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転生、…そして

中世ヨーロッパ、・・ではないようですね。

サマー子爵領の屋敷は、秋の始まりを告げる爽やかな空気に包まれていた。



「やっと、暑さも一段落したみたいですわね。」


エミリーの姉、ブリジットは如才ない。


まだ16歳のくせに、このめんどくさいお客様をもてなす様子をみると、もう母の代わりに女主人役がやれそうだ。


そのブリジットの側に座らされているエミリーは、退屈していた。



長兄のアレックスが大学から帰ってきたのかと思って、車の音に飛び出してみたら、やってきたのは牧師さんの奥さんのサラ・ブリックだった。


兄弟間でのこの人のアダナは、ミズ・めんどーという。その名の通りとてもめんどくさい人なのだ。


この人の話は長い。

75人いる村人全員の近況、いやもしかしたら牛や猫等のすべての動物の近況を語り終えるまで、席を立たないのではないかと心配になってくる。



いつもなら母様に任せてとっとと裏の森に逃げ出しているのだが、両親とすぐ上の兄デビッドは、長男のアレックスを迎えに駅まで出向いている。


今、家にいるのはブリジットとエミリーだけだった。


それでもなんとか逃げ出そうとしていたら、ブリジットに襟首を捕まえられて、小声ですごまれた。


「私一人に彼女の相手をさせたら、この間の事、母様にバラすわよっ。」


そう言われては、しかたがない。

しぶしぶブリーの隣に座り、ミズ・めんどーの退屈な話を拝聴せざるをえない羽目になったのである。



 5日前の月曜日、エミリーの10歳の誕生日のことである。


長男のアレックスと次女のキャサリンがロンドンの寄宿舎にいるので、その日は家族7人全員が揃うことができなかった。


家にいる両親と長姉のブリジット、次兄のデビッドの5人で、晩餐の時ささやかな誕生会をしてくれた。


アレックス、アル兄さまとエミリーは誕生日が10日しか違わないので、二人の誕生日の間の日曜日が、毎年子爵家の公式のパーティーとなっている。


今年は、ちょうど明日がその公式パーティーの日になる。



けれど誕生日当日は、家族だけの内輪の誕生会をするのが恒例になっているのだ。


その5日前の誕生会が終わった後、ブリジット、ブリーと二人で、姉妹だけで使っている居間に引き揚げてきた時のことだ。


手には、コックのジボアが作ってくれたチョコレートケーキの残りを、しっかりとくすねてきていた。



2人で女子会をするつもりで、意気揚々と居間の扉を開けたら…。


 

 そこに……半透明の 天使? が、浮かんでいた。


 

「いやーなつみさん、さっき言っとくの忘れちゃって。記憶チートのことだけどさぁ、使い方にコツがあるんだよねぇ。えーと、必要な時に【アラバ グアイユ チキ チキュウ】って言ったら、適した記憶人格が作動するようになってるからね。僕も階層マスターになってからまだ二百年そこそこの新人だから、マニュアルに外れたことをするとてんぱっちゃうんだよねー。ごめんねー。じゃ、ハッピー異世界転生!」



最初から最後まで、何言ってるんだかさっぱりわからなかった。



その前に、あれ何者?



そいつが言いたいことを言ってすぅーーっと消えた時、ブリーと二人で「うぇぇぇぇーーーーっ?!!」と叫んで腰を抜かしてしまった。



ぼーぜん自失状態から我に返ると、今度は二人とも震えが止まらなかった。


怖すぎる。


幽霊…のわりに生き生きとにこやかではあったが、この世のものではないということはわかりすぎるほどわかった。



二人同時にそれを見ているので、勘違いや夢想のたぐいではない。


しかし、誰に言っても信じてはもらえないだろう。


翌朝、デビ兄にこの不思議体験を話してみたが、二人して自分をまたからかおうとしていると、鼻にもかけてもらえなかった。

まあ、普段の行いが行いだからね。


結局何かの見間違いかもしれないしねと、自分たち自身に思い込ませて、見て見ぬふりを決め込むしかなかった。



つまりさっきブリーに、「母様に、言うわよ。」と脅されたって、ほんとはどうってことはないのだ。


でも、気にかかっていることはある。


あの幽霊天使は私の方を見て、『なつみ(・・・)さん』と言った。


そんな名前じゃない。

そんな名前知らない。


そう思う心の片隅で、どこかで聞いたような懐かしい気持ちがした。



あの呪文みたいな言葉……なんて言ったっけ?



「【アラバ】【グアイユ】【チキ】【チキュウ】?」



 ピン、ポーーーン



突然、クイズ番組の正解のような音が頭の中から響いた。


『呼んだぁーーー?』


その途端、元気のいい声が自分(・・)の口から飛び出した。




ジムじいさんの逃げ出したブタについて話していた、ミズ・めんどーと姉のブリーは、不思議な顔をした。


「「呼んでないわよ。」」



二人があっけに取られるのも無理はない。

ずっとだんまりを決め込んでいたエミリーが、急に脈絡もなく声を出したのだ。



エミリーはその場のビミョーな空気に、いたたまれなくて退散することにした。


「ええっと、気のせいだったみたい。あれー、耳の調子が悪いのかなぁ。ちょっと、バスルームに行ってくる。」



やばいやばい。


なんだこれ? 


無意識にしゃべったよね。


おかしくなっちゃった?



『大丈夫よ。私はあなただから。』


「勝手に口が動く!」


『んー、どう説明したらいいのかしら。』


「病気だっ、変な病気にかかった。」


『落ち着いて。さぁ深呼吸してごらんなさい。』


スーハー、スーハー、

スーハー、スーハー、……。



深呼吸をし過ぎて過呼吸ぎみになり、ふらふらと倒れ込んだエミリーは、バスルームのシンクのふちをギュッと握りしめた。


ハーハー息をしながらぼんやりと顔を上げると、目の前の鏡に、のっぺりした顔のおばあさんがにっこり笑って映っていた。



「うわぁーーーーーーーーー!!!」



あまりの衝撃に一瞬で目の前が暗くなって、エミリーは意識を手放した。

 


書くのって、こんなに肩が、凝るんですね。

すべての物書きの方を、リスペクトします。


次は、「ブリーの審判」です。

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