面影~夢現奇譚短編~
※R15を少し含みます。
「……帰れ」
「――――帰らない!」
決して強い口調ではないが、咎める雰囲気を纏わせて言う男の言葉を、潰すように少女が畳み掛ける。
先程から何度か同じようなやり取りをしていた。
「……会うまで、帰らない!」
「……帰れ」
少し困った顔をして男は溜息を付いた。
その姿に少女は思わず息を呑む。
(ああ、やっぱり似てるんだ)
予想外のところで彼を見つけてしまって、少女はじっと男を見つめる。
正直に言うと今まで似ているなんて、思いもしなかったのだ。
その身に纏っている雰囲気もそうだが、見た目や体格、話し方に至るまで、全く正反対だと言っていいくらい、性質が違う。
男は彫りが深く粗削りな顔立ちと相俟って、見る者に強く迫るかのような力強さがある。
だというのに。
「……」
少女は無言のまま、男を見続けている。
男からしたら、先程まで言い返してきた少女が、急に黙り込んでしまった上に、ずっと男を見ているのだから、困ってしまうだろう。
そう思っているのだが、どうしても気になってしまう。
男が困った表情のまま、にっと笑った。
「何だ? ……ついに鞍替えか?」
「――――違います!」
ばん、と卓子に手をついて否定する少女に、男は今度は楽しそうに笑った。
困惑の表情で溜息をつく姿が似ている。
困惑の表情で笑む姿が似ている。
もう仕方ないなぁ、と困ったように笑う彼の姿と声が、ふと脳裏によぎるくらいに。
「紫雨様が……香彩ちゃんに似てるから、ちょっと気になって……」
少女の言葉に、紫雨と呼ばれた男がきょとんとした表情をしたが、大きく溜息をついた。
「当り前だろう。それに、それを言うなら逆だ。あいつが俺に似てるんだ」
「……声質だって違うはずなのに、何だかやっぱり似てるし。口調だって……」
「ほぉう? あいつも趙姫を前にすると、男の口調になるか」
はっと気付いたかのように、少女は口を噤んだ。
誰を目の前にして何を言ったのか思い返して、少女は急に恥ずかしくなり、卓子に突っ伏す。
顔が熱かった。きっと赤いに違いない。
頭の上から楽しそうな、くつくつとした笑い声が降ってくる。
少し待っていろ、と声を残して、紫雨が部屋から出ていく気配がして、少女は顔を上げた。
部屋の中を、心地良い緑の香りを含んだ風が吹き抜けていく。
はたはたと書簡のはためく音と風の音に、少女は少しずつ気持ちが落ち着いていくのを感じていた。
ここ麗国中枢楼閣は、城主、大僕の政務室と、六つある国の機関、六司の政務室と呼ばれる本部と、その大司官、司官の私室ある場所だ。凹の形をしている楼閣は全六層にもなる。
その最上階、陰陽屏の中にある大司徒専用の政務私室に少女はいた。
陰陽屏とは、麗国麗城を護る、縛魔師達の集う政務室である。国での役職名を大司徒、司徒といい、国の安定と安寧を願い、祈祷や占術、そして季節ごとの祀りの行使を仕事としている。
少女は司徒の地位に就いている彼に会いに、遥々南の国から麗国へとやってきた。
だがすでに手を回されていたのだろう。少女を出迎えたのは、六司の統括でもある大宰の紫雨だった。
大司徒の政務私室まで案内され、そこで帰国の説得をされたのだ。門前払いではなかったのは、大宰の見栄と計らいと優しさだろう。
少女は誰にも言わず、内緒でこの国を訪れていた。
どうもそれが、逆鱗に触れたらしい。
――――金毘羅が、大層ご立腹だ。
紫雨がそれは楽しそうに少女に伝えた言葉。
触れると分かっていて敢えて内緒で国を出たのだ。
