた。それを信じたか信じないかはともかく、歩いてきた親衛隊員の二人は警戒を解かなかった。「武器は隠し持ってない」だの「市民を信頼しないか」だのリャンがさんざん騒いだが、にらみ合いはヤッキマ本人がやってくるまで続いた。部下に呼ばれて迷惑そうにその姿を我々の前に現す。


「言いたくはないが、感謝しなければならんようだ」


 不満げにヤッキマは言った。お堅い印象そのままの仏頂面でさらに続ける。


「本当にここから槍を当てたのか? 信じられんな」


 その褒めているというより呆れている感想よりも、ヤッキマが連れていた女性に我々の目は釘付けになっていた。この無粋な軍人の隣に立っていたのは、だぶついた軍用コートを着た小柄な少女だったからだ。今は乱れていたが綺麗な栗毛が顔を丸く包んでいる。青みがかった丸い瞳が楽しそうに輝いていた。小ぶりの鼻に大きめの口。それは私がロートゥアに着た初日に見た少女だった。大食らいで通りの注目を集めていた彼女だ。


「あ、あの大食らいの……」


 私は思わずそうつぶやいていた。それに気づいた彼女は私に目を向けてきた。失礼なことを言ったと後悔したが、すぐに彼女は照れ笑いを浮かべた。


「てひひ……そりゃあ目立つもんねぇ。あたしが食べてるとみんな見てくるし」


「あ、すいません、そんなつもりでは……」


「いやいや、いいのいいの。一流グルメがこのかわいさとあっては注目されるのは当たり前だかんね。それより感謝するのはこっちだからさ。彼?」


 その美少女の名前は、紙に書いてあった通りなら確かイロナ・ヨトニ。彼女はヴァジンを指さしていた。「感謝は受けよう」とヴァジンは紳士的だが、「何だよ、事情を説明しろよ」とリャンは無粋に絡み出す。


「詳しく説明してはいなかったけど……」


 私はそう言いかけて「説明していいか?」という意味でヤッキマの顔を伺った。するとヤッキマは自分から口を開いた。


「彼が槍で殺したのは王への反逆者だ。そして彼女は王が特別に召還した科学武官である。誘拐されかかったところを救助に協力してもらったというわけだ」


「そゆこと。重要人物だよ、あたしは。感謝の気持ちは素直にお金で示すから。もちろんこの人が、だけどね」


 イロナは笑顔を見せ、ヤッキマを親指で指さした。


「国からの金なら素直に受け取れる」


 ヴァジンも微笑んでうなずいた。ヤッキマは笑いこそしなかったが反対もしなかった。国がすべきことには感情を差し挟まないということなのだろう。


「ところで、救助ついでにあたしをこっちでも助けてくれると嬉しいんだけどさ」


 そう言ったイロナが凝視していたのは調理しかけのキジバトだった。乙女と呼ぶべき外見をしているにもかかわらず、乙女に期待される慎みをまるで無視していた。食欲を隠そうともしていない焼け付くような視線を良く肥えた肉に惜しげもなく注いでいる。男なら同様の目線を彼女から別の意味で注がれたいと思うところであるが、自らが狩った肉に欲望を向けられるのだけでも悪い気分ではない。


「私が狩ったんですよ。すぐ調理しましょう」


 我ながら媚びていることが他人にもわかる態度だったが、上には上がいるもので、すぐさまリャンが「いや、狩ったのは俺だ」とかぶせてきた。ハトの顔なんか覚えてはいない。もちろん羽根をむしる段階で狩った順番通りに並んでもいない。


「それは私が撃ったやつだよ」


「いや、俺のだって」


「じゃあ、これは?」


「俺だ」


「こっちは?」


「俺だ」


「これ?」


「俺……だと思う」


「数が合わないぞ! 二羽ずつだったろうに」


「どれも俺が落としたものに見える。今となっては彼女のためにキジバトを狩っていたようなものだとも思えてきたぞ」


 リャンがおかしなことを言いはじめた。


「二羽ずつなのは事実だろうに」


 私が反論するとイロナが見かねて声をあげた。


「大丈夫ですよ。あたし全部食べますんで」


「え?」


 私もリャンもこれにはさすがに顔を見合わせた。キジバトは小鳥と言うには少々大きく、脂もたっぷりと含まれており、男でも一匹食べれば十分というところ。私は以前にイロナの食べっぷりを見ているが、それでも未だに事実とは信じられないでいる。とはいえ、見事な裁判官ぶりというべきだろう。我々の無益な争いは収まり、二人して黙々と『キジバトの香草詰め野外ロースト』を作ることとなった。キジバトを葉に包んでたき火の下に埋めた後、リャンが値段が高めの酒を隠し持ってきたことを告白し、カップを次々と手渡しはじめた。ヤッキマはこの騒ぎに加わることは当然なく、事後処理を部下に命じるべく離れていった。ヴァジンは爆発ウサギの皮をはぐまで酒は飲まないと断った。と、イロナが目の色を変えた。やはり化学者というべきか、爆発ウサギの狩猟不可能性と爆発の仕組みが解明されていないことを知っていたのだ。それから話題は爆発ウサギのことに移った。先に書いた爆発の仕組みとヴァジンの狩猟方法について三人代わる代わるに、特に私とリャンは競い合うように説明する。生物学、科学分野では私が勝ったが、冗談を差し挟む強引さではリャンが勝っていた。それでも、話のおいしいところを持って行くのはヴァジンだったし、彼がいたからこそ次の狩りにイロナの同行を約束できたのだった。そうこうしているうちに酔いが三分ほどまわってきた。そのタイミングでキジバトが焼け、ヤッキマが戻ってきて街に戻るべきだとイロナに告げた。


「もうちょっとこっちにいたかったけどね。渡した連絡先にいつでも来て。守ってくれたのはヴァジンでも、親衛隊が働いてないってわけじゃないんだからさ」


 そう言ってイロナはたき火のそばから立ち上がると、水筒と野外調理用の大皿を所望した。それを渡すと、「んじゃ、遠慮なく」とローストが済んで香ばしい匂いを放つキジバトを皿に載せて、全部持って行ってしまった。「恩は売っておくべきだかんね」。と意地悪な笑顔を浮かべて酒の入った水筒と大皿を働いていた親衛隊員たちに持って行く。


 私とリャンは「……まぁいいか」「今度また来れるんだしな」と、なんとなく損をしたような気持ちになっていた。そこに「ウサギを食おう」とヴァジン。我々はうなずいた。去って行くイロナと親衛隊員たちを見ると、キジバトの肉を分け合って食べていた。視線に気づき、こちらにお辞儀をしてくる隊員もいた。私も手を振って返した。


 親衛隊員たちの車が動き出してから、私はフライパンでウサギをソテーし、高級酒でフランベして味を仕上げた。それからウサギを食い、高級酒を飲み、夜明けまで馬鹿な話だけをして、コイラに戻って昼まで眠った。何匹かの動物と、ほぼ同数の人間が死んだにしては穏やかな一日だった。だが、穏やかな気持ちは帰りの路上で配られていた新聞の号外を受け取るまでだった。そこにはナイビット・カイラス王の身体が快復の方向に向かっていることを中心とした記事が書かれていた。だが、真に驚くべきは、次のような文言が書かれていたことにあった。


 ナイビット・カイラス王の怪我は伝説の竜プトキ・ルルを狩ろうとして負ったものであり(協力して負傷あるいは死亡した竜狩りたちには相応の補填がなされる)、完治の暁には再び精鋭を集めてプトキ・ルル狩りに赴くつもりである。希望者は申し出ること。

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