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魔王の天敵〈歩〉  作者: 鈴木タケヒロ
17/24

〈歩〉⑯

 第十七部は魔王の天敵〈歩〉⑯として書かせていただきました。

 今回はガクトが雪原樹の森へ白リンゴを取りに行く場面です。雪原樹の森で何かが起こるのか!?

 ガクトが出発したのは午前八時頃だった。もう早起きすることには慣れている。白リンゴを取りに行かなければならない雪原樹の森ではすでに四十四人もの人が行方不明になっているため、早くに出てたっぷりと時間をかけてもいいようにするのだ。

「行ってくるよ」

「ええ、一時間経っても帰ってこなかったら私も行くからね?」

 そういう約束だった。

 ガクトが雪原樹の森へ白リンゴを取りに行って、ミサはガイアの町に残って人々を魔族の脅威から守る役目。能力を存分に使えるミサには人々の命を任せる。そして一時間してもガクトが戻って来なかったら、様子を見にミサも雪原樹の森へやって来る。

 なんとも男としては不甲斐ない話ではある。次期勇者候補としてならなおさら。

 そうして出発したガクトは足に聖力を纏って常時よりも早い移動時間で目的地に着く。所要時間は五分から十分程度。

 しかし、白リンゴは雪原樹の森の中心にしかなっていない。ガクトはその森の中へ分け入って行く。しばらくすると、目の前に白リンゴがポツポツとなっている木々が見えてくるのだった。

 その時、同時にガクトの視界の端にその場にはそぐわないものが映り込んできた。

 それは一人の少女だった。目は緑色。ひらひらとした黒いワンピースを着て、黒いブーサンを履いている。身長は靴のせいもあって百四十センチを超えているように見える。

 そんな少女が一人で雪原樹の森を歩いている。サルモドキなんて言う魔獣もうろついている森を一人で歩いているのだ。

 ガクトは怪しんでいたが、その良心はその女の子を放ってはおけなかった。

「ねぇ、君。こんなところで一人で何してるの?」

 声の掛け方がナンパの様に聞こえたと感じるガクト。自分の言動を恥じずにはいられない。

 しかし、少女はそのナンパ師らしき人物の言動をおかしいとも思わず、いや、恐らくそういう人間がこの世にいるという知識さえ持っていなように、白リンゴを取りに来たの、と答えた。

 ガクトは少し安心する。少女への問いへの答えがここに来る理由として自然であったことではなく、自分の言動を怪しまれなかったことに。

「お兄ちゃんはこんなところで何してるの?」

「俺もここに白リンゴを取りに来たんだ。それにしても君……一人で来たの?」

 それは少女に対する当然の疑問。ナンパなどではない。

「うん。私近くの村に住んでるんだけど、お父さんとお母さんにプレゼントがしたくて、内緒で来たの」

 それは子どもらしい可愛い理由。ガクトは疑うことも忘れてしまっていた。

 しかし、あることに気付いた。それは見覚えのあるものだった。ガクト自身をも大きく包んでしまう。人間にしては大きすぎる陰。いつの間にかガクトとその少女はその中にいた。

 これはと思った瞬間、ガクトは少女を抱きかかえて大きく右に跳んだ。そしてガクトは少女を背中に隠して振り返る。そこには因縁深いサルモドキがいた。親に加えて子どもが一体。ブラストと戦っていた、トラマルを殺した、ガクトとミサを襲った、例のサルモドキたちだった。

 ガクトがその瞬間思ったのはやはり親子だったかということだった。

「サルモドキか……ブラストさんをどうした!?」

 ガクトはとりあえず訊いてみた。

 しかし当然答えるわけもなく、いきなり親の方が襲いかかってきた。その爪は人間一人以上のリーチがある。その爪を振り下ろしてガクトを後ろの少女もろとも殺す気だ。

 しかし、ガクトも三か月前のガクトではない。その爪が付いた腕を振り上げたその瞬間、跳び上がってその顔面めがけて渾身の魔破拳を食らわせるのだった。

 そのまま親サルモドキはギエェェとうめいて後ろに倒れる。それを見ていた子どもサルモドキは興奮してしまってガクトに突っ込んでくる。その子どもにも因縁はある。もしかしたらブラストがこいつに殺されたかもしれないと考えたガクトは同じ様に顔面を殴り倒す。やはりギエェェと倒れてしまった。

「大丈夫?」とガクトが振り返った時、そこに少女はいなかった。雪原樹の中にあった一点の黒はそのままそっくりなくなっていた。 

 ガクトはそのことを不思議には思いつつも初めの目的のために白リンゴの木々を見渡す。

 一時間経ってしまえばミサが心配してここへ来てしまう、と考えると、ただゆっくりしていただけの自分はどんな評価を受けてしまうのだろう、と怖くなる。

 ガクトの足は自然と急ぎ足になって白リンゴの木々に向かってしまうのだった。

 

