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レベル99の幼女と最弱パーティー  作者: 癸識
山間の村 パルサー
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第20話

 ……疲れた……宿がここしかないのは小さい村だから分かる……けど、わざわざ村の一番奥に建てなくてもいいだろう……あぁ、村長の自宅も兼ねているからか。


 一日歩きっぱなしで重たくなった足を動かしながら益体もない事を考えながら蒼真は宿へとたどり着く。

 一体何をどうしたらそういう解釈になるのかは分からないが、あの子供三人組にお説教(実際には何もしていないのだが)しようとした蒼真の事が、小さい子供を脅していたガラの悪い冒険者として村中に瞬く間に認識されてしまったらしく。あれから大人達には敵意むき出しの視線を送られ、奥様達には建物の影でこそこそと陰口を叩かれ、子供達には姿を見せた途端に逃げられる始末。


 ……はぁ~。これだから田舎ってやつは。


 心労という程のものではないが、小さい頃の嫌な思い出が過ぎり蒼真の心を重くする。

 一方、村を出てはや五年、昔ほどそれらに対して嫌悪もまた、今に見ていろよという反骨心も薄れてきたのか、心の片隅で軽いノスタルジーを感じているのも確かである。


「ただいま~」


 蒼真のそんな声とドアベルが宿の入口に響き渡る。ふと目にしたカウンターは無人である。


 ……俺、鍵貰ってないんだが。


 ふと、そんな事が蒼真の頭を過る。


 まぁ、いいや、部屋には拓也がいるだろうからノックして開けてもらえば……って、何号室に泊まっているのか知らないな……この位の大きさの宿なら部屋数は20も無いはず……確率は二十分の一……分が悪いなぁ。


「すいませ~ん」


 さてどうしたものかなと思いつつ、とりあえず声を上げてみる事にした蒼真。


「すみませ~ん!」


 二度、三度と徐々に声を大きくして声を上げてみるが、返答は無し。人の足音すら聞こえてこない。

 あんまり儲かっていないのかなぁ。

 宿泊客はもちろん、従業員さえ見当たらない無人の館内を見渡す蒼真。

 一向に人の気配を感じなかった蒼真は些か面倒だが全室をノックして回ろうかと考える。なに他人が出てきてもその場で謝れば大丈夫だろう。


 ……ん?


 そう結論づけて、宿泊室があるであろう二階への階段に足を向けたその時に、蒼真の耳は小さな足音を捉えた。


「すいませ~ん」


 その足音を聞いて、蒼真はすかさずに声を上げる。

 ややあってから、壁の後ろから覗き込むように、ひょっこりと顔だけを現す一人の幼い女の子。その女の子はまるで降り積もった雪のような白銀の髪色をしていて、その瞳は兎のように赤い。


「あれ?」


 壁から顔半分だけを覗かせているその幼い女の子に蒼真は見覚えがある。見覚えがあるというか、つい先ほど三人の男の子達にいじめられていた幼い女の子である。

 何でさっきの幼い女の子がここにいるんだ? と思いつつ、蒼真が声を掛けようとしたその瞬間。


「あっ、ちょっと――」


 幼い女の子はぱたぱたと来た時よりも大きな足音を立ててどこかへと行ってしまった。


 ……マジか……少しへこむな。


 助けたはずの少女から逃げられた蒼真は内心で落ち込む。


 ……もしかしたら、大きなお世話だったのかもな。


 蒼真は落ち込みながらもそう考える。

 あのいじめの現場を見る限り、幼い女の子がいじめられているのは昨日、今日が初めてという訳ではないだろう。

 今日はたまたま蒼真が介入して助かっただろうが、蒼真はこの村の人間でも無いし、ここに引っ越してこようとも思っていない。長くても一週間はいないであろう。

 蒼真がいる間は幼い女の子をいじめから守ってあげられるが、それ以降は蒼真が村にいないのだから守りようがない。

 守ると言っても、先ほどみたいな直接的ないじめに対してのみで、遠巻きから陰口を言われるとか、村人から無視されるとかいう間接的なものに関しては、蒼真も絶賛受けている最中の為に守れる訳が無い。

