第16話
二日後、晴れて三流に上がった蒼真達はギルドの依頼掲示板の前にいた。
昨日は昇格祝いという事で休日にして、思い思い好きに過ごした。
「……うお~選びたい放題だな」
ここファーストは冒険者たちの始まりの街である。
よって高難度、具体的には二流以上の依頼が掲示板に張り出される事はほぼない。
その代わりという訳ではないが、低難度、具体的には二流未満の依頼は他の街より多い。
だからうだつの上がらない駆け出し冒険者達でも何とか生活していけるのだ。
だが、多いとはいえ、駆け出しは所詮駆け出し、依頼できる内容も限られてくるし、そもそも冒険者という職業の中で一番人口比率が多い部分。
依頼を受けたい奴などごろごろいて、その競争率も激しく、受けられる依頼がゼロなんて事も珍しくはない。
だが、これが三流になると急激に改善される。
そもそも三流以上の冒険者人口が少ないのだ、当然と言えば当然であろう。
「ねぇ、ねぇ、うち討伐依頼受けたいっ」
「うん。やっぱり冒険者といえばモンスター討伐。三流に上がって初めての依頼だし、それに相応しいものが僕もいいと思う」
等と言って、理紗と拓也はそれぞれ討伐依頼を指差す。
それらの依頼をちらっと見た蒼真は顔を顰める。
二人が指さした依頼は全てウッドツリーと同じか、少し下の難度であったからだ。
……浮かれているなぁ。
と、蒼真は心中でため息を吐く。
条件付きとはいえ、俺達より遥かに格上だった相手に勝ってランクを上げたのだ、浮かれるなというほうが無理だろう。
けれど、浮かれて自分たちの実力を見誤ってはいけない。
まだ、俺達は三流に上がったばかりで、三流以上が受けられる難度を経験してはいない。
ここは慎重に依頼難度を経験し、それを踏まえて着実にステップアップしていく必要がある。
それなのに最初から討伐依頼なぞリスクが大きくて受けられる訳が無い。
「いや、今回は討伐依頼以外を受けるつもりだ。ついでに言えば護衛関係も無し。可能な限り簡単で安全そうな依頼にしよう」
そう言い切り条件を満たした依頼を探す蒼真。自分たちの条件に合う依頼を探せるのも三流に上がったおかげであろう……もっとも、一昨日にリーンから言われた一言がなければ、蒼真も二人のように気が大きくなったまま、意気揚々と討伐依頼を受けた可能性が非常に高いのは秘密である。
「え~」
「蒼真っ、初依頼だぞ! 初依頼!」
予想通り、幼馴染二人から不満をぶつけられるが蒼真はどこ吹く風、貼り出された依頼の中から一枚の紙を引っペがしてリーンに見せる。
「この辺りにしようと思うんだが、どうだ?」
そこにはマジックアイテムをとある村まで届けて欲しいという依頼が書かれていた。
尚、配達依頼を最低50回はこなしそのどれも問題を起こしておらず、尚且つギルドから信頼出来る人物と認められる事が条件。
と、思いのほか条件が厳しいのだが、蒼真達はそれを満たしている。
この世界で配達を生業にする人たちは存在している。
だが、それらを生業にしている人の中には配達依頼を受けた物を紛失、強奪されたと称して私物化してしまう事が多々ある。
当然、全ての人がそうではないし、実際に紛失、強奪される事もある。冒険者崩れの賊も少なくない。
それに対して、配達を生業にする人の多くがごく普通の人で、いざ賊に襲われたら一目散に逃げるしかない。
そういう事情があり、高価な物を届けたい場合は多少割高になってしまうとはいえ、ギルドを通して冒険者に依頼する事が多い。
もちろん、冒険者とはいえ、邪な考えを抱き、私物化してしまう輩はいる。
だが、そういった輩はバレた時点でギルドから追放されてしまう。
もちろん、紛失や、強奪される事はある。
その場合、依頼主には依頼料を返却、受けた冒険者にはギルドが独自に調査し、虚偽ではないと認められた場合、マイナスポイントが加算され、そのマイナスポイントが一定の数値になると配達依頼を受けられなくなる。
そういった自浄作用もあり、案外ギルドには配達依頼が多い。
「片道五日ですかぁ。うん、良いんじゃないですかね」
蒼真の提案にリーンが頷く。
「良し、それじゃこれにしよう」
リーンの同意を得た蒼真は依頼を受けようと引っ剥がした依頼書を持ったまま受付へと足を向ける。
「え~反対~」
「僕も反対だ」
そんな蒼真の前に不満を顕にした理紗と拓也が立ちふさがる。
「最初なんだからこれくらいで丁度良いんだよ」
そんな立ちふさがった二人に蒼真はやれやれとため息を吐いてからそう告げる。
「物足りな~い。配達依頼なんて飽きるほどこなしてきたじゃん。そんな依頼をわざわざ三流になっての初依頼にする事無くない?」
そう理紗がふくれっ面で言うと、
「僕も理沙と同意見だ。もっと相応しい依頼はもっとあるだろう」
援護とばかりに理沙の意見に拓也も追従する。
「理紗、お前久しぶりに温泉入りたいって言っていたよな?」
二人の反対は予想通りなので、蒼真は依頼書を見た時に思いついた対応策を実行に移す。
「それがどうしたのよ?」
「俺はこの届け先を聞いたことがあるんだが、この村は山間部にあってな、あるらしいんだよ、温泉」
どこかは忘れたが蒼真は昔に世間話で聞いた事があるのだ。
この村には温泉が湧いているらしい、けれど、交通が不便で訪れる人は少なく、あまり有名ではないと。
蒼真達の故郷ではそこら中に温泉が湧いているが、ここファースト近郊は平原ということもあり、温泉が皆無。
故郷を出てからこれまで蒼真達は温泉に入っていない。
タイミングの良い事に理紗は久しぶりに温泉に浸かりたいと言っていた事を蒼真は思い出したのだ。
「――だったら行く」
すると、理紗は簡単に手のひらを返して賛成に回る。
「僕は理沙ほど温泉に興味がないぞ」
さて、理沙を寝返らせるのに成功したが、拓也は温泉につられない。
掛けたメガネをくいっと上げてレンズ越しに蒼真を睨みつける。
だが、蒼真は拓也の説得には一切の不安を感じていない。
「リーンはどうだ? 温泉、入った事あるか?」
蒼真は拓也には目もくれずにリーンにそう問いかける。
「はいっ。あれは良いものですよね~久しぶりに私も入りたいです」
すると、リーンはウキウキした様子で蒼真の問いに答える。
「――出発はいつだ、蒼真?」
そんなリーンを見て、拓也はあっさりと手のひらを返した。




