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レベル99の幼女と最弱パーティー  作者: 癸識
山間の村 パルサー
23/76

第22話

「ふぅ~生き返る」


 言って、大きく息を吐く蒼真。

 まるで猫のように細められた目がその幸福度を表しているようである。

 今、蒼真は宿にある温泉につかっている。時刻は二十二時を少し回っている。蒼真はつい先程まで宿の手伝いに奔放していた。


「ああ、本当にそうだな」


 その隣には額に汗をこびりつかせた拓也がいる。

 久しぶりの温泉でいっちょ裸の付き合いでもするか。と、示し合わせた訳でなく、たまたま入浴時間が被っただけである。

 聞くところによると先程まで部屋で寝ていたらしい。


「筋肉痛はどうだ?」


 ぐぐっと、思う存分に手足を伸ばしながら蒼真が拓也に問いかける。


「ああ、大分良くなった。全く、天使に鍛えられて少しはたくましくなったと思ったのにな」


 言って、苦笑いを浮かべて肩をすくめる拓也。


「まぁ、俺たちのペースに付いてきたんだ。大分進歩したと思うぞ?」


 リーンに鍛えられる前の拓也だったら確実にもう二日、三日は村まで掛かっただろう事を思って蒼真は告げる。

 もっとも、それでもようやく普通になった位であるのが現状ではあるが。


「短距離なら得意なんだがな」


 そんな蒼真の内心を知ってか知らずか、まるで言い訳のようにぽつりと呟く拓也。


「そういや、昔っから短距離はお前に勝てた記憶が無いな――もっとも、最初の一本だけだがな」


「今から二本、いや、三本位までならギリギリ勝てる」


 蒼真の最後の台詞が気に食わなかったのか、拓也が未だほっそりとした腕にちょこっとだけ力こぶを作って自慢げに告げる。


「そっか」


 そんな拓也に蒼真は苦笑を浮かべると、天を仰ぎ見る。

 天気は快晴、満天の星空には今にも満月になろうかという月がきらきらと輝いている。


「……なぁ、蒼真」


 暫くそんな綺麗な星空と月を眺めていると、拓也が小さく、だが力強い口調で蒼真に声をかける。

 蒼真はそれに対して空から視線を拓也に向けることで答え、先を促す。


「気づいていると思うが――この村は可笑しい。いや、異常と言ったほうが良い」


「そう、だな」


 拓也に言われるまでも無い。蒼真はこの村の異常性にとっくに気がついている。

 いや、蒼真で無くともこの村の異常性には誰もが気が付くだろう。


「もう、ひと月ちょっとも村人の多くが睡眠不足、しかも医者からは病気じゃないと診断されている。これを異常と言わずに何と言うんだ? もう、依頼は済んだんだ。パーティーの体力が戻ったら早急にお暇しよう」


 真剣な表情で拓也が蒼真を見つめて告げる。


「パーティーの体力って……主にお前の体力だろうが」


 蒼真はそんな拓也に苦笑いを浮かべて返す。


「……まぁ、そうなるな」


 言って、気まずそうに頬をかく拓也。


「ったく。お前の言いたいことは分かっている。心配するな」


 そう答えると、再び月を見上げる蒼真。ふと脳裏に思い浮かぶカリナの姿。


 ……仕方ない、か。


 そもそも唯の偽善、お節介、自己満足であり、カリナを構うのは滞在している間だけと決めている。

 蒼真は昔の自分と同じ境遇のカリナに後ろ髪を引かれながら、それを振り切ろうとするようにお湯を手のひらで掬い取って顔を洗う。


「そうか、つまらない事を言ってしまったな――さて、僕はそろそろ上がるよ」


 言って、湯船から上がる拓也。それに蒼真は片手を上げて答える。

 ひたひたと音を立てた足音が遠のいていき、やがて、ガラガラ、ピシャという戸を開閉する音が石造りの浴場に響き渡った。

 蒼真はゆっくりとお湯で体が熱くなっていく感覚に目を閉じる。


 ……そういえば、リーンはこの村の状況をどう思っているんだろう?


 ふと、瞼の裏に浮かび上がる自分たちより幼く、だが、自分たちより強く、物知りな幼い少女。

 リーンは昨日、今日とこの村の異常には何も言及していない。流石に気づいていないという事は無いだろう。


 ……問題が無いのか、あっても大した事じゃないのか……いや、だが、その大した事がないのレベルが問題だ。リーンにとってみれば何とも無いことでも、俺達には致命傷だったりするからな。


 会ってからこれまで見せつけられた様々な規格外を思い出して蒼真は苦笑を浮かべる。


 ……まぁ、何はともあれリスクは小さいほうが良い。


 暫く目を閉じたまま、考え込む蒼真。そんな蒼真の頬にゆっくりと、じわじわと汗が滲み始め、やがて、一粒の大きな汗が蒼真の頬を滑り落ちる。


「――うっし」


 それが合図だったかのように蒼真は目を開くと、浴槽で立ち上がり、ざぶざぶと音を立てながら洗い場へと向かう。

 蒼真は桶に水をなみなみと張ると、徐に頭上に持っていき、一気に水を被る。

 瞬間、水の冷たさが全身を駆け巡り、全身を震わせる。だが、湯船で火照った体にはそれが心地いい。

 蒼真は他に人がいないことを良い事に、犬のように頭を振って水気を飛ばすと、体を洗おうとタオルで石鹸を泡立てる。

 ふと、視界に入る見覚えのあるシャンプーや石鹸が入った洗面器。それは先ほど上がった拓也の持ち物である。きっと忘れたのだろう、仕方ないから後で届けてやるか。そう思って蒼真は苦笑する。


