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レベル99の幼女と最弱パーティー  作者: 癸識
エルフの村 ジュリアン
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第48話

 蒼真が怪我をしてから一週間が経った。その間に起こった大きな変化と言えば、エルの蒼真に対する態度であろう。


「そーまの怪我は私の責任、仕方がないから私が面倒を見てあげる」


 と言って、嫌々、渋々といった様子で蒼真の世話を始めた。

 これに真っ先に反応したのは理紗である。

 ちなみに、依頼自体は終わったので帰っても良かったのだが、ワグマが蒼真の怪我の様子が気になるので、念の為に滞在期間を延ばしてくれと言ってきたのだ。

 これには本人以外が納得した。

 

「蒼ちゃんのお世話はうちがするから大丈夫。高貴な種族であるエルフ様の手は必要ない」


 と、不快感を顕にして蒼真本人の意思を確かめる前に拒否。


「……えっ。エルフの幼女にお世話される何て、どういう状況? ……羨まし過ぎるだろ、蒼真」


 と、拓也は羨望の眼差しを向けつつ、嫉妬に狂った目を蒼真に向けた。


「……いや、どっちにも世話になるつもりはないが」


 そんな拓也の目を気にしたのか、エルや理紗の世話は要らないと主張する蒼真。


「いや、万が一という事もある。暫くは一人で行動せんほうが良かろう」


 だが、そんな蒼真の意見は元医者であるワグマに却下された。


「ほら、おじ様もこう言っているんだから素直に従いなさい」


「そうそう、蒼ちゃんは黙ってうちの世話になれば良いの」


「……私が原因よ。責任を取るのが普通じゃないかしら?」


「……蒼ちゃんも原因である人物のお世話にはなりたくないと思うけれど?」


「別に二人で面倒を見れば良かろう。そのほうが男である刀傷も喜ぶじゃろうて」


 どちらが蒼真の世話をするかで揉めていた二人にワグマがそんな言葉を投げかける。


「そうなの? そーま」


「そうなの? 蒼ちゃん」


 言って、蒼真を見つめる二つの瞳。その瞳からは疑問形の言葉とは裏腹に、そんなのは絶対に認めないという、強い拒絶が読み取れた。


「……え~っと……それじゃ、くじ引きで」


 その強い意思を尊重。もとい、ワグマの言うとおりに、二人に世話になった場合、確実にいざこざが絶えないであろう事は目に見えて明らか。

 そもそもこの様子では怪我の経過を見ている間に新しい怪我が出来そうである。

 それならば、ここは男らしく、どちらかを蒼真が選べれば一番良いのだが、二人の血走った目を見たあとでは蒼真の男気も引っ込むしかなく、蒼真は結局運に身を任せた。

 その結果。蒼真の世話はエルに決まった。

 エルは渋々といった態度とは裏腹に、とても甲斐甲斐しく蒼真の世話をした。その間、理紗はずっと不貞腐れて、やさぐれていた。


 だが、それも今日迄である。


「うちの蒼ちゃんがお世話になりましたっ」


 真っ先に帰り支度(蒼真の分も一緒に)を整えた理紗が、ニコニコの笑顔でエルに言い放つ。


「貴方にお礼を言われる筋合いは無いわ」


 上機嫌の理紗とは反対に、若干落ち込み気味のエルがそっけなく言い返す。


「ああ、そうだったよね~。だって、自分のせいで蒼ちゃんが怪我をしちゃったんだから、当然だよね~」


 ニコニコと上機嫌のまま理紗がエルを口撃する。この二人、あの喧嘩からずっと仲が悪いままである。


「っ……そう、ね」


 一瞬だけ顔を顰めて、消え入りそうな声で答えるエル。その態度から強い後悔の念が伝わってくる。

 そんな二人を見て蒼真は、

 『結局最後まで仲直りしなかったか』

 と大きくため息を吐く。

 この一週間、蒼真は何度も二人に仲直りを促した。

 だが、二人とも頑なに首を縦に振らなかった。二人の険悪な雰囲気の一番の被害者は、蒼真と言っても過言ではない。

 何故なら、事あるごとに小競り合いをして、その多くに蒼真が巻き込まれたからである。否、小競り合いの中心にいたといったほうが正しい。


「色々と世話になったな。エル」


 言って蒼真はエルの頭を撫でる。


「……ええ」


 すると、いつもなら嫌そうにしながらも微かに口元を緩めるのだが、今日はその表情に陰りがある。


「そんな顔するなよ。たまには、遊びに――って、難しいんだったな」


 エルに懐かれたとはいえ、蒼真は村の皆に認められた訳ではない。そもそも、蒼真達は誰一人として村に入っていないし、エルとワグマ以外のエルフと会った訳でもない。

 エルと仲が良いから。

 何て理由で、人間を見下しているエルフの村に入れる可能性は低い。それどころか、幼子を誑かしてと要らぬ嫌疑までかけられる可能性すらある。

 つまり、エルとは、今生の別れになってしまう可能性が高いのである。


「……ええ、そう、ね」


 震える声で答えるエル。今にも泣き出してしまいそうである。


