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レベル99の幼女と最弱パーティー  作者: 癸識
地下迷宮(ダンジョン)探索をしましょう
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第56話

「そういえば、キッドさんは随分と奮発したみたいだな」


 蒼真はいつもより歩く速度が遅いメンスに歩幅を合わせながら歩く。


「キッドさん?」


 そんな蒼真と手を繋いだまま隣を歩くメンスが首を傾げる。


「ああ、シャルロッテさんの本名」


 蒼真が言うと、メンスはシャルロッテの本名を思い出したのか、『ああ』と声を上げてから、


「はい。ボクは遠慮したんですが、その、シャルロッテさんが『いいから、いいから、私が見たいだけだし』と有無を言わさずに買ってしまって……その、似合って、ます、か?」


 言って、自信なさげに蒼真に問いかけるメンス。

 そんなメンスの本日の服装は、赤いウエストリボン付きの膝丈の白いワンピース、足元は少しだけヒールがある黒いサンダル、手には小さめのトートバック。


「ああ、凄く似合っているぞ」


 どれくらい似合っているかというと、すれ違う男のほとんどが振り向く位には似合っている。


「えへへ、それなら良かったです」


 はにかみながらメンスが言う。


「これなら、ボクとせんぱいは『恋人同士』に見えますかね?」


「ああ、ばっちりだ!」


 言って、蒼真はぐっと親指を立てる。

 さて、何故メンスは『恋人同士』に見えるのかと問いかけたのか。

 それが、今回のデート、もとい新規出店された喫茶店への偵察するにあたってシャルロッテが考えたコンセプトであるからである。

 今回のデート発案者はシャルロッテである。

 シャルロッテ曰く、近所に新規オープンした喫茶店がどうやら自分達と同じようなコンセプトの喫茶店らしい。

 その為、どれくらい似ているのか、値段はどうなのか、どれくらい客付きがあるか、等を調べてきて欲しいらしい。

 と、言うのはメンス向けの理由であり、蒼真がシャルロッテから聞いた本当の理由は『メンスを休ませる』ことである。

 シャルロッテ曰く、メンスは一日も休まずに、毎日、毎日、フルタイムで働いてくれるらしい。シャルロッテからすればありがたい、ありがたいのだが、それ以上にメンスの体が心配であり、メンスに、『そんなに働かなくても大丈夫だから、少しは休んだらどうか?』と提案した所、それをどう解釈したのか、『ぼくは必要ないですか?』と悲しそうに言われてしまい、シャルロッテは休めとは強く言えなくなってしまったらしい。

 いや、そこは無理矢理にでも休ませろよ。と、蒼真は思うが、シャルロッテの気持ちも分からなくはない。シャルロッテもメンスがパーティーの為にお金を稼ぎたい事情は知っている。元冒険者としては思うところがあるのだろう。

