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レベル99の幼女と最弱パーティー  作者: 癸識
エルフの村 ジュリアン
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第35話

「……パパ……うるさい」


 自らの笑い声で、地上に地震でも起こそうとしているかのような遠慮の無い大声に耐えかねたのか、ベッドで眠っていたエルフの少女が目を擦りながら部屋に現れて、不満を口にした。


「っと、起こしてしまったか。これは悪いことをしたな、ちみっ子」


 このまま死ぬまで笑っているんじゃ無いだろうかと思える程に笑っていたワグマが、少女の出現でようやく笑うのを止めた。


「……あれ?」


 そんなワグマを少女は、焦点の合っていない目で、ぼ~っと暫く見つめた後、小首を傾げた。

 それから部屋をゆっくりと見回して、再びワグマに視線を戻して、


「――っ」


 現状を理解したのか、一瞬で顔を真っ赤にすると、慌てて俯く。


「ふむ。残念ながら儂はお前さんの父親じゃないが、何、恥ずかしがる事は無い。その年ならよくある事じゃわい。喉は渇いておらんか? 茶でも飲むかい?」


 そんなワグマの問いかけに少女は俯いたまま、こくりと頷く。


「良し。直ぐに淹れてくるから適当に座って待っとれ」


 少女の頷きを見て、ワグマは席を立つ。すると、少女はワグマに言われた通りに、俯いたまま、近くにあった椅子に腰掛ける。


「お嬢さん、お体は何ともありませんか?」


 一つ離れた左隣の席に腰掛けた少女に拓也が満面の笑みを浮かべながらそう問いかける。


「……」


 が、少女からの反応は無い。


「お嬢さんが道に倒れているのを見たときは驚きました。一体、どうしてあんな所で倒れていたのですか?」


 そんな少女に拓也は再び問いかける。


「……」


 が、やはり反応は無い。

 それを見た蒼真と理紗は納得の表情を浮かべる。やはりエルフという種族は噂に聞いた通りの存在で、あのワグマというエルフが例外なのであろうと。

 だが、拓也はそう思わなかったのか、少女に次々と質問を投げかける。


「お嬢さん、歳はいくつ?」


「……」


「どこから来たのかな?」


「……」


「好きな食べ物は?」


「……」


「お父さんとお母さんは?」


「……」


「何であんな所で倒れていたのかな?」


「……」


「え~っと、僕の言っている言葉が分かるかな?」


「……」


 だが、いくら質問を投げかけても少女は俯いたまま、一切の反応が無い。


「はぁ~……」


 これには小さい子が大好きな拓也も参ったのか、大きくため息を吐く。


「はぁ~……」


 少女の同情か、罪悪感にでも訴えようとしているのか、拓也が再びため息を吐き、少女を見遣る。

 だが、当然ながら少女からの反応は無い。


「はぁ~……はぁ~」


 それを見た拓也はこれみよがしにため息を連発する。


「はぁ~。はぁ~。はぁ~」


 更にため息の感覚は短くなっていき、頬がうっすらと赤みを帯びていき、頬が緩み始め――あれ? これってため息じゃないんじゃないか? と蒼真が疑い始めたその時、


「ハーブティーで良かったじゃろ?」


 そう言って部屋に戻ってきたワグマが、拓也と少女の間の席に腰掛けた。


「――はい。ありがとうございます」


 そんなワグマに対して、少女は顔を上げて軽く微笑み、礼を告げる。そして、ゆっくりと、年不相応に優雅な動きでコップを口元に運ぶ。

 さっきまでの拓也に対する態度が嘘のようである。


「……おぉ」


 まるで雪山の中に咲いた一輪の花のような可憐で、美しく、柔和な微笑みを見て蒼真が思わず声を漏らす。


「……むぅ」


 そんな蒼真の反応を見て、理紗が少しだけ頬を膨らませる。


「えっ? 何? 何? どうした?」


 ワグマによって少女が隠されてしまった形の拓也は何が起こったのか分かっていない。

 少女は相当に喉が渇いていたのか、出されたハーブティーを一気に飲み干す。そして、人心地着いたのか、ほぅっとため息を漏らす。

 それから、いそいそと居住まいを正し、ぴんっと背筋を伸ばしてワグマに体を向けると、


「ごちそうさまでした。そして、遅れてすみませんが、助けて頂いて有難うございます」


 そう言って、深々と頭を下げる。


「何、儂が助けた訳じゃ無いんじゃが……そういう事にしておこうかの」


 そう口ごもり蒼真をちらりと見つめるワグマ。その瞳はありありと話を合わせてくれと訴えかけていた。

 蒼真はそんなワグマに小さく頷く。

 先程からこちらを一瞥どころか、まるで存在していないかのように振舞う少女の態度を見れば話を合わせたほうが賢明だろう。そもそも、蒼真は感謝されたくて少女を助けた訳ではない。


