第11話
「こうなるんじゃないかって何となく思ってた。うちは相田理紗よろしく~」
「反対する理由が見当たらないな。鈴木拓也だ、宜しく頼む」
「ジャグリーン・ベルです。リーンと呼んで下さい。こっちの狼がましろです。よろしくお願いします」
ちらほらと客の姿が見える酒場、もとい、やまびこ亭の一角には蒼真、リーン、理紗、拓也、それに一匹の白い毛並みをした犬が陣取っていた。
あれから、なし崩し的にとはいえリーンと王牙のパーティー加入を許可してしまった蒼真は昼過ぎにファーストに帰り、理紗と拓也にその事を告げようとしたのだが、生憎と二人共仕事に行ってしまったようだったので、帰ってくるまで自由時間にした。
蒼真は直ぐにベッドへ行き、リーンはやまびこ亭で部屋を確保すると王牙、もとい「ましろ」と街の散策に出かけた。
このましろ、驚くべきことに犬にも変身出来るらしく、今ではどこからどうみても少しだけ大きめの犬にしか見えない。
そのおかけで城門のチェックに引っかかる事もなく、街中を闊歩していても不審に思われる事もない。狩猟用かペットとでも思われているのだろう。
「それにしてもそんな大事になっていたなんてね~全く知らなかったわ」
言って、理紗が肉を頬張る。
短く整えられた黒髪、その背丈は蒼真より少し低いくらいで女性にしては高い部類だろう。
それに比例するかのようにその胸も平均より大きく、冒険者をやっているからか、ウエストは細い。
「まさか、噂が本当だったとは驚きだ」
言って、銀縁眼鏡をくいっと持ち上げる拓也。
その背丈は蒼真より頭一つ分高い。腰まで伸びた黒髪をゴムで一つに纏め、お世辞にも屈強は言えない体躯はひょろりとしていて、冒険者というより研究者か学者というほうがしっくりくる。
「くぁ~。噂?」
未だに眠そうに目を擦りながら蒼真が問いかける。
「ああ、何でも今朝方、イーストの住民という男が早馬で狼牙の大群が現れたとファーストに駆け込んで来たらしいんだ」
「へぇ~誰か駆け込んでたのか……で? その男の言葉を信じられずに門前払いってか?」
あの後、祝勝会と称してイーストで宴会をやっていたのだが、ファーストの騎士団や冒険者が訪れた様子はなかった。
「ああ、狼牙が群れを成さないのは子供でも知っている常識だからね」
言って苦笑する拓也。
「で? その駆け込んだ男はどうしたんだ?」
「さぁ? 所詮、噂話だし。そもそもその駆け込んだ男が本当にいたかすら眉唾物だったしね」
「まぁ、普通信じないわなぁ。当事者だった俺だって未だに信じられんし……」
言って、器用に前足をテーブルに掛けて、皿に盛られた肉を食べているましろを見る蒼真。
「群れても所詮狼牙ですからね~私の敵じゃないですねぇ」
言って、グラタンを口に入れて、熱かったのか、口を開けたまま、はふはふとするリーン。
「……本当にお前、レベルいくつだよ?」
ジト目でリーンを見て問いかける蒼真。
リーンの言っている事が嘘でも誇張でも無いのはイーストの自警団が証言している。
ゆうに百は超えていたあの狼牙の群れに一人突っ込み、瞬く間に一匹残らず、殺さずに叩きのめしたらしい。
で、その後空中浮遊を無事終えたましろに命じて群れは解散した。
「う~ん。いずれお教えしますよ」
言って、苦笑いを浮かべるリーン。
「まっ、レベルなんてどうでもいいじゃない。リーンちゃんは強い。それだけ分かれば問題無~し」
言って、ましろの頭を撫でる理紗。
理沙に撫でられたましろは不機嫌そうに顔を顰める。
「幼女が秘密と言っているんだ。変に勘ぐるのは良くないよ蒼真」
言って、蒼真を睨む拓也。
「お前らなぁ、パーティーメンバーのレベル位、把握しなくてどうすんだよ」
そんな二人に蒼真がため息混じりに言う。
「うちらより強い、すごく強い。それだけ分かれば十分じゃない?」
「僕も蒼真よりは幼女の味方かな」
「……お前らなぁ」
相変わらず楽観的というか豪胆というか深く物事を考えない理紗はともかく、いつもなら中立、どちらかといえば蒼真に賛同する拓也まで今回は蒼真とは反対の意見である。
……まぁ、今回の件じゃそうなるだろうなぁ。
蒼真は拓也の性格、もとい性癖を思い出して内心で嘆息する。
「まぁ、まぁ、いいじゃないですか。その内お話しますよ~」
言って、ジョッキに注がれたミルクをこくこくと飲むリーン。
「……まぁ、今はそれで良いや」
大きくため息を吐くと、ジョッキに注がれた黒々とした炭酸飲料をぐいっと呷る蒼真。
「それで、次の依頼はいつ受けられます? 私としてはチームSaiの実力を確認したいので早ければ早いほど嬉しいんですけど」
満面の笑みを浮かべてリーンが蒼真に問いかける。
そんなリーンを見た拓也が「……天使だ」と、恍惚の表情で呟く。
「あ、ああ。イーストの皆から貰った金で装備やら何やらを整えないといけないから、最短でも明後日だな」
そんな拓哉に若干引きながら蒼真がリーンに答える。
