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魔王の天敵〈歩〉  作者: 鈴木タケヒロ
19/24

〈歩〉⑱

 第十九部は魔王の天敵〈歩〉⑱として書かせていただきました。

 今回はガイアの町から果樹園へ戻る回です。

 ガイアの町から果樹園への道のりには十三体の魔獣が現れた。その姿はウサギやネズミ、カラス、鷲、サイなど様々で、世界中に存在する生物に似ていない魔獣もいた。

 しかし、ミサのバンくん、エメラの剣術(自分の長剣は折れてしまったので、道端に落ちている木の枝などを用いる)があれば、それらの敵は簡単に倒されてしまった。

 ガクトの聖発散、そしてそれに続く聖球が魔獣にお見舞いされることは無かった。エメラとの戦いで発揮されたその力は火事場の馬鹿力という言葉がぴったりで、ミサとエメラを期待させては裏切るという連続になってしまうのだった。

 道のりの最後の方になるとガクトは落ち込んでしまって使い物にならなくなった。

「あの子どうしたの? 雪原樹の森ではまんまとやられちゃったのに」

 エメラの素朴な疑問。

「私からすれば、ガクトがあなたを倒したっていう事実の方が驚きよ? 本当にそんなに強かったの?」

 ミサは冗談でも言い合っているように笑う。ミサには本当に信じられないことなのだ。果樹園からガイアの町に向かう時には散々苦労をかけられたのだから。

「あなたたちが使っている力って、魔力じゃあ……ないわよね? そんな力見たことないもの。いったいどういう原理で発動してるの?」

 エメラは聖力というものをガクトに出会うまで見たことが無かった。

 しかしそれは当然のことで、聖力は勇者か勇者見習いにしか扱えない力。世界中でガクトとミサ、その二人に力を与えたクニシゲにしか扱えない力なのだ。

「この力は自分の力というわけではないわ。人から人へ時代と共に伝承されていくものなのよ。それよりも、エメラって魔力を使いながら戦ってるわよね?」

「ん、そうよ。なんで?」

 このなんで? は、なんで分かったの? というニュアンスで使われた。

「魔力が足を纏っているのが見えるのよ。私は預言者でもあるから……」

 預言者という言葉に驚くエメラ。

「預言者って……あの? そういえば、私が住んでいた町の近くに預言者たちが集う村があったわね。彼らは未来を見る力があったから町の人たちは頭が上がらなかったのよ」

 エメラは微笑みながら言う。彼女にとっては預言者とは敬うに値する存在らしかった。

 ミサにとっては複雑だ。

 その予言者の血を引いているせいでミサは預言者狩りに合い、親から引き離されて、やっとの思いで逃げ出せたと思ったら見たこともない違う国の違う土地だったのだ。

 その能力を呪うミサにとっては、すごいね、と言われたところで何も響かない。

「でもさ、……未来が見えるのならカフアマーナとの戦いの情報を事前に手に入れることもできるよね? それなら苦労せずに倒せるんじゃない!?」

 エメラの緑の瞳は輝いている。エメラとはよく言ったもので、その輝きは宝石のエメラルドの様に見える。おそらく、エメラの親が生まれてきた子どものまだ開いていない筈の瞳を想像したわけでもなく、事前にそういう名前にしようと考えていたのだ。そう考えると、子に名を付けるということに正解などない筈なのに、エメラという名前は世界で唯一の成功例だと思えてしまう。

「ううん、それはできないの。今は魔王が復活してしまって世界に魔力が溢れてしまってる。そのせいで見え過ぎちゃって疲れるっていうこともあって、あまり何も観ないようにしていることが一つ」

 淡々とミサは続ける。

「もう一つ、私たちは根本的に生物の行動を観ることはできない。景色の移り変りだとか人の自然な命の消耗だとか、そういうものだけ。他の何かから影響を受けた対象の命の危機なんかは観ることができないの」

 その話を聴いて少しシュンとしてしまうエメラ。

 彼女は名案を思い付いたらしかったのだが、いとも簡単に思惑は粉砕された。

 その様子は子どもが欲しかった玩具をお預けされているという状況そのまんまだった。


「そろそろ着くわね」

 タクが操縦する馬車は目的地である果樹園に戻ってきた。

 タクは馬から降りて荷台に乗っていた三人を呼ぶ。ミサ、エメラと出て、彼女たちは真っ先にタクの家族の元へ向かった。一番最後にのっそりと出てきたのがガクトだった。魔獣退治の時、自分だけ役立たずで自分にもどうなっているのか分からず、頭がこんがらがっているのだ。

