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レベル99の幼女と最弱パーティー  作者: 癸識
山間の村 パルサー
29/76

第28話

 ゴキリという鈍い音が静かな部屋に響く。

 手のひらから伝わってくる、確かな手応えが目の前の男、斎藤蒼真の死を告げている。


「……殺すのはちと勿体なかったかの……妾の眷属として、支配下におくべきだったかの」


 まだ、温かい首から手を離して、名残惜しそうに、カリナに似た人物、こと、ラミア・エルゼベエトが呟く。

 カリナに憑依していた正体のラミア・エルゼベエトは吸血鬼である。それも種族の中でも上位の存在である。

 吟遊詩人が語る英雄譚の中で、吸血鬼討伐という偉業がある。

 だが、それらに語られる吸血鬼のレベルは高くて60と、冒険者でいう所の、二流止まりである。にも関わらず、英雄譚として話されるのには訳がある。

 まず、吸血鬼という存在は実体を持たない。その為、一般的な物理攻撃がほぼ無効である。

 実体を持たないモンスターにダメージを与えるには、魔法が掛けられた武器か、魔法そのものしかない。

 低レベルの実体を持たないモンスターなら、それだけで問題なく、対等の戦いが出来るだろう。

 だが、吸血鬼という種族は魔法に対して総じて耐性が高い。普通の魔法で与えられるダメージ等微々たるものである。

 そこで登場するのが実体を持っていないモンスターにダメージを与える事に特化した魔法(神の祝福や聖言、祈祷や祈り、邪気祓いや祓など様々な呼ばれ方をしているが本質的には同じものである)や、その魔法が付与された武器である。

 ここでようやく人間と吸血鬼との戦いが成立する。だが、成立はするが、対等には決してならない。

 何故なら吸血鬼という種族は例えレベルが1であっても、種族の特性として自己回復を有しているからだ。更にその自己回復量はレベルが上がるにつれて多くなる。

 だから吸血鬼討伐を試みるのならば、自身と相手のレベル差が最低でも20以上は無いといけないと言われている。

 つまり、レベル60の吸血鬼を討伐するのに必要なレベルは最低でも80。一流の上位か超一流の冒険者にしか達成出来ない事になる。

 それは偉業と言っても差し支えがないだろう。

 もっとも、レベルの低い吸血鬼であれば、例えば一桁レベルであるならば、三流冒険者でも何とかなるかもしれない。それも前提として、装備や特化した魔法を用意出来るのであれば、の話ではあるが。

 人間にとっての唯一の救いは、吸血鬼という種族はその数が少なく、遭遇する確率も低いという事だけであろう。

 これらを踏まえて、改めてラミアのレベルを述べると72。今は一時的に上がって75。

 人間達の間では伝説と呼ばれ、その討伐は人間という種では不可能と言われている存在。超一流の冒険者でも逃走を選択せざるえない存在である。


「……いや、あの御方は『殺せ』と言ったのだ、妾の眷属にするのも無理だったろう」


 全く、ついていない男だ。


 そう心の中で呟き、ラミアは念のためと蒼真の胸に耳を当てる。すると、本来なら聞こえるはずの音が聞こえない。

 そこで、不意に胸が張り裂けんばかりに痛む。


 これが愛おしい人を失くす痛みか……全く、あの全身鎧からの攻撃が軽く思えてくるの。


 これは自分、ラミアが感じている痛みではなく、宿主のであるカリナの痛みだ。それが分かっていながらも、ラミアはまるで自分が感じているような錯覚に陥る。

 襲いかかる悲嘆、悲愴、悲哀、罪悪感、自己嫌悪――そして、絶望。

 ラミアはそれら、様々な感情を押さえ込むように、ぎゅっと痛む胸を押さえつける。


「――蒼真さんっ!」


 痛みに堪えていると、そんな悲鳴にも似た甲高い声が、ラミアの耳朶に響いた。

 その刹那――気が付けば壁に叩きつけられていた。


 はぁ!?


 常時展開している防御魔法のおかげで、脆弱な人間の体とはいえ痛みもダメージも無い。だが、その代償として防御魔法が破壊されてしまった。


 あ、有り得ん! 一体、何が起こった!?


 防御魔法が破壊された事は何度かある。だから、そこに驚きは然程無い。

 だが、高レベルの自分の防御魔法が『訳も分からず』破壊されてしまった。こんな事は初めてで、あの全身鎧と対峙した時だって破壊されたものの『理解』は出来た。それが、今は全く理解出来ず、攻撃されたことすら分からず、訳も分からず破壊された。その衝撃は大きい。

 慌ててラミアは防御魔法をかけなおすと、室内を見渡す。

 すると、そこには必死な形相で、何度も何度も『蒼真さんっ』と死体の名前を叫んでいる一人の少女の姿があった。


 ……あれは、蒼真の仲間で……確か、名前を……リーンと言ったか?


