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レベル99の幼女と最弱パーティー  作者: 癸識
エルフの村 ジュリアン
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第39話

 鬱蒼とした森の中を、蒼真は全力でひた走っている。そんな蒼真の後ろ姿を追いかける1匹のモンスター。そのモンスターの外見は山羊に似ている。ただ、熊と同じ位の大きな体と、額の真ん中に生えた一本の立派な角が山羊ではないと理解させる。

 この山羊のようなモンスターが今回の討伐対象である。


 くっそ! 追いつかれる!


 ちらりと後ろを振り返ると、モンスターとの距離がかなり縮まってきている。このままでは直ぐに追いつかれてしまうだろう。


 くそったれ!


 そう判断すると、蒼真は内心で毒づきながら走るのを止めて、背負った剣を鞘から抜き放ち、構える。

 そんな蒼真を見たモンスターは頭をくいっと下げて、まるでその立派な角を自慢するかのように突き出し、スピードを緩めないまま、蒼真に突進してくる。

 蒼真は息を整えつつ、向かってくる山羊を見つめ、タイミングを計る。

 タイミングが早ければモンスターは方向転換するし、遅いとスピードに乗ったあの巨体と衝突する事になる。


 ――ここっ!


 慎重にタイミングを見定めると、すかさず横に飛び退く。

 瞬間、蒼真の横から強風が吹き上がる。

 飛び退いた蒼真はすぐさまに体勢を立て直すと、横を通り抜けていったモンスターの後ろ足を斬り付け、すかさず距離を取る。

 メェーっと、山羊のような鳴き声を上げてモンスターが暴れまわる。その隙に蒼真は剣を鞘に収めると、再び走り出す。

 暫くして痛みが落ち着いたのか、モンスターが蒼真を探して周囲を見回す。気のせいか先程よりも殺気立っているように見える。そして、走る蒼真を見つけると、甲高い鳴き声を一つ上げて、駆け出す。

 こんなやり取りを蒼真はこのモンスター1匹だけで、もう三回も繰り返している。そして、更にもう一度繰り返して、ようやくゴールが見えてきた。

 そこは、この鬱蒼とした森の中では珍しく開かれた場所で、差し込む陽射しがきらきらと輝き、まるで、そこだけ異世界のように感じさせられる。

 蒼真は、もうひと踏ん張りと自らを鼓舞して足を動かし、開かれた場所へと飛び込む。

 眩しい日差しに思わず細めた目が捉えた地面に描かれた数個の魔法陣。蒼真は数個ある内の一つの魔法陣の上を走り抜ける。

 ややあってから、蒼真を追いかけて鳴きながらモンスターも魔法陣の上を走り抜け――ようとして、その動きを魔法陣の中央でピタリと止めた。

 この魔法陣はワグマが設置したもので、その効果は指定された条件のモノが魔法陣に入るとその動きや、その『モノ』自体を拘束する事が出来る。その効果時間や強度は詳しく指定すればする程強くなる。今回はワグマが討伐対象であるモンスターを知っていたのでそれなりの強度を誇っている。


「良し、一気に片付けるぞ、蒼真」


 と、同時に一体、どこに身を隠していたのか、そんな台詞と共にモンスターに襲いかかる拓也。

 そんな拓也を威嚇するようにモンスターが一際大きな鳴き声を上げる。

 蒼真もそれを見て、くるりと踵を返して、ぜぇ~ぜぇっと息を切らしながらも、剣を抜き放ち、モンスターに襲いかかる。

 ワグマが張った魔法陣はそれなりの強度を誇っている。だが、今回は相手が悪い。

 何度も言うが、この山羊に似たモンスターは魔法に対して耐性を持っており、拘束出来る時間は10分も無い。

 なので、へろへろの蒼真も力を振り絞って攻撃に参加している。これが30分も拘束出来るのであれば拓也一人でも討伐は可能だったろう。

 ちなみこの魔法陣、拘束対象を拓也にした場合、最低一時間は拓也を拘束出来る。

 数分後。

 そこには全身返り血まみれで息を切らして、地面に大の字に寝転がる蒼真と、同じく返り血まみれで、討伐したモンスターの角を慎重に削り取っている拓也の姿があった。

 どうでも良い話だが、拓也の眼鏡には汚れを弾く魔法が掛けられていて、目元だけは蒼真と違ってあまり汚れていない。もっとも、弾くとは言っても安物なので完全にとはいかず、今も薄汚れてしまっている。