 充分過ぎる程の白リンゴを取り終え町に帰ろうとした時、再び目の前には黒のワンピースを着た少女が立っていた。その脇に抱えている物はつばの無い長剣だった。それは少女の身長以上の長さをしている。

「私の名前はエメラ。カフアマーナ様の部下と言えば分かり易いかしら?」

 その事実に関しては薄々分かっていた。しかし、信じたくなかった。こんな少女までもが悪の手先だなんて……。人殺しだなんて……。

「俺は君を倒さなきゃならない。これまでに君が殺してきた人たちのためにも」

「私殺してないわよ」

「えっ……」

「私が殺る前に全員あのサルの餌食になっちゃうのよ。あなたが初めてなのよ? 私の剣技を観れるのは」

 そう言い終わると少女は口角を上げてからフッと姿を消した。

 瞬間的にガクトは聖力を足に集めてその場から離れる。すると元居た場所には長剣から繰り出された斬撃が目に見えた。そしてその斬撃は猛スピードでガクトに向かってくる。それをガクトは避ける避ける避ける。

 しかしその最中、避けた先に小石があってそれにつまずいてしまった。

 そのチャンスを見逃さないエメラ。

 ガクトの足は避けきれなかった分の斬撃を浴びた。ガクトの足からはボトボトと血が流れ出る。ガクトはひざまずき、エメラはガクトの十メートル間隔を置いて相対する。

「その傷じゃあ、私の次の攻撃を避けることはできないわね。せっかく避けられる速さを持っていてもたった一回失敗するだけでそんなことになるものよ、フフフ」

 ガクトは焦る。エメラの俊足を持ってすれば、次の一瞬には自分が死んでいる姿が想像できてしまう。

 どうする? どうする!? どうする!!?

 その時ガクトは考え付いた。ニヤリと口角を上げる。

 それを見たエメラは自分がなめられていると勘違いし、俊足を一瞬発揮するのだが、次の瞬間に起こった出来事に後退せざるを得なくなる。

 白いもやもやがすごい勢いでガクトの身体から広がっていく。これは聖発散である。

 上手くいった、とガクトは思う。

 エメラがこのもやもやが広がりきるまで後退することを止めることはできない、と決心した時、広がりは止まって収縮し出した。

 しめた! このタイミングだ!

 エメラはそのもやもやがガクトの力の限界を示していると考えたのだ。体力が持たなくなり、威力が弱まっていってる、と。

 ガクトにはこの作戦しか無かった。そもそも今までできたことのなかった聖発散。それに加えて聖球までも使った作戦。まず聖発散でエメラを退かせる。限界まで引かせる。そして文字通り限界まで広げた聖力を聖球を創るために収縮させる。

 そうすることでエメラはこう考える。こいつの白いもやもやがここで収縮し始めたのはパワー切れ、その収縮について行くことによって次の手を打つ時間を相手に与えないまま殺してしまおう、と。

 しかし、そこに待ち受けているのは聖球という巨大怪人鳥ハルバの強力な魔弾までもを相殺してしまう程の強固な守り。それを置いておくことによってエメラが切ってしまい、長剣の方が壊れてしまう、という寸法だ。

 エメラは白いもやもやについて行き、斬撃の圏内に入ったと思った瞬間、ガクトを切りつけた。

 しかし、ガクトの聖球は何故か成功してしまった。

 ガクトの思惑通り、エメラの長剣は一時の偶然に折られてしまったのだ。

 何故今まで失敗していた聖発散が成功したのか、何故初めてトライした聖球を成形できたのか、それらの理由は本人にも分からなかった。

 刀身のない剣を持っているエメラにはガクトを殺す手段が無くなっていた。

 ガクトはその闘志の無くなった様に見えるエメラの姿を確認して聖球を解いた。そしてそのまま前に倒れる。

 エメラも聖球に間接的にでも触れたせいか、魔力が弱まり倒れてしまった。

 ガクトの意識はどんどん遠くなっていく。かすんでいくその目には自分と同じように倒れているエメラの姿が映っていた。しかしそんな光景もすぐに黒く覆われてしまった。

 読んでいただきましてありがとうございました。

 ガクトが向かった雪原樹では七大魔人カフアマーナの手先、長剣使いのエメラが現れました。彼女との戦闘後気を失ってしまったガクト。エメラも倒れてしまったが――。


 次回はその場面からです。

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