(……言ったら、絶対反対されるもの)
下手をすると麗国行きを諦めるまで、私室で軟禁もあり得る。
少女は大きく溜息をついた。
部屋の中を再び心地良い風が吹き抜けていく。それは少女の長い紺青の髪を靡かせた。
趙姫と称された少女の名前を、趙飛燕という。
南国、霊鷲山は、水の魔妖の王、金毘羅の娘だ。
紫雨が部屋に戻ってきた気配に、趙飛燕は思わず卓子に突っ伏した。
どんな顔をすればいいのか分からなかった。
思えば彼の父親に、自分はすごいことを言ったものだ。
紫雨が小さく息をついたのが分かる。
そして何やら、陶器が当たるような音がして、こぽぽぽと水の流れる音が聞こえた。
部屋の中に、ふわりと香茶の香りが広がる。
趙飛燕は驚いて顔を上げると、紫雨が趙飛燕の側に香茶を置くところだった。
「……あいにく茶の淹れ方などよく知らん。不味いかもしれんが」
余りにも意外な光景に、礼を言うのも忘れて趙飛燕は香茶を一口飲む。
温かい香茶は、自分の中の頑なな部分を解きほぐしてくれるようだった。そしてその香りに癒され趙飛燕は、ほうと息をついた。
「とても、美味しいです。ありがとうございます、紫雨様」
その言葉に紫雨が満足げに笑む。
「どうやら……落ち着いたようだな」
紫雨が趙飛燕の向かいに座り、同じように香茶を飲む。
そのわずかな動作だとか、飲み方に、趙飛燕はやはり彼を思い出してしまう。
「……趙姫」
不意に紫雨の声色が変わる。
趙飛燕は湯呑を置いて、紫雨と視線を合わせた。
「会いに来るな、とはいわん。だが内密に出てくるのはよくないな。金毘羅は怒ってはいたが、随分心配していた。ここまでの道中も以前より良くはなったが、まだまだ安全とは言えんしな」
こくりと無言で趙飛燕が頷く。
「……お父様から連絡があったのですね」
「ああ。使いの式をこれでもかというくらいに使ってくれたがな」
金毘羅は連絡用に、紫雨から式を譲り受けている。この式は伝えたいことを声にして送ることができるもので、相手を始めから決めておけば、その間を何度も往復してくれる。
趙飛燕もまた、司徒である彼から、式を譲り受けていた。
「金毘羅は何も言わないが、奴からすれば別の心配もあるだろう。なぁ、趙姫」
紫雨はふと立ち上がり、桟枠から眼下を眺める。
つられるように趙飛燕も立ち上がり、同じように桟枠から外を見た。
ここから見えるのは皇宮母屋と呼ばれる、城主の私室や季節ごとの祀りを行う潔斎の場のある、三層の建物だ。
この中枢楼閣から皇宮母屋へは渡床で繋がっている。
そこを歩く数人の中に、彼がいた。
「……可愛い成りをしているが、あれも男だ」
ふと彼がこちらを見たような気がした。
だが何事もなかったかのように、皇宮母屋へと入っていく。
その服装が、いつもと違うことに趙飛燕は気付いた。
「もしかして今から……何か」
「ああ、祀りだ。俺ももうすぐ行かねばならん」
時間を取らせてしまったのだと、趙飛燕は理解した。そしていつもなら迎えにきてくれるのが彼ではなく、紫雨だった理由も分かってしまった。
祀りの前日は五穀と人を絶って、香を焚くのだと聞いたことがある。そして祀りが終わると、とてもお腹が空いているのに、疲れて寝てしまうんだと。
趙飛燕はゆっくりと頭を下げた。
さらさらと音を立てて、その紺青の髪が彼女の衣の上を滑る。
「紫雨様……ご迷惑をお掛け致しました。私……帰ります」
顔を上げた趙飛燕の頭に乗る、温かな手。
「今更だな、趙姫。あいつの晴れ舞台だ。見てから帰っても遅くはなるまい」
