爆発ウサギ
爆発ウサギは猛獣ではないが、狩りが非常に難しい動物だと書いた。その原因は、彼らの他の生物にはない奇妙な特徴による。ご存じの通りウサギは精神的に弱い動物である。「精神的にというが人間のそれと比較できるのか?」と疑問に思う向きもあるだろうが、この場合、どう言い方を変えても「精神的に」としか言いようがない。なにしろこの脆弱な生物は、あらゆるストレスに耐性がないのである。狩られる生物の宿命として「臆病」なる欠点があるが、これは生存のための美徳ともなる。危険な状況が訪れたとき、身体に負担をかけることで逃げ出す動機付けとするわけだ。ウサギの場合、これが少々行きすぎている。どんなストレスに直面した場合でも体内に毒素を生じるのである。さらにはストレスが長期間にわたるとなんと自らの毒素で死に至る。元々は自らを捕食する生物が襲ってきた時のための装置だったはずだが、ささいなストレスでも毒素が発声するようになってしまい、人間で言うならば風邪を引いたような状況でも、風邪が原因でなくそのストレスにより死に至るようなことが起こるのがウサギなのである。
さて、爆発ウサギだ。このウサギは毒素で苦しむことさえも拒否したという言い方もできる。爆発ウサギはストレスがかかると体内でガスを一瞬にして生じさせ、その膨張(あるいは着火)により自らの身体を爆発させるのである。この特性は前述の通常のウサギと同じくストレスによって発揮される。つまり、鷹や狐に襲われそうになるとドカン、不意の雨で身体が濡れすぎるとドカン、交尾を巡る同種族同士のいさかいでドカン、という具合に、この生物の生息域では不意の爆発がいたるところで起こるのである。狩りが困難というのもご想像の通りの理由だ。爆発ウサギは襲われていると感じると逃げるよりも死を選ぶのである。
ところで、長らくこの爆発の原理は謎とされてきた。完全な死体が見つからないからである。推測としては、可燃性のガス、揮発性ガス、強靱な内臓筋肉、あたりが有力だった。しかし、後述するが我々が手に入れた死体より、硝酸を体内に蓄積させ、胃酸などと混合させることにより爆発を起こしているということが判明した。これは爆発ウサギが死んだ場所で草木が良く育つという古くからある俗説にも合致する。どんな言い伝えにも根拠はあるものである。




