後日談
オレが間違っていた。いや、思い上がっていたのだろう。
腰を屈めて地面に生えている雑草と薬草を選別する伊地の姿に迷いはなく、とても手慣れている。
薬草採取何かは子供がする事だと鼻で笑っていたのも納得である。
当然だが、始めたばかりは誰でも素人なのだ。薬草採取しかり、魔物討伐しかり、お店の経営しかり。
下積みというやつは必要である。
立ち上がって固まった体を大きく伸ばす。
伊地はあれから約束通りキッドのお店で働き始めた。
そして、労働の大変さと難しさ、何より蒼真の優秀さを目の当たりにした。
誰でも最初は素人である。
それは間違いが無い。だが、素人からあそこまでの動きになるまでにどのくらい時間がかかるのか、伊地には全く想像がつかない。
ギフト。天賦の才。
あれはそういった類のものだと思う。正直明らかにむいていない冒険者にしておくには勿体ない人材である。
翻って伊地はどうかと言えば、はっきりと誤解なきように言えば――可もなく不可もなく。良くも悪くも凡才である。
接客、調理、施設管理、等など、キッドに無理を言って色々とやらせてもらったが、その全てが及第点。いや、その全てで及第点を取っているというのも凄い事なのだが、伊地はそんな事ではとても満足出来ない。
思えば小さい頃から器用でそこそこの事は出来た。
だからそれに胡座をかいて余裕をかましていたらドンドンと周りから追い抜かれていった。
伊地は要領を掴むのが上手いだけで他の能力は並なのである。
「さて、こんなもんか」
伊地は薬草でいっぱいになった袋を持ち上げて満足気に頷く。
「早く昇級して稼がないとだな」
最初は冒険者を辞めるつもりだった(登録して数日しか経っていないが)
辞めてキッドの店で働こうと思い、実際に今も働いている。
だが、キッドに言われたのだ、いずれお店を持ちたいのならお金は必要だと。そして伊地がお金を稼ぐのなら冒険者が一番手っ取り早いだろうと。
そう言われて伊地も納得した。
この前のダンジョン探索に思う所はある。自分がやっていけるのかという不安もある。
だが、客観的に自分の能力を見て、現状で金を稼ごうと思ったら冒険者稼業が一番手っ取り早いという事も事実である。
それにキッドも色々とアドバイスしてくれると言っている。
命の恩人であり、経営者の先達であるキッドからそこまで言われたらやらないという選択肢は無い。
「自分の店かぁ」
ぽつり呟く。
たったそれだけで何とも言えない高揚感に包まれる。
「……村を出てきて良かった」
自分より弱いやつに会って安心したい。マウントを取りたい。
そんな不純な気持ちで村を出た伊地だったが、今はそんな事は心底どうでも良いと思えた。
ふぅ〜。今回は危なかったですね。
ダンジョンの最下層に辿り着いたリーンは出てもいない汗を拭ってみせる。
蒼真達が引き返したのを見たリーンは万が一誰かにダンジョンを攻略されたらたまったものではないと大急ぎで最下層まで辿り着いた。
とりあえず魔物の生成を止めて……これで良し。それからダンジョンの稼働を停止して……さて、この後はどうしましょう?
このままダンジョンを放置しておけば残った魔物達も残っている冒険者たちが時間は掛かるだろうが、処理してくれるだろう。
……だけれど、それは何となく嫌ですね。
忘れていたとはいえ、好きで作っていたダンジョンに大勢の他人が許可もなく、土足で無遠慮に荒らし回る。
冒険者としては真っ当な行動だが、公開する気が無かった製作者としてはあまりいい気がしない。
さて、どうしましょう?
と、少しだけリーンは悩むと停止したダンジョンを再び稼働させる。
とりあえず全員お帰り頂きますか。
そして、先程よりも強い魔物を生成する。
冒険者として、ダンジョンに入るのは自己責任ですが、流石に死人が出るのは目覚めが悪いので、そこまで強く無くて、だけど攻略を続けるには危険と判断される位の強さで――そこそこの数で押し戻しちゃいましょう。
リーンの目論見通り、程なくしてダンジョンから冒険者たちはいなくなった。
死人が出なかったのが、奇跡と言えるレベルの災害であった。
そして、リーンは生成した魔物のその後を全く考えていなかった。
冒険者とギルドはその後始末で、てんやわんやとなり、気付いた時にはダンジョンが忽然と消えていた。




