逮捕に至るまでの簡便な経緯
●登場人物
ヤッキマ・パーラン(親衛隊小隊長)
サヴァ・ネラソフ(『巨匠団』社長)
アバイ・カステル(参事会議員)
リャン・ルート(『白蜈蚣竜狩猟社』二代目)
親衛隊隊員 三名
□議員会館ロビー
ホテルのロビー風。丸テーブルの周囲にソファ。
アバイが座って新聞を広げている。
ヤッキマ、親衛隊隊員三名を引き連れて入ってくる。
ヤッキマ 「親衛隊である。アバイ・カステルはいるか?」
アバイ新聞から顔をあげずに。
アバイ 「私ですが。何か?」
ヤッキマ 「何か? ではない! 先だって街を騒がせた王への歌による誓願事件、貴様が首謀者であろう! 『巨匠団』の葬送への道路使用申請は貴様が手伝ったと記録にある!」
アバイ 「それは職務としてやったまでです。申請には問題がなかったはず」
ヤッキマ 「ええい! あのようになるとわかっていて申請を通したのだろうに!」
アバイ 「それはあり得ませんね。私は彼らの道路使用許可願いを聞いたまでです」
ヤッキマ 「『巨匠団』と事前に接触し、そこで今回の件を教唆したという証言があるぞ。逮捕してから留置所で聞いてやる!」
アバイ 「参事会議員は不逮捕特権があります。裁判には応じるという意味ですが、その場合でも私が何の罪を犯したと? 普通に考えれば、首謀者は『巨匠団』社長であり、そちらを逮捕した後に証言があったと考えるべきでは?」
ヤッキマ 「わかったが、逃げるなよ! 『巨匠団』社長から証言を引き出してから貴様も締め上げてやる!」
ヤッキマ、怒りながら親衛隊三人を引き連れて退場。
□『巨匠団』事務所
綺麗に整理された事務所を落ち着かずにうろうろしているサヴァ。
ヤッキマが親衛隊三人を連れて登場。サヴァひどく怯えたように驚く。
サヴァ 「ひ! ひぃい! な、何がありましたでしょうか?」
ヤッキマ 「こちらが名乗るより前に驚くとはなんだ。親衛隊である。この度の……」
サヴァ 「わ、私はそそのかされただけで……」
ヤッキマ 「落ち着け。貴様の会社が王よりの仕事を請けたことは聞いている。よほどのことがない限り逮捕しようとは思わん。だが王への不敬を親衛隊が見過ごすわけにはいかぬ。今回の首謀者を証言せよ。アバイ・カステルなのだろう?」
サヴァ大げさに首を振る。
サヴァ 「そ、そのようなことは絶対にありません」
ヤッキマ 「そんなはずがあるか。あいつは参事会議員だが、王への反逆心を常に抱えている新思想主義者だぞ。もう一度聞く。首謀者は誰だ? 言わないのならばお前を捕らえることになるのだぞ」
サヴァ 「ですから、首謀者はアバイ・カステルではありません」
ヤッキマ 「繰り返すが、そんなはずがあるか。それまで沈黙していたお前が請願という行為に出るはずがない。そそのかされたのだろう、カステルに?」
サヴァ 「違います。そそのかしたのは『白蜈蚣』の連中にです」
ヤッキマ 「あの小さな会社が? 確かに車は彼らのものだったと聞くが、お前に指図できるような立場ではないはずだ。カステルのような立場の者がいない限り……」
サヴァ 「よそ者の新入りがいまして」
ヤッキマ 「よそ者?」
部隊袖にリャン登場。怯えた様子で『巨匠団』事務所を伺い、盗み聞きをはじめる。
サヴァ 「そうです。よそ者です。リャンと組んでカステルさんをそそのかしたのでしょう。歌手を紹介してきたのも、よそ者とリャンです。首謀者は『白蜈蚣』です。聞いて下さい、よそ者は酒場で私を説得しようとしてきたんです。それは学のない私に対して、自分は大学出だと脅しつけるようなふざけたものでして……。最初はうさんくさいと流していたのですが、後で『白蜈蚣』とカステルさんが来て……」
ヤッキマ 「その先は必要ない。『白蜈蚣』とカステルがお前に話を持ってきたということなんだな?」
サヴァ 「その通りです」
ヤッキマ、隊員三人を連れて退場。それから逃げるようにリャン退場。
□『白蜈蚣』事務所
雑然とした事務所。リャン、駆け込んでくる。すぐにヤッキマと隊員三人登場。
リャン、何も知らぬ風を装って、わざとらしく落ち着いたポーズで椅子に座る。
リャン 「ようこそ親衛隊の皆様。本日はいい天気ですね。何の騒ぎです?」
ヤッキマ 「先に何か言ってくる奴ばかりだな。親衛隊である。この度の王への誓願事件、首謀者がここにいると……」
リャン 「あの流れ者ですね! はい、あいつが全部悪いんです。あいつが我々を次々にそそのかしました。名前はアロー・シランバ。『平和荘』に下宿しています。すぐに行かないと。あ、特徴を言っておかないと困りますね。身長はこのくらいで……」
※ この部分のみ戯曲が残存している。




