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レベル99の幼女と最弱パーティー  作者: 癸識
山間の村 パルサー
35/76

幕間1-3

「……綺麗」


 蒼真が逃げ出して向かった先は街の外。平原の中に点々と存在している岩の内の一つ。その上に蒼真とカリナは座り、ゆっくりと沈みゆく夕日を眺めていた。


「良く嫌なことがあると、ここに来るんだ」


 ここは蒼真の逃げ場所の一つである。

 むしゃくしゃしたり、嫌な事があった時に何故か訪れる場所の一つである。その理由は蒼真にも分からない。


「そう」


 言って、じっと夕日を見つめるカリナ。まるでこれ以上は話をしたくないと無言で訴えているかのようである。

 そして、訪れる沈黙。


「それで、カリナ、少しだけ聞きたい事があるんだが……」


 何も言わないカリナを見て蒼真は決心する。

 このままでは時間だけが無駄に過ぎて行き、有耶無耶にしてしまいそうだ。今、聞かなければ蒼真は今後この話題を可能な限り避けてしまうだろう。

 一方のカリナは夕日を見たまま、微動だにしない。


「間違っていたら、笑ってくれて構わないが……」


 そこまで言って、蒼真は一度深呼吸をする。


「カリナは、俺の事が、好き、なのか?」


 一気に言ってしまうつもりだったのだが、蒼真は気恥ずかしさや、間違っていたらかなり痛いナルシストになってしまうという負の感情から、言葉が自然と途切れ途切れになってしまった。


「……」


 そんな蒼真にカリナは何も反応を示さず、夕日を見つめるだけ。


 ……えっ、何、この間……かなり嫌なんだが。


 そんな、肯定も否定も示さないカリナに蒼真は内心でびくびくする。


「……はぁ」


 ややあって、カリナは無表情のまま蒼真に顔を向けると、大きくため息を吐く。


 ――えっ!? これはまさか、勘違いパターンか!? 嘘、マジか!? 死ぬほど恥ずかしいぞ、これ! くっそ、理紗! 恨むぞ!


 そんなカリナの反応を見て、蒼真は羞恥で顔を赤くする。穴があったら今すぐ飛び込んでいるだろう。


「…………うん」


 か細く、今にも消えてしまいそうな程、儚く、小さな声でカリナがそう答える。


「そ、そうか」


 蒼真はその返答を聞いて、ほっと胸を撫で下ろし、直ぐにその答えに赤面する。


「それなのに、蒼真には婚約者がいた……私の裸を誰にも見せたくないって言ったのに……嘘つき」


 言って、悲しそうに、責めるように、蒼真を見つめるカリナ。

 そんなカリナの言葉に、蒼真は内心で首を傾げる。そんな事を言っただろうかと?


