第12話
くっそ! 何でこうなった!?
向かってくる蔦を剣で切り落としながら蒼真は内心で毒づく。
目の前には十メートルはゆうに超えるであろう一本の木のモンスター。
ウッドツリーと呼称されているこのモンスターは比較的大きな森に生息しているモンスターで、討伐推奨レベルはパーティーで25。
現状一番高いレベルの蒼真が10。この前の事件でステータス自体は若干上がっているものの、レベルまでは上がっていない。
つまり相当の格上。自殺行為としかいえない状況である。
もっとも、蒼真達がウッドツリーと対峙しているのは雑草すら生えていない砂漠地帯で本来のウッドツリーの生息地帯ではない。
なので、ウッドツリーもその力を十全には発揮出来ていない。一応は地の利だけは蒼真達にある形である。
このウッドツリーだが、蒼真の視界の先に微かに見える森からリーンとましろがここまで追い立ててきたのだ。
地平線の向こうからウッドツリーが砂埃を上げて迫ってくるのを見た蒼真達の心境といったらない。
とりあえず逃げられるだけ逃げたのだが、その大きさに似合わず足の早いウッドツリーに瞬く間に追いつかれ、訳も分からず対峙するはめとなった。
そもそも、この砂漠地帯だって、リーンに指示されたましろ率いる狼牙の群れに無理やり連れてこられただけで蒼真達の意思ではない。
「蒼真さ~ん。迫ってくる蔦は躱すか盾で防いでくださ~い。そうやって切り落とすと樹液がこびり着いて切れ味悪くなりますよ~。いざ本体を攻撃する時に困りま~す。よって減点で~す」
ましろに跨り蒼真達とウッドツリーの周辺をうろうろと砂埃を上げながら駆け回っているリーンが大声で蒼真に告げる。
無茶を言ってくれる! さっき躱したら、方向転換して危うく絡め取られる所だったぞ!? 盾だってそうだ! 相当上手い角度で弾かないと蔦が絡まろうとしてくる! だが、リーンの言うように樹液が刃にこびりつくのも確かだが――
蒼真は再び襲ってきた蔦を今度は躱そうと身をよじる。
「――くっそ!」
が、躱した蔦がやはり方向を変えて襲いかかってくる。蒼真は慌ててその蔦を再び剣で切り落とす。
「もう少し余裕を持って躱してくださ~い!」
出来るならばそうしてるっての!
蔦の動きは早く、蒼真はギリギリで躱すのがやっとである。これを余裕持って躱すにはかなりの動体視力と反射神経が必要になる。
「――くっ!」
襲いかかってきた蔦を切り落としたその瞬間。まるで待ってましたとばかりに違う蔦が蒼真の腕に絡みつく。
ざらざらとした感触が腕に伝わると同時に腕が締め付けられる。腕を締め付けたまま、蔦がするすると蒼真の片手に握られている剣に向かっていく。
――ドンッ!
が、その拘束が不意にドアを思い切り蹴飛ばしたような大きな音がした瞬間に緩む。対峙していたウッドツリーが微かに焦げている。
「――おりゃ!」
その瞬間を逃さずに蒼真は腕に絡まっていた蔦をぶちぶちと力任せにちぎる。
「理紗さ~ん。火力弱いで~す。よって減点で~す。もっと魔力込めてくださ~い。今の理紗さんじゃ打ったら気絶する位魔力込めないと倒せませんよ~」
蒼真の後ろにいる理紗にリーンがダメ出しをする。
そんなリーンのダメ出しが気に障ったのか、はたまた奮起する材料となったのか、ウッドツリーに再び火球が当たり、今度は少しだけウッドツリーに火がつく。
とは言っても、ぼやにすらならない程の火力でウッドツリーの蔦が撫でるだけで鎮火してしまう。
「拓也さ~ん。フォローが遅~い。減点で~す。オフェンスもディフェンスも困ってますよ~。とにかく走って、走って」
蒼真と理紗の間に配置された、遊撃の拓也にリーンの叱咤が飛ぶ。
確かにリーンの言うとおりに拓也が蒼真の近くにいる事が少なくなってきた。
