第1話
あらすじは話数毎に更新予定です。
文字数が上限に達したらその話数までのあらすじをまとめるつもりです。
どうぞ、宜しくお願いしますm(_)m
くっそ! こんな事だったらもっと早くに撤退を決断するべきだった。
昼間でも薄暗い鬱蒼とした森の中に響き渡る剣戟、鼻を突き刺す悪臭、絵の具をぶちまけたような色をした地面、目の前には醜悪な顔をしたモンスター。
今日はいつにもなく調子が良くて油断していた!
迫り来るモンスターの一撃を手にした盾で受け止めながら、斎藤蒼真は激しく後悔していた。
執拗に襲いかかってくるモンスターの攻撃を受け過ぎて、手の感覚がほとんどない。
だが、前衛である自分が崩れれば後ろにいる仲間たちの負担が増す。
それどころか、隊列が乱れて全滅するかもしれない。それだけは避けなければならない。
「うおぉおぉ~!!」
まるで水の中にいるかのように鈍重な体を気合で無理やり動かす為に雄叫びを上げる。
背後から飛んでくる援護の火球も小さくなり、その間隔も段々と長くなってきている。自分だけでなく、仲間たちも限界が近い。
モンスター自体はそれ程強くない。
だが、今はその数が問題だ。
五体位なら蒼真達でも問題なく対処できる。
しかし、今、蒼真達が対峙しているモンスターの数はその倍以上。薄暗闇の中で確認出来るだけで十体以上はいる。
一体、一体が大した事がなくてもこれでは対応が追いつかない。
既に周りはモンスターによって包囲されている。
……いよいよ覚悟を決めるべきかもしれない。
思えばろくでもない人生だった。村では笑われ、冒険者になってからも笑われ、稼ぎもその日暮らしが精いっぱい。
ようやくマシな依頼が受けられるようになったと思ったらこれだ。本当にツイていない。
「理沙っ! 拓也っ! 俺がモンスターを引き付ける! その間に逃げろ!」
だが、この二人の幼馴染に出会えたことだけは幸運だった。
その二人の為に死ねるなら、最高の死にざまだろう。それだけは神様って奴に感謝してやっても良い。
「そんな事っ!」
「出来る訳が無いだろっ!」
背後からそんな声が返ってくる。
その声には疲労と、恐怖と、意地が入り混じっている。
「正直に言うぞっ! 俺はもう持たない! 戦線を維持することは不可能だ! 崩壊するのは時間の問題だ!」
そう叫ぶのと同時に盾が宙へと舞う。
これぞ好機とばかりにモンスターが蒼真に襲いかかる。が、それを剣のみでどうにか受け止める。
「でもっ、この有様じゃ!」
「ここで踏ん張るよりは突破出来る可能性のほうが高いっ!」
刃こぼれとモンスターの体液で切れ味を失った剣を鈍器のようにモンスターに叩きつけながら蒼真が叫ぶ。
と、同時に捌ききれなかった攻撃が鎧を叩き、鈍い音と共に鎧の破片が宙に舞う。
「可能性が高いっ!? 蒼真は僕の体力の無さをなめているのか!? もう僕は一歩も動けないよ――だから、僕は残らせて貰うっ」
「あんた達のサポートが無いとうちだって逃げられないわよっ! 全くっ! しょうがないから最後まで付き合ってあげるわっ」
「……たく」
俺の仲間たちは馬鹿だ。
頭に超が付く位の馬鹿だ――全く、最高じゃないか。
「――うおぉおぉ! 絶対に生き残るぞ!」
蒼真は残された僅かな力を振り絞って鈍器と化した剣を目の前のモンスターに叩きつける。
「当たり前でしょ!」
「当然だっ!」
後ろからは最高の仲間たちの声。
まだやれる。まだ俺はやれる。
こんな所で死んでたまるか――いや! 死なせてなるものか!