「蒼ちゃん、お疲れ~」


 そんな疲労困憊の蒼真を見下ろすように、理紗がひょっこりと現れる。その手には二本のタオルと、一つの水筒。

 そんな理紗を見て、蒼真はこれから起きる事を察して、よろよろと立ち上がる。


「それじゃ、いくよ~」


 すると、それを見た理紗がそう言って、杖を蒼真に向ける。

 と、同時にゲリラ豪雨のような水が蒼真の頭上から降り注ぐ。血と汚れを落とす為の、豪快なシャワーといった所である。


「はい、タオル」


 数秒続いたゲリラ豪雨のような水ですっかり濡れ鼠になった蒼真はタオルを受け取り、顔を拭き取り、そのまま頭へとタオルを移動させる。この作業もかれこれ九回目である。

 ちなみに最初にこれをやられた時は、疲れて果てて仰向けに寝転がったまま中々立ち上がろうとしない蒼真に業を煮やした理紗がその状態のままの蒼真に魔法を使ったので、危うく溺れるところだった。


「はい、水」


 蒼真が一通り拭き終えると理紗が今度は水筒を差し出してきた。蒼真はそれを受け取り、一気にあおる。その様子を理紗は何が楽しいのか、にこにこと眺めている。


「ふぅ~」


 そして、人心地ついたのか、全身の力が抜けたように蒼真がどさっと地面に腰を下ろす。


「お疲れ~」


 言って、理紗も蒼真の隣に腰を下ろす。


「ああ、本当にもうヘトヘトだ……何せ本来は二人でやる作業を、ほぼ一人でこなしているんだからな」


 言って、そのまま仰向けに寝転がる蒼真。

 ワグマから提案された作戦は至ってシンプル。

 まず、開けた場所に魔法陣を設置してそこに囮役がモンスターを追い込み、動きを拘束している間にもう一人が倒す。

 一人でも可能かもしれないが、その場合は難易度も危険度も上がるのでより安全な提案をしたのだ。

 このモンスターは魔法には強いが物理攻撃には弱い。だから、動きさえ止めてしまえば蒼真達のレベルが討伐推奨に達してなくても大丈夫だろう判断したのだ。

 だが、この作戦案は致命的な判断ミスの上に成り立っていた。

 そう、拓也の体力の無さと、腕力の無さがワグマの予想以上に酷かったのだ。

 体力はリーンのおかげで以前よりはマシになったとはいえ、短時間ならともかく、格上のモンスターに対してそれなりの時間の囮が出来る訳も無く、攻撃に関しても普段は腕力の無さを攻撃魔法で補っている為、今回は相手が悪く約10分という短い時間で倒しきれる訳も無い。だが、他に妙案がある訳でもなく、また時間も無い。

 その結果、蒼真の負担が大きくなるのは目に見えていたが決行されたのだ。

 その代わり、本来なら一日3匹討伐する予定だったのを一日2匹にしたのだ。

 ちなみに、一応、念のために拓也も一人で囮役と仕留める役を両方とも試してみたのだが、その結果は言わずもがな。ワグマと蒼真の手間と労力を増やしただけに終わった。

 ちなみにワグマは1匹討伐後、討伐に参加していない(魔法陣設置を参加と見なすなら参加している事になるが)何故なら、1匹討伐し終えると、早速手に入れた角で特効薬を作り始めたからである。エルはそんなワグマの助手、という名の小間使いをしている。


「本当、お疲れ様。でも、これで9匹目だから残り1匹じゃん。あと少し、あと少し」


 ワグマから提示された角の必要数は十個。今拓也が取っている角が九本目だから、理紗の言う通りに残り1匹である。

 理紗の言葉に蒼真は思わず顔をしかめる。

 後一回だけ、もう少し、頭ではそう思っていても、先ほど終えたばかりなのに、この非常に心身ともに疲れる作業をまたやらないといけないのかと思う感情のほうが大きい。


「そうだぞ、蒼真。もうひと踏ん張りだっ。頑張ろう」


 不意にそんな言葉が聞こえて蒼真は顔を持ち上げる。すると、そこには未だに返り血まみれで、右手に角を持った拓也の姿が目に入った。


「お疲れ~。拓也も水浴びる?」


 そんな拓也に理紗が片手を上げて労をねぎらいながら問いかける。


「ああ、だが、少し待ってくれ」


 理紗の問いかけに拓也はそう答えると、地面に角と眼鏡を外して置き、そこから少しばかり距離を取る。


「いいぞ。頼む」


 それから目を瞑ると、理紗に声を掛ける拓也。


「ほい」


 それを聞いた理紗が魔法を発動させて拓也を濡れ鼠にする。


「もうひと踏ん張りとか、お前に言われてもなぁ」


 理紗からタオルを受け取っている拓也に蒼真はそう言って、これみよがしにため息を吐く。


「蒼真の言いたいことは僕にも分かるが――無理なものは無理だっ。今の僕にはどちらの役も荷が重すぎる」


 言って何故か胸を張る拓也。


「……まぁ、そうだな」


 ワグマから提案された時点で分かってはいたのだ、分かってはいたが、何となく拓也を責めたくなってしまうのは疲れているせいか、それともただの八つ当たりであろうか。


「残り1匹。頑張るかぁ」


 そう力なく言って、蒼真はよろよろと立ち上がった。

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