 更に言えば、蒼真がいなくなった後にあの幼い女の子に対するいじめが、蒼真が介入した為に今より酷くなるかもしれない。


 まぁ、いいさ。お節介と思われても構わない。居る間は出来ることをやるとするか。例えそれを本人に嫌がられてもな。


 そう結論づけて、苦笑する蒼真。

 蒼真自身も偽善で、利己的で、独善的だと思っているのだが、蒼真にあの幼い女の子を見放すという選択肢はない。それが例え、一時的でも、一瞬でも、刹那でも、あの幼い女の子に安らぎや平穏を与えられればと蒼真は思う。


「お帰りなさいませ」


 蒼真が自らの独善的な考えに辟易していると村長が姿を現した。


「ただいま戻りました。すみませんが部屋の鍵を頂けますか?」


 これは幸いと蒼真は上りかけた階段から足を下ろして村長に告げる。


「鈴木さんと相田さん名義で二部屋取られてますが、鈴木さんの取られたお部屋で良いですか?」


「ええ、もちろん」


「少々お待ちください」


 言って、村長はカウンターの裏の部屋へと消えていく。

 ふと、蒼真の視界の隅に入る銀色の光。

 蒼真がそちらに顔を向けると、再びあの幼い女の子が先ほどと同じように、こっそりと蒼真を覗き見ていた。

 そして、蒼真が顔を向けると、再び逃げてしまった。

 まるで猫みたいだな。

 そんな幼い女の子を見て蒼真はそう連想すると一人微笑む。

 蒼真の脳内では猫耳が生えたあの幼い女の子が恥ずかしそうに『にゃ~』と鳴いている。


「お待たせしました、こちらになります」


 ややあって現れた村長が蒼真に部屋の鍵を手渡す。

 鍵に付いたタグには201号室と書かれていた。


「ありがとうございます――ああ、そうだ。この宿に温泉があると聞いたんですけど、入浴時間とかあります?」


 ゴツゴツとした村長の手から鍵を受け取った蒼真は温泉の存在を思い出す。


「午後二時~四時の間の掃除時間を除けばいつでも入浴して貰って構いません」


「そうですが……一応聞いておきたいんですけど、入浴するのに別途料金とか、かかります?」


 この世界の宿屋はよほど高級でない限り部屋にトイレや風呂などは付いておらず共有である。よって普通入浴やシャワーを浴びるのに別途料金はかからない。

 だが、稀に別途料金を請求する所もあるのだ。付け加えるならば、近辺で温泉が湧いているのは珍しく、別途料金がかかっても不思議ではない。


「ご安心下さい。宿泊された方からは頂きませんよ」


「そうですか」


 村長のその言葉にほっと胸を撫で下ろす蒼真。

 別に入浴料が払えない訳でも無いし、別料金がかかっても温泉の魅力には抗えず普通に払うだろう。だが、かからないに越したことはない。


「そういえば、何やら村中で貴方の事が噂されていますが、何かあったのですか?」


 ふと、村長が今思い出したと言わんばかりに蒼真に問いかける。


 おいおい、もう村長の耳にも入ってるのかよ……田舎って怖いなぁ。


「予想は出来ますけど、どのような噂ですか?」


 蒼真は辟易としながら村長に問いかける。


「それが、何やら貴方が村の子供を殴って脅したとか、それを見つけた大人が貴方を咎めると、その大人も殴りつけて身銭を奪ったとか……ああ、貴方が魔王信仰者で子供三人を誘拐して怪しげな儀式をしようとしていたのを止めたとかいう話もありましたな。村長の私にどうにかならないかと相談されましたよ」