とは言っても、それは徐々に蒼真が防げなくなってきた蔦の対処の為に下がっただけであり、仕方がない事である。
では、そのおかげで理紗が楽に魔法を撃てているかと言えば、決してそうではなく、理紗も二人が撃ち漏らした蔦や時折ウッドツリーが飛ばす葉っぱの対応に追われ、集中して魔力を込めていない。 この葉っぱ、殺傷能力自体は低く、当たっても薄らと血が滲む位で済むのだが、目に当たれば血が目に入り視界を狭めるので無視する事も出来ない。
「はい拓也さん休まな~い。足を止めな~い。葉っぱが邪魔なので理紗さんの周りに結界か、風の障壁張ってくださ~い。そもそも、拓也さんが走らされているのは蒼真さんのせいでもありますからね~。蒼真さんはとにかく体を張って攻撃を防いで下さ~い。理紗さんはとにかく魔力込めて~攻撃きたからって慌てて放たな~い」
リーンの指摘通りに、理紗の火球は小さくウッドツリーに当たっても焦げすらせず無傷、そのうち理紗の攻撃を気にもしなくなり、前面にいる蒼真に攻撃を集中し始める。
「ほらほら、拓也さ~ん――あっ。倒れちゃいましたね。それじゃ、回収しま~す。ほらほら、二人共遊撃がいなくなっちゃいましたよ~どうします~?」
ふらふらとした足取りで葉っぱや蔦の対応に回っていた拓也が地面に倒れ込み、動かなくなる。それを見たリーンが慌てずに近づき、ましろが拓也を咥えて、そのまま再び走り出す。
拓也は剣も魔法もある程度使いこなす器用貧乏である。
その為、パーティーの遊撃を任されているのだが、とにかく体力が無い。その為、こういう状況に陥るとまず脱落する。
「――くっ!?」
拓也が戦線離脱したのを受けて、蒼真がじりじりとウッドツリーから距離を取り、後方の理紗と合流しようとする。
が、それを許さんとばかりに何本も蔦が襲い掛かり蒼真の足を止めに掛かる。
やがて、ウッドツリーとの距離が縮まり、ウッドツリーはその幹を人間の腕のように伸ばして、蒼真に攻撃を仕掛けてきた。
「――ちっ!」
それを蒼真は盾で受け止める。
だが、そのあまりの威力に耐え切れずに蒼真の手から盾が宙に舞う。
「は~いそこ。明らかに威力が高そうな攻撃を盾で真正面から受け止めな~い。その場合は角度を付けて攻撃を防ぐというより、受け流して下さ~い。理紗さんもなるべくフォロー。って、蔦に捕縛されますね~。どうです? 自力で抜け出せそうですか? ……えっ? 無理? はい、了解で~す。回収に行きま~す。という訳で残りは蒼真さんだけで~す。死ぬ気で頑張って下さ~い」
幹の対応で手一杯だった蒼真の隙を付いて理紗に迫った何本もの蔦が理紗に絡みつき、理紗の抵抗も虚しく瞬く間に全身が蔦に覆われ身動きが取れなくなる。
まるで蓑虫のようになった理紗に向かってリーンが小さな火球を放つ。
かなり距離があったにも関わらずその火球は目にも止まらぬ速さで理沙に直撃すると、理紗に絡みついていた蔦だけを一瞬で燃やし尽くす。理紗の服には煤すら付いていない。
蔦から開放された理紗をリーンが拾い上げてましろの背に乗せる。
鞍も鐙も付けられいないましろに跨った理紗は振り落とされないように必死の形相でリーンにしがみつく。
「あ~もうっ! くっそ!」
リーンの言葉を聞いて、蒼真は半ばヤケクソ気味に剣を両手でしっかりと持つとウッドツリーに飛びかかる。
逃げることも出来ないし、後方支援も無い、握力も無くなって来た、もう後は破れかぶれで突っ込むしかない。リーンがいれば死ぬ事は無いだろう。
「おお、その気迫は良いですねぇ――でも、破れかぶれで突っ込むのは頂けませんね~。よって減点――もといお仕置きで~す」
そうリーンが言ったその刹那。雷が蒼真とウッドツリーに直撃して、蒼真は痛みすら感じる間もなく意識を失った。