まるで冬の早朝のような、澄み切った空気が部屋全体に漂っていた。
神木と呼ばれる、清水の気を浴びせ閉じこめた木材から成るこの部屋は、全体が『場』の役目を果たしている。洗練された澱みのない空気は、入室した者に背筋を叩かれたかのような緊張感と圧迫感を与えた。
潔斎の場、と呼ばれている。
国を司り護る者を、敬い、使役し、または祀る。
その儀式が行われる場所だ。
今から行われる祀りを『天道の儀』という。
火輪之神と呼ばれるものを召喚し、夏の太陽の日差しを約束させる儀式だ。
趙飛燕は紫雨から渡された小さな護符を飲み込み、見習いだろうまだ幼い縛魔師達の後ろに紛れるように座った。
護符が上手く働いているのか、特に体にはなにも変化はない。
――――これを飲んでおけ。でないと苦しいだろう。あんな場所で苦しみ出す者など、払われても文句は言えんからな。
紫雨の言葉を思い出し、趙飛燕は少しむっとする。
護符は確かにありがたい。
だが、もう少し素直に渡してほしいものである。
(……もし香彩ちゃんが、あんな風になってしまったら、どうしよう)
不思議なことに、紫雨ほど嫌な気持ちにはならないのだと気付いて、趙飛燕は今日何度目かの溜息をついた。
どうもおかしい。
紫雨の中に彼を見つけて喜んでしまったり。
先程もそうだ。
遠目でしか見ていないのに、いつもと違う彼の服装に動揺して。
少しこちらを見てくれたような気がして、胸が高鳴ったり。
彼を見るのが、久しぶりだからだろうか。
今から近くで彼を見るというのに、逃げ出したくなる。
しゃん……と澄み切った空気を切るような鈴の音が、響き渡った。
潔斎の場の入口からまず入ってきたのは、神楽鈴を持った二人の『申し子』と呼ばれる先導役だった。
次に現れたのは、白衣を身に纏った、療と竜紅人だった。
彼らが一歩、潔斎の場に足を踏み入れた途端、神気が溢れ出し、『場』の空気はいっそう清らかになる。
そしてその影に映るのは、雄大な竜身だ。
そして。
「――――……っ!」
香彩の姿が見えた。
白衣に白の縛魔服を重ねて身を包み、深い翠の数珠を首から下げたその姿。
晩春の藤花のような髪は高く結い上げられ、彼が歩く度にさらりと揺れる。
縛魔服から時折見える手や足首、そして身体全体の線を見ても華奢そうに見えるが、実は綺麗に引き締まっていることを趙飛燕は知っていた。
そしていつもと全く違う、その粛然とした表情。
もし近くに趙飛燕を知る者がいれば、声をかけて貰えて我に返れただろうが、今の趙飛燕の周りは子供達だらけだ。
なぜ見ていたいのに逃げ出したくなるのか、分からない。
彼に自分がここにいるって、気付いてほしいのに、何故か気付かないでほしいと思う自分がいる。
彼は前を見据えて、趙飛燕の前を通り過ぎ、部屋の中央で止まった。
正面に座る城主、大宰、大僕に一礼し、彼は左へ向き直り座る。
趙飛燕から見て正面には、召喚のための大きな陣と、小さな祭壇があった。
奉る誓願を読む彼の声には、まだ深みがない。
だが意外にも低い声が出ることを、知っている。
「……において召されよ。火輪之神よ!」
香彩が立ち上がった。
懐から札を出し、それを陣に向かって投げる。
不思議なことに札は宙に浮き、陣の中央にとどまる。
打つのは柏手だ。
まるで水面に落ちる水滴が起こす波紋のように、柏手の波動が部屋に広がる。
そして今一度、柏手を打つ。
柏手は力を借りる者への挨拶だ。一度は地に住まう地霊や精霊。
そして二度目は『謳われるもの』……真竜の加護を願う時に打たれるもの。