 本来なら宿でゆっくり休ませたい。

 だけれど、それはメンスが拒否する。

 なら、せめて息抜きだけでもさせてあげようというシャルロッテ苦肉の策が本日の偵察任務である。

 そのメンスの息抜きに選ばれたのが仲の良い蒼真と理紗であったのだが、理紗は都合が付かなかった為に二人っきりと相成った。

 ちなみに給料は出ないが、食事代やらメンスの服代やらはシャルロッテ持ちである。

 ついでに、何故メンスが蒼真を『せんぱい』と呼ぶのか、それは、バイト先でも冒険者としても先輩だから、らしい。

 ちなみに理紗の事は『理紗せんぱい』と呼んで、とても二人に懐いている。

 二人はバイト先でも、『冒険者』としても先輩と呼ばれたのは初めてである。初めて先輩呼びされ、とても懐いてくるメンスを二人は、それはもう可愛がっている。


「それなら、良かったです。ボク、女装とか初めてなので、似合っているかどうか心配だったんです」


「……ん? 初めて?」


 蒼真はその一言に非常に違和感を覚える……というより、こいつ何言ってるんだという感じである。


「はい。ほら、少しだけれどお化粧もしているんですよ。男のボクでも可愛く見えるようになるってお化粧って凄いですね」


 そう言われて蒼真はメンスの頬を凝視する……すると、確かに微かにだが化粧が施されているようだが、蒼真から見ればあってもなくても変わらないレベルである。


「あ、ああ。そうだな……女装、初めてだったんだ?」


「はいっ」


「えっと、その、冒険者としての装備とか、バイト先の制服って女性ものだよな?」


「はい。ボクこんな小さい体だから、昔から男物じゃサイズが無くて女性ものを探したほうが早いんです。だから、パーティーの皆もシャルロッテさんも、申し訳なさそうにしていました」


「……ああ、そうなんだ。確かにメンスは細いからなぁ、足も小さいし、無理に男物を着ようとするとオーダーメイドになってお金掛かりそうだな」


 いや、そいつらは皆、喜々としてお前に女性ものを着させる奴らだぞ? という言葉を飲み込み蒼真はメンスの言い分に納得を示す。どうやらメンスの中では女性ものを着るのは女装とは言わないらしい。


「はい。だからボクにこんな可愛らしい格好が似合うかどうか不安でした」


 言って、軽くワンピースの裾を軽く持ち上げるメンス。周囲のメンスを見ていた男どもの目つきが鋭くなる。


「いや、凄く似合っているぞ? メンス以上にその服を着こなせるやつはいないんじゃないかと思う位だ。だから裾を持ち上げるのは止めなさい」


 メンスを窘めつつ蒼真は思う、『メンスの中での女装に対する基準が分からない』と。

 化粧は分かる。だが、いつもの装備も、喫茶店での制服もメンスの中では女装ではない。

 何故なら、昔からメンスは女性ものを身につけてきたから。

 ならば、メンスの中で『身につけるもの』は女装として分類されないのだろうと思ったが、今の服装は女装として認識されているらしい。


 ……意味が分からない。


「あっ、はい、そうですね」


 蒼真の言葉に素直に従って裾を直したメンスを見て、周囲の男どもが蒼真を睨みつける。


「でも、ボク以上にっていうのは言い過ぎですよ」


 言って、くすくすと笑うメンス。


 言いすぎじゃ無いんだなぁ。これが。


「……まぁ、そういう事にしておくか」


 自分の可愛さに無頓着なメンスを連れて蒼真は目的の喫茶店を目指した。






 カラン、カランっと来客を知らせるベルが鳴る。

 すると、「いらっしゃいませ~少々お待ちください!」と女性の高い声が聞こえてきた。

 それを聞きつつ、蒼真はお題目とはいえ、一応は偵察をしようと、ぐるりと騒がしい店内を見渡す。

 最近オープンしたばかりだからか、客付きはかなり良く、ほとんどの席が埋まっているように見える。

 忙しそうに行き交う女性店員の制服は――なる程、シャルロッテが経営している喫茶店と同じようにメイド服である……が、こちらの店のスカートはロングスカートと非常に常識的なものである。それもあってか、シャルロッテの店よりも女性や年配客の数が目に見えて多い。


「うわぁ、あんなに長いスカートだとボク踏んづけちゃいそうです」


 蒼真より真剣な面持ちで店内を見渡していたメンスが小さく呟く。

 それに対して、蒼真は内心で「いや、短くても転んでるやん」とツッコミを入れる。


「お待たせしました! お客様は二名様ですか?」


 案内板には『只今、ご案内できます』と書かれているが、店内の混み具合を見るに、これは暫く待ちそうだな。二人で話していると、一人の女性店員が蒼真たちの前に現れて、にっこりと微笑む。