 カラカラ……ピシャ。


 すると、誰かが浴場に入ってきた。

 だが、蒼真は別に気にすることでは無いだろうと切り捨てる。宿泊客が蒼真達以外にいないとは村長から聞かされてはいたが、きっと村の誰かが入ってきたのだろうと思ったのだが。


「……背中、洗う?」


 だが、その予想が間違っていたと直ぐに知らされる事となった蒼真。何故なら、そう言って声を掛けてきた人物は、


「……カリナ?」


 そう、一糸まとわぬ姿のカリナだったのである。


「ん」


 蒼真の問いに小さく頷いてみせるカリナ。

 小さなタオルとシャンプーや石鹸が入った洗面器を小脇に抱え、粉雪のような肌はこれでもかと、無防備にさらけ出している。


「……ここ、男湯だぞ?」


 蒼真からは大量の湯煙でカリナの大事な部分は見えない。

 何て事も無く、その水面のように平坦な胸部の頂点に、生まれた時から居座っている、小さくピンク色をした住民が俺はここだぞと言わんばかりにぴんっと背筋を伸ばしている姿を見つめながら蒼真は考える。

 まさか、男湯と女湯を間違えたのか? と。


「知ってる」


 が、どうやら蒼真の予想は外れていたらしく、ゆっくりと首を左右に振って否定するカリナ。

 そもそも、カリナはこの宿で世話になっており、更に言えば自ら率先して宿の手伝いをしているのだ、男湯と女湯を間違えるはずがない。


「だったら、何で?」


 愕然としたまま蒼真がカリナに問いかける。


「今日、手伝ってくれたお礼に背中でも洗ってあげようと」


 基本的には子供特有の凹凸の少ない体つきながら、少しだけあるくびれの前に小脇に抱えた洗面器を持っていきそう答えるカリナ。すると、洗面器で出来た影に可愛らしく形の良いおへそが包み込まれる。


「それは有り難いが……何で、裸?」


 肉体の構造上、人は背中に手が届きづらい、そこを洗ってくれるというカリナの申し出は有り難いと思う蒼真。だが、それならカリナは裸になる必要が無い。


「ついで」


 蒼真の疑問にそう短く答えるカリナ。


「そもそも、他に客がいたらどうするつもりだったんだ? 大問題だろう?」


 その短い答えが、蒼真の背中を流すついでに自分も入浴してしまおうという意味だと正確に理解した蒼真は新たな疑問をぶつける。


「宿泊客は貴方達しかいない。村の人達が入浴出来る時間はもう過ぎた。ついでに言うと、皆もう寝ている。入ってくるとしたらおじいちゃんくらい。何も問題ない」


 言って、えっへんと自慢げに平らな胸を張るカリナ。ちなみにカリナのいうところのおじいちゃんとは村長の事である。初老という事もあって、お父さんと呼ぶよりはしっくりくるのだろう。

 その台詞から察するに村長と一緒にお風呂に入るのはそう珍しい事でも無いのだろう。

 もっとも、まだ幼いカリナが保護者である村長と一緒にお風呂に入るのは何ら問題なく、常識の範囲である。


「その唯一の宿泊客に、俺の他にもう一人男がいたろ」


 そう、入れ違い気味に出て行った拓也である。


「さっき上がったのは確認済み。こんな短い時間でまた入ってくる人はいない。仮にいたとしても問題あるの?」


 まだ幼いカリナには性別の違いによる羞恥心が薄いのだろう、そう言ってこてんを首を傾げる。

 確かにカリナの言う通り、まだ幼いカリナがその裸体を晒しても普通の男は劣情を抱かないだろうし、カリナと同い年位の男の子なら劣情の意味すら分からないだろう……そう、普通の男なら。


「はぁ~……カリナ、問題があるから男女で分けられているんだよ?」


 蒼真はその普通じゃない幼馴染を思い浮かべて大きくため息を吐くと、優しく、だが、真剣な眼差しでカリナに告げる。


「おじいちゃんにも最近言われる……一緒、ダメなの?」


 言って、不安そうな瞳で蒼真を見つめるカリナ。

 自分がどこの生まれなのか、どんな両親だったのか分からず、村の人達からは冷たくされ、数少ない味方は村長ただ一人。きっと、カリナは自覚しているのか、いないのかは分からないが、人の温もり、殊更、愛情に飢えているのだろう。


「はぁ~」


 自分も同じような経験をした蒼真はそれが痛いほど分かってしまい、大きくため息を吐き、がりがりと頭を掻くと、カリナに背を向ける。

 それを見たカリナはショックを受けたらしく、酷く狼狽してから、悲しそうに俯く。


「背中、洗ってくれるんだろ?」


 言って、カリナに蒼真は背中を向けたまま、首だけで振り向くと、先程から持ったままの泡がすっかりしぼんでしまったタオルを差し出す。


「……うん」


 瞬間、カリナは顔を上げて咲き誇る花のような笑顔を浮かべて、それを受け取る。


「力いっぱい頼むな」


 そんなカリナを見て蒼真は苦笑を浮かべると正面に向き直る。


 まぁ、そのうち俺の言いたいことも自然と分かるだろう。


 そんな事を思いながら蒼真は自らの背中をカリナに任せた。

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