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レベル99の幼女と最弱パーティー  作者: 癸識
エルフの村 ジュリアン
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第34話

 そこには大小様々な墓が乱雑に並べられていた。

 木彫りの墓標が立っていれば良い方で、多くの墓に墓標は無く、土を盛っただけの簡素なもので、誰が眠っているのかさえ分からない。

 ただ、その中にもきちんとした墓石はいくつか存在している。件のムーン・ワグマの墓も真っ白な墓石が立っていた。時折聞こえる、野犬の遠吠えが静かな墓地にやけに響き渡る。


「え~っと、エルフの変わり者ホルダー……いや、ヴォ……ウ……ウォルダー? ……あっ、ウォルター。ウォルター、え~っと……なんだっけ?」


 蒼真は周囲を気にしつつ、その墓石の前で、先ほど聞いた言葉を言おうとしたのだが、あまり覚えていなかった。その為、蒼真は近くにいた二人に視線を遣る。


「えっ? うち? 覚えてないよ?」


 そんな蒼真の視線に理紗は慌てて両手を左右に振って答える。


「クラッチ……じゃなかったか?」


 頼りにならない理紗に代わって、やや考えてから拓也が蒼真に告げる。


「ああ、確かそんな感じだったよな。え~。エルフの変わり者ウォルター・クラッチここに眠る」


 そう言って、暫く待つ。

 が、何も起きない。


「……何も起きないぞ?」


「そうだね」


「ノックでもするのだろうか?」


「墓にか? それは流石に死者に失礼だろ」


「う~ん。だったら、撫でるとかさするとか? もしくはどこかにスイッチ的な何かがあるとか?」


「その可能性はあるな。拓也」


 理紗の言葉に頷いた蒼真は拓也を促す。蒼真はエルフの少女を抱えたままなので両手が塞がっているのだ。


「了解した」


 蒼真に促された拓也が念入りに墓を調べ始める。


「……何もおかしな部分は無いな」


 そして、暫くしてからお手上げとばかりに首を左右に振ってみせる拓也。


「じゃあ、あれじゃない。さっきの呪文が間違っているとか……もしくは手の込んだ悪戯とか」


 そんな拓也を見て、再び理紗が自らの考えを述べる。


「間違っている可能性はあるなぁ~。正直かなりうろ覚えだしな。悪戯の線は無くは無いと思うけど、そうすると、俺達をどこかに隠れて、盗み見ながら笑っている奴がいる可能性が高いな。拓也」


「全く、蒼真は人使いが荒い。まぁ、これもそこにいるエルフっ子の為だ」


 言って、拓也がすっと、二人から離れる。


「さて、何て言っていたっけな」


 そんな拓也を見送って蒼真は脳みそをこねくり回す。


「やっぱり、ヴォルダー・クラッチ?」


 それから蒼真は思いつく限りの似た名前を墓石に向かって告げる。が、そのどれもが間違っているようで何の変化も無い。


「……語感は合っていると思うんだけどなぁ」


「やはり周囲に人は見当たらないな」


 そうこうしている間に拓也が見回りから帰って来た。


「なぁ、ウォーターとボーダーのどっちかだったと思うんだが、どっちだと思う?」


 色々な言い回しをしている間にどんどんと可笑しくなっていた最終候補を蒼真は拓也に告げる。


「――ウォルター・グラッチじゃよ」


 その刹那。唐突に一人の老人が三人の前に姿を現した。

 髪は白髪、他人より量のある眉毛も白く、目は閉じられたように細く、腰は曲がり、木の杖をついている。


「――っ」


 蒼真は思わず身構える。拓也はさっき周囲には誰もいなかったと言っていた。では、この老人は何だ? 一体、いつ現れた?