 他の慌ただしく動き回っている店員と比較してみても、この女性がこういった接客業に慣れている事が窺える。


 この店員――できる。


 様々な仕事をこなしてきた蒼真の直感がそう告げる。


「ええ、空いてますか?」


「はい! こちらへどうぞ――二名様ご案内で~す!」


 そう言って、女性店員は案内板をくるりと回す。

 そこには「只今満席、少々お待ち頂きます」と書かれている。どうやら最後の一席に滑り込んだらしい。

 店員に案内された席は都合の良い事に、客席を全て見通せる壁際の席。

 椅子を引いて、メンスを座らせると、蒼真に自然と突き刺さる男達の視線。

 メンスを目にした大勢の男達は頬を緩め、目尻を下げる。中には頬をリンゴのように真っ赤に染めるやつまでいる。

 そんな男達は暫くメンスの姿を堪能した後、一緒にいる蒼真に目を向ける。そこには、嫉妬や羨望、嘲笑、果ては殺意が篭められている。

 あいつらがメンスの性別を知ったらどんな顔をするのだろうか?

 蒼真はそんな視線を向けられる度に考える。


「こちら、メニューになります。お決まりになられましたら、お席にあるボタンでお呼び下さい」


 笑顔でそう言って、店員が去っていく。

 蒼真はメニューを向かいに座っているメンスにも見えるようにテーブルの上に開いて置く。

 少し見た感じでは値段は普通の喫茶店と大差なく、また料理名もシャルロッテの所と違って至って普通である。さらに言えば、シャルロッテの所と違って、メイドと遊べるメニューも存在していない。

 この喫茶店とシャルロッテの店が似ている部分を強いて挙げるとするならば、制服くらいであろう。

 結果、シャルロッテの所とこの店ではメインターゲットが違うので、お客の奪い合いになる可能性は低い。


「……うちと違って随分と安いですね」


 ざっとメニューに目を通したメンスが険しい顔を浮かべる。


「そりゃ、シャルロッテさんの所は割高だからな」


 シャルロッテの店は、平均的な喫茶店の値段の倍近い。

 ただ、その代わりに店員への給金は良いし、女性店員の制服は可愛い、接客も色々な意味で質が高い。ついでの言うと、これでもかとスカートが短い。いくらスパッツや短パンを下に穿いているとは言え、あのスカートは短すぎると思う。

 店員の中には見せても良い下着、見せパンなるものを穿いているものもいる。

 そういった店員は主な客層である男達から人気があり、貰うチップも多い……以前、見せパンを穿いている店員がバックヤードで「男ってマジでちょろい」と会話しているのを聞いたことがある。

 嗚呼、本当に男とは何と単純で悲しい生き物だろう。だが、目の前に短いスカートの女性がいたら、つい目で追ってしまうのだ。

 というより、今更だがシャルロッテが経営している店は本当に喫茶店なのだろうか?

 ちなみにメンスは短パン派である。最近、見せパン派がメンスを唆しているらしいので、気を付けなければならない。


「せんぱい、せんぱい、何頼みますか?」


 仕方が無かったとは言え、シャルロッテの店をメンスに紹介したのは間違いだったかもしれない。と、蒼真が後悔していると、メンスが無邪気に聞いてくる。


「メンスが食べたいものを注文すれば良いよ」


「せんぱい、答えになってませんよ……う~ん」


 蒼真の答えに、メンスは困ったように眉を顰めて、メニューの頁を捲る。

 暫くメニューと睨めっこをしていたメンスが唐突に「あっ」と声を上げる。


「せんぱいっ、せんぱいっ。だったら、色々な物を一人前ずつ頼んで二人で分け合って食べませんか?」


 これは名案とばかりに、メンスが楽しそうに提案する。


「それ、良いな。偵察にはもってこいだ」


 蒼真もそれは名案と頷く。


「ですよね、ね。それじゃ――とりあえず全部頼んでみますか?」


 悪戯っぽく笑ってメンスが言う。


「流石にそんなには食べられないだろ」


 蒼真はそれに苦笑いをしながら答える。


「えへへ、そうですよね」


 楽しそうにメンスはそう言って、再びメニューに目を落とした。

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