「――つまり、二度と会わないってこと。あ~清々する」


 そんな、暗く、湿っぽい別れの雰囲気を理紗がぶち壊す。いや、追い打ちと言ったほうが良いのかもしれない。


「っ――貴方ねっ!」


 この心無い言葉にエルは顔を上げて、キッと目を細めて理紗を睨みつける。その目尻には微かに涙が浮かんでいた。


「……理紗」


 この理紗の態度に蒼真も少し怒りを覚えて、思わず半眼で睨みつける。


「だって、本当の事だも~ん」


 が、そんなものは何のその、理紗は上機嫌に言い放つ。


 はぁ。たった一週間でここまで仲が悪くなるか、普通。


「何をしんみりとしておる。これが今生の別れになるとは限らんぞ?」


 蒼真がそんな事を内心で思っていると、ワグマが姿を現した。

 ちなみに、もう特効薬は村人全員に処方済み。その経過は順調で、このまま何事も無ければ死人が出ることなく、村人全員が完治するみたいである。

 もっとも、何事も無ければ、という前提があるので、ワグマは蒼真達とは一緒に帰らずに、暫くはエルフの村、ジュリアンに滞在するらしい。


「いやいや、ワグマのおじいちゃん。小さい子に希望を持たせるのは時として残酷だよ?」


 ワグマの言葉にため息を吐き、肩を竦めてみせる理紗。

 そんな理紗を見て、蒼真はさっきまでその小さな子に酷い態度を取っていたやつはどこのどいつだよと、なんて思った。


「そうです。おじ様……村が人間を受け入れる事なんて有り得ません」


 理紗に言われずとも、エルもワグマの言葉が慰めにしか過ぎないと理解している。


「そうさの~。村は受け付けないじゃろうな。ちみっ子が成人して村長にでもなって、人間を受け入れるようにコツコツと活動すれば可能性は低いが、ちみっ子が生きている間には成るかもしれん。もっとも、その時には刀傷も、嬢ちゃんも、儂すらも生きてはおらんだろうがの」


 言って、にやにやと笑いながら顎を摩るワグマ。


「それじゃ――」


「――じゃから、ちみっ子が村を出れば良い。儂と同じようにの」


 エルの言葉に被せるようして、ワグマが捲し立てる。


「……えっ?」


 この言葉を聞いて、エルがぽかんとする。


「エルフの寿命は長い。少しばかり人間社会を学んでも良いじゃろう。何、村とお前さんの父親には儂から話をつけてやる。今回の事で儂の株は急上昇じゃ、何も問題は無かろう。何せ、儂は今となっては、この村の救世主じゃからな」


「……私が、村を、出る?」


 そんな事は考えた事すら無かったのだろう。エルは呆然として、ワグマの考えを小さく呟く。


「い、いやいや。や、止めとこう? ううん。絶対に止めておいた方が良いよ? 人間の世界なんてろくなもんじゃないよ。うん」


 この提案に理紗が激しく狼狽する。


「まぁ、嬢ちゃんの言っている事もあながち間違ってはおらん。結局はちみっ子の心次第じゃな」


「に、人間なんてろくな生き物じゃないよ」


「ちなみに人間社会を勉強するなら、儂は『冒険者』なんぞ適していると思うぞ――おお、そう言えばお前さん達も冒険者だったの。これから儂が鍛えて優秀になる予定のエルフがいるんじゃが、どうじゃ? お前さんになら安心して預けられるんじゃがの~」


「っ」


 ワグマの言葉を聞いてエルが目を輝かせる。そして、その視線は自然と蒼真に向かい、二人の目が合う。

 つまり、ワグマはエルに蒼真達のチームに入れと言っているのだ。


「あ~、その、色々言いたいことはあるが、まず……大丈夫なのか?」


 これはエルとワグマに対する問いかけである。

 確かに、レベル的に言えばエルは問題が無い。何せ、蒼真より少しとはいえ上なのである。

 だが、エルはモンスターが怖い。

 これはトラウマに近く、直ぐにどうこうなるとは蒼真には思えなかった。


「何、どうにかなるじゃろう」


「問題無いわっ」


 だが、蒼真の問いかけに、二人は力強く頷いてみせる。


「え~っと」


 次に蒼真は理紗に目を向ける。仲間の意思を確認しようとしたのだ。

 すると……盛大に首と手を左右に振っている。


「すまん。待たせた……って、どうした?」


 ここで、ようやく帰り支度を終えた拓也が姿を現す。だが、蒼真は拓也には意見を求めない。これまでの経緯の説明が面倒くさいし、何より拓也が反対するとは思えなかった。

 つまり、仲間の意見は一対一に割れている。


「え~っと」


 再びエルを見ると、目をこれでもかと輝かせて蒼真を見ている。既にエルの中では結論が出ているのだろう。


「え~っと」


 再び理紗に目をやると、両手をクロスさせて×を作っていた。その目は必死である。


「う~ん」


 蒼真は目を閉じ、暫く唸った後、


「お、俺一人じゃ決められないから、他の仲間にも聞いてからで良い?」


 そう言って、苦笑いを浮かべながら、問題を先送りにすることにした。

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