 言って、村長もそれらの噂を鵜呑みにはしていないのだろう、苦笑を浮かべる。


「それで、村長は俺をどうされるつもりですか?」


 蒼真は大きなため息を吐き、やれやれと肩を竦めながら村長に問いかける。

 どれもこれも根も葉もない噂話だが、村人達の心証を考えるならば蒼真をとっとと追い出したほうが良く、また手っ取り早いだろう。


「事実なのですか?」


「まさか」


「では、私が貴方をどうこうする理由がありませんね」


 はっきりと、そう村長が断言する。


「村長は村人達の言葉より、俺の言葉を信じると?」


 ここまではっきりと断言されるとは思っていなかった蒼真は少し意地の悪い質問をしてみる。


「村長として村人達の言葉に耳を傾ける必要はあると思いますが、何でもかんでも信じれば良いというものでは無いでしょう。それに、貴方は私が出した依頼条件を満たして、尚且つギルドから信頼できる人物とのお墨付きです。貴方の言葉を信じるというよりはギルドを信じていると言ったところでしょうか」


「随分と冒険者ギルドを信用されているのですね」


「いえ、実は私も若い頃は冒険者をやっておりまして、冒険者ギルドについては多少知っているつもりなのです」


 言って在りし日を懐かしむかのように目を細める村長。


「ああ、やはりそうでしたか」


 初老の男性にしては引き締まった体やごつごつとした手、それに冒険者が醸し出す独特の雰囲気からわざわざ口にはしなかったが、そうでは無いかと蒼真は思っていた。


「二流の壁にぶつかっていた時に父親である前の村長が倒れましてね。かなり悩みましたが、結局この田舎に帰ってきましたよ」


 二流の壁なら全盛期の村長のレベルは40……結構高いな。そりゃ悩むだろうな。


「所で、一体何をして村人達の不興を買ったんですか?」


 火のないところには煙は立たない。噂ほどでは無いだろうが蒼真が全く何もしていないとは村長も思っていないのだろう、そんな質問を蒼真に投げかける。


「一人の女の子を庇っただけですよ」


 言って苦笑する蒼真。

 よそ者を庇った事がこの村では罪と言われれば罪になるのだろう。


「……その女の子は白銀の髪の毛ですか?」


 心当たりがあるのだろう、村長は眉をひそめて蒼真に問いかける。


「ええ。よそ者と言われて男の子三人からいじめられていたんですよ……まぁ、田舎ではありふれた光景ですね」


「……またあのクソガキどもか……一体何回言えば分かるんだ……殴らなければ分からんのか」


 蒼真の返答を聞いた村長が顔をしかめてぶつぶつと呟く。


「……どうやら余計なお世話だったみたいですね」


 村長の呟きが聞こえていない蒼真には、村長は自分が幼い女の子を助けた事に対して顔をしかめているように思えた。


 ……やれやれ、数日は滞在しようと思っていたんだけど、これは早々に立ち去ったほうが良いかな……話が分かりそうな村長さんだと思ったのに、残念だ。


「あっ、いえ、すみません。その逆ですよ。助かりました」


 不機嫌になった蒼真に村長が慌てて礼を告げて頭を下げる。


「カリナ。ああ、そのいじめられていた女の子ですが、一年位前にこの村に親も連れずに満身創痍でふらっと現れたのを私が保護したんです」


「……魔物にでも襲われたんですかね」


「ええ、恐らく。本人は記憶を失っているみたいで……何か、忘れてしまいたい程の事があったのでしょう。カリナという名前だけは覚えていましたが、他は全く何も覚えていないようで」


 そう村長が悲しそうに蒼真に告げる。


「そうですか……」


「ええ。そんな状態だったので私が引き取ることにしたんですよ。まぁ、村中から反感を買いましたが、カリナには悪いと思いますが、良い機会でもありましたし」


「良い機会?」


「ええ。こんな田舎なものですから、嫌気をさした若者達が村を出て行ってしまって、村の人口が年々少なくなっているんです。そこで私は他所から人を呼んで移住して貰う事を考えているのですが、こんな状態ですからね、とても他所から人なんて呼べない。そこで、カリナでよそ者に慣れて貰おうと思ったのですが……一向に上手くいく気配が無くて辟易しているところですよ」


 言って、大きくため息を吐く村長。


「そうですか……先は長そうですね」


 あの様子じゃ苦労するだろうな。

 蒼真はこの村がいつの間にか地図から消えていないように願いながら部屋へと向かった。

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