「伏して願い奉る! 真竜御名、皇族黄竜、蒼竜、その御名において、我の呼応に応え給え。顕現召しませ、火輪之神焔竜よ!」
陣の中の札が目も眩むような輝きを見せる。
とても大きな竜身の影が、札から移し出されたような気がした。
次の瞬間だった。
真青の衣着に身を包んだ男が現れ、香彩を抱き締めた。
竜紅人には握手を交わし、療に膝を付く。
そして、城主の前に出て再び膝を付くと、その姿を消したのだ。
とても不思議な光景だ思った。
ただ、『謳われるもの』と呼ばれる真竜達の力を借りて采配し、使役をしているのが香彩なのだと心の中にすとんと落ちた時、趙飛燕はただ惚けて、香彩を見ていることしか出来なかった。
香彩と療と竜紅人が城主に一礼をし、潔斎の場から退出するために歩き出した。
途中、香彩が療と竜紅人と共に目を合わせ、困ったようににこりと笑う。
その笑みは先程見た紫雨のものとそっくりで。
そっくりなのに、可愛い笑みで。
思い出されるのは、柏手を打つ姿や、札を投げる時の仕草。
その真剣な表情。
今でもこんなに心がかき乱されるのに、ふと思ってしまった。
もし彼が大人になったら、どうなってしまうんだろう。
不意に視界に紫雨が入った。
紫雨も趙飛燕に気付いたのか、笑みを浮かべる。
(――――……あ……)
何故、気付かなかったんだろう。
さっきから自分でそっくりだと言っていたのに。
そう。
――――香彩が大人になったら、紫雨のような雰囲気の姿になる可能性。
(――――……わ……!)
骨張った長い手の指。
逞しい腕。
すらりと伸びた背丈。
彼特有の少し憂いを帯びたような笑みを、大人の顔でされたら。
想像をしてしまって、趙飛燕の顔が赤くなる。
胸の中で脈打つものが、痛くて仕方がない。
思わず紫雨から視線を外して、趙飛燕は自分の胸を手で押さえる。
だが、その手首を掴む者があった。
「――――えっ」
確か、退出の為に仲間とともに歩いていたのではなかっただろうか。
それがどうして。
何故自分の目の前にいるのだろう。
香彩の顔に表情はなかった。
ただ彼の綺麗な森色の瞳が。
ぎら、と怒りのような色を孕んでいた。
彼は趙飛燕の手首を引っ張ると、衆人環視の中、無言で彼女を潔斎の場から連れ出したのだ。
「――――香彩ちゃん……」
こんなに力が強かったのかと趙飛燕は思った。
掴まれ引っ張られている手首が痛い。
彼は無言のまま、半ば強引に趙飛燕を連れて歩いていた。
ここからだと顔を見ることもできない。
ただ雰囲気から、とても怒っているのだと伝わってきて、趙飛燕の中に戸惑いが生まれた。
そう、分からないのだ。
何故彼が、こんなに怒っているのか。
やがて人気のあまりないところに出る。
どこをどのように歩いたのか、分からないくらい歩いた後だった。
香彩は引っ張っていた手首を強引に持ち上げて、どこかの建物の漆喰の壁に打ち付けた。
手首と、壁に背中を打った痛みで、趙飛燕の顔が少し歪む。
香彩のもうひとつの手は、趙飛燕が逃げることができないように、彼女の顔の横の壁に付く。
彼は射抜くような目で趙飛燕を見ていた。
その瞳の強さと、いつもと違う『男』の表情に、趙飛燕は微妙に震え出した手を、香彩に見つからないようにぐっと握る。
香彩を怖いと思う気持ちがあることを、香彩には知られたくなかったのだ。
「……どうして、あの人の私室にいた?」
いつもと違う、低く掠れた声。
「なんで、あの人に触らせた? あの人を見て、赤くなってたのは何故?」
見られていた。