「……」


 だから蒼真は何も言えずに口を閉ざす。

 ここで『そんな事、言ったっけ?』なんて台詞は、口が裂けても言えない。


「……初めて、私に優しくしてくれた人……なのに」


 言って、俯くカリナ。


「……村長がいただろ?」


「違う。おじいちゃんのは優しさじゃなくて、憐憫」


「……俺も似たようなものだよ」


 そう、蒼真だって何も変わらない。ただ、カリナの姿を昔の自分と重ねただけである。


「違う。蒼真のは同情」


「似たようなものじゃないか」


「全然違う」


「嫌な言い方だけどさ……多分、さ。カリナは他人から初めて優しくされて、きっと勘違いをしたんだと思う」


 そう、あんな環境に置かれていたら少し優しくされただけで勘違いしてしまう。だけど、これからは多くの人に優しくされるだろう。

 そして、気が付くはずだ。今のこの気持ちは間違っていた、と。

 だから蒼真はカリナの気持ちに応えてはいけない。

 いや、そもそも、蒼真はカリナの事を好意的に見ているが、それは決して恋愛対象としてではない。


 ……まぁ、それを言うならば、ミストもそうなのだが。


「――違う! 記憶が無くたって、自分の気持ちを間違ったりなんてしない!」


 そんな蒼真の発言が許せなかったのか、俯いていたカリナが顔を上げて、鬼の形相で髪を振り乱しながら叫ぶ。


「蒼真が死にそうになった時、私、苦しかった。悲しかった。狂ってしまいそうだった……生きていてくれて嬉しかった……ああ、これが愛なんだって思った」


 言葉を発する度に、鬼の形相は徐々に弱くなっていき、最終的には泣きそうな顔をしたカリナは俯く。

 そんなカリナに蒼真はどんな言葉をかければ良いのか分からなかった。

 そして、二人の間を沈黙が支配した。






「……ねぇ、私……どうしたら良いの?」


 沈黙を破り、思わずそう問いかけてから、カリナの心は押しつぶされそうになる。

 もし、蒼真から『諦めろ』と言われたら、そう思うと気が狂いそうになる。


 ……ああ、そうか。私、諦めたくないんだ。


 そこでカリナは自らの思いに気が付く。

 蒼真に婚約者がいたと聞かされた今でも蒼真に対する気持ちは揺るがない。多分、既婚者と言われても諦めることは出来なかっただろう。

 だけれど、諦めなければいけない。蒼真には既に未来を約束した女の子がいるのだから。きっとそれが蒼真の為になる。


 ……何で、私じゃないんだろう?


 もっと前に会っていたら。ミストと蒼真が会っていなければ。せめて、三人が同時期に会っていれば、結果は変わっていただろうか?

 ……でも、そんな『もしも』は実際には存在していない。

 そんな事は考えても仕方がない。

 そう分かってはいるが、考えずにはいられない。

 私と蒼真が結ばれる可能性はあったのだろうか? と。


「――好きなら結婚すれば良いんじゃないですか?」


 引きちぎれそうになる心に必死に耐えていると、唐突に、ひょっこりと、蒼真とカリナの間にリーンが姿を現した。


「……お前、どこから……ってか、いつから居た?」


 蒼真は当然現れたリーンに体を浮かせて驚いてから、問いかける。


「あはは……は、初めから。い、一応、護衛は必要かと思いまして。決して、決して、理紗さんに状況を説明されて、個人的に気になったから、とかじゃないですよ」


 苦笑いを浮かべながらリーンが答える。


「結婚って……でも、蒼真には婚約者がいる」


 そう、結婚出来るならカリナだってしたい。

 だけれど、それは叶わない。

 だから悩み、心を痛めているのだ。突然現れて、勝手な事を言わないで欲しい。


「あれ? カリナちゃん、知らないんですか? ここら辺は重婚が認められてますよ? っていうか、認められていない地域の方が珍しいですよ」


 言って、リーンは不思議そうに小首を傾げながら爆弾発言をする。


「えっ? そう、なの?」


 リーンに言われてカリナは驚く。

 何となく、漠然とだが、結婚とは夫一人、妻一人の一夫一妻だとカリナは思っていた。もしかしたら、記憶を失う前の知識かもしれない。だから、蒼真に婚約者がいる時点で自分と蒼真は結婚出来ないものと思っていた、いや、思い込んでいた。


「……あ、ああ。法律上は認められているな」


 カリナはリーンの言うことが正しいのかどうか、知りたくて蒼真を見つめた。

 すると、そんな答えが蒼真から渋々といったように返ってきた。


「そもそも、ミストちゃんだって、ほとんど『自称』婚約者みたいなものですし」


 ついでとばかりに更なる爆弾発言を投下したリーンは同意を求めるように蒼真を見る。


「えっ? そうなの?」


 その爆弾発言に先ほどよりも驚いたカリナは、目を大きくして蒼真を見つめる。

 もし、それが本当ならば、自分の先程までの悩みは一体何だったのか。


「ま、まぁ、ミストは今より小さかったからな……その内、気が変わると思って」


 それに蒼真は頬を掻きながら、気まずそうに答える。

 なら最初からそう言って欲しい。とカリナは叫びたかった。そうすれば、無駄に心を傷めなくて済んだのに、と。


 ……ううん……わざと言わなかったのかな?


