幕間1-2
理紗に追えと言われて宿を出た蒼真だったが、この広いファーストで人一人を探し出す困難さに頭を抱えていた。
いっそ、このまま見つからなければ良いとさえ思った。そうすれば言い訳にはなる。
だが、そんな蒼真の気持ちとは裏腹に、問題はあっさりと解決してしまった。
ラミアから魔法で蒼真に念話がきたのだ。これくらいの魔法ならカリナの負担にならず、かつ、気づかれずに使えるらしい。
とはいえ、届く距離が短いので近くにいてくれて助かったと言っていた。
もっとも、蒼真からしてみれば運悪くと言った所であろう。
そして、蒼真はラミアの念話を受け取って、疲れてもいないのに、やけに重く感じる足を動かして、ラミアによるナビに従って、カリナを追いかけた。
だが、追いかけて、一体何を話せば良いのだろう? どんな顔をすれば良いのだろう? もう少し時間を空ければカリナも落ち着くのではないか?
流石に鈍感な蒼真にも、ここまでの事態になると、カリナの気持ちにおぼろげにだが、気が付く。
もっとも、おぼろげにしたいのは、間違いであって欲しい、周りや自分の勘違いであって欲しいという願望、現実逃避が多くを占めている。
いっそ、このまま逃げてしまおうかとも思う。前述したように、ラミアのナビが無ければ探すふりをして逃げてしまったかもしれない。
だが、どこにいるかまで判明している今、それは出来ない。否、やってはいけないと蒼真の心が強く主張する。
様々な葛藤が渦巻く中、時間にして、十分もせずにカリナはあっさりと見つかった。
だが、どうやら、ちょっとしたトラブルに巻き込まれている様子である。
「ねぇ、ねぇ、俺とお茶しない?」
「君、綺麗だね~。お名前なんていうの?」
「なぁ、なぁ、どっから来たの? 君みたいな綺麗な子初めて見たよ」
数十人の男たちに囲まれて、矢継ぎ早に話しかけられているカリナは無表情。
というよりは覇気がない。もう、何もかもがどうでも良さそうな雰囲気である。
「ぁ……ふぅ……カリナ」
蒼真は一度、そんなカリナに声を掛けるのを躊躇ってから、声を掛ける。
すると、蒼真の声に反応したカリナが、一瞬だけ顔を綻ばせ、そして直ぐに顔を俯かせる。
今、カリナからは、はっきりと、蒼真を拒絶する意思が感じ取れる。
「へぇ~。カリナちゃんって言うんだ」
「君に相応しい綺麗な響きの名前だね」
「カリナちゃん何か食べたい物とかない? お兄さん奢っちゃうよ」
すると、声を掛けていた男達は皆、蒼真を睨みつけると、カリナを蒼真から隠すように蒼真とカリナの間に立ちはだかり、人で壁を作り出す。
カリナが綺麗なのは認めるが、実年齢はともかく、見た目が六~七歳の少女をナンパするか普通? ……こいつら、もしかしたら全員拓也と同類なのか?