そんな気持ちと、あまりにも近い香彩の顔に、いたたまれない気持ちになって、趙飛燕は視線と顔をそらす。
それが彼の怒りを増やすことを知らずに。
彼は壁に付いていた手で趙飛燕の頤に触れると、強制的に正面へと向き直させた。
それはまるで獣が肉に喰らいつくかのような口づけだった。
思いやりもないもない、ただ奪うだけのもの。
――――……可愛い成りをしているが、あれも男だ。
息苦しさの中で思い出されるのは、紫雨の言葉だ。
(ああ、もしかして、これって……)
嫉妬。
趙飛燕はようやく香彩の行動の意味が分かり、その怖かった気持ちがなくなりつつあった。
むしろこころの中に温かい気持ちが生まれてくる。
だがこれから自分の口で香彩に説明しないといけないことに、趙飛燕は恥ずかしさでいっぱいになる。
唇が離れる。
息を整える間もなく香彩が言う。
「……あの人の方がいいの?」
説明をしようとしていた趙飛燕は、香彩のこの言葉に妙に苛立ちを感じていた。
香彩が怒っているからと大人しくしていた自分が馬鹿だったのか。
趙飛燕がきっ、と香彩を睨む。
先程とは打って変わった趙飛燕の様子に、わずかながら香彩が怯む。
「冗っっ談じゃないわよ! 何で私が紫雨様となのよ! 私は貴方に会いたくて……会いたくて来たのに。もう! 手首痛いから放してよ!」
趙飛燕の言葉に手首の力を少し緩めた香彩だったが、放す様子はなさそうだった。
「じゃあ、どうして……」
「私、国に黙ってきたの。話してもどうせ反対されるって思って。だけど……やっぱり国にはばれてて、私が行くって連絡されてたみたいで、紫雨様が城門まで迎えにきてくれたの」
趙飛燕が息をつく。
「来るのなら、ちゃんと話してから来いってお説教されて。初めは帰れって言われてたんだけどね。でも当然だよね……私、今日祀りだって知らなくて」
ここまで話して趙飛燕は口籠る。
だが意を決したように、語る。
「……紫雨様と話をしているうちに、困ってる笑い方とか仕草とか、貴方にすごくよく似てて、私、紫雨様の中に、貴方を見てた」
手首を掴む力が少し強くなるのを感じながら、それでも怯まず趙飛燕は語り続ける。
「祀りでの貴方の真剣な表情とか仕草に、今でもこんなに気持ちが振り回されるのに、貴方が大人になったらどうなってしまうんだろうって考えてしまって」
貴方にそっくりな紫雨を見て、貴方の大人になった姿を想像してしまったら。
「たまらなくな……」
いつの間にか手首の痛みは消えていた。
趙飛燕を押さえ、逃げないようにしていた二本の腕は、彼女の背中に回っていた。
その力のあまりの優しさに、痛いくらいに胸が高鳴る。
「なんでそんな可愛いこと、言うのかな」
顔を紅潮させる香彩の姿につられるように、趙飛燕の顔も熱くなった。
頬に手を添えて、そっと触れるだけの優しい口づけを交わす。
「手首……ごめん。飛」
少し熱を孕んだような、掠れた低い声。
香彩が趙飛燕から離れ、その手首にも口づけた。
くすぐったさに少し身を捩りながら、趙飛燕がふるふると首を横に振る。
彼しか呼ばない、名前の呼び方。
それをそんな声で呼ぶのは反則だ。
彼は知っているのだろうか?
その声に、呼び方に、心がどれほど翻弄されるのか。
切なく甘いくやしさに、いたずら心が芽生えたのも、事実で。
「大丈夫だから、ね? 香彩」
一瞬きょとんとした香彩が。
初めて敬称もなく、名前を呼ばれたことに気付いたのは少し後のお話。
手で口を覆い再び頬を染める香彩を、趙飛燕はしてやったりと笑んで見つめていた。