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レベル99の幼女と最弱パーティー  作者: 癸識
エルフの村 ジュリアン
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幕間~とある幼女の帰省(途中)その1~

 ファーストからひたすらに北へ向かうと、そこには世界の果てが存在している。

 とは言っても、本当に世界の果てが存在している訳では無い。

 では、何故そう呼ばれているのか? その答えは簡単だ。

 そこから先に足を踏み入れて、帰ってきた人間が誰一人としていないのだ。

 かの有名な魔王を倒した勇者ですら、その地に赴き、他の者と同様に帰って来なかった程である。

 だから正確には、人間にとっての世界の果てである。

 そんな世界の果てを目指す一人の、金髪、碧眼の小さな幼女。そんな彼女の心の中は、不安でいっぱいであった。

 それも当然であろう。これから誰一人として帰ってきた者がいない前人未到の地に赴こうとしているのだ、不安じゃない方がどうかしている。


 ましろはきちんと蒼真さんを見張ってくれているかな?


 ……どうやら、小さな幼女はどうかしている類の人間であったようだ。

 そんなどうかしている類の小さな幼女こと、リーンである。


 蒼真さんは一人になると無茶をしすぎます。チームの事となると慎重なのだけれど、チームを助ける為に自らの命を顧みない。どうにも自分の命を低く見積もっている気がして仕方がない……はぁ~。不安……まぁ、何かあったらましろから連絡があるはず。便りがないのは良い便り。最悪死ななければどうにかなるし。


 そんな事を考えながら、久しぶりに全身鎧を身に付け、風のように走るリーン。


 それにしても魔法を使わないと家ってこんなに遠かったっけ? ……まぁ、これも定期報告をしなかった私のせいだけど……何か腑に落ちない。


 数日前に父親から魔法で、定期報告の為に一度帰ってこいと連絡を受けた。

 言われてみれば最後に定期報告の為に帰ったのは蒼真達と会う少し前なので、それなりに経っている。

 とは言っても、帰っていないだけで、魔法ではきちんと報告をしている。

 なので、無視をしても良かったのだが、そうすると後々面倒な事になるのは分かりきっていたので、面倒くさいことは早めに片付けておこうと思い、こうして向かっているのである。

 帰郷するのに最初は転移魔法を使ってとっとと帰って、とっとと戻ってこようと思っていたリーンだったが、転移魔法での帰郷は父親に、それでは訓練にならないと、禁止された為、こうして徒歩で向かっている次第である。


 はぁ。父様の事は好きだけど、たまにしつこいというか、面倒くさいというか……正直、うざい。


 内心で全国のお父様がドキリとするような事を考え、大きくため息を吐いた、その瞬間。

 木々の間からふらふらと、覚束無い足取りで出てきた一人の老人、それがドサっと音を立ててリーンの前に倒れ込んだ。

 リーンの走る速度は速い。当然、完全に停止する迄に時間が掛かる。このまま行けば確実にリーンと老人はぶつかってしまう……かのように思えた。

 だが、リーンはピタリと止まってみせた。さながら、放たれた矢が的に突き刺さったかのようにピタリと止まった。


「危ない、危ない、もう少しで轢いちゃう所でした」


 言って、これ見よがしに一滴も汗をかいていない額を余裕綽々で拭うリーン。


「おじいさん、おじいさん。こんな所で寝ていると魔物に食べられちゃいますよ?」


 それから、明らかに満身創痍の老人に見下ろしながら告げる。きっとこの老人も好き好んでこんな場所で倒れている訳では無いだろう。


「まぁ、聞こえていないでしょうけれど」


 リーンは帰郷する時は必ず不可視化の魔法を使って姿はおろか声、匂い、気配すら消している。そうしないと厄介事に巻き込まれやすいのである。これを見破れるのはかなりレベルの高い者か、あるいは探索や探知に優れた者しかいないだろう。

 だからこの老人が明らかに満身創痍であっても、二十四時間働ける位に元気であっても関係なく、リーンの姿は見えない。

 そのはずである。


「……た、助けて、下さい」


 だが、何故か老人はリーンのほうを見て、縋るような目と声を上げた。


「ん?」


 リーンは思わず後ろを振り返ってみる。だが、そこには人はおろか、動物すら見当たらない。


「……お願いです……村を、村を、救って下さい」


 か細く、所々途切れながら、それでもしっかりとリーンの目を見て、老人が声を発する。


「……あれ?」


 この老人は確実に自分の姿が見えている。そう思ってリーンは首を傾げる。何故なら、このボロボロの老人はとてもでは無いがリーンの不可視化の魔法を破れる程の高レベル、どころか冒険者にすら見えない。


「お願い……です」


 最後の力を振り絞ったのだろう、老人はまるで蚊の鳴くような声を出した後にぷつりと意識を無くして地面に突っ伏した。


「う~ん。可笑しいですねぇ」


 リーンは何故自らの不可視化魔法が効果を発揮していないのか不思議に思い、深く首を傾げ、自らの魔法がきちんと発動しているのかを確認して、気が付く。


「――あっ」


 不可視化の魔法が発動していない。どうやら蒼真やましろの事で頭がいっぱいでかけ忘れていたらしい。


「そりゃ、見えますよね」


 思わず、ぽんっと手を叩いて納得したリーンは改めて不可視化の魔法をかける。


 さて、どうしよう?


