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魔王の天敵〈歩〉  作者: 鈴木タケヒロ
6/24

〈歩〉⑤

 第六部は魔王の天敵〈歩〉➄として書かせていただきました。

 クニシゲがガクトに課す修行の内容とは。そしてミサはいったいどうなってしまうのか。

「そういえば、お主はどこまでできるようになったんかいのぉ」

 その問い掛けにガクトはミサの聖獣をなんとか倒せるくらいと答えた。その返答がクニシゲを納得させられたのかそうでないのかは遠くを眺めているその横顔からは読み取ることができなかった。

「聖力を手に集めること足に集めることはそれぞれ勇者には欠かせない極意の一つなのだ。魔破拳、魔破脚と呼ばれておる」

「マッハ……ですか?」

 クニシゲはガクトの認識したものではないことを知っている。昔自分も勘違いしたからだ。

「魔を破壊する拳と脚じゃ。今から本物を見せよう」

 そう言うとクニシゲは広大な草原に向かって構えた。足は肩幅よりも広く開き、右拳を引いて腕に左手を添える。はぁ! という喝に驚いたように突然右腕から白いもやもやが溢れ出してきた。聖力だ。それは右腕を中心に渦巻いている台風の様であった。

 大口を開けて目は見開いてしまうガクト。

 もう一度クニシゲが喝を入れると小さな台風は右拳という一点に収束し、右拳を隠すほどの白いボールを形作った。

 次の瞬間、クニシゲは例のごとく喝を入れ拳を前に突き出した。すると、広大な草原に透明な円が猛スピードで飛び出していったのだった。その円はほとんど時間をかけずに、人間の目で見ることのできる距離よりも遥か遠くへ向かっていった。

「あれが魔破拳……」

 違うわい、という声がした。声の方にはクニシゲがいてその右拳には大きさが少しも変わっていない聖力の白いボールがあった。

「あれは大気を押しのけて進んだ、ただの拳圧に過ぎん」

 ガクトは愕然とした。ならその拳が当たった相手は確実に死――。拳圧だけでも確実に吹き飛ぶだろう。

 勇者になるということ、聖力を扱うことが怖い。自分がやっていることは方法を間違えれば人を簡単に殺せてしまうのか。

 それを今初めて認識することができた。

 ガクトが恐怖に陥っていることをクニシゲはやはり知っている。

「怖いか? フォッフォッフォ、当然じゃ。これは魔を破壊する力。微弱ながらでも魔力の流れている人間、陸や海洋、草木や動物、魔を含むものの全てを破壊する。あの拳圧は見境なしじゃがな」

 血の気が引く。大きいと思っていたものがちっぽけに見える。全身から力が抜け、感覚が遠くなる。

 それでもやはりクニシゲは微笑みながらガクトの両肩をがっちり掴んで、虚ろになった目を強制的に自分の方へ向けさせた。

「それでいい! それでいいんじゃ。この力は勇者の力。人を殺めるためではなく、守るためにある。その恐怖を知ったお主はこの力を適切に使っていける。敵う魔などありはせんと思わんか?」

 

 ガクトは運命に選ばれたのだ。金を稼ぐために仙人に弟子入りするつもりでいた。トライデントに挑んだが魔獣にそれを邪魔された。ミサに助けられ意識を取り戻した時、世界有数の聖域にいた。そこには現有者であるクニシゲがいて、彼は丁度後継を探さなければと思っていた。それがガクトだった。その力を使う機会は無くとも(無い方が良いが)、次の時代に伝える使命を与えられたのだ。

 

 そして運命に選ばれたのはもう一人――。


「そういえば一つ疑問があります。ミサの聖獣をこの聖力を溜めた拳や蹴りで何故倒すことができたのでしょうか?」

「それはのぉ、力が――」

 クニシゲが説明しかけた時、悲鳴が聞こえた。女の金切り声、ミサだ。

 二人は質問など忘れて、急いで声がした方へ向かった。

「ミサァ!!」

 その現場に到着した時、ミサは陰の中に隠れていた。それは印象深い陰だった。身長は八メートル程、胴長で爪に至っては約二メートル。

「なんでここにあいつが……魔獣だってここには干渉できないんじゃ……」

「ふむ、ミサが作り出してしまったんかのう。聖力での具現化、魔力でもそうじゃが、大抵のものは作れてしまう。その構成要素は聖力そのものじゃがな」

 陰の中のミサは仰向けのまま動かない。ショックのせいなのか、攻撃されてしまったのか。なんにしても三人に敵意を示してしまっていることと、生みの親を倒れさせたことには疑いようはない。

「こっち向きやがれぇぇーー!! サルモドキィィィ!!」

 ガクトの怒気にサルモドキは反応し、全力で向かってきた。

「ガクト、今じゃ! さっき見せたやつをやってみぃ!!」

 無茶を簡単に言ってくれる。さっき見たばかりの大技をやれと言われてすぐにできるものなのか? 極意って言ってなかったか? 

 しかしクニシゲは、お前ならできるという風な笑みをガクトに向けるだけであった。

 ガクトは見様見真似で足を開き、右腕に左手を添えた。聖力を込めると小さな渦が右腕を纏った。ここでこの台風を拳に集めるだけ――。

 しかし、自分を倒す準備を待ってくれる敵などいない。

 サルモドキの腕は既に振り上げられていて、あとは下ろすだけだった。ガクトも途中ではあるが、すぐにモーションに入らなければやられてしまう。サルモドキは振り下ろす。ガクトは振り上げる。サルモドキの爪の付いた平手とガクトの聖力をまだ纏えていない拳が合わさる。

 次の瞬間、サルモドキは霧散した。平静なクニシゲにも必死なガクトにも傷は無かった。

「ミサァァ!!」

 ガクトはミサに駆け寄ると、身体に傷が無いことにまずは安心した。しかし、苦しそうな顔を確認して女の子としての軽い身体を抱き上げた。

「クニシゲさん、急いで家まで運びましょう!」


 運ばれたミサには四十度近い熱があることが発覚した。この熱は無茶な修行のせいで、それで聖獣のコントロールが効かなくなったのだ。

 ガクトは熱が下がるまでミサの傍で看病をした。汗を拭き、タオルを換えて、そしてずっと祈るように手を握っていた。早く良くなりますように、と。

 ガクトの願いが叶ったのは倒れた日から数えて三日後の朝だった。三日間で少々脱水してしまったこと以外は平気な様だった。

 ミサの平気な姿を確認し、心底安心したようで、次はガクトが深い眠りについた。その日起きることはなく、次の日の夕方五時過ぎに目を覚ました。


 この時にも事態は刻刻と進行していた。ミサが熱で眠り込んでいる間も、ガクトが疲れて寝ている間も。

 その事態に気付いたのはクニシゲで、一ヶ月という取り返しのつかない時間が世界を暗黒の中におとしめてしまう。

 読んでいただきましてありがとうございます。

 今回は勇者の極意が登場。そして暴走してしまったミサの聖獣。ミサの体調は回復するのか。


 次回は急展開です。



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