 だが、直ぐにそんな考えは吹き飛んだ。

 蒼真は自分の恋心を勘違いと思っている。優しくされて勘違いしているだけで、いずれ、時が経てばそれに気が付くだろうと。だからあえて事実を黙っていたのだろう。カリナが諦めて――いや、いずれ気が付く勘違いを早めに気づかせようと。

 確かに、きっかけはそうだったかもしれない。

 だけれど、今ならはっきり断言出来る。

 私は斎藤蒼真を愛している、と。


「だから、カリナちゃんが諦める必要は無いんですよ~」


 あっけらかんと言い放つリーン。


「そっか……なら、諦めない。私も蒼真の婚約者になる……良い、よね?」


 重婚出来ると知った今でも、やはり蒼真には自分一人を愛して欲しいという気持ちはある。だが、そんな事は、蒼真を諦めなければいけない事と天秤に掛けるまでもない。


「……えっ、嫌、それは、ちょっと」


 そんなカリナの発言に蒼真は引き気味に答える。

 この態度は優しさか、それとも、法律が許しても蒼真の倫理観が重婚を許さないのか――それとも、まさか、今までその可能性を考えていなかったが、


「蒼真は私の事……嫌い?」


 本当は自分の事が嫌いなのか。


「いや、そんな事は決して無いが……」


 歯切れ悪く蒼真が答える。

 だが、カリナが聞きたいのはそんな曖昧な答えではない。好きか、嫌いかの二択である。


「だったら、好き?」


 そんなカリナの問いかけに蒼真は暫く考え込み、


「……好きか、嫌いかと聞かれたら、好きだな……でも、俺の好きはカリナの好きとは違う」

 そう答える。

 それを聞いたカリナは内心で安堵する。嫌いと言われたらどうしようと思っていたのだ。

 いや、確かに今までの行動や発言を鑑みるに、蒼真が自分を嫌っている可能性は極めて低いとは分かっていたのだが、蒼真のその行動や発言が蒼真の感情ではなく、倫理や生き方等、感情とは別のルールに従っていた可能性もゼロでは無いのだ。


「だったら、問題無いよね?」


 だから、カリナはそう断言する。

 嫌いじゃなければ何も問題が無い。そういった対象として見られないなら、そういった対象として見てもらえるように努力すれば良いのだ。


「いや、だから、それは、ちょっと……」


「それじゃ、こうしよう?」


 未だに渋る蒼真に、カリナは一つの提案を持ちかける。


「婚約者(仮)。蒼真が私を嫌いになったら、いつでも破談にして良いし、蒼真が心配しているように、私の気持ちが勘違いだったとしても破談。もちろん、私の事を嫌いにならなくても、蒼真に好きな人が出来て、その人としか結婚したくないと思ったら破談にして良いよ。それなら、問題無いでしょ?」


 まぁ、私から破談になる事は決して無いけれど。


「……えっと、その……はぁ~……了解」


 蒼真はカリナの提案を溜息混じりに、渋々と受け入れる。

 そこにどんな思いがあるのかは分からない。

 その内に気がつくだろうと楽観的に思っているのか、いずれ自分が他の人を好きになるとでも思っているのか、それとも、自分を説得する言葉が思いつかなかったのか、はたまた、これ以上は面倒くさくなったのか。

 だが、そんなのは関係無い。

 重婚が認められると知ってからカリナの中で、諦めるという考えは無くなった。

 とにかく、言質は取ったのだ。

 これで(仮)とはいえ、自分も婚約者だ。

 蒼真が自分の事を嫌いにならない限りはアタックするのみである……いや、例え嫌いになったとしても、今度は嫌いを覆すためにアタックするのみである。


「それじゃ、これからも、よろしくね。だ、ん、な、さ、まっ」


 言って、満面の笑みを浮かべるカリナ。

 こうして、本人の意思とは裏腹に、斎藤蒼真に二人目の婚約者が誕生した。

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