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裁縫と新たなる記憶

お料理が好きな人が多いみたいだけど、

エミリーたちと一緒に、裁縫も経験してみてね。


 裁縫室に移動すると、エミリーはキャスに向かって、この間ロブたちにした時と同じ説明をした。


私が二重人格を持っている人みたいにしゃべりだしても驚かないでよというやつだ。


だいじょうぶ、わかってる。

早くやってよとキャスは、期待の目で見てくる。


しかし私が変になるだけで、カッコよく変身もできないこの記憶チートの呪文は、何度やってもいただけない。



「【アラバ グアイユ チキ チキュウ】」



ピーンポーン



『やっほー、久しぶりーー。』


なつみさん、相変わらずテンション高いね。



「キャスが引いてる。もうちょっと大人し目にいってみようか。」


『わかった。あら、初めての人ね。』


「そう、姉のキャサリンだよ。」



キャスも、恐る恐る挨拶をする。


「えー、はじめましてって言えばいいのかな?」


『今の自分の姉にはじめましてと言われるのも、あまりない経験ね。』


「今言ったの、エム? それともなつみさん?」



混乱するよね。


「今のはなつみさん。ややこしいから…私、エミリーがしゃべる時は右手を上げるね。」


そうして右手を上げたり下げたりしながら、なつみさんにキャサリンの苦境を説明した。


キャスの壊滅的な裁縫の腕のことはしっかり伝わったようである。



『ふーん、わかった。エプロンは直線が多いから応援団の服より簡単じゃない? 初心者は下準備が大事なのよ。』


「下準備?」


『そう。それをおろそかにするから失敗するのよ。また、その失敗をごまかそうとして取り返しがつかなくなる。どんな仕事でも一緒よ。』



なるほど、至言である。



なつみさんは80歳で前世の生涯を終えたそうだ。


80歳のばぁさまの言葉には重みがある。


私?だけど…。




◇◇◇




 さぁ、裁縫の始まりだ。


なつみさんは、裁縫室の用具入れから長いものさし・短いものさし・裁ちバサミ・糸切バサミ・チャコペンシル・アイロンとアイロン台をキャスに持ってこさせた。


そして、キャスのカバンから布と型紙を出させて、それをじっと見る。


『このエプロン、ウェストにひだがあるデザインじゃない? じゃあしつけ糸がいるわ。』


引き出しからしつけ糸も持ってくるようにキャスに言う。


しかしキャスはどれがしつけ糸かわからなくて、結局、(なつみさん)が探す羽目になったのだが…。


そして布の裁断である。


まず型紙を切る。



この時注意することは、縫い代を含めて一回り大きく型紙を作っておくことだそうだ。


『これ、めんどくさくないための最重要ポーーイント!』らしい。


縫い代は、裾の4cmを除いて、それ以外は⒈5cmとるので、キャスは長短のものさしを駆使して型紙に縫い代分の線を引いていった。


「こんなこと、はじめてした。」


と言うことは、例の応援団の服の失敗はやはり最初のところからだったんだね、キャス。



できた型紙を布の上にまち針でとめて、型紙に沿って裁断だ。


よく切れる裁ちバサミだったので、キャスも楽しそうに切っていた。


布が切れたところで、次は型紙の縫い代部分を切り落とす。


そしてその一回り小さくなった型紙を、先程切った布に、周りを縫い代分の余裕を取りながら待ち針で止めていく。



「なるほどーーーー。これで、チャコペーパーがいらない理由がわかったよ!」


キャスが感心しているが、被服の授業ではチャコペーパーやダブルルーラーを使ってややこしい裁断をしたそうだ。


ややこしかったからよく覚えてないらしい。

キャス…。



型紙の周りに、チャコペンシルで出来上がり線を書いていく。


『これで、第一段階の下準備の完成でーす。』だそうだ。


「えっ、第一段階? 下準備ってまだあるの?」


キャス、わかるよ。

私ももう下準備は済んだのかと思ってた。



『慣れると、ここまでの段階で作り始められるけどね。初心者はもう一段階の階段があるんだなー。♪大人の階段は、まだまだ登れません♬』


何かの歌のフレーズ? 

後の方、歌ってたよね。


ミシンを使う時には布送りの技術が必要だそうだ。


それを初心者が楽にできるために、第二段階の下準備がいるらしい。



ここでアイロンの登場だ。


縫い代を5mm幅で折って、アイロンをかけていく。


『折った幅と同じだけの幅が出来上がりの線との間にあるんだから、ものさしを使わなくても目分量で折っていけるでしょ? ふふっ、これも簡単ポイントでーーす。』だそうだ。


確かに。


キャスはアイロンを使い慣れていなかったので、かけ始めた時には何度もやり直しをしていたが、次第に手馴れてきて、最後の頃は待ち針を使わずに片手で折り目をつけただけでアイロンをかけていた。