「やれやれ、最近の若者は人の名前も覚えられんのかね。全く嘆かわしい」


 そう言って大きくため息を吐くと、墓石に手を置き『エルフの変わり者ウォルター・グラッチここに眠る』と囁く。

 すると、ゆっくりと墓石が右に移動して、少しだけ大きな穴が現れた。

 そこには本来埋葬されているであろう死者の亡骸は無い。穴は成人した男性がすっぽりと隠れる位の大きさがあり、底が見えるのだが、そこには何も無い。


「付いて来なさい」


 老人は振り向かずにそう告げると、迷いなくその穴へ飛び降りる。

 すると、その姿が完全に見えなくなってしまう。まるで、どこかに消えてしまったかのようである。

 蒼真達三人は少しだけ顔を見合わせてから、老人の後に続いて穴へと飛び降りた。






 穴を降り、暫く老人の後に続くと、急に開けた場所に出た。

 そこには家具や調度品はおろか、キッチンやトイレ、風呂などが完備されていた。そこにはベッドもあったので、老人の許可を得て、蒼真はエルフの少女をベッドに下ろした。

 老人曰く、ここは老人の隠れ家らしい。

 それを聞いて、蒼真は一体、この老人は何者なのだろうかと首を傾げ、直接老人に問いかけてみた。

 すると、


『儂の事を話す前に、まずお前さんらの話を聞こうか』


 と、言って、キッチンへと消えて行ってしまった。

 そして、少しすると、老人は盆の上にコップを四つ乗せて戻ってきた。


「さてさて、話を聞こうかの」


 言って、テーブルにコップを四つ並べる老人。

 すると、コップからツンっと鼻を刺激する匂いが漂ってきた。この匂いを蒼真はどこかで嗅いだ事があるような気がして、思い出そうと記憶を探る。


「ただのハーブティーじゃよ。毒なんぞ入っとらん」


 蒼真が思い出すより先に老人が正解を口にする。

 言われて蒼真は『ああ、香草焼きによく使うあの草か』と思い出す。


「……これって美味しいの?」


 理紗が不安そうな目で老人に問いかける。

 蒼真達がいた故郷では、病気や体の不調があると、薬草を煎じて飲むのが一般的である。ちなみに味は最悪である。

 その為、三人はハーブティーなる存在を知りつつも飲んだ事は無い。マズイに決まっていると思っていたからである。それが今、目の前に出されているのである。


「美味い、不味いなんてもんは、人それぞれじゃろ」


 老人にそうばっさり言われて蒼真は確かにと納得する。

 そして、三人は顔を見合わせてから、同時にハーブティーを口にする。


「……うん」

「――あれ?」

「……うげっ」


 ハーブティーを飲んだ三人の表情は三者三様。


「……まぁ、不味くはない」


 と言って、普通の顔をする蒼真。


「めっちゃ、美味しいんだけど、これ」


 と満面の笑みを浮かべる理紗。


「……僕はちょっと……いや、かなり苦手だな」


 と言って顔を顰める拓也。

 そんな拓也を見て蒼真は、そういや、薬草を煎じた薬を拓也はかなり嫌っていた事を思い出す。

 とは言っても、故郷の薬とこのハーブティーには雲泥の差がある。これでもダメと言うのなら拓也はこういったものは今後もダメであろう。


 ……そういや、香草焼きも拓也は苦手だったな。あれでダメならこれはダメだろうな……まぁ、俺も理紗みたいに美味いとまでは思わないが。


「さて、落ち着いた所で話を始めようとするかの。まずは自己紹介じゃ。儂の名前はウォルター・グラッチ。と名乗りたい所じゃが、生憎とその名前は名乗れん。今は、ムーン・ワグマを名乗っておる」


「斎藤蒼真です」


 この隠れ家といい、墓に刻まれた名前と一緒の事といい、この老人、こと、ムーン・ワグマには何かあるなと思いながら蒼真は名乗り、軽く頭を下げる。


 ……何て、そんな事はとっくに予想出来る事だけどな。エルフを背負っていた俺達に声を掛けた訳だし、エルフと交流があり、懇意にしている珍しい人間か、はたまたエルフを神秘的な生き物と見做している人間の一人か。