 あの時は上手くいったのに……なんでできなくなってるんだ…………。

 ガクトはそのまま寝室で待っているであろうクニシゲの元まで急いだ。

 聖力の扱いを、聖発散や聖球を自由自在に発現させるためにはどうすればいいのか。

「クニシゲさん、ただいま戻りました!」

 クニシゲは丁度、掌の上で聖力をもてあそびながら座っていた。

「おお、戻ったか。えらい早かったのう。つい二日前じゃあなかったかい?」

 クニシゲはすっかり元気になっていた。出発した時は寝込んでいて見送りもできなかったのに、今では顔色もほの赤くなっている。

「なんとか早く片付いたんです。それよりも……クニシゲさん、俺にはまだ聖発散や聖球は使えないみたいです。……すみません」 

 クニシゲは掌を見ている。そのずっと先に本人にしか見えない何かがある様だ。

「どちらもできんかったか? フォッフォッフォ。そりゃあそうじゃろう、使い方も教えておらんのに使えるわけないわい。まぁ、偶然できてしまうこともあるじゃろうがのう」

 ガクトに向けられた微笑みはいつもガクトやミサに向けられていたものだ。ガクトの全身には元気になってくれた、という安心感が覆っている。

「でも、それでも俺は聖発散も聖球も完成させなくちゃならないんです! 教えてください!!」

 ガクトは九十度よりも腰を曲げ、頭を下げる。それをクニシゲはやれやれという風に見下ろす。

「自分では気付かんか?」

 クニシゲの言葉の意味がはっきりと理解できない。

「じゃから、偶然できた時の感覚を覚えてはおらんかの?」

 ガクトは思い返してみる。聖発散ができたのは今までに二回。ボルゾイの村でピーと戦った時に初めてできて、二回目は操られていたエメラと戦った時。この二つに共通点があるのかと考え込んでしまう。

 それを見かねたクニシゲは、

「気持ちなんじゃよ」

 それを一言言って、クニシゲはガクトから目線を外した。

「気持ち……ですか?」

「ああ。ピーと戦っとった時、わしがお主に、聖力を溜めろ、と言った。それでお主は一生懸命溜め込んでわしの合図で聖発散をすることができた。それはお主がわしの期待に応えたい、そう思ったからじゃ」

 聖発散をするには気持ちが大切なことだったのか。確かにエメラと戦った時、足も動かなくなって必死だったけど、家族や町の皆のためにと思っていたんだった。果樹園とガイアの町の道のりで出てきた魔獣に対しては全く発動しなかった。それは自分が強いってことを証明したいだけだったんだ。俺が次の勇者だって。

「そういうことだったんですね。聖なる力……確かに勇者に相応しい力ですね」

 そう言ってガクトはクニシゲに微笑みかける。

「聖球も同じ要領なんですかね?」

 その言葉を聞いてクニシゲは勢いよくガクトの方を向いた。そしてその目は真剣だった。

「聖球は安易に使っていいものではない。わしもこんな風になった。歳のせいも多少あるじゃろうが、ほとんどは聖球をしたことの反動じゃ。ぽんぽん使っていいもんではないんじゃ。……命懸けじゃからな」

 ガクトにも思い当たる節はあった。聖球は一瞬で消えてしまったし、その後すぐに気を失った。一瞬使っただけで気を失ってしまうなんて、恐ろしい技だと思わざるを得なかった。


 勇者一行は今まで動き回っていた疲れを癒すために果樹園にしばらくいることにした。

 その間、ガクトは聖発散をスムーズにできるように練習した。ミサはバンくんと遊んでいた。エメラは折れてしまった長剣の代わりにタクに剣を求めたが、タクの家は代々果樹園を営んできていてそんな物は無かった。エメラは手頃な折れた木の枝を持ってきて柄を作って、しばらくの代わりにした。クニシゲは元気になったが鈍ってしまった身体を果樹園を手伝うことで回復させた。

 そうこうしているうちに一週間が経った。

 勇者一行は城下町へ向かう準備を存分に済ませていたのだった。

 読んでいただきましてありがとうございました。

 ガイアの町から果樹園へ戻り、ガクトは聖発散の原理と聖球の恐ろしさを学びました。勇者一行は出発する準備をしました、で今回は終わりでした。


 次回は「いざ、城下町へ」と言ったところです。

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