「いえ、お嬢さんを助けたのは僕たち――もがっ」


 なので、余計な事を口走り始めた拓也の口を蒼真は無理やり塞ぐ。


「私はジュリアンのエル・キャロラインと言います。訳あって、隣の村、ジェードに赴く途中でした」


 頭を上げた少女、こと、エル・キャロラインはそう言って、ワグマを真剣に見つめる。


「ジュリアンの~……あそこは昔、儂も世話になった事があるので覚えておるよ。キャロラインというと、医者を代々やっておるあのキャロラインか?」


 ワグマは少女の村に行ったことがあるようで、懐かしそうに目を細める。


「はい。まさか、おじ様もジュリアン出身なのですか?」


 言って、小首を傾げるエル。


「……いや、儂はジュリアン出身ではない。昔、少しばかり滞在させて貰っただけよ。しかし、ちみっ子の年齢を考えるなら、父親はあのジャックか?」


「はい。ジャック・キャロラインは私のお父様です」


「そうか、そうか、あのジャックがの~」


「お父様とお知り合いなのですか?」


「うむ。少しばかり面識があっての、儂があの村を訪れたのは大体二百年前だから、今ではジャックも三百と少しか? 確かに子供がいても可笑しくはない年齢だが……そうか、もうそんなに経っておったんじゃの」


 そうしみじみと言うワグマに蒼真達三人は目を大きく見開いて驚きをあらわにする。

 つまり、目の前にいるワグマは最低でも三百歳以上ということだ。人間で言えば、どこからどう見ても二十代位であろう容姿をしている人物がだ。

 いや、蒼真達も知識としてエルフは長寿であるとは知っていた。だが、まさか、これ程とは思っていなかった。


「蒼ちゃん、蒼ちゃん……ねぇ。まさか、あの女の子……エルちゃんだっけ? ……あの子、もしかしたら、うちらより年上なんじゃ?」


 いそいそと椅子ごと蒼真に近づいて、口に手を当てて、小声で蒼真に話しかける理紗。


「……か、かもな」


 蒼真もそれに小声で返す。

 ワグマがあの見た目で最低三百歳以上と考えると、人間でいうとまだ十歳にもなっていない容姿をしているエルが、自分達よりずっと年上でも可笑しくない。むしろ、そう考えたほうが良いだろう。


「蒼ちゃん、ちょっと聞いてみてよ」


「聞いてもいいけど、確実に答えてくれないだろ?」


「あ~。それもそっか」


「……幼女だと思っていたが……まさか、年上? ……嘘だろ?」


 なんて二人がやり取りをしているのを尻目に、拓也は茫然自失といった様子でエルを見つめる。


「その、おじ様のお名前をお聞きしても? お父様と面識があるのでしたら、お父様から私も何か聞いているかもしれませんし」


「儂の名か? 儂の名は、ムーン――じゃなかったわい。ウォルター・グラッチじゃ」


「ウォルター・グラッチさん?」


 ワグマの名前を聞いて、エルは少しばかり考え込む。


「すみません。聞いたことがありませんね。お父様とはどういった関係で?」


「何、大した関係じゃ無いよ。ジャックも儂の事を覚えておるかどうか。ジャックは元気にしておるか?」


 そんな何気ないワグマの質問にエルは悲しそうな表情を浮かべる。


「その事でお願いがあります。どうか――私たちを助けて下さい」


 そして、懇願するようにワグマの手を取って、目にはうっすらと涙を浮かべて、叫ぶように言い放つ。


「助ける? 何かあったのか?」


 そんな必死の様子のエルに対して、ワグマは冷静に問いかける。


「はい、実は――」


 そして、エルは村の状況、自分が何故、隣の村に向かっていたのかを話始めた。

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