 そして目の前の老人に目をやる。


 村を助けて下さいって言われても、どこにあるのか分からないし、そもそも助ける義務も義理もないし、父様にも面倒事にはなるべく関わるなと言われてるし……う~ん……このまま、無かった事にして先に進もうかな?


『リーン、見ず知らずの他人を手助けするのは構わない。だが、決して救うな。救わなければいけない状況になったら、大切な人だけにしろ』


 こういった状況にあうのは何も初めてではない。

 リーンはその度に父親のこの言葉を思い出してなるべく関わらないようにしてきた。

 父親の言葉を守ると言えば聞こえは良いだろうが、リーンは未だに父親の言葉を完全に理解している訳ではない。

 その結果、その時の気分で決めていた。

 つまりは、きまぐれである。

 今はとっとと定期報告を終えてチームに合流したい。つまりは気が乗らない。


 うん、無視して先を急ぎましょう。


 そう決めたリーンは止まった足を動かし――不意に蒼真の顔が浮かび上がり、その足を再び止めた。


 ……う~ん。蒼真さんなら何だかんだ言って首を突っ込むんでしょうね……今の私はチーム最弱のメンバー。蒼真さんはそのチームリーダ。リーダーが助けるならメンバーはそれに従うべき……ですかね。


 そんな考えが浮かんだ事に自体にリーンは驚くが、少しばかり嬉しくも思う。これがチームの一員になる事かと。


 しかし、助けるのは良いのですが……場所ってどこだろう?


 老人をたたき起こすのが一番手っ取り早いだろう。

 だが、ここまで弱った老人に満足な案内が務まるだろうか? そもそも、そんなチンタラした事をやっている間に村は手遅れにならないだろうか?


 ……探知魔法でも使いますか。え~っと、範囲はとりあえずここから十キロ。対象は人間……あっ、これ、かな?


 リーンが探知魔法を使うと数キロ先にそれなりの数の人間の反応があった。


 次は魔法の目を飛ばしてっと。


 リーンは人間の反応のあった場所に魔法の目を作り出す。

 ちなみに簡単にこなしているが、普通は魔法の目を飛ばせる距離はせいぜい五十メートル。ダンジョン探索には重宝するが索敵にはあまり向かない。それをリーンは数キロ先に楽々と使ってみせる。


 これ物凄く目が疲れるし、片目が使えなくなるし、物凄く目が乾くからあまりやりたく無いんだけど、というか何で、魔法で作った目なのに自分の目が疲れたり乾いたりするんだろう? っと、きたきた。


 そんなくだらない事を考えていると、薄ぼんやりしていた視界が徐々に明るく、はっきりしてきた。暗闇に目が徐々に慣れていく感覚にそれは似ている。


 あれ? どこかのパーティーがもういるじゃないですか。もしかして、私必要無いかな?


 映し出された視界の先では、村の入口らしき門の前で、冒険者らしい風貌の五人の男達が一匹の巨大な蜘蛛と戦っていた。


 ビッグスパイダーですかぁ。確か討伐推奨レベルは61? でしたっけ? あっ、ましろと同じレベルですね。ここにいれば訓練相手に丁度良かったのですが。確かにこの辺りで遭遇するのは珍しいですねぇ。生息域はもうちょっと先のはずなんですが……はぐれ、ですかね。


 討伐推奨レベル61と言えば一流の冒険者が当たる案件である。

 しかし、視界の先にいる冒険者達はそんなモンスターに遅れを取っておらず、一進一退の攻防を繰り返している。


 何だ、一流っぽい人たちがもういるじゃないですか。運が良いですね。これなら私の出番は無さそうですね。こっそりと倒れているご老人を村に転移させて私は先を急ぎますか。


 そうリーンが結論付け、魔法の目を消そうとした、その刹那。

 ガサッガサッ。という音が聞こえてきそうな程その巨大な足を動かし、その大きさからは似つかわしくない素早さで、新たなビッグスパイダーが現れた。


 一匹現れ、冒険者達は驚き。

 二匹目が現れ、冒険者達は焦り。

 三匹目が現れ、冒険者達は狼狽え。

 四匹目が現れ、冒険者達は絶望し。

 五匹目が現れ、冒険者達から表情が消えた。


 ……あちゃ~。これは無理ですね。


 その光景を見たリーンは魔法の目を消すと、意識を亡くしたままの老人を軽々と背負って転移魔法を発動させた。

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