 一部の人間はエルフに対して、神秘性を見出している。

 博識で長寿、魔法に長け、容姿にも長けている。そんな人間より優れている生物であるエルフに神秘性、というよりほとんど崇拝に近い感情を抱いている人間は少なからずいる。


「相田理紗です」


「鈴木拓也です」


 蒼真に続き、二人が名乗って軽く頭を下げる。


「ふむ。その髪色、その仕草、その名前、お主達は東方の人間か?」


「ええ、まぁ、そんな所です」


「東方の人間が何故エルフと一緒におる? 儂の記憶が確かならば、東方にエルフの里は無かったはずじゃが?」


「えっ? ……成り行きで?」


 何故と言われても、蒼真達は道端に倒れていた少女を介抱しただけである。理由を問われても困る。


「ふ~む。何か事情がありそうじゃの……話せるようなら話してみんか? 儂に出来る事なら力になろう」


 そんな蒼真の回答をどう受け取ったのか、ワグマが顔を顰め、真っ白な顎鬚をさすりながら蒼真に言ってくる。


「助けてくれるのは有難いんですが……おじいさんが思っているような事情なんてありませんよ?」


 何やら勝手に勘違いしているワグマの誤解を解こうと蒼真が告げる。


「そう警戒せんでええ」


 そんな蒼真に向かってワグマは快活に笑ってみせる。


「と言うのもな、実は――儂もエルフなんじゃ」


 そんなワグマに対して、蒼真はどう返せば良いのか困っていると、にやりと意地の悪い笑みを浮かべたワグマの姿が――一変した。


「どうじゃ? 驚いたか?」


 言って、してやったりという顔で蒼真達を見るワグマ。

 まるで太陽光を浴びて燦然と輝く小麦のような黄金色をした髪の毛。人より尖った耳。エメラルドグリーンの瞳。白く、髭はおろか産毛すら生えていない様子の顔は非常に整っている。その口から発せられる言葉はまるで鈴の音のように涼やか。先ほどの髭もじゃの老人は一体どこに行ったのか? 蒼真達の目の前には一人の美青年がいた。


