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魔王の天敵〈歩〉  作者: 鈴木タケヒロ
7/24

〈歩〉⑥

 第七部は魔王の天敵〈歩〉➅として書かせていただきました。

 問題が発生、急遽洞窟を出なくてはいけなくなった三人。勇者見習いのガクトが進む先あるものは光か、闇か――。


 トライデントの北側には空が足元まで続いているのかと思わせるほどの海が広がっている。空と海との境目が分からず、北側の海だから日の出も日没も拝むことはできない。ただあるとすれば夜になると月や星が海面に映ってそこには幻想的な世界が展開されるのだ。

 

 トライデントを通って流れている川は全てが最終的にこちら側の奔流として集束する。その奔流を二キロ程東に行くと地図上でも出っ張って見える岬がある。岬の一番端には小さな診療所があった。


 ミサが作り出した聖獣サルモドキをガクトが倒してから一か月、三人は聖域である『夢の洞窟』を出なければならなくなった。

 事の発端はガクトが聖獣サルモドキを倒したことにあるのだが当人はもちろんクニシゲさえもその時は気付かなかった。クニシゲはその時から小さな違和感を抱いていたのだが、年老いた自分の勘違いだとか心配性になったのだろうと思い込んで、頭を使うのも疲れたので考えるのを諦めていた。

 事の重大さに気付くに至るまでに一か月という短くない時間を要した。

 

 ミサが倒れていた、ガクトが聖獣サルモドキを倒した場所の丁度一キロ真上に祠があった。この祠は世界で一番凶悪のなものが封印されていると言われていて、いつもはクニシゲの聖力によってその祠を拝むことはできないようになっていた。

 ガクトは聖獣サルモドキを倒すとき、魔破拳を振り上げたのだ。これがどういうことを意味するのか。生半可な威力ではビクともしない筈ではあるが、クニシゲは心配になって祠に向かったのである。クニシゲの考える最悪の想像は残念ながら的中してしまった。祠にはひびが入り、積み上げられていた筈の周辺の石が散乱していた。祠は何千年もの間そこにあって、耐久性が低下していたらしかった。

 

 この聖域からは魔力に溢れた外の情景を図ることもできない。

「二人とも、今すぐここを出るぞ」

 二人はこの老人は突然何を言い出すのか、と、その必死な顔を窺がった。

 その顔は青ざめて汗も滴っていた。

「どういうことです?」

「そうよ、聖力の扱いを習ってからまだ三ヶ月ほどしか経ってないでしょ? そんなに急いでここから出る必要はないのよ」

「急がねばならんのじゃ! 世界が危ない!!」

「世界? 一体何の話をしておられるのですか?」

 クニシゲはその問いに答えたくないようで少し俯いた。そしてぼそっと「魔王」と言った。

「まおう……? まおうってあの魔王? おとぎ話とかに出てくる奴でしょ」

「魔王が……どうしたんですか?」

「…………魔王が復活してしもうたんじゃ。おそらく……一か月前になるじゃろうなぁ」

 クニシゲは溜息をついて、俯きながら二人の顔を見れないようだった。

 何千年という年月の間、魔王などという脅威にさらされてこなかった人間たちにとって、この世界の変化はまさに人類絶滅の危機と言っても過言ではなかった。いや、人間だけではない。世界中にいる生物と名の付くものは一つ残らず駆逐される未来が容易に想像できる。

「一ヶ月前っていうと、……聖獣が暴走した時ですか?」

 クニシゲはああ、と頷く。

「じゃあ、……私が……?」

「いや、そうではない。原因は別にあるんじゃが、わしも気付かなかった……不覚じゃ」

 二人は魔王とはどの程度のものなのかと想像した。話にしか聞いたことのない魔王が復活したのだ。どれほどの強さでどれほどの影響力があり、どの程度の恐怖を抱かせるものなのだろう、と。聖域に護られている三人はともかく、外の世界の人々は一か月も前からその脅威に晒されている。

「……行こう」

「うん? 行こうって……何処へ?」

「決まってるじゃないか! 外だよ。外の世界で皆を救うんだ!」

「そんなこと言っても私たちには何もできないよ?」

「俺たちは……俺たちは勇者見習いだ。いつか勇者になるんだ。いつか来るかもしれないその日のための力を貰ったんだから、俺たちが皆を救わないと!!」

 クニシゲはガクトを改めて見て思った。やはりこいつだったのか、と。運命はガクトを選んだ。そのガクトにはこれほどまでの覚悟がある。まだまだ勇者としてはひよっこではあるが、この勇気を持っていることこそが勇者に選ばれるに相応しい条件なのだ。

「さすがはガクトじゃ。……外へ出るぞ! 世界を救ってみようじゃあないか!!」

 