男たちによって完璧に隠されたカリナを見て、蒼真はそんなくだらない事を思った。
そして、悩む。
カリナが蒼真と会いたくないのは、その態度で分かった。それも当然だと思う。
カリナを囲んでいる男たちの中には、ぱっと見た感じだが、冒険者は混ざっていない。どれもこれも普通の人だろう。
もっとも、冒険者が混じっていようと、いなかろうと、男たちに何かされそうになったらラミアが出てくるだろうから、カリナの安全は保証されているようなものである。
リーンには手も足も出せなかったらしいが、蒼真相手ならそれが逆になる。
カリナを囲んでいる男たちはどいつもこいつも今の蒼真なら歯牙にもかけない強さしか感じられない。蒼真より強いラミアが遅れも、不覚も取るとは思えない。
つまり、何が言いたいかと言うと、カリナに拒否された今、蒼真はその願いを叶えるべきでは無いだろうか、という事である。
「……はぁ~」
とはいえ、それが出来るならば、蒼真は今ここにはいない。
例え、カリナに拒絶されようが話をしなくてはいけない。もし、それすら拒否されても、目の前の男たちだけはどうにかしないといけないだろう。
そう考え、蒼真は大きく溜息を吐くと、ずかずかと男たちの波をかき分けに掛かる。
「痛った」
「おい、押すなよ」
「んだ、てめぇ」
男たちは口々に文句を言い、蒼真を睨みつける。
だが、実力行使に出る気配は全く無く、すんなりと蒼真はカリナの元までたどり着く。
「カリナ」
そして、手を伸ばす。
「……」
が、カリナは俯いたまま、顔を上げようとしない。
「……はぁ」
そんなカリナを見た蒼真は、再びため息を吐くと、無理やりカリナの小さな手を握り締める。
「――っ」
すると、流石に無視出来ないのか、カリナが顔を上げて蒼真を見上げる。その表情は嬉しいのか、悲しいのか、怒っているのか、恥ずかしがっているのか、良く分からない。
だが、それも長くは続かず、直ぐに顔を伏せてしまうカリナ。それでも、手を引っ張ろうとした蒼真だったが、カリナが全身に力を込めてそれに抵抗する。
とは言っても、蒼真がその気になれば、そんな抵抗など無いに等しい。
だが、蒼真はそれを良しとしない。
そんな蒼真達を見た、周りの男たちは口々に、唾を飛ばしながら蒼真を罵る。
やれ、空気を読め。
やれ、手を離せ。
やれ、嫌がっているだろう。
やれ、いい加減にしないと殺すぞ。
やれ、警察を呼ぶぞ。
等等、好き勝手に叫ぶ。
だが、結局は皆、口だけで蒼真に手を出そうとする人間はいない。
もっとも、蒼真が腰にぶら下げた剣を目にして、一見、丸腰の一般人である男たちが実力行為に出るのは分が悪いと判断したのだろう。
蒼真もそれが分かっているから、男たちなど相手にしない。
「おいっ。聞いてんのかよ!」
とはいえ、愚かな行為に出る人間というものは少なからずいるもので、男の一人が怒鳴りながら、蒼真の肩を後ろから、むんずと掴む。
蒼真は男を見もしないで、その手を無言で払いのける。
「てぇな! この野郎!」
そんな蒼真の行動に激怒した男は拳を握り締めて、蒼真に後ろから殴りかかる。
背後という死角からの攻撃。見る見る蒼真との距離を縮めていく自らの拳。男は疑いもせずに、自らの拳は蒼真に届くと信じて、にやりと口元を歪ませた。
「――かはっ」
だが、そんなものは願望、妄想でしか無く。気がついたら男は息を詰まらせ、空を見上げていた。
蒼真が男の隠そうともしない攻撃の気配を感じて、振り返りすらせずに、身を翻して向かってきた男を躱すと、ついで、というよりは反射的に、その足をすくい上げたのだ。
「――ってぇ~!!」
遅れてやってきた痛みに男は絶叫して、地面を転げまわる。
「受身も取れないのかよ……にしても、大げさだな」
ゴロゴロと地面でのたうち回る男を見下ろしながら、蒼真はため息を吐く。その腕の中には、身を翻した時に引き寄せたカリナの姿。
「てめぇ、この野郎っ」
「警察だっ! 警察呼べっ」
「てめぇ、覚悟は出来てんだろうなっ」
そして、男たちが色めき立つ。
その騒ぎを耳にしたのか、一人、二人、三人、と街ゆく人たちがその歩みを止めて、こちらに注目しだす。
蒼真はその様子を見て、面倒な事になりそうだと、ため息を吐く。
「……」
すると、じっと無表情に蒼真を見つめていたカリナと目が合う。
「……良し」
自らの腕の中にいるカリナを見て、蒼真はこれ幸いと、カリナを抱き上げる。
すると、驚いたカリナが体を強ばらせて、少しばかりの抵抗をみせる。
だが、先ほどとは状況が変わってしまった現状では、カリナの意思を尊重している余裕など無く、蒼真はカリナが落ちないようにしっかりと抱き抱え直すと、
「逃げるが勝ちってな」
そう言って、その場から脱兎のごとく逃げ出した。




