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レベル99の幼女と最弱パーティー  作者: 癸識
レベル上げです
14/76

第14話

 じりじりと焼き付けるような日差しの下、うちらは既に見慣れた砂漠には似つかわしくない森のモンスターであるウッドツリーと対峙している。

 一本一本が角材ほどの大きさの蔦が蒼ちゃんに向かって伸びる。

 蒼ちゃんはそれらをバッタバッタと二本の剣で切り払っていく。

 前のように盾は装備していない。

 元々蒼ちゃんは盾の使い方が上手くないし、本来ならアタッカーのほうが得意なのだ。

 そのあまりの下手さにリーンちゃんが盾を捨てることを提案して、今のスタイルになった。

 元々蒼ちゃんの戦闘スタイルが二刀流だった事も関係しているのだろう。リーンちゃんの提案は見事に的中して、前よりずっと蒼ちゃんはウッドツリーの攻撃を凌いでいる。


「拓也! 次っ!」


 言って、蒼ちゃんは剣を一本投げ捨てる。


「了解」


 それに応えて、拓也が背中に背負ったリュックから一本の剣を取り出し、蒼ちゃんの足元に向けて転がす。

 ウッドツリー相手に蒼ちゃんのやり方だと、どうしても切った時の樹液が刃にこびり付き、切れ味が鈍ってしまう。

 その対抗手段として蒼ちゃんは安物の剣を何本が新たに購入して拓也に持たせている。

 切れ味が落ちない魔法が付与された剣ならこんな事をする必要が無いのだけれど、万年貧乏冒険者たちであるうちらに買える訳が無い。

 ちなみに、剣だけでなく拓也は依頼や冒険に必要な様々な物を持ち運んでいるパーティーの荷物持ち。

 背負っているのは普通のリュック一つ。

 けれど、そのリュックは普通のリュックではなく、マジックアイテム。

 リュックの中は別空間に繋がっていて、その広さは普通の一軒家ほどもあるらしい。極端な事を言ってしまうと、うちらは家を持ち歩いているようなもの。

 けれど、というより、当然のようにこのリュックは高い、とてつもなく高い。

 けれど、体力の無い拓也には必須。と言う事で、色々と無理をして、更には中古を値切ってどうにかこうにか購入した一品。


「おっしゃ」


 綺麗に自分の足元に転がってきた剣を手に取り、素早く鞘から抜き放つ蒼ちゃん。

 その流れは見事なもので、阿吽の呼吸と言っても過言ではないだろう。

 拓也は蒼ちゃんがどこに転がして欲しいのか理解し、またそんな拓也の事も蒼ちゃんも理解している。

 うちではこうはならない。精々が息のあったレベル……付き合っている年数は変わらないのに何でこうも違うのかな? やっぱり性別が関係しているの?


