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レベル99の幼女と最弱パーティー  作者: 癸識
山間の村 パルサー
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第25話

 時は少し遡り、場所は宿屋の一室。


「はぁ、朝から温泉に入れるとか贅沢すぎる」


 そう満足気に言って理紗は仰向けにベッドに倒れこむ。

 ギシッという音を立てながらベッドが理紗を抱き止め、その衝撃を和らげようと上下に弾む。それと同じように理紗の豊満な胸をゆさゆさと揺れ動く。


「はぁ……これから何しよう」


 天井を仰ぎ見ながら理紗は呟く。この村に来てからというもの、理紗は気が済むまで、それこそ飽き始める程に温泉に入った。

 故郷にいるときには何とも思わなかったし、またそれが当たり前だったから気がつかなかったが、やはり温泉は普通のお風呂のお湯とは別格である。疲れがお湯に溶け込み、落ちた疲れの中に温泉の成分がじわじわと染み込んでいく感覚がする。


「蒼ちゃんはきっと宿の手伝いをしているだろうしなぁ」


 昨日、リーンに連行されてクタクタになって帰ってきた時に蒼真が働いているのを見かけた理紗は本人に問いかけたのだ、何故、そんな事をしているのかと。きっと今日も、いや、この村を出て行く時まで蒼真はこの宿を、正確には一人の女の子を手伝うだろう。


「……昔の自分を重ねちゃったのかなぁ」


 その時にカリナの話を少しだけ聞かされた理紗はそう判断する。


「深入りしないと良いけれど……」


 カリナの直面している問題は特に珍しいものでは無い。悲しいようだが、人間社会では良くある事だ。と言うより、小さな村では村人達の団結を強める為のシステムと言っても過言ではない。

 きっとカリナがこの問題を解決した暁には違う誰かがそのシステムを背負い込むのだろう。


「にしても、何、あの美人さん……あの幼さであれって……大きくなったら女神様とかになるの? ……いや、悪魔とか?」


 ふと、見かけたカリナの容姿を思い出して理紗は考える。あの美しさは人間という種族を超越している気がする。

 それも清らかというよりは妖艶なほうに。


「……まだ小さくて良かった」


 あの年齢なら大丈夫だろうと理紗はほっと胸を撫で下ろす。女として成長したあの子に勝てる気がしない。


「……それにしても、暇だなぁ~。村の中は見てまわっちゃたし」


 小さな村だ、見てまわろうとすれば半日も掛らずに回れてしまう。それに温泉以外にこの村には特産品とか珍しい物も無い。


「あの村人達を見てると気が滅入っちゃうしなぁ」


 あのだるそうで、やる気も無く、今にも寝てしまいでフラフラと歩き回る、そう、生気が感じられないとでも言えば良いのだろうか、そんな村人達を見ているとこっちまで何だか参ってしまう。

 ふと、誰もいない隣のベッドを理紗は見遣る。このベッドの現在の主は昨日の自分と同じように、拓也を連れてどこかへと消えてしまった。


「にしても、あの岩、硬かったなぁ」


 訓練と称して、日が暮れるまで岩に魔法をぶつけたのを思い出して理紗は何だか疲れてしまった。リーンが強化魔法を掛けていたらしいけれど、あの岩は一度や二度の攻撃魔法では破片すら飛ばなかった。


「そういえば、あの場所に行く途中で見かけた花畑があったっけ」


 ふと、理紗は昨日、移動中に見かけた花畑を思い出す。赤や青、黄色や白の花々が咲き乱れている光景はまさに百花繚乱というべき物だった。


「する事も無いし、たまには普通の女の子らしく花々に癒されに行こうかな」


 そう呟くと理紗はベッドから起き上がった。






 ぽっかりと、まるでそこだけ別世界のように木々が開けた場所に、赤や青、黄色や白色等、色鮮やかな花々が咲き誇っている。


「ここ」


 そんな声に蒼真は隣を振り向けば、カリナがこちらを見ながら自慢そうに胸を張っている姿が目に入る。


「へぇ~。綺麗な所だな」


 そんなカリナを見て蒼真が素直な感想を述べると、カリナは満足そうに大きく頷く。


「おじいちゃんも知らなかった秘密の場所」


 言って、早く行こうと蒼真の手を引っ張る。


「はいはい」


 目をキラキラさせたカリナに蒼真は苦笑を浮かべると歩き出す。

 蒼真とカリナが花畑に一歩踏み出すと、それを歓迎するかのように風が吹き、花々が揺れ動く。するとその風にのって花々の香りが蒼真とカリナの鼻孔に届く。そのしつこくも、優しい香りを嗅いで蒼真は少しだけ目を細め、カリナは大きく深呼吸をする。

