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レベル99の幼女と最弱パーティー  作者: 癸識
チーム最弱結成
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第2話

 冒険者。

 この世界で生まれ育ったものなら誰でも一度は憧れる職業。

 性別、年齢、免許、資格、この職業に就くに辺り、そんなものは何一つ必要ない。

 極端な事を言ってしまえば、自分は冒険者だと主張すればなれてしまう職業。

 だが、冒険者として生計を立てられる人は一握り。

 努力、才能、肉体の衰え、彼女が出来た、子供が出来た、親に叱られた、と様々な理由で大半の冒険者は辞めていく。

 だが、人の数ほど理由はあれど、根っこの部分は殆ど共通している。

 ――死にたくないのだ。

 金を稼ぎたければ商人になれば良い。

 力が欲しければ鍛錬すれば良い。

 名誉が欲しければ社会奉仕をすれば良い。

 憧れてなった職業だが、人生に必要な物は冒険者で無くても手にすることが出来る。付け加えるならば、金も、力も、名誉も、命と秤にかけるものではない。

 だから、冒険者となった者の大半が辞めていく。

 ここはそんな冒険者たちがひしめく街、ファースト。

 この周辺には比較的弱いモンスターが生息している。

 モンスターが弱ければ周辺の治安が良くなり、人の行き来も多くなり、商売をする人も増える。その結果、経済が活性化し、街が潤う。

 ここファーストは旧王都にして、冒険者の出発地点である。

 そんなファーストの街外れに蒼真達、チームsaiの拠点である宿屋は存在している。

 レンガ造りの三角屋根の二階建ての宿屋。

 一見するだけでは分からないが、築は二百年を超えてあちこちにガタがきている。

 流石は旧王都と言うべきだろうか、高く聳え立つ城壁が目と鼻の先で日当たりも悪い。

 更に朝日は差し込まず、一日の内で一番日の当たる時間が夕方という悪環境。

 その為、比較的宿泊費が高いファーストの中では激安の宿屋。

 店名は『やまびこ亭』という。

 だが、いくら宿泊費が安いからと言って、そんな悪環境に腰を落ち着けたいと思う冒険者は少なく、この街では蒼真達だけである。

 そんな訳で、やまびこ亭は夜になると酒場と化す。少しでも稼ごうとする主人の経営戦略である。

 もっとも、別段飯や酒が美味いわけもなく、美人の看板娘がいるでもないので、思ったほど成果があげられていないのが現状である。

 時刻はお昼過ぎ。

 宿を出るには遅い時間、逆に取るにしては早すぎる時間。

 いつもならば人っ子一人見当たらないはずのやまびこ亭の一階に置かれたテーブルを利用する人の姿があった。

 一人は、短く切り揃えられた黒髪、褐色の肌、右頬には耳にまで届きそうな刀傷が走っている男である。


「昨日は危ない所を助けてくれて有難うございます」


 男、もとい、斎藤蒼真はそう言って、目の前の人物に頭を下げる。


「いえいえ、大した事じゃありませんので」


 蒼真に礼を告げられた人物はそうくぐもった声で答える。

 この薄暗い宿屋の中でも眩いばかりの輝きを放つ全身白銀の鎧姿の人物、蒼真達がモンスターにやられそうな時に、間一髪助けに入った人物である。

 ポリシーでもあるのか、室内だというのに兜すら取る様子が無い。

 昨日、全滅しかけたという事もあって、蒼真達は宿に着くなりベッドに入り、今まで泥のように眠っていた。

 そんな現実とは反対に、夢の中で蒼真達はドラゴンを討伐して飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎをしていた。

 そんな大宴会の中に何故か、どこぞの王女様がいて、蒼真に一目惚れ、王女様からキスをせがまれた。

 そんな幸せの絶頂の中で起こされた蒼真は実に不機嫌であった。


 全く、こんな時間に俺の所に訪れる馬鹿野郎は一体どこのどいつだ? 親方……は有り得ないか、今頃はせっせと地面を掘っているだろう……あれか? またバースの野郎が死にかけた俺たちを笑いにでも来たのだろうか? だが、それにしても情報が回るのが早すぎるな。まぁ、何にしても俺たちに会いに来る客なんてろくな奴がいない。


 そんな事を考えながら一階の降りると、何と目の前には昨日の恩人がいるでは無いか。蒼真の不機嫌は一気に消し飛んだ。


「いや、本当に助かった。連れの二人も無事だったしな。ああ、そうだ。今から叩き起こして礼を言わせるからちょっと待っていてくれ」


 言って、椅子から腰を浮かせる蒼真。


「いえ、お気になさらずに、休息も大事です」


 それを全身鎧の人がやんわりと制する。


「そうですか。では、また改めて二人からは礼をさせるとします」


 言って、蒼真が浮かした腰を下ろす。


「はい、そうしてください」


 それから訪れる静寂。

 全身鎧の人は身じろぎすらせず、ピンっと背筋を伸ばして座ったまま、じっと蒼真を見つめている。


 ……何なんだこれは。


 兜に隠れて見えないはずなのに、蒼真にはその視線をひしひしと感じ取れた。まるで値踏みでもされているかのような居心地の悪さ。


「えっと、それで、俺たちを訪ねてきた理由をお聞きしても良いですか?」


 その居心地の悪さに耐え切れずに、蒼真はそう話を切り出す。


「はい、この街で貴方たちの噂を聞きまして、是非、一度お会いしたいと思っていました」


 そう聞いて、蒼真はどうせろくな噂では無いだろうと内心で思う。


「……何となく、というか、ほぼ確実に想像出来ますが、どのような噂ですか?」


「色々聞きましたが、まとめると、信じられない位に弱いパーティーがある。あそこまで弱いのはある意味才能だろう。という感じでしょうか」


 蒼真は、やはり、というか、それ以外には無いだろうとは思っていたが、面と向かって言われると、良い気分ではない。


「……やっぱり……それで? 俺たちを笑いにでもきたのか?」


 自然と不機嫌になった蒼真はぶっきらぼうに告げる。

 たまにいるのだ、蒼真達の弱さを聞きつけて馬鹿にしにくる輩、自分たちより弱い奴らを見て安堵、優越感、自信を得たい輩、とにかくそういった輩にろくなやつがいた試しがない。


「いえ。是非とも、私をパーティーに入れて欲しいと思いまして」


 だが、全身鎧の人が放った言葉はそういった輩が一番言わない言葉であった。


「……は? 今、何て?」


 その言葉の意味が理解できずに蒼真は思わず聞き返した。


「私を貴方たちのパーティーに入れて下さい。そして、魔王を倒しましょう」


 ぐいっとテーブルに身を乗り出して、兜がぶつかりそうな程に蒼真に近づいた全身鎧の人はそんな意味不明な言葉を発する。


「……え~っと、君」


 意味が分からない。俺たちのパーティーに入りたい? そんでもって、魔王を倒す? 何だ、こいつ? 頭おかしいのか?


「ああ、自己紹介がまだでしたね」


 目を白黒させている蒼真を見て、全身鎧の人はそう言って、椅子に腰を掛けると、徐に兜に手をやり、兜を脱ぐ。

 兜の下から現れた、さらさらと流れる金髪は短く切り揃えられ、くりくりと大きな瞳は碧眼、ぷにぷにと柔らかそうなほっぺた、小さな唇。

 どこからどう見ても幼い女の子である。


「――私、ジャグリーン・ベルと申します。どうぞリーンと呼んでください」


 そう言って微笑んだリーンはまるで天使を彷彿とさせた。

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