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魔王の天敵〈歩〉  作者: 鈴木タケヒロ
23/24

〈歩〉22

 第二十三部は魔王の天敵〈歩〉22として書かせていただきました。

 今回は戦闘シーンです。対カフアマーナ、ヌックです。


 中ではカフアマーナがラムーの趣味であろう玉座風の椅子にふんぞり返って座っていた。その筋肉は人間仕様の許容幅には収まらない様だった。

「カフアマーナァ!! お前を倒しに来てやったぞ! 覚悟しろぉ!!!」

 勢いよく扉を開けたガクトが吠えたのだった。少し脅かしてやろうという試みだった。

 しかし失敗してしまった。

 奴の顔は冷静そのもので眉根の一つも下がらない。その様子のカフアマーナを見てガクトの熱は少し冷めてしまった。

 しかし、クニシゲからはその気配はない。

「よくも……よくもわしの友人を、……あんな風にしてくれよったなぁぁぁ!!!!」

 カフアマーナの冷静さなんて関係ない。友をもてあそばれ、自分自身でその友人の殴り飛ばして、死んでしまったかもしれないのだ。

 一行は亡骸なきがらを見ていない。

 クニシゲは足に聖力を集めたかと思ったら、次の瞬間にはカフアマーナの目線の斜め上に現れて、右手を大きく振り上げていた。拳には聖力がたんまりと集中してある。

「お主には死んでもらぁぁぁう!!!!」

 振り上げてある拳には怒りしか乗っかっていない。

 その怒りをカフアマーナの膨れ上がった胸に向かって振り下ろす。

 しかしカフアマーナは最小限の動きだけでその拳を避けてしまった。

 クニシゲは振り向きカフアマーナに再び殴り掛かるが、それも避けてしまうのだった。

 殴る避ける、殴る避ける、殴る避ける、殴る避ける、殴る避ける、殴る避ける、殴る避ける――。

 カフアマーナの身体は筋肉で重そうだが、見た目とは裏腹に身軽に避けていく。クニシゲの身体が老いていて動きが鈍いということではない。単純にカフアマーナの動きの方が速いのだ。

 クニシゲがカフアマーナの気を引いている間にガクトが聖発散の準備をしていた。

 何十回目かは分からないがクニシゲが攻撃し、それをカフアマーナが避けた瞬間、ガクトは全身から聖力を放出した。

 すると思いの外あっさりとカフアマーナが聖発散に捕まってしまった。白いもやもやの中に二メートルの巨漢がすっぽりと入っている。

 その筋肉で盛り上がった身体からは力が抜けていく。

 クニシゲは体勢を立て直し再び右手に聖力を集めた。掌を覆う白いもやもやはいつもよりも大きい気がする。そしてその拳をカフアマーナに猛進しながら突き出した。

 次の瞬間――。

 

 ガクトは考えていた。亡骸は見つけられなかったのだ。

 いや――俺たちは探すことすらしていない。

 

 ズシャアァァァ!!!!

 沈黙の音が鳴り響く。


 **** **** ****


 その頃城の庭ではエメラとヌックが対峙たいじしていた。

 想像以上の体術と速さに体が追いつかない。速さには自信のあったエメラだがヌックのそれとは比較にならなかった。

「はぁはぁ……あんたぁ! ずっと力を隠してたのね……」

「隠すも何もこれぐらいは当然! カフアマーナ様を狙う輩を追い払うのがおいらの役目だからな。まぁ、追い払うと言っても殺してしまうんだが」

 ヌックは両手を身体の後ろで結んで、顎を引きエメラを見ている。エメラよりも身長が高いから見下しているような状況に映る。実際にも見下しているのだが。

「お前一人でおいらを相手にしようなんて、ちょっとなめ過ぎてやしないかい? ヘッヘ……身の程を知れぇ!! 早くお前を殺っちゃって、カフアマーナ様の所に向かったゴミ虫共も掃除しないといけないんだ! ……ただねぇ」

 ヌックが何か言いかけたため、エメラは話を聴く体勢で停止してしまう。

 ただねぇ、の後に続く言葉を思案してみるが分かるわけもない。

「何よ!?」

「ヘッヘッヘ、お前たちは城下町から来たんだよねぇ。その町でカグツチっていうじいさんを倒したらしいじゃん」

 それに続く話を推測できない。

「それがどうしたのよ!?」

「死んだのか?」

 ヌックは不気味に笑っている。暗い影がかかっている様だ。

 カグツチが死んだ? そんなこと認知しようとも思わなかった。クニシゲさんがショックを受けていたから、それに気を取られて確認はしなかった。いや、クニシゲの魔破拳は渾身の力で繰り出された様に見えた。あれを受けて、生きていられた方が奇跡だ。

「残念だけど……生きてる筈ないわ」

 そう言うとすぐに、

「確認したわけじゃあないんだね!?」

 笑いながら訊いてくる。その詰め寄り方に何も言えないエメラ。

「ヘッヘッヘ、もし生きていたら……どうだろうねぇ。そしてここまでカフアマーナ様を助けるために来ていたとしたら?」

 エメラの顔は固まる。見開いた目も小さな鼻もアッと開いてしまっている口も全てが動かない。

「あのじいさんはカフアマーナ様が【軍勢】の能力の真髄を発揮された被験者第一号だ。一生カフアマーナ様を敬い当然逆らうことも無い」

 その真実はガクトもミサもエメラもクニシゲも城下町の人々も、それどころか世界の人々をも、誰も幸せにすることは無い。

 魔王やその仲間たち以外。

「どうしたぁ? そんなんでよく私に任せろなんて言えたもんだ。お前を殺したらすぐにお前の仲間の元へ行っておいらが殺してやるよ!」

 ヌックはエメラの様子を窺がう。ヌックの目にはあまりにも暗く小さく弱いものに見えた。

 次の瞬間ヌックは動いた。カフアマーナをコピーした動き。

 その完成度には皆が驚いてしまうだろう。その身体使いで真正面からは行かずにエメラの周囲に気配を残す用心さを見せる。

 前、後、右、後、左、前、右、後、前、左、右、前、左、後、右、左、前、左、右、後――。

「死ねぇ!!」

 ヌックがエメラの背後からその頭を殴りつけてやろうとした時、フッと目の前からエメラは消えた。その場でピタッと止まって辺りの気配を探る。

 その動きは今までエメラよりも早く動けていたヌックにも見えなかったし、気配も感じない。

 キョロキョロとした頭を正面に戻した時、温かい細い空気がフーっと耳元を通った。

 その瞬間、身の回りの異変に対応しようとするヌックに、動かないで! と制止する声。ヌックの首元には左右に六十センチも伸びている刃が当たっている。

「あなたが何をしようと勝手だけどね……」

 

 ザシュ!


「私たちに手出ししたらただじゃあおかないって、あんたの主人にも教えてあげる」

 エメラの声は冷たかった。いつも光り輝いていた緑の瞳は赤く染まった地面を見つめていた。

 読んでいただきましてありがとうございました。

 今回は戦闘でヌックを倒したエメラを中心に描きました。


 次回は対カフアマーナ。そして完といった感じです。


 次最終話です。

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