蒼真は貰ったと言っているが、正確にはリーンが村の人々から僅かばかりの謝礼と貰ったお金である。
リーンはそのお金をパーティーの資金として使おうと提案し、最初蒼真は渋ったのだが、リーンはもうパーティーなのだからと半ば強制的に蒼真に押し付けた。
とは言え、この謝礼金も依頼を受けるために必要な物を揃えて、今日の勘定をすればほとんど無くなってしまうだろう。
では、蒼真個人に謝礼が無かったかと言えば、そうでもなく、狼牙に噛み付かれた傷以外は大きな怪我をしなかった親方から、得物を持っていないからと貸し出されていた剣をプレゼントされた。
『金は出せねぇ~がてめぇがいなかったら俺は気絶したあと食われていたかもしれねぇ。これくらいやっても問題ねぇだろう』
との事である。
きっと蒼真がいなくてもリーンが間に合っていただろう。
だがせっかくの好意、というか、いらないと言ってもきっと無理やり渡されるのは目に見えていたので蒼真は有り難く頂いた。
一瞬、本当に、一瞬だけ、これを売ったお金で質を落とした違う剣を購入しようという邪な考えが蒼真に過ぎったのは秘密である。
「了解です――あっ、念の為に言っておきますけど、討伐依頼でお願いしますねっ」
「分かってるよ」
「なら安心です」
「ねぇ、ねぇ、そういえばパーティー名ってどうするの? リーンちゃんが入るんだったら変えたほうが良くない? ――あっ、ましろちゃんもか」
飲み物のおかわりを頼んでいた理紗が思い出したかのように告げる。
「あぁ? 別にこのままで良くないか?」
理紗の提案に蒼真が眉をひそめる。
「えぇ~。変えたほうが良いに決まってるじゃん。そもそも、チームSaiだって、蒼ちゃんが勝手に決めて勝手に登録しちゃたんじゃん。良い機会じゃない?」
「だって、変えるのも新しい名前を考えるもの、面倒だろ」
「え~だって、チームSaiのサイって最強の最から取ったんでしょ? それ聞いちゃうとね~なんか痛い。実際にはうちら弱いし」
「――うっ」
生まれ育った村で弱い、弱いと馬鹿にされた蒼真がいずれ最強の冒険者になってやるという思いを込めて付けた名前だが、五年経った今となっては確かに蒼真自身も少しばかり痛いと思い始めている。
勢い余って『強』まで入れなかったのが不幸中の幸いであろう。だが、起源がバレなければ痛くも無いとも同時に思っている。
「しかも、皆から弱い、弱い、言われるから、今じゃチーム最弱っていう通称のほうが有名だし」
「あっ、私も最初チーム最弱って聞きましたっ」
はいっと、元気に片手を上げてリーンが告げる。
「ねっ? もう、いっその事、そっちで登録し直しちゃう? チーム最弱。うちらにぴったりじゃない? 名は体を表すって言うじゃん」
蒼真と違って理紗は弱い弱いと言われるのをあまり気にしていない。なので、そんな事を冗談交じりに提案してみる。
「――ちょっ! それは無いだろっ!」
「――あっ、それは良いですね」
そんな理紗の冗談交じりの提案に蒼真とリーンが正反対の答えを告げる。
「――はぁ!? いや、ねぇ~よ。流石にねぇ~」
まさか理紗の冗談にリーンが賛成するとは思わず、蒼真は慌ててリーンに抗議する。
「悪くないと思いますよ? 初心を忘れず、驕らない。その為のチーム名ですよ」
ふむふむと頷きながらリーンが言う。
「えっ? そんな深い意味が?」
チラッと提案した理沙を蒼真が見やると、理紗は笑って手を横に振っていた。
いや、しかし、リーンの言わんとしている事は理解出来なくは無い――いやいや、何考えているんだ俺は。
「蒼真さん。想像して見てください。チーム最弱が強くなって魔王を倒します。最弱っていうチーム名なのに魔王を倒すんですよ? これ程、痛快な事がありますか?」
若干揺らいでいる蒼真の内心を見透かしているかのように、リーンが真剣な目つきで問いかける。
最弱って名前のチームなのに魔王を倒す。だと? ……た、確かに悪くない。リーンの言うように驕らず謙虚な感じがして格好いい……能ある鷹は爪を隠すともいうしな……いや、しかし、でも、流石に。
「い、いや、しかし、ほら、理紗とか、拓也も流石にその名前は、い、嫌だろ?」
内心ぐらぐらと揺れ動く蒼真はチラッと二人を見遣る。
「良いんじゃない。もうそっちのほうが有名だし、うちは賛成」
言って、にかっと笑う理紗。
「僕が天使の言うことに反対する訳が無いっ」
ふんすっと鼻息も荒く拓也が賛同を示す。
「そ、そうか。じゃ、じゃあ、仕方ないな。うん。仕方ない。多数決だもんな、うん、仕方ない、仕方ない。あ、あ~あ」
そんな二人の賛同を聞いて、蒼真が目を盛大に泳がせながら、これみよがしにため息を吐き、承認する。
「――では決まりですねっ」
ぱんっと手を叩いて満面の笑みを浮かべるリーン。
こうして、蒼真、リーン、理紗、拓也の四人と、ましろ一匹は、チームSai、改、チーム最弱を結成したのである。




