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魔王の天敵〈歩〉  作者: 鈴木タケヒロ
5/24

〈歩〉④

 第五部は魔王の天敵〈歩〉➃として書かせていただきました。

 聖力とははたして何なのか。ガクトとミサの修行の成果はいかに。

 聖力は勇者や勇者見習いにしか扱えない力である。この勇者見習いというのが肝心で、聖力を身体に注入してもらうのである。これは勇者にしかできないことで、対象の身体に手をかざして聖力を放出するだけだ。白いもやもやが体の中に入ったら完了。そのもやもやは身体の中で聖力の種として勇者という花を咲かせるまで徐々に成長していく。聖力の扱いは魔力の扱いと似ていて預言者や魔力の扱いに長けた魔法使いが力を手に入れれば、すぐさまその力を使いこなしてしまうのだ。歴代の勇者はその方法を使って次世代に力を残してきたらしい。 

 

 勇者な老人もそろそろ外に出て後継を探そうかと思っていた。そこに丁度ガクトとミサの二人が現れたためその力を伝承したのだった。

 その力の伝承がなされてから一ヶ月が経っていた。二人は勇者な老人から課された課題を毎日こなしているのだった。ガクトは近接戦闘訓練と聖力集中の課題に勤しんでいた。ミサは瞑想と聖獣の具現化に挑んでいた。

「そういえば勇者さんの名前って何なんですか? あなたも力を伝承された人間なんですよね?」

「わしか? わしはクニシゲと言う。 昔は世界中を旅しておった。町から町へ、村から村へ、洞窟や草原や山や谷や海、船にも飛行機にも列車にも何回乗ったか分からんなぁ」

「その旅の途中でその頃の勇者に出会って力を与えられた、ということですね?」

「そういうことじゃ。先代の勇者は漁師じゃった。世界は平穏で勇者として敬われることは無いんじゃなぁ。職がないとボンクラ扱いされてしまう普通の人間なんじゃよ」

 クニシゲは四十年は前の記憶を今でも大切に持っていた。大切な宝箱の中身は誰にも汚されてはならないものだ。クニシゲが見せてくれる宝物はキラキラと輝いていて、ガクトには眩しかった。そして、いつか自分にも自慢できるようなものができるのかと想像もつかない未来に胸を膨らませた。

 

 その日ガクトとミサは合同訓練をこなすようにクニシゲから言われていた。ミサは聖獣の具現化を一か月という短い期間である程度成し遂げてしまった。聖獣は好きな姿形に成形することができ、その具現化は例えば馬ならその背に乗ることができるし、巨大鳥に乗り遠くの目的地に運んでもらうこともできる。

「まだ持続時間が短いのよ。せいぜい十分ってとこかしら」

「充分だよ。めいっぱい来てね」

 訓練の内容とはミサが聖獣を出してガクトを襲わせる。それを聖力集中させた拳や足で倒すというものだ。聖獣の耐久性は本人の資質にかかっている。ミサは資質が高いため、聖獣の耐久性が高いのだ。ガクトは一極集中の密度をそれなりにしなければ、聖獣を倒すことは不可能だ。

「行くわよぉ~、バンくん!」

 バンくんはミサのお気に入りだ。聖獣の姿を自由にできるようになってから、ミサは試行錯誤を繰り返し今の姿にまで行き着いた。頭部はライオンそのもの、胴体は四足歩行のチーターと言われればチーターだし馬と言われれば馬に見えなくもない。尻尾は蛇の胴体のイメージ。その背には天使の羽(ミサがそう思っている)が付いていた。

 バンくんを見るたびにガクトは思う――不憫だ。

「バンくん、覚悟しろぉい!」

 ガクトはバンくんに跳び掛かる。右手に聖力集中し、バンくんの獅子顔を思いっきり殴った。

 しかし、バンくんの顔は首だけが少し捻じれただけで、目はこちらを睨んでいる。次の瞬間、捻じれた方向にその身体は転換し、背を向けたかと思うと後からその蛇の尾がしなってきた。

 ガクトは不意を突かれ、右頬を打たれた。そして、その体は五メートル吹き飛んだ。

 そしてさらに、バンくんは追い打ちをかけてくる。天使の羽で舞い上がり、ガクトのマウントを取った。

 ガクトの目の前には獅子顔。

 それなら――。ガクトは膝に聖力を集中し、腹を蹴り上げた。

 バンくんは呻いて、横に倒れる。どんな生物でも弱い部分はあるのだ。

「バンくん!!」

 ミサの叫びに呼応し、バンくんはよろけながら立ち上がる。ガクトのダメージも相当なものだ。

「なんでこんなに強いんだ!? 一緒に始めたんじゃなかったか?」

 ガクトには納得できないことがあった。踊り子だったミサ。彼女も自分も外の世界で魔力を操ったことは無いんじゃなかったのか。俺がそう思い込んでいただけなのか。じゃあ君は――君は一体。

「行って、バンくん!」

 再びバンくんは軽やかにガクトに襲い掛かる。

 しかし、ガクトは冷静だった。足に聖力を集中し、横腹に回し蹴りを入れた。

 顔を歪め、バンくんは吹き飛んだ。そして、バンくんは地面に突っ伏したまま、ボンッという音と共に消えた。

「はぁあ、やられちゃった……」と、ミサは残念そうだ。本当にあれが可愛いらしい。

「やっぱりなかなか強いね。隙があったから勝てたけど……」

 それより、とミサに訊きたいことがあるガクトの言葉にミサは被せる。

「戻ろっか、クニじいがご飯作って待ってるよ」

 

 ガクトは訊きたいことを訊けないままその日が終わった。

 

 ミサも然ることながら、ガクトの成長スピードにも目を見張るものがある。聖力集中には自分の中の力に気付き、捻り出すという作業が必要じゃ。それを威力はまだまだであってもスムーズに出せるというのは見所があるということ。そのチャンスがあるだけでなるに値する――。そのようなことを言ったが、自分の時もそんなに苦労しなかったな、フォフォフォ。――それにしてもミサじゃ。あの子にはそれほどの才能はないが呑み込みが早い。本来常人に聖獣の具現化を課題にすれば、一年はかかる。それをあの子は一ヶ月で自由に姿形を変えられるまでになっている。――やはりあの一族の血縁者か。

 そういう結論に至ったクニシゲはそのまま目を瞑った。

 読んでいただきましてありがとうございます。

 今回は老人の名前がクニシゲだと判明。そしてミサのバンくんはガクトに倒されてしまいました。意味深なクニシゲの考えはこの先の展開に影響するのか。


 次回も修行場面です。


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