 蒼真のチームの中で一番力が無かった少女で、あの御方がチームの中で、唯一、殺せと言われなかった人物。


 おい小娘。一体誰の許可を得て蒼真に触れている! ……っと、いかん、いかん。随分とカリナの感情に流されておる。


 一瞬で沸騰した感情をラミアは大きく深呼吸をして抑え込む。


 この小娘を殺すのは赤子の手をひねるより簡単じゃろうが、先ほどの蒼真の件もある。油断はせぬ。


 自らの魔法が効かなかった蒼真の事を思い出して、ラミアは油断なく、蒼真という名の死体を抱きしめているリーンを見据える。


 ん? 蒼真の体が薄らと光っておるな……あれは、回復魔法か? 人間のクセに魔石無しで魔法を発動させるとは、中々のものじゃの。ちと、小娘の評価を上方修正せんとだな。それにしても、死体に無駄な事を。魔力の無駄遣いもいいところじゃの。


 魔法というものは、突き詰めていけば全能の存在であると言われている。

 だが、その深淵を覗いた者は未だかつて皆無。

 寿命が短い人間はおろか、不老と呼ばれている存在ですらたどり着けていない境地。

 だから、そんな魔法全能説を鼻で笑う者も多い。

 また、仮に、魔法が全能であると定義した場合、それを十全に使いこなせる魔力量を持っている存在は皆無であろう。とも言われている。

 つまり、魔法とは全能であるかもしれないが、自らが所持している魔力量という限界がある。というのが通説である。

 その通説からいけば、死者を蘇らせるのは可能かもしれないが、それを行使するのに、必要な魔力量とは一体どれほど膨大になるのか分からない。

 つまり、目の前のリーンは蒼真の死を受け入れられずに、必死に回復魔法を無駄にかけているだけである。


 仮に、万が一にも生きていたとしても回復は難しいじゃろう。何故なら、妾は確実に蒼真に致命傷を与えた。重症ではなくな。確か、人間の上位のひと握りが重症を回復させるはずだが。この小娘がそのひと握りとは思えん。例え妾が他者を回復させる魔法が使えたとしても、この状態の蒼真の回復は不可能。


 そう思いつつもラミアは心の片隅で蒼真の回復を祈っている自分がいることに気が付く。この気持ちはカリナのものか、はたまた自分のものか、ラミアには判断がつかなかった。


「……良かった……ギリギリ、間に合いました」


 そんな期待からか、もしくは単純にリーンに対する警戒からか、少しの間、リーンを観察していたラミアの耳に、そんな意味不明な言葉が飛び込んできた。


「……はぁ?」


 ほっと胸をなで下ろして蒼真を優しく床に寝かせたリーンを見て、一向に回復しない蒼真を見て、現実を受け入れられずに、ついに気でも触れたかと思ったラミアは、寝かされた蒼真を見て愕然とした。

 何故なら、寝かされた蒼真の胸が小さく、ゆっくりだが、確かに上下しているのだ。つまり、呼吸をしているのだ。


「あ、有り得ん!」


 そう叫び、ラミアは思わず蒼真に近寄ろうとする。


「何がですか?」


 だが、そんな事は許さないとばかりに、その小さな体躯を蒼真とラミアの直線上にすべり込ませるリーン。

 こんな小娘は路傍に転がっている石ころ以下の障害でしかない。

 そう判断するラミア――だが、そんな心とは裏腹に足が動かない。


「――なっ!?」


 その自らの体にラミアは再び驚愕の声を上げる。

 その刹那。シュンっという小さな音をラミアの耳は捉えた。そして、ラミアの前髪が数本、はらりと床に舞い落ちる。


「おお、いい判断です。後一歩、いや半歩でも近ければ当たってましたよ」


 目の前ではそう言って、にっこりと微笑むリーンの姿。


 ……こやつの攻撃、か? わ、妾には見えんかった。


 ラミアはリーンを石ころと判断していたが、何も視界に収めていなかったという訳では無い。むしろ、蒼真を庇うように身を滑り込ませてきたリーンの姿は良く見えていた。

 だが、そんな近距離からでもリーンの攻撃した瞬間はおろか、その予備動作すらラミアには捉えられなかった。


 なんらかの魔法を使った? あるいは、あらかじめ仕掛けていた? ……そもそも、何故展開しておいた防御魔法が発動しない? ……こやつ、何者?


 ラミアは未だに脅威を感じないリーンから、念の為にジリジリと距離を取る。

ちょっと長いと思ったので、二回に分けました。本日中にはもう一話UPします。

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