「んっ?」

「えっ?」

「はぁ?」


 驚きのあまり暫く固まっていた三人がうめき声にも似た驚きの声を漏らす。


「はっはっは。いや~良いリアクションじゃ」


 そんな三人を見て別人(別エルフ?)と化したワグマが、テーブルを叩きながら、盛大に笑う。


「……いや、誰だよ」

「……うわぁ。イケメン」

「……まさか、幻術、か?」


「おお、そこのメガネ。正解じゃ。この見た目では人と暮らすのに、ちと不便での」


「……って事は、かなりの時間、幻術を使っているのか?」


「そうじゃよ。刀傷。慣れんうちは維持するのに大変じゃったが、慣れれば大したことは無い。コツさえ掴めば然程魔力も使わんしの」


 そう何でもない風にワグマは言ってのけるが、それがどれほど大変な事かは低レベルとはいえ、魔法使いである理紗の驚いた表情を見れば直ぐに分かる。


「あ、あまり人とは会ったりしないの?」


 それであればまだ納得が出来るというように、理紗が恐る恐る問いかける。


「嬢ちゃんや、それじゃ人と暮らしている意味が無かろう。なるべく多くの人間と交流しようとしておるわい」


 その答えを聞いて、理紗は目を見開き愕然とする。


「さて、これでお主達の警戒も解けたろう?」


 言って、ちらりとエルフの少女が眠っているベッドに目を向けるワグマ。


「あのちみっ子とお主達はどういった関係じゃ? 見たところ、あのちみっ子は相当疲労しておる様子じゃが」


 真剣な表情でワグマが蒼真を見据える。


「……と、言われてもなぁ」


 そんなワグマに対して、蒼真は苦笑いを浮かべて、頬を掻く。


「……ここまでしても話せんか……このちみっ子は相当に重要な人物のようじゃの」


 はぁ~と大きくため息を吐いて、目を伏せるワグマ。何だか、ワグマの中では物凄い事態になっている様子である。


「いやいや、さっきも言い――ってないな。えっとですね。俺達は昼間にたまたま道端で倒れているあの子を見つけて介抱しただけです」


「全く、嘘をつくにしても、もう少しマシな嘘をつけんのか? あんなちみっ子が一人で道端に倒れている訳が無かろう。人間なら兎も角、エルフじゃぞ?」


「と、言われてもそれが事実なんだが」


 やれやれと肩を竦ませながら言われても、それが事実なのだから仕方がない。エルフじゃぞ? とか言われても蒼真には、だから、何? としか思えない。


「はぁ~。それじゃ、あのちみっ子の名前は? いや、どこの里の者じゃ?」


「いや、だから知らないんだって」


「強情なやつじゃな」


「いやいや、本当に知らないんだって」


「……まさか、お主ら人攫いか?」


 好意的な態度からワグマが一瞬で目を細めて蒼真達に敵意を放つ。


「んな訳ないだろ。失礼だな。人攫いが街中であんな目立つ行動するかっての」


 ワグマからぶつけられる敵意に背筋を冷やしながらも、それ以上に人攫いの一言に対して蒼真は憤慨する。


「そうカッカするでない。冗談じゃよ。冗談」


「ったく、言っていい冗談と悪い冗談ってものがあるだろ」


「それで? 本当の所は何なんじゃ?」


「本当の所も何も、さっき説明したのが本当の事だよ」


「またまた~」


 言って、理紗と拓也に目を遣るワグマ。


「あはは。本当なんだけどね~」


「蒼真が言っている事が事実だ」


 すると、二人は困ったような表情でワグマに答える。


「……いやいや、お主達も本当に強情じゃな」


 それでも、ワグマは信じられないらしく眉を顰める。


「はぁ~。だったら、あの子が起きたら聞いてみれば良いさ」


 いい加減にこのやり取りに疲れてきた蒼真は、投げやり気味にワグマに言い放つ。


「……えっ? 聞いても良いのか?」


 これに対して、何故かワグマは驚愕する。


「良いの何も、それが一番てっとり早い……っていうか、このままじいさんに預けて俺達はお暇したいんだが」


 同じ種族だから悪いようにはしないだろう。何て事を蒼真はとてもではないが思えないが、ワグマの態度を見る限り、どうやら本気で心配してくれているみたいである。であれば、預けても問題無さそうである。


「――僕は反対だっ」


 蒼真のぼやきとも、提案とも取れる発言に拓也が光の速さで反応する。


「はいはい、お前はそうだろうな。理紗はどうだ?」


「えっ? 良いんじゃないの? うちはそうするものだとばかり思ってたんだけど」


「はい、二対一で決定。で? どっから出られるの?」


「……お主達が言っていた事は、本当の事なのか?」


「しつこいな。ずっとそう言っているだろ?」


「み、見返りを、このちみっ子に求めたりせんでええのか?」


「はぁ? 見返りって、こんな小さな子供捕まえて何言ってんだよ、じいさん。それより、出口どこ?」


「――蒼真っ」


「拓也もしつこい」


「……は……ははは――あっはっはっは」


 唐突にワグマが腹を抱えて笑いだした。突然、部屋中に木霊したその大きな笑い声に、蒼真達三人は思わずびくりと肩を震わせる。


「はっはっはっは、ま、まだ、そんな奴らがいたとは、っはっはっは、お、驚きじゃ」


 バシバシとテーブルを叩きながらワグマが笑い続ける。その笑いは一向に収まる気配が無い。

 そんなワグマを見て、蒼真達は一体どうしたのかと、互いに顔を見合わせた。

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