第64話
ル・サトウズ・グロリア王国。
かつての魔王軍による侵略を食い止めた英雄達がいた。
勇者。ヴェルベット・ベル。
その男は目を見張るほどの大男で、人の身の丈以上はある戦斧を振るい、襲いかかってくる敵を一撃の元に両断していった。その凄まじい戦いっぷりから闘神と呼ばれていた。
剣聖、ヒューズ・フロスト。
繰り出される数々の剣技は鋭く、切られた相手が暫く切られた事に気づかないと言われた程である。
聖女、テレサ・アーウィン。
その癒しは死の淵にいる者すら生還させたと言われている。
不動、ラクト・スパルタン。
かの者が装備した盾はどんなものも防ぎ、どんな魔人や魔物でも彼を動かす事は叶わなかったと言われている。
暴君、ロウ・オレルアン。
この者が魔法を放つと数百という敵が灰となったと言われている。
この英雄達が生まれた国である。
当時の国名はグロリア王国であったが、魔島に消えていった英雄達に敬意と感謝を込めて国名にそれぞれの英雄の名前から一文字ずつ取り、現在の国名になった。
もっとも、ヴェルベット・ベル以外の人物は架空の存在である。
より正確に言うならば、当時にそのような名前の人物はいたのかもしれない。そして、実際に魔王軍と戦ったのかもしれない。それなりに戦果もあげたのかもしれない。
だが、吟遊詩人が唄うような活躍をした事は無かっただろう。
吟遊詩人が唄うような活躍は全て(過少、過大含めて脚色はされているが)ヴェルベット・ベルただ一人の行いである。
何故そうなったのかは分からない。
ヴェルベット・ベルの偉業と能力が一個人では到底収まるものでないのは火を見るよりも明らかで、現実味が無かった為か、それとも人数が多いほうが物語的に都合が良いのか。
ともかく、理由は定かではないが、この五人は確かに存在していたと王族も断言している。
そんな国の王都ラストにある王城の一室で一人の男は頭を抱えていた。
……まずは冒険者ギルドに要請して召喚……名目はどうする? 先のダンジョンでの功績? いや、そこまでの活躍はしていないな……というか、正式な手順を踏んでいる時間的な猶予が無いな。だが、普通に攫う事も出来ない。どうにかして怪しまれないようにしなければならない。
頭を抱えているはこの国の王、その人である。
その名はリアン・サトウズ・ロウ。もしくは二郎。
魔王と呼ばれている存在の二番目の子供である。より正確をきすならば、魔王の二番目の分体である。
ちなみに三汰はもっとも最近に生み出された三番目の分体である。
分体は魔王から記憶やステータス等を引き継いでいる。
魔王が分体を生み出した理由だが、好奇心と暇つぶしである。
ヴェルベット・ベルが生まれるまで、魔王に肉薄する存在は現れておらず、魔王は飽き飽きとしていた。その時に、ふと思ったのだ『自分より強いやつがいないならば自分自身と戦えば良いのでは?』と。
とても、頭の悪い考え方のように思えるが、それを実行出来る力を持っているなら話が変わってくる。
そして、一人目の分体である一郎が生み出された。
そうして作られた一郎は当たり前といえば当たり前だが、魔王に肉薄した。
しかし、結局は魔王が勝った。
だが、肉薄された事に手ごたえを覚えた魔王は次郎と三汰を生み出し、同じように勝った――そして、飽きた。
飽きて、縛りとして自身と分体は前線に投入せずに世界が征服出来るかどうかというゲームを始めた。
そこでヴェルベット・ベルと出会い、夢中になり魔王はゲームを止めた。
何故、魔王の分体である二郎が国王になっているのか? それを語ると長くなるので掻い摘んで説明すると、反体制派に襲撃されていた前国王を助け、取り立てられ、功績と人望を積み上げていくうちに気が付いたら即位するしか無く、この国の事も嫌いではないので即位した。国王としての悩みは寿命という概念が無い存在である為、どこでどのように退位して姿を眩ますかという事である。
……あ〜悩んでいても仕方ない、とりあえず動いてみるか。
暫く悩んでいた二郎ではあったが、何はともあれ行動しない事には始まらないと割切り、外出用の馬車を手配させた。
「ふぅ〜ん。こいつがねぇ〜」
一体全体どうしてこうなった?
ジロジロと品定めをするかのように自分を見回す少年を目の前にして蒼真の頭の中は疑問でいっぱいだった。
少し前までは言いようの無い恐怖に怯えていた蒼真はひたすらに体を震わせるだけで、周囲を気にする事が出来なかった。
それが和らいだ時には既に少年が目の前にいた。
鮮やかな赤髪、蒼真を見つめる碧眼は何処となく見覚えがあるような気がするが、蒼真には、少年と会った記憶が無いので気の所為だろう。
どうしてこうなったのだろう?
蒼真は少し前の記憶を探る。
えっ〜と。確か野盗ぽっい集団に襲われていた馬車を見つけて、馬車を守っている護衛の人達に手を貸して、野盗を退けて、馬車の中から偉そうな人が出てきて、お礼がどうのこうの……という所までは覚えているんだが。
「んん? お前、もしかしなくても壬辰島の出身か?」
そんな蒼真に少年が声を掛ける。
「あっ、はい」
「んで、忌み子ってやつか」
「――っ」
生まれ故郷までは分かる。蒼真たち島の人達は良く見ればこの大陸の人達と顔の造形が違う。
なので、そこまでは驚くべき事では無いが、忌み子と言い当てられた蒼真は流石に驚き、思わず息を呑む。
「なるほど、なるほど。こりゃ納得だな」
「……何で、俺が忌み子だと分かったんですか?」
何やら一人で納得して頷いている少年に蒼真は問いかける。
「ああ? んなもんは見れば分かるだろ」
蒼真の問いかけに少年は質問の意味が分からないとばかりに答える。
「……見ただけで分かるものなんですか? もう忌み子の証も消えているのに?」
「分かる。分からねぇやつは二流だ」
そう断言する少年。
「……そう、ですか」
明らかに年下であろう少年。だが、少年が纏ったオーラというか雰囲気は圧倒的強者の物。
そんな少年に断言された蒼真は複雑な思いを抱く。
「納得。だが、余りにも弱すぎる。力の使い方もなっちゃいない――何で、少しだけ鍛えてやる」
そんな蒼真の心境など一切構わずに少年がそう告げた。
「はい?」
「このままだと、どれくらいの時間が掛かるか分かんねぇ〜からな。ちょっとだけ底上げしてやるよ」
言って、ニカッと笑ってみせる少年。
……それから蒼真にとって地獄の時間が始まった。