 三人は身支度をして家から出た。もうここへは戻って来ることは無いだろう、とクニシゲは『夢の洞窟』の中にポツンとある小さな家を眺めた。

 その家は決して大きくも綺麗でもないけれど、クニシゲにとってこの家で過ごした日々はかけがえのないものだった。

「行こうか」

 クニシゲの声には寂しさが混じっていた。クニシゲに創られた景色だったのかもしれないが、ガクトとミサにとってもここで過ごした二か月半はとても居心地の良いものだった。その寂しいという感情は二人にも伝わった。

「そういえばここって出たいと思わなければ出れないんじゃなかったっけ? ちゃんと出れるの?」

「大丈夫じゃ。向こうの方に階段があるからそこから出られる。聖力で隠れておったんじゃ。その階段を上るとその先は長い通路になってはおるが、一本道で海側に出れるわい」

 当然、といった具合にクニシゲは言ったのだった。二人は同時に騙されたと思った。自由に出れるじゃないか、と。

「そんなに簡単に出られるんですか……?」

 ああ、と簡単に肯定するクニシゲにガクトは苦笑しかなかった。

 クニシゲが聖力を解くと、そこに現れたのは殺風景な洞窟であった。本当に聖域なのかと思わせる程に何もなく、側方の岸壁も凸凹で特に整えられている様子はなかった。

 三人は一キロ程歩いて階段まで辿り着いた。そして三人が階段を上りきった時、目の前には人一人がやっと通れる通路が現れた。クニシゲ曰くその通路も一キロ程の道のりらしかった。

 その通路をぐんぐんと進むと一筋の光が通路の先に見えてきた。外の光だ。やっと三人は洞窟から抜け出したのだった。

 

 外の世界は異様という言葉でしか表せない景色になっていた。青い筈の空や海、緑の草木、気持ち良く飛んでいる鳥。それらは全て想像上の光景なのではないかと思わせた。代わりに黒に近い灰色の空、空の色のせいで紫に見える海。もしかしたら本当に紫なのかもしれないが。灰色に枯れた草木。グウェェーという何かの鳴き声。

 これらは全て、恐らく一か月前に始まった光景なのだった。

「これは…………」

「すごいのぉ。酷いことをしよるわい」

 景色に唖然としていると、横にいたミサが再び倒れた。すっと膝から崩れ落ち、苦しそうに顔を歪めながら横たわってしまった。

「ミサ! どうした!?」

「……やはりあてられたか」

「やはりって……それより早く安静にできる場所に運びましょう!!」

「うむ、この先に岬があったはずじゃ。岬の先っぽの所に診療所があって、人はいないかもしれないが治療道具は揃っているじゃろう」

 例のごとくガクトがミサを抱き抱え、走り出した。そして横でガクトと一緒のペースで走っているクニシゲは言うのだった。

「足に聖力を集めよ。そうすれば普段よりもいっそう速く走れる」

 いち早く聖力によって走行しているクニシゲは走ることが何の苦でもないような顔をしていた。

 ガクトも試してみる。すると一気にスピードが上がり、二十キロはあろうかという道のりを目的地まで僅か二十分程で到着した。

 

 そこには小さな診療所があった。中に入ってみると人の気配は無かった。奥にあった手術室に直行し、そこに一つだけあった手術台にミサを寝かせた。クニシゲが言っていたように治療道具は揃っていた。

「さっき知っている風でしたよね? ミサがなんでこんな風になったのか」

「ああ、大丈夫。お主も疲れたじゃろうて、廊下で休んどれ」

「そんな……」

「大丈夫じゃから」

 クニシゲは焦っているガクトを落ち着かせ廊下に出した。

 クニシゲとミサが出てきたのは、二時間後だった。ミサの顔から苦しさは消え去っていたが、少し眠たそうな顔をしていた。

「ミサ大丈夫か?」

 ミサは少し俯いて、心配の声も聞こえていない様なふりをした。

「ミサ、心配かけたんじゃから自分で言うんじゃぞ」

 そう言ってクニシゲは診療所の外へ出ていった。ミサはまだ俯いている。

「……どうしたんだ? 何か隠しているのか?」

 ミサの口はギュッと結ばれていたが、少しして緩んだようだった。

「…………私…………なの」

 聴き取れない。

「私……預言者なの!!」

 『夢の洞窟』で聖獣サルモドキを具現化してしまった時も、今日洞窟から出てきた時に倒れてしまったのも、ミサの告白した事実が原因なのだった。

 読んでいただきましてありがとうございます。

 今回は洞窟を出て、外の世界の変わりようまでを書きました。そして「私は預言者だったの」というミサの告白。この事実がもたらす事態にガクトは立ち向かえるのか。


 次回から旅が始まります。

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