「一本逃がした!」


「見れば分かる」


 そう言うが早いか、拓也がリュックから斧を取り出して蒼ちゃんの横から抜け出してきた蔦を切り落とす。

 この一週間で拓也も随分と体力がついた気がする。

 まぁ、倒れるまで走り込みや筋トレをさせされていたからつかないほうが問題だろうけれど。


「おお、良いですね~。中々様になってきたんじゃないでしょうか?」


 今日も今日とてましろちゃんの背中に乗ったリーンちゃんが嬉しそうに頷いている。

 彼此一週間はウッドツリーと対峙しているのだ、格上とは言え、所詮は知性の低い木々のモンスター。

 その行動や攻撃パターンはあまり多くなく、そのほとんどが力押し。嫌でも覚えてしまう。最近では夢の中にまでウッドツリーが現れる始末。


『理沙さんは集中力が無いですよね? だから魔力を込めるのに時間が掛かるんです』


 ふと、先日リーンちゃんに言われた事が頭を過る。


 ――っと、いけない、いけない。集中、集中。


 うちは握った杖をぎゅっと握り直して魔力を杖に込める。

 すると、杖の先端に付けられたうっすらと光る赤い石がその輝きを増す。

 魔法というものは基本的にこの杖の先端に付けられた石、魔石に魔力を込めて発動させる。

 うちは一般的な杖を使っているけれど、魔石を剣に取り付ける人、盾に取り付ける人、斧に、指輪に、と千差万別、多種多様、十人十色。

 もっとも、上級の魔法使いの中には魔石を使わないで魔法を発動させられる人もいるらしいけれど、リーンちゃんに会わなければ、都市伝説だと今でも鼻で笑っていただろう。

 うちが今回使っている魔石は赤い色をしているけれど、他にも青、緑、黄、茶、白、黒、とこちらも色々とある。

 色がその魔石に込められた魔法の種類、系統を示しているのだ。例えば、赤は火、青は水、緑は土、黄は雷、といった具合である。

 今回うちが使っているのは火系統の魔法。相手が木なのだから当然といえば当然かもしれない。

 徐々に魔石がその輝きを増していく。

 それと比例するように襲いかかってくる脱力感、疲労感、倦怠感、血の気が引くような感覚。

 魔法使いというと、知的で体力が無いイメージが先行しがち。

 だけれど、魔力を使うと、使った分と比例するように体調が悪くなる。

 これらから耐えるのに必要なのは最終的に体力と根性である。

 もっとも、普通はそこまで魔力を使わず、きちんと自分の魔力量を把握して魔法を使うものである。


『今の理紗さんではぶっ倒れるまで魔力込めないとウッドツリーを倒すほどの火力は出ませんよ~』


 そんな無茶ぶりをされない限りはこんな馬鹿な事はしない。

 そもそも倒れるまで魔力を込める何て簡単に言うけれど、込めただけで倒れては意味がない。きちんと魔法を発動させて敵に当てないといけない。そのギリギリの加減が難しい。

 うちは更に魔力を込める。その瞬間、


「――葉っぱが来るぞ!」


 蒼ちゃんの叫び声が聞こえた。

 ウッドツリーを見やると、葉っぱがカサカサと揺れている。この動作の数秒後にウッドツリーは葉っぱを飛ばして攻撃してくる。


「任せろ」


 蒼ちゃんの叫び声を聞いて、拓也がリュックから水色の魔石が先端に付いた杖を取り出す。水色の魔石は風の系統だ。

 拓也が杖を構えて魔力を込める。

 それとほぼ同時にウッドツリーの幹から葉っぱが離れ、こちらに飛んでくる。

 剣の蒼ちゃんではこれを迎撃するのは難しく、拓也に任せるしかない……でも、間に合うのかな?

 見る見る迫ってくる葉っぱ。殺傷能力自体は低いから、目だけに気をつけていれば多少は耐えられるけれど、うちが魔力を込める速度が確実に落ちる。

 まだ拓也は魔力を込めている。何でもこなせる拓也だけれど、その能力は全て平均値以下。どうもこの様子だと間に合わなさそう。


「――風よ守り給え!」


 うちが葉っぱの攻撃を耐えるために歯を食いしばったその刹那。

 うちの周りに旋風が現れて、向かってきた葉っぱを全て吹き飛ばす。どうやらギリギリで間に合ったみたい。

 ちなみに、魔法を発動するのに、何か叫ぶ必要は無い。

 けれど、叫ぶ人が何故か多い。きっと、気分の問題なんだと思う。


「おりゃ!」


 蒼ちゃんが迫り来る蔦を器用に避けて、ウッドツリーに斬りかかる。

 まるで血のように樹液が吹き出し、蒼ちゃんを染めていく。

 けれど、暫くするとその切り口が塞がってしまう。

 ウッドツリーは再生能力を持っている。

 その再生速度は遅く、先ほどのように浅い切り傷なら数十秒で塞がるけれど、完全に切り落とすと新しい部分が生えてくるまでに数日は掛かる。

 とはいえ、剣や斧、槍や弓等の物理的な攻撃を主体とするパーティーには厄介極まりない。うちにも後、一人うちと同じ位の魔法使いがいれば随分と楽になるのだけれど。

 そんな事を考えていると、手に力が入らなくなってきた。

 だいぶ魔力が魔石に注がれているみたい。でも、まだ足りない。


 もっと、もっと、込めないと。集中、集中。


 ここまで魔力を込めると集中力も下がってくる。

 うちは軽く頭を振って、上手く力の入らない手で杖を握り直す。

 気が付くと、うちを囲んでいた旋風が消えていた。魔法の効果が切れたのだ。

 蒼ちゃんの援護の為に、拓也が小さい火球をウッドツリーに放っているけれど、ウッドツリーは拓也の火球を気にもせず蔦を二人に伸ばす。

 まぁ、あんな小さい火球でダメージを入れられるなら、うちの火球でとっくに倒せている。

 そんな事を考えた時、視界がぼやけ、思わずよろける。


 ……あ~そろそろ、まずいかなぁ。


 体中が鉛のように重く、風邪を引いた時のような悪寒が背筋を走る、視界はぼやけ、意識も薄くなっていく。

 でも、まだ、まだ足りない。

 この前、この段階で魔法を打ったけれど、後少しの所でウッドツリーを倒すことが出来なかった。撃退するならそれでも良いのだけれど、うちらが目指しているのは討伐。だから、まだ足りない。

 もっと、もっと、と魔力を込める。

 それと比例して視界はぼやけ、全身の力は抜け、思わず片膝を着く。凄まじい吐き気に襲われ、そのまま少しだけ吐いた。

 けれど、杖は手放さない、魔力を注ぎ続ける。

 ぼやけた視界の先では時折、一瞬だけうちに視線を向ける蒼ちゃんが映る。表情までは分からないけれどきっと、いや、確実にうちの心配をしているのだろう。

 蒼ちゃんは弱いと言われるのを嫌う。

 自分自身では理解しているのに他人から言われるのを嫌う。

 でも、ウッドツリーを倒せたら今まで馬鹿にしてきた奴らを見返せるかもしれない。うちとか拓也は興味無いけれど、蒼ちゃんの為に頑張ろう。


 ……うん。まだ頑張れる……ううん、まだ頑張らないと。


 注ぐ、注ぐ、注ぐ、注ぐ。

 視界が狭まり、両膝をつき、杖に体重を預ける。不思議と吐き気は治まっている。その代わりに音が小さくなっていく。今、攻撃されたらうちは為す術がない。でも、二人がどうにかしてくれるだろう。

 だから、うちは魔力を注ぎ続ける。


 ……うん……もう……限界。


 もう微かにしか無い視界、薄れゆく意識、全身の感覚もほとんど無い。

 これ以上魔力を注ぐと魔法を発動する前に倒れてしまうと判断したうちは微かな視界にウッドツリーを見据えて、杖を向ける。


 ……これで倒せなかったらごめん……後はよろしく。


「……爆ぜろ」


 今までの人生で一番魔力を込めた一撃を放つと、うちの意識はぷつりと途絶えた。

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