そして今度は、出来上がり線に沿って縫い代を折り込むようにもう一度アイロンをかけていく。


わーー、糸で縫っていないけれど、エプロンのパーツが8枚完成した。


並べてみると、デビ兄がよく作っているプラモデルのパーツみたい。



『ここまでくればもうできたも同然よ。後は楽ちん。ミシンでパーーッと縫うだけだからね。』


となつみさんは言うけど…。


そのミシンかけがキャスには難問じゃないんでしょうか。



まず糸選びからである。


ああ、そこからなんだ。


布に合っていない番号の糸を使うと、糸が切れたり仕上がりが悪くなるそうだ。


なつみさんが選んだ糸で、糸通しの作業だ。


ミシンの説明書を見ながら上糸を通していく。


前回、母様がやっていたのを見ていていくらか覚えていたのだろう。

キャスがなんとか独りで糸を通し終えた。



次に、下糸の準備だ。


巻き取り棒にボビンを挿して説明書の通りに設置したら、はじめてミシンのスイッチを入れて下糸巻取りのボタンを押す。


途端にクルクルとボビンが回転して、糸が瞬く間に巻き取られていく。


なにこれ、面白ーーい。


ずうっと見ていたかったが、なつみさんがストップっ! と叫んだのでキャスがあわてて止めた。



そのボビンをボビンケースに入れて糸を少し出して置いておいて、ケースのふたを閉める。


糸が隠れ損ねたネズミの尻尾みたいだ。



次にミシン針に通してある糸を左手でつまんで、右手でゆっくり針を進めるためのハンドルを回す。


そうすると、ミシン針が穴の中に入って下糸君を連れてきた。


おおーーーっ、仲良く出てきたね。



『ここで糸がもったいなーいなんて思わないで、初心者は毎回15cmくらい糸を引き出しとくの。糸が穴から逃げて行ったら二度手間になるからね。これもポイント。』


なるほど裁縫も奥が深い。



『ここで、めんどくさがりの極意を授けます。じゃじゃーーーん。』


なつみさんが言うには、小さな布切れが世界を救うのだそうだ。何それ??



まずその小切れを縫ってみてミシン目の調子をみるらしい。


早く縫うと針が折れてしまうので、ここでもゆっくり縫ってみる。


縫われた布を確認すると『これ、下糸調子が強すぎるわね。下糸が真っすぐになってる。ミシン目のメモリを⒈5ぐらい動かしてみて。』と言われた。


また説明書を見ながら、キャスが糸調子ダイヤルを調整する。



そして試し布を縫うと、今度はうまくいったみたいだ。


その布の端まで縫うとミシンを一度止める。


ここではじめて用意したパーツの布の登場である。



布を押さえるオサを一度持ち上げて、今下に挟まったままの小さな布にくっつけてパーツ布を置き、またオサを下す。


これで最後の糸始末の手間を省くらしい。


へーほー。

よくわからないけど便利そうだ。



『最初はゆっくりよ、慣れるまでは我慢の子。』と、なつみさんが口を酸っぱくするぐらい言ったおかげか、キャスは布の端からミシン目を落とすことなく、なんとか真っすぐに近い感じで針を進めているようだ。


前回のくねくねとうねった目や、ミシン目を落とし過ぎて縫えていないじゃんこれという状態は、回避できているようである。


アイロンでしつけをしてあるのでミシンの布送りにも余裕があるようだ。



やっぱり下準備って大事なんだね。



それから、しつけ糸を使う時の玉止めの仕方とか、エプロンの肩紐の付け方、ベルト部分にひだを作ったスカート部分を挟む方法とか、場面場面でレクチャーを受けながら順調に仕上げていった。



最後にスカートの裾部分の縫製である。


ここで魔女のカンザスの特殊な課題(命令)が出ていた。


「手縫いを学ぶために、裾の始末はミシンを使わないで仕上げるように。」

ということだ。



なつみさんは『ええーーっ、ということは、「まつり」か「ちどり」よね。ミシンで、パァーと縫っちゃえば早いのに。最近、めんどくさいし肩がこるから手で縫ってないのよ。ちょっと、記憶がおぼろげ。』とここに来て、戸惑っている。



困った。

三人?で困っていると、

突然、残念そうに



ブ、ブーーーーッ。



と言う音が頭の中で響いた。



(なに、どうしたの?)


初めてだね、こんな音。


なつみさんも私も変な現象にうろたえる。



すると、なつみさんがハッとしたように言った。『私の役目は、ここまでみたい。わかる。記憶の奥で誰かが戸を叩いているみたい。その人と変われってことらしいわ。天使様が言っていた、適した記憶人格って、たぶんこのことね。』



『エミリー、心を静めて聞いてみて、新たな呪文が聞こえるはずよ。』


そういわれて自分の中に向き合うと、一つの呪文が浮かんできた。



「【アラアラ カマラ アナカマラ】」



ピーンポーーーン



『お呼びになったようで、ございますね。』



いやに凛とした声である。


それにこの言葉遣い。

なつみさんとは違う。



いったいこの人はどんな人なんだろう。

この人も…たぶん、私の前世(・・)なんだよね・・…。

モノづくりって面白い。


さてさて新たな記憶人格の登場です。

いったいどんな人なのでしょう。

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