そう意気込んでみせるが、既に剣を持つ腕が上がらない。
だが、そんなものは知った事かとばかりに蒼真は上がらなくなった剣を短刀のように持ち、ヤクザのように体ごと突っ込む。
一回、二回、三回とそれを繰り返して――四回目でモンスターに弾き飛ばされた。
「蒼ちゃんっ!」
「蒼真っ!」
綺麗に尻餅を付いた蒼真を見て二人が声を荒げる。
蒼真の目の前には微かに降り注ぐ日の光を浴びて、きらりとその刀身を光らせるナイフを手にしたモンスターが迫っている。
――やばいっ!
蒼真はそう思い、慌てて立ち上がろうとする。
――が、体が言う事を聞かない。
見る見る迫って来るナイフ。醜悪な顔をしたモンスターの口元が嬉しそうに、にやりと歪む。
――あっ、駄目だ、これ。
尻餅を付いたまま、指一本すら動かせないままでいる蒼真はそれを見て覚悟を決めた。
――ボンッ!
その瞬間。
まるで巨大な風船が破裂したような鈍く、大きな音が森中に響き渡る。
「……えっ?」
と、同時に蒼真に向かってきていたモンスターが消えていた。
逃げたとか、倒れたとか、どこかに移動したとかではなく、完全に、綺麗さっぱりと消失していたのだ。
「……あれ?」
蒼真は何が何だか分からず、茫然自失となりながらも、流石は冒険者というべきなのだろう。抜かりなく周囲を警戒するように見回す。
すると、仲間たちも蒼真と同じように状況を理解出来ずにいるらしく、蒼真と同じように驚いたまま、周囲を見回していた。
「大丈夫ですか?」
そんな状況で唐突に声を掛けられた。
「――えっ?」
声の主は目の前にいた。
いつの間にか、足音も、気配すらなく、気が付いたら目の前に全身鎧の人が立っていた。
頭からつま先まで白銀で揃えられた全身鎧を見て、その突然の登場に驚きつつも、蒼真は頭の片隅で一体いくらするのだろうと俗なことを考える。少なくとも俺たちの稼ぎでは一生涯縁は無いだろう、とも思う。
「えっと、大丈夫ですか?」
あまりの驚きに固まってしまった蒼真に再び全身鎧の人が声を掛ける。
くぐもってはいるがその声はまだ高く、幼さを感じる。
「あ、ああ。大丈夫だ。あのモンスター達は君が?」
そう応えて立ち上がろうとするが、まだ体は言うことをきかず、腰を少し浮かせた所で再びバランスを崩して尻餅をついてしまう。
「はい。偶然目にしまして、何も考えずに助けてしまいましたけれど、大丈夫でしたか?」
言って、首を傾げる全身鎧の人。
冒険者の中には他人から助けられるのを極端に嫌う人種もいる。
冒険をしていて死んだのならそれは己の責任。それを他人に助けてもらう位なら潔く死を選ぶ。
そんな狂気じみた矜持を持っているのである。
「ああ、助かった。ありがとう」
だが、蒼真達はそんな矜持など持ち合わせていない。心の底から感謝の言葉を述べる。
目の前の人が一体どうやってあの数のモンスターを一瞬で倒したのかは分からない。見えてすらいなかった。
だが、現実としてモンスターは全消滅しているし、目の前にはそれを行なったという人がいる。疑っても仕方がないだろう。
「いえ、大したことじゃありません。見たところ、駆け出しの方々ですよね? 気に障るかもしれませんが、あのモンスターに手こずられるようだとまだこの森は危険かもしれませんよ?」
言って、手を差し伸べてくる全身鎧の人。
その手は随分と小さく、よくよく見れば背丈もまだ低い。
もしかしたら、成人しても人間の子どもと見た目があまり変わらない小人族なのかもしれない。
「あはは、ああ、うん。今後気をつけるよ」
蒼真は差し出された手をちっぽけなプライドで遠慮して、苦笑いを浮かべながら自らの足で立ち上がる。
「それが良いです。では、私はこれで」
「あっ、名前――て、もういない」
移動系の魔法でも使ったのか、蒼真の前から一瞬で全身鎧の人が消え去る。
蒼真たちとはレベルが天と地ほどかけ離れているらしい。あれほどレベルが高いのなら一瞬でモンスター達を消失させたのも頷ける。
「駆け出し……か」
全身鎧の人が言った言葉を口に出し、蒼真はぎゅっと拳を握り締めた。