 その刹那。がさっという乾いた音を蒼真の耳が捉えた。

 蒼真は一瞬で表情を引き締めると、カリナの手を振り解く。そして、腰に差した剣の柄を掴むと、カリナを庇うように自分の後ろに隠して、音のした方を睨みつける。


「んっ? あれ? 蒼ちゃん?」


 すると、睨みつけたその先には、見知った顔の幼馴染が杖を手にしたまま、こちらを不思議そうに見つめていた。

 花畑の中に寝転がっていたのであろう、その黒い髪の毛に彩を与えるかのように花びらが数枚付着している。


「んっ? 理紗? こんな所で何やっているんだ?」


 蒼真はそんな理紗の姿を見て、警戒を解き、剣の柄から手を離して、ゆっくりと近づく。


「それはこっちの台詞。モンスターかと思っちゃった。宿のお手伝いじゃなかったの?」


 すると、理紗も手にした杖を腰に差して、服を手で軽く叩きながら蒼真に問いかける。

 この付近でこれまでモンスターを確認してはいないが、警戒するに越したことはない。むしろ、冒険者として警戒しないほうが失格であろう。


「今日は手伝いがいらないらしい」


 言って、蒼真は徐に理紗の髪の毛に手を伸ばすと、未だに付いたままだった花びらを払ってやる。


「おっ、気が利くじゃん」


 言って、満面の笑みを浮かべる理紗。


「でも、休みだからって、まさか蒼ちゃんが一人で花畑って、どうなの?」


 蒼真がここに一人で来たと思ったのだろう、理紗がからかうような表情で蒼真に告げた。


「――あれ? その子って」


 その瞬間、まるでその勘違いを正そうとするように、蒼真の後ろに隠れていたカリナが、警戒しているのか、はたまた恥ずかしいのか、顔だけをひょっこりと覗かせる。その小さな手は蒼真のズボンをぎゅっと握り締めている。


「ああ、昨日話したよな。カリナだよ。ここにはカリナに連れてこられたんだ」


 言って、蒼真はそんなカリナを安心させるように、優しくその頭を撫でる。


「初めまして、カリナちゃん。うちは相田理紗、そこにいるお兄ちゃんの冒険者仲間だよ。宜しくね」


 その兄の様な蒼真の態度に理紗は内心で安堵すると、カリナと目線を合わせる為に腰を落としてから名乗る。


「……カリナです」


 そんな理沙にカリナは蒼真の後ろに隠れたまま、小さくぺこりとお辞儀をして答える。


「蒼ちゃんから、カリナちゃんも宿のお手伝いしてるって聞いたけど、今日は二人してお休みなの?」


 その問いかけにカリナはおどおどしながら、小さく頷いて答える。

 きっと、こちらを警戒しているのだろう、決して蒼真から離れようとせず、蒼真のズボンを力強く握りしめたままである。

 カリナの置かれている立場や状況を考えるならばその態度も頷けるものだ。

 だが、その小動物的な動きに理沙は内心でキュンキュンする。美人なのにこんな可愛い行動をするのは反則だろうとも思う。


「それで蒼ちゃんとお出かけ?」


 母性本能を刺激された理沙は優しく微笑んで問いかける。

 その問いかけにカリナはこくりと頷き、


「そう。デート」


 と言って、蒼真を見上げる。


「……ん? デート?」


 不穏当な言葉を耳にして、理沙は笑顔のまま蒼真を見遣る。

 すると、そこには困ったように苦笑いを浮かべる蒼真がいた。

 ああ、そういう事か。

 そんな蒼真を見た理沙は苦笑を浮かべる。そして、良くもそこまで小さい子供に好かれるものだと感心すら覚える。


「そっか、そっか。二人は仲が良いんだね」


 にっこりとカリナに理沙が微笑みかけると、カリナは嬉しそうに、少しだけ恥ずかしそうに小さく頷く。


「てか、理沙こそ何でこんな所にいるんだよ?」


「うち? うちは暇だったから、昨日たまたま見つけたここに女の子らしく、花でも摘んで冠でも作ろうかと思って――って、蒼ちゃんその顔は失礼じゃない?」


 理沙は自分でもガラではない事は分かっていたが、蒼真の『はぁ? 何言ってんだ、こいつ?』というしかめっ面には文句を言っておかないといけないだろう。

 ちなみに冠うんぬんは冗談である。それが分かっているから蒼真もそんな表情を理沙に向けたのだろう。


「ああ、すまんすまん。つい本音が顔に出たな。で? 冠は出来たのか?」


 言って、にやにやと意地の悪い笑みを浮かべる蒼真。


「うちに出来ると思う?」


 そんな蒼真に理沙はやれやれと言わんばかりに肩を竦めて見せる。


「そりゃそうだ――何なら、俺が作って差し上げましょうか? お嬢さん」


 蒼真は意外に手先が器用でこういった事も出来る。過去にミストに作ってあげている所も見ている。

 もっとも、今回は冗談だろう。

 だが、そうとは分かっていても、理沙はふと、色とりどりな花で作られた冠を被っている自分を想像して、そのあまりの似合わなさに苦笑する。嫌いという訳では無いが自分のガラではないと。


「非常に心躍る申し出だけれど――」

「――欲しい」


 理沙が蒼真の悪ノリに付き合って、首をゆっくりと左右に振ってから丁寧な言葉で断ろうとしたその瞬間、横からカリナが声を上げた。


「……えっ?」


 これに驚いたのは蒼真である。


「花の冠とか、指輪も欲しい――蒼真、作って」


 キラキラとした目で蒼真を見上げて、興奮の為か、頬を若干赤く染めたカリナが言い放つ。


「……うっ」


 そんな期待で満ち溢れたカリナの表情を見て、蒼真は軽く頬を引き攣らせる。

 作れると言っても、別に蒼真はそれらを作るのを好き好んでやる訳ではない。今回は理紗をからかう為にそう言っただけに過ぎない。


「くくく、蒼ちゃん自爆したね」


 それが分かっている理紗は小さく笑う。


「はぁ~……しゃ~ないか」


 蒼真は大きくため息を吐き、ぽりぽりと頭を一つ掻くと、カリナの要望を聞き入れる為に腰を下ろすと、近くの花を積み始めた。


「しょうがないなぁ~うちも手伝ってあげる」


「――茎の長さ気をつけろよ」


 蒼真を手伝うべく腰を下ろした理紗に間髪入れずに蒼真が告げる。


「はいはい。分かってますよ~」


 そんな蒼真に理紗は